2018.08.23
『脳の誕生』大隅典子(ちくま新書)を読んだ。

      脳についてはしばしばその神経回路だけがクローズアップされるのだが、どうやって出来上がって来たのか、についてはあまり解説本が無い。発生過程と生後の生長過程で脳の神経がどのように生まれ育ち間引かれて行くのか、またその感覚器や運動器との結合や神経同士の結合がどのように導かれて成熟し、また間引かれていくのか、を分子生物学的に解説してあって、非常に興味深かった。そのプロセスはあくまでも遺伝子とその発現であり、それを支配するのは化学物質の分布と個人の環境である。だから、過去から積み重なる経緯が全て絡み合っていて、その時間の流れをどこかで切断して再現することはできない。また、どこかで少しの狂いが生じるといろいろな異常が生じる訳だが、果たしてそれが異常なのか正常な範囲の個性なのかはあくまでも統計的な分布の問題である。発生過程ではグリア細胞が主役であり、成年になっても新しい神経細胞を生み出しているとか、また一部のグリア細胞は神経細胞を制御しているというのは、ちょっと目新しかった。後半では視点を進化の方に置いて、哺乳類や類人猿や人間の脳がどのように進化してきたのか、についても解説してあるが、こちらは、そもそも神経機構が生まれる前にその化学物質が準備されていて、多細胞生物になって神経細胞間の結合に使われている、とかいうところが目新しかった。

 
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