2018.01.13
      今日はエリザベト音大に行って、高木綾子の公開レッスンを聞いてきた。2時から6時半まで。疲れた。受講生は4人で、各自1時間ずつである。今回は2人程が遠方から来た。京都の同志社女子生と新潟の高校生である。高木綾子も含めて日帰りである。

      大変判りやすい指導で、なかなか僕には実行出来そうな感じではないが、こうやって吹いているのか、ということは何となく判った。彼女はいろいろな吹き方を真似るのが巧い。大学を4つも兼任していて、教える経験が豊富である。受講者と同じくらい自分で吹いてくれた。あの彼女独特の深く響く低音であるが、どうやら喉を開けて口の内部の空洞で共鳴させているようである。(共鳴とは言わなかったし、共鳴しているかどうかは判らないけれども、そういう感覚だと思う。)声学で音の高さを変えるのと同じ要領だという。(これは判りやすい表現である。)その口腔を維持する為にタンギングのやり方を工夫している。(ここが新鮮だった。)僕の場合、タンギング無しで良い音が出るのに、タンギングすると音がつぶれたようになる理由がよく判った。表現技術の秘訣であるが、演劇の俳優みたいに、五感を動員した想像力で作曲家の思いを自らの思いとして成りきるようである。これまた真似できそうにないけれども。

      最初は、一般の音大卒業生。曲はA.デュティユの『ソナチネ』。コンクールでよく使われる難しい曲である。2曲目はエリザベト音大の2年生の男で、レ・ガーズの『アンダンテとスケルツォ』。これも聞いたことがある。難しい曲。3曲目は新潟から来た高校2年生で『テレマンの12のファンタジーの第1曲目』。これはよく知っている。4曲目は同志社女子大2年生で、アンデルセンの『バラードと空気の精の踊り』。これは高木綾子も吹いたことがないそうである。時間もあまりないので、曲の解釈についてよりも、一般的な演奏の心構えや演奏法についての話が主体となった。だから、まとめて書いておく。

・タンギングについて
      一般的な Tu という発音が必ずしも最適ではない、という。フルートを始める場合、まだ子供だから、どうしても腹圧が足りない。それを補う意味で、舌先を上の歯の裏につけておいて、息をためて一気に出す、つまり英語の Tu の舌使いが推奨されるのだが、問題は身体が出来てきて、腹圧が充分になってもその癖が抜けないところにある。Tu とやるとどうしても口の中が狭くなってしまうのがまずい。これがアンブシュールにまで影響するのである。中音域と低音域を吹き分ける時に、アンブシュールを大きく変えたり、顎を出し入れしたり顔を下に向けたり、といったやり方を覚えてしまう。息の出しかたを変えてはいけない。真っ直ぐ前に出す。音域の吹き分けは口の中で行う。丁度声学で音の高さを変えるときのようにする。観察してみると、低音域では喉(口の奥)が拡がっていることが判るだろう。当たり前のことで、共鳴の為に口の中を広くしているのである。歯の間は勿論空ける。「おー」という感じ。このような口の中を維持するためには Tu では駄目で、To の方が良い。立ち上がりを鋭くしたければ Pu とか Po。軟らかくするには No。ダブルタンギングでも Ku だけでなく、Gu もある。他、そのフレーズで必要な音色に合わせて自分で工夫するとよい。

・音の距離感
      吹くときには距離の意識を持った方が良い。この音はどこまで届かせるのか、遠くに届かせる音と自分が聞くための音とは質が異なる。意識するだけで音色の変化が得られる。

・アンブシュール制御と腹圧制御
      口の周りの筋肉が疲れるのは、腹圧の制御が不充分だからである。かといって腹圧だけで吹こうとすると大量の息を必要として、長いフレーズが吹けない。解決方法としてはそのバランスであって、フレーズの中でも遠くに飛ばしたい部分と近くに収めたい部分がある筈である。どうしても駄目なら途中で息継ぎをする。

・いろいろなスタイル
      金昌国さんは大変な肺活量の持ち主なので、腹を目一杯膨らませて大量の息を使う。マイゼンさんは上半身だけをうまく使って優雅に吹く。パユさんは息の使い方が幅広い。頭から響かせるように吹く。佐久間さんはお腹を横に広げて空気をためる。高木綾子自身はお腹を前後に広げて空気をためる。それぞれ音色が異なる。これらを吹き真似してくれた。

・フランス風
      日本人は音の深さや意味を追求するが、フランス人は音のカラーを追求する。またフランス人には独特のエスプリ感覚がある。ちょっとした皮肉の感じ。

・大事な事
      楽譜のある音楽の場合、重要な事は3つある。この順番が大事である。
1.にまず楽譜に書いてあることは守ること。
2.楽譜に書いてある事を深く理解すること、これは実際に吹いてみないと判らないことが多い。
3.作曲家の思いが受け止められたら、最後に自分なりの表現方法を工夫する。

・表現方法、練習方法
      クレッシェンドは深呼吸する感じ。膨らませる感じ。アンダンテは歩く速度ということだが、歩く速度は目的を持つかどうかで変る。モデラートでは速度指定がより限定される。だから併用されることがある。テヌートというのは一拍の表拍裏拍の区別が無いものと思えばよい。引き延ばすのではない。クレッシェンドの直後のピアニシモについては、しばしばクレッシェンドの最後をディミニュエントしてしまいがちである。無理もないので、この場合、クレッシェンドの最後に少しだけ間を入れるべきである。クレッシェンドはしばしばその次の音への解決や繋ぎを強調するために使われる。その場合次の音の最後でクレッシェンドする。

      リズムの練習として、3:1や7:1の練習がよく行われるが、やみくもにやっても意味はない。これは1が次の3や7に繋がる準備の音であるという練習であるから、3/1→3/1→3 のように練習する。アウフタクトである。

      アダージョ−アレグロというのは、フォルテの時にアダージョでピアノの時にアレグロという意味である。だからピアノのところは軽く素早く吹き流す。3/8拍子は全体を1拍に数える。つまり次の小節への繋ぎが最後にある、という感じではなく、小節毎に切る。これが3/4拍子との違いである。
      レガートでミステリオーソというのは、音をくっ付けていく感じ。大切にしたい神秘的なもの、という感じで、大事に吹く。

      アクセント記号は、短いデクレッシェンドである。< > にならないように注意。

      表現方法であるが、これには五感の想像力を使う。個人個人それぞれの記憶をひっぱり出してそのフレーズで必要な感じを感覚的に再現すること。

      細かい音符の多い難しいフレーズを間違える状態で何回も繰り返してはならない。間違える処だけを丁寧にさらうこと。フレーズの区切り方をいろいろと変えてみるとすんなり出来ることもあるし、またより音楽的になることもある。また、区切りを理解するために、細かい音符に囚われずに大きな流れ(和声の流れ)として楽譜を単純化してみると良い。

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