2019.01.17
『愛していると云ってくれ』(1978年)は中島みゆきの有り余る才能を発揮した最初の名盤なのだが、実はそれほどは聴いていない。それぞれの曲が多くの歌手によってカバーされていて、そちらの印象の方が強い。『元気ですか〜玲子』は中村中、『化粧』は大竹しのぶ、『ミルク32』は満島ひかり、『あほう鳥』は一青窈、『世情』はクミコの印象が強い。最初に聴いたからであろう。『わかれうた』だけは大ヒット曲だったので、記憶にあったのだが、長い間、研ナオコかなあ、と思っていた。この頃、僕は、カナダに行く為に短波放送で英語の勉強に精を出していたから、中島みゆきという名前も知らなかった。もっとも、恋人を失った女の情念があまりに生々しくて、昔の僕だったら多分引いていたに違いない。

今聴くと、このアルバムの基調はリアルな情念を表現手段として利用してはいるが、もっと本質的な『喪失感』であることが判る。最後に、音楽の道を諦めた友人の話(『おまえの家』)と、政治的信念を貫きながら果たせない無念の語り(『世情』)を置いたのはその証拠だろう。歌うということで、この人は孤独をむしろ自分の強みにしてきた。高度成長からバブルへと向かった時流を積極的に採りいれて一種の恋愛の教祖となったユーミンとは逆に、取り残された人々の情念に寄り添っている。

<海鳴りが寂しがる夜は/古い時計が泣いてなだめる・・・『海鳴り』>

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