2015.02.22

       火曜日に借りた「木管楽器:演奏の新理論」佐伯茂樹(ヤマハ)はなかなか参考になる。バロック時代までのフルートはそれほど音量や音域を必要とせず、細かい表現を求められた。音孔は小さく指で直接塞ぐ。派生音の指使いは難しいが、それが却ってハ長調から離れた音階の晦渋性の表現手段となった。管はやや先細りにして2オクターブ目(倍音)を綺麗に鳴らすようになっている。古典派からロマン派に至って演奏環境が大ホールとなって木管楽器には音量と音域が求められると同時に、複雑な転調にも対応しなくてはならなくなった。管が円筒形となり、音孔が大きくなり、キーパッドで閉じるようになって、メカニズムで半音階をスムースに演奏できるようになった。最低音がCになった。これがベーム式である。こうすると、3オクターブ目がどうしても高くなってしまうから、それを調整するために、頭部管だけ先細りになった。但し、ピッコロは今でも昔のままの管形状にベーム式のキーメカを付けている。管長も短く、Dが最低音である。ドイツ系の奏者はカバードキイでオフセットキー配列(左手薬指が届きやすい)とC足部管を使う人が多い。(僕もそうである。)現在のフルートの主流はリングキー(キーの真中に指孔が開いている)でインラインのキー配列とH足部管である。H足部管はその音の必要性という意味があるが、それよりも高音部の安定性が増すという効果が大きい。以下メモである。最後に有田正広による名曲の演奏法の解説があった。

・古典派の頃までトリルは上から始めるのが普通だった。上の音は非和声音になることが多いので、主音に解決するように強調される。19世紀になると、やはり音響が重視されて主音を明確に鳴らすためにトリルを下(主音)から始めるのが普通になった。

・前打音は必ずしも主音の半分の長さとは限らない。トルコ行進曲の前打音を短くするとトルコの軍楽隊の雰囲気が良く出る。

・吹きかたにしても、バロック期には唇を歌口に近づけて内向きに吹いた曇った音色が好まれたが、19世紀になると音量を求めて唇を歌口から離して外向きに吹くことが標準となり、楽器の音程もそれを想定して設計されている。

・音の終わりは現在のクラシックでは(スタッカートを除いて)舌で切らずに息を自然に弱める方法を採るが、これは指揮者が居て、次の音のタイミングが判りやすいからである。ジャズなどでは音の終りをはっきりさせるために舌で切ることが求められる。

・顎を引いた姿勢は息をできるだけ吸い込むのに有効であるので、金管楽器奏者にとっては必須であるが、木管楽器奏者はそれよりも息を吐く時の圧力をお腹で支えるためにむしろ首を前に出し気味にすることが多い。

・音程については、平均律、純正律(和声的)、ピタゴラス律(旋律的)を意識した方が良い。大雑把には順に音階の半音の幅が狭くなる。

・高音部については息の圧力が必要なので、舌を上に上げた方が安定する。

・ブレスの位置は一般的には第1拍目の後とか、最後の拍の前が自然である。小節の区切りは緊張→解決という流れのある場合が多いからである。

・演奏に一般市民が参加するようになって、スラー記号が拡張して用いられるようになった。小節間にまたがるフレージング・スラーである。これはフレーズの纏まりを意味するだけで、本来のスラーではないので、滑らかに繋ぐ必要はない。

・横型のアクセント記号は判りやすいが,、山型のアクセントの場合は音を舌ではっきり切るという意味である。

・ポルタメート(スラーの中のスタッカート)の時はバロックと古典期ではタンギング無しで軟らかく吹く。

・弦楽器は強拍でダウンボウ、弱拍でアップボウを使う。弓の根元の方が力が入りやすいからである。弦楽器奏者を観察すると、フレージングの参考になる。
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