2020.05.29
 中島みゆきは1993年に Patricia Kaas の日本発売アルバムの為に「かもめの歌」を作っている。歌詞の方は Joelle Kopf によってフランス語に翻訳されていて、題名も Juste une chanson となっている。ネットで聞くことができる(https://www.nicovideo.jp/watch/nm11464648)。内容がどう変わったのかに興味があって、それを逆に日本語に逐語訳してみた。原詩にあるキーワードをうまく取り込んで換骨奪還しながら、原詩の高踏的な内容が西欧風の失恋へと世俗化されている感じである。サビの部分が随分変わる。原詩の「かもめ」という「自然」に託すような日本的なやり方はやはりフランス人にはピンと来ないのかもしれない。身体を抜けて心だけが空に舞い上がり、かもめになった、というイメージはいかにも中島みゆきらしい。「この空が飛べたら」という曲を思い出す。また、「この歌を思い出しなさい」という、歌自身を超越して外から眺める視点もそうである。ただ、旋律は Patricia Kaas の歌声の特質をよく捉えていて、それは中島みゆき自身にも共通する。実際、『時代』というセルフカバーの再現をしたアルバムの最後にこの曲があって、それは、まるで、Patricia Kaas が日本語で歌っているかのようである。

Qu'est-ce qui nous reste quand on a tout perdu
全てを失った時我々に何が残るか?
Pour un amour ou une idée qu'on avait eu ?
昔抱いていた愛や理想の為に
Tout ces bijoux que le temps nous a volé
時が我々から奪ったこれ等全ての宝石が
Pendent à nos cous comme autant de lourds regrets
重い後悔と同じ位に我々の首ににぶら下がっている

A qui la faute si on est là sans personne
誰も居ないならば誰の所為なのか
De ceux qu'on laisse ou qui nous abandonne
放置し見捨てた者(が居ないならば)
Reste une chanson juste un air qui nous revient
我々に思い出させるちょっとした曲(仕草)のような歌が残る
Et qui réveille les fantômes des jours anciens
昔日の幻想を蘇らせる

Et le vent pousse au loin
風は遠くに追いやる
Nos chagrins, nos désirs
我々の苦悩を、我々の欲望を
Mais le vent ne peut rien
しかし、風には出来ない
Contre nos souvenirs
我々の思い出に抗することが
On les chasse, ils reviennent
人はそれら(思い出)を追いかけ、それらは再現する
On a des larmes dans les yeux
眼に涙がある
Et leurs traces nous ramènent
それらの痕跡は我々を連れて行く
Vers les jours heureux
幸福な日々へと

On n'oublie rien surtout pas ce coeur enfuie
何も忘れない、とりわけ逃げた心は忘れない
On le sait bien tous nos rêves sont envahis
全ての我々の夢が侵害されたことを良く知っている
Par ces absents à qui l'on voudrait tant dire
この不在者によって(侵害された)が、その不在者について多くを言いたかった
Qu'on les aimait, oh s'ils pouvaient revenir
もしもそれらが蘇るならば、愛しただろうと

Et le vent pousse au loin
風は遠くに追いやる
Nos chagrins, nos désirs
我々の苦悩を、我々の欲望を
Mais le vent ne peut rien
しかし、風には出来ない
Contre nos souvenirs
我々の思い出に抗することが
On les chasse, ils reviennent
それら(思い出)を追いかけ、それらは再現する
On a des larmes dans les yeux
眼に涙がある
Et leurs traces nous ramènent
それらの痕跡は我々を連れて行く
Vers les jours heureux
幸福な日々へと

Pliés, rangés les déshabillés de soie
折りたたまれ、整頓された絹の部屋着から、
On s'est juré qu'il n'y aurait plus d'autrefois
もはや昔のものは無いと断言できる
Seule on travers tant de brouillard et de pluie
雨の降る濃霧の中を一人で抜ける
Seule sous l'averse quand le soleil s'est enfoui
太陽が逃げた時のにわか雨に打たれて

Qu'est-ce qui nous reste quand on a tout perdu
全てを失った時我々に何が残るか?
Pour un amour ou une idée qu'on avait eu ?
昔抱いていた愛や理想の為に
Juste une chanson, juste un air que l'on se donne
ちょっとした歌、ちょっとした仕草(曲)
Une illusion qui nous berse à chaque automne
毎秋に我々を揺さぶる幻想

Et le vent pousse au loin
風は遠くに追いやる
Nos chagrins, nos désirs
我々の苦悩を、我々の欲望を
Mais le vent ne peut rien
しかし、風には出来ない
Contre nos souvenirs
我々の思い出に抗することが
On les chasse, ils reviennent
それら(思い出)を追いかけ、それらは再現する
On a des larmes dans les yeux
眼に涙がある
Et leurs traces nous ramènent
それらの痕跡は我々を連れて行く
Vers les jours heureux
幸福な日々へと

Et le vent pousse au loin
風は遠くに追いやる
Mes chagrins, mes désirs
私の苦悩を、私の欲望を
Mais le vent ne peut rien
しかし、風には出来ない
Contre mes souvenirs
私の思い出に抗することが
Je les chasse, ils reviennen
私はそれら(思い出)を追いかけ、それらは再現する
J'en ai des larmes dans les yeux
私の眼には涙がある
Je voudrais que tu m'aimes
私はあなたが私を愛してくれたらと思う
Comme aux jours heureux
幸福な日々のように

原作「かもめの歌」 中島みゆき
cover例 https://www.youtube.com/watch?v=-SAFMN-BKX0

,,,  https://www.youtube.com/watch?v=MjFC1aASaXE
いつかひとりになった時に
この歌を思い出しなさい
どんななぐさめも追いつかない
ひとりの時に歌いなさい

おまえより多くあきらめた人の
吐息をつづって風よ吹け
おまえより多く泣いた人の
涙をつづって雨よ降れ

生まれつきのかもめはいない
あれは其処で笑ってる女
心だけが身体をぬけて
空へ空へと昇るよ

もういちど時を巻き戻して
はじめから生き直せたなら
愛さずに生きられるかしら
ならば泣かなくてすむかしら

生まれつきのかもめはいない
あれは其処で笑っている女
心だけが身体をぬけて
空へ空へと昇るよ

思い出話はえこひいきなもの
いない者だけに味方する
いまさら本当も嘘もない
私のせいだと名乗るだけ

いつかひとりになった時に
この歌を思い出しなさい
どんななぐさめも追いつかない
ひとりの時に歌いなさい

生まれつきのかもめはいない
あれは其処で笑ってる女
心だけが身体を抜けて
空へ空へと昇るよ

生まれつきのかもめはいない
あれは其処で笑ってる女
心だけが身体を抜けて
空へ空へと昇るよ 

  <目次へ>         <一つ前へ>    <次へ>