2014.08.24

     「キレイゴトぬきの農業論」の方はまあ単純で、一人のサラリーマンが小規模農業で成功している話である。取り立てて農業技術が高い訳でもないが、完全に消費者(それも感度の高い消費者)をターゲットにしていて、通信販売で新鮮な野菜を注文販売している。その為に野菜は比較的珍しいものや高級な品種を多品種少量栽培している。旬に拘ったやりかたである。野菜の美味しさを決めるのは、時季(旬かどうか)、品種、新鮮さ(収穫直後)であり、それらに比べれば栽培技術は大した問題にはならない。美味しい野菜を高い値段で欲しい消費者は多いのであり、そこにうまく辿り着ければ小規模経営でも儲かるのである。筆者は有機農法を採用しているが、それは安全であったり、環境にやさしいからではない。実際現在の法規制は厳しくて、有機農法でなくても安全性や環境性に違いはない。

有機農法に拘るのは、畑の多様性を保ってその植物の本来の姿で健康な野菜を育てるためであり、それが多少とも美味しさに寄与するとすれば、病虫害にやられる確率が高いために、それを逃れて生き残った野菜が健康で美味しいからである。当然収率は落ちるが、商品価値が上がる。

あと、技術的に勉強になったのは、太陽熱マルチ殺草処理である。植え付ける前に雑草の種をあらかじめマルチによって高温処理する、ということである。まあ、僕のやっている家庭菜園ではあまり雑草に悩むこともないが。この人のやり方は多分にその言語能力、つまり話のうまさに支えられていて、誰でも真似できるものではなさそうである。また、消費者の多様性(というか貧富差の拡大)を利用して事業を成功させる、というのは今までの高度成長時代の延長(中間層大衆向けの大量生産)にはない発想である。中国を相手にする場合も、日本の商品の持つ高品質性が優位性を発揮する富裕層にターゲットを絞る、というのがどうも現在では効率的な経営方法のようである。

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