1月31日(金):
 今日は、福岡サンパレスホールで中島みゆきのラストコンサートツァー2020「結果オーライ」である。「ホテル博多プレイス」にチェックイン。ここはホテルというよりも、独身アパートとかウィークリーマンションみたいな感じで、風呂も日本式で、調理器具もあるし洗濯機は無いがそのスペースはある。

・・ホテルの窓からは会場前が見える。3時半にはもう列ができ始めていた。その後4時頃には、列が2つになった。片方は入場用で、他方は4時半から始まる開場前のグッズセール用だろう。何しろ開場後にはグッズセールがものすごく混み合うので、それを緩和する為と思われる。その列もやがて入場用の列に加わり、どんどん増え始めたので、僕達はパンを食べてから5時頃にホテルを出て列に並んだ。駐車場の中にもう一つ列が出来ていたのでプラカードを見ると、立ち見席用の列だった。皆マスクだらけという異様な光景で、その後もどんどん増える。今回開場には取り立ててコンサートを思わせる装飾も無く、写真を撮る気になれなかったが、一台の車に中島みゆきの写真が貼ってあったので、面白くてみんな写真を撮っていた。

・・5時半には開場したので、ゾロゾロと進んで身分証明書のチェックを受けた。入ってすぐ、グッズの列に並んで、パンフレットとご当地仕様のトラベルタグを買った。明太子をあしらっていてなかなか可愛い。パンフレットには仕事で中島みゆきと関わった人達へのインタビュー記事が並んでいて、興味深い。コンサートツァーの歴史みたいなものが中心で、過去の写真がなかなか良い。昭和的な真摯さにぐぐっと来る。

・・会場は二階席も含めてざっと2500人くらいかと思う。僕達の席は前から2番めの列の真ん中よりちょっと右。いわゆる「かぶりつき」である。舞台装置は地球儀の枠みたいな木製の半円が40度間隔で9個組み合わされて、天球を思わせる。運ぶのが大変だったろうと思う。器楽奏者達は装置を取り囲むように並んでいる。左から、コーラス、ギター、サックス&ピアノ、ドラム、ベース、弦楽器群、弦楽器群の前にキーボードが3人、という配列である。天球の下に低い舞台があって、水補給机とマイクがあって、中島みゆきが歌う。

・・プログラム構成は明らかにラストツァーということが意識されている。前半は「一期一会」「アザミ嬢のララバイ」「悪女」「浅い眠り」「糸」「ローリング」「流星」「最後の女神」「齢寿天任せ」。間にお喋り(MC)が入る。これが面白い。最近のコンサートツァーはDVDで見ることができるのだが、MCは入っていないから、一度見たかったのである。中でも人気なのが、開場のときにお客さんに書いてもらった葉書を読むコーナーで、まるでオールナイトニッポンみたいな調子になる。タイから飛行機で駆けつけた人もいた。呼ばれた人は会場から「ハーイ」と返事をする。もっとも、職場にインフルエンザで休むと嘘を言って来ている人もいて、そういうのは匿名である。

・・肝心の歌の方であるが、来月で68歳、衣装はわざとらしくて、化粧してもタレ目だけは隠せないが、声は全く衰えないどころか、円熟していて、自在の境地という感じがする。どの曲も今までで最高という感じだった。フレーズ毎に7色の声音(こわね)を使い分けるのであるが、その度に表情が変わる。声音を変えようとしているのではなく、多分感情そのものを自在に変えているのだろう。だから、自分の感情を乗せられないような言葉は歌えない。他人の歌を歌えないのはそのせいだろうと思う。聞いている方としてはちょうどもらい泣きするように、その感情に引きずり込まれる。考えてみれば、器楽奏者もそうあるべきなのだろう。言葉には意味が張り付いていると言われるが、言葉が歌われる時、その意味は歌う人が与えるのである。歌うたびに新たな意味が生まれる。だから、歌うことは彼女にとって真剣勝負だろうと思う。歌う直前に見せる決意の表情がそれを物語る。あまりにも多くの意味を詰め込むから、その心の整理のためにアウトロ(後奏)が必要なのかもしれない。ギターの古川望、サックスの中村哲が素晴らしかった。

・・後半は、「離郷の歌」「この世に二人だけ」「ナイトキャップ・スペシャル」(この曲だけは馴染みが薄かった)「宙船」「あたいの夏休み」「麦の唄」「永遠の嘘をついてくれ」「慕情」「誕生」ときて、正に感極まった処で一旦消えた。アンコールでは、矢継ぎ早に「人生の素人」「土用波」「はじめまして」。歌詞に呼応してコーラスと観客が手を振って挨拶を交わす。楽しいコンサートであった。

  <目次へ>  <一つ前へ>    <次へ>