2020.01.15
図書館に行って、本を返却した。3階に上がって、雑誌『こころ』の12月号を読んだ。梶村啓二による連載の『古典とケーキ』というのがあって、いつもは読まないのだが、『ジョージ・オーウェルとオーツビスケット』という話題だったので、読んだ。『1984』の解説がなかなか良かった。他、関連する評論として、『ナショナリズムについて』『政治と英語』に触れていた。

・・・僕がジョージ・オーウェルに出会ったのは、受験勉強での英語読解力強化の為に読んだ "Animal Farm" だった。随分と判りやすい英語でとても嬉しかった。彼の英語のスタイルは余分な装飾を排除し、専門用語を避けた、直截なスタイルであり、何よりも思考の手段としての英語だと思う。その後彼の主要な小説を次々と英語で読んで勉強した。大学生活にも多少影響していたと思う。

・・・梶村氏によれば、オーウェルの思想は政治的(反全体主義)というよりも人間的なものである。『1984』がインパクトを持つのは、政治体制をその外部から眺めて批判するのではなく、その内部に取り込まれていて全体が見渡せない、という立場からの記述に徹しているからである。(カフカはもっと徹底していたが。)管理社会に抵抗できるのは、極めて生理的な個人的な感情であり、人間関係であり、それが殆ど動物的なまでの性愛として描写される。AI を駆使した監視によって、主人公は拘束され、懺悔をした後に抹殺されることになっていて、絶望しか残らない。管理社会は他者を支配したいという抑えがたい欲望によるものであり、その手段の開発が進めば進むほど避けがたくなる、という考えである、と梶村氏は言う。

・・・ただ、オーウェルが出版社に抵抗してまでも拘った付録に、『ニュースピークの諸原理』という小説世界より後の人の研究論文がある。僕は読んだかどうか覚えていないが、言語を故意に単純化して、意味を転倒させて、思考能力を奪うという目的の為に行われた言語改革「ニュースピーク」についての研究らしい。この小説で描かれた未来世界はやがて克服されたのだ、という証拠として見れば、多少は希望を与える。

・・・本棚を探し回ってみたが、"1984" は見つからず、"Animal Farm" と "Homage to Catalonia" しかなかった。今度、評論集の方を入手して読んでみようと思う。

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