2018.01.14
      三木成夫については、随分昔に「ヒトのからだ」という本を読んで感心したことがある。この間、本屋で河出文庫の売り出しがあって、「内臓とこころ」があったので懐かしく思って買ってきて、電車の中で少しづつ読んだ。これは「さくらんぼ保育園」での講演記録を原稿に起こしたもので、彼が出版した(1982年)最初の本である。語り口が絶妙で面白い。植物=内臓(栄養活動と生殖活動)と外壁(皮膚や筋肉や神経:運動)の進化的な話から、それぞれの中心たる心臓と脳の話。人間に至って、脳が内臓を感じ取り、その内臓の思いは太古の生命体の記憶でもある、という感じで勿論完全に実証的とは言えないまでも、説得力がある。顔の下半分は内臓の端が出てきたもので、舌だけは外壁由来だから、手と同じとか、はたまた、これが主題なのだが、赤ちゃんの発達が脊椎動物の進化をなぞっているという話は実に興味深い。生まれてからは、記号と意味の世界に入る。最初は見えるもの触るものの意味を自らの記憶(乳首をなめまわした記憶等)に結びつけるのだが、いろんなものが見えてくると、それでは収まりきれず、「これなーに?」と盛んに訊く。それを大人が答えるとその音声の聴覚的な響きに結びつける。これが最初の言葉である。象徴的思考である。やがて、これが概念的思考に発達していくあたりの説明が面白い。この時には「どうして〜?」と盛んに訊く。

      要するに、「こころ」の実体は内臓であって、脳はそれを感じ取っているにすぎない。どんなに論理的に正しく見えても、内臓感覚に問い直してよく正しさというものを感じ取れなければそれは正しくないのである。こういう感じ、幾度となく経験したので僕にはよく判る。なお、表紙の絵は胎児が哺乳類段階に達した時の顔である。このころ母親につわりが起きる。
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