03.07
 『オリジン・ストーリー:138億年全史』デイヴィッド・クリスチャン(筑摩書房)を読み終えたが、それほど目新しい話もなく、やや失望した。人間社会は部族的な団結の為にそれぞれの由来を語る物語(起源物語)を作って信じてきたが、それはまた部族間の戦争の大義名分としても使われてきた。経済が地球規模で繋がってきた現代においてもそれはいろいろな形、特に宗教、で生き残っているが、ここ数十年の間で科学的研究が大きくまとまってきて、宇宙の起源から地球、生命、人間世界へとつながる起源物語を語ることができるようになってきた。それは戦争を避けて人間同士が理性的になる為に有用な物語である。ということで、著者はビル・ゲイツの協賛も得て、教育活動をしている。

      天文学・物理学・化学・地質学・生物学・気候学・考古学・歴史学・社会学・政治学・経済学、、、といった学問の成果を一冊にまとめている。目次を見るだけで大体の内容の予測ができるかもしれない。内容的には、かなり物理学的な視点である。局所的に宇宙全体のエネルギーが集中してエントロピーが小さい状態から出発して、宇宙が急激に膨張して、エントロピーが増大していく。そのプロセスにおいて、エントロピー生成速度を最大にするようなエネルギーの流れのパターンが形成される。パターンである限りにおいて、それは秩序形成であり、エントロピーが小さくなっているのだが、宇宙全体で見ると無秩序化が効率的に進行している。細かく見ればそれは自然法則に従っているのだが、非線形現象であるために、完全な予測は出来ないし、自然法則そのものについても、量子論的非決定性がつきまとう。自由選択の局面はそれらの非決定性から生じていて、とりわけ人間が登場して以来、絶えず問い直されることになる。自由という意識は結局大きな意味での物語を信じることから始まるのだろう。

    (03.13)僕なりにまとめると、、、。万物、宇宙は自然法則の支配下にあって、全ては必然である。偶然が生じ、自由があるように見えるのは、個別性を信じているからである。私とあなた、私達と彼らは異なる、とか、この石とあの石は異なる、つまり、独立した異なる運命を辿る、という風に信じているからである。これは我々の意識のなせる幻想である。この幻想は勿論、生命という在り方の歴史の中で、個体という在り方が生じてきた為である。自然法則にはそもそも個別性が無い。空間とそれに伴う場があるだけである。同じ場の異なる空間にエネルギーがそれぞれ局在するという現象を古典的には別々の存在(粒子)として扱ってきたというだけのことであって、本来の自然法則はそれらを区別しない。エネルギーの局在状態から拡散が起こる時に、エントロピー生成速度を最大にするようなパターンを形成し、それが個別構造を生み出すが、自然法則としては、それは個別存在ではない。しかしながら、我々の意識は個別性を前提としているので、全体としての必然性を知ることが出来ない。我々は、自由の意識において、絶えず理不尽な選択を迫られているのである。

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