2012.07.25

      7月21日のNHKスペシャル「メルトダウン:連鎖の真相」を録画で見た。4つ出揃った事故調査報告には触れられていない原発事故の新たな事実が出てきた。

      2号機は水素爆発も起こらずに最後にメルトダウンした。殆どの放射能は2号機から出ている。圧力容器内の圧力が高くなって水が入らなくなったとき最後の手段としてSR弁があって、格納容器内に気体を逃がして圧力を下げて水を入れる訳であるが、12ボルトの自動車用電池を繋いでSR弁に電源を送っても作動しなかった。その結果冷却が出来ずメルトダウンに至り、格納容器に燃料が漏れ出てしまった。なぜSR弁が作動しなかったのかを改めて調べてみると、これは今まで誰も気付かなかったのであるが、どうもSR弁というのは配管からの窒素の圧力で開くのであるが、それに対抗する外部圧力が格納容器内の圧力なので、原子炉の温度が上り格納容器内の圧力が高くなってしまうとそれに抗しえなくなって開かないのである。正に「構造的欠陥」である。更に、格納容器の圧力が高まるとそれが破壊されて一気に大量の放射能が出てしまう。実際危険性が増して、管首相が大騒ぎをした。これを防ぐ最後の手段はベントである。多少の放射能放出は我慢して格納容器の弁を開くのである。しかし、これも開かなかった。これはコンプレッサーからの圧縮空気で開く仕組みであるが、開かない。空気が届かない。つまり配管に漏れがあったと思われる。そもそもこの配管自身には耐震構造が要求されていなかったというのであるから、驚きという他ない。地震で壊れていた可能性が高いが確認は出来ていない。結果的に格納容器は破壊されたのであるが、幸いな事に比較的穏やかな破壊であったから、それでも一気に爆発するという最悪の事態だけは免れたのである。どんな破壊が起きたのかは未だに判っていない。近寄れないから調べようがない。(3号機はそれよりも早くメルトダウンし水素爆発が起きたが、この場合はSR弁を動かすための電源が届けられなかった。資材調達システムがそもそも考えられていなかったという別の重要な問題である。)2号機はその後格納容器内圧力が下がった(つまり破壊されたので内部は大気圧となった)ためSR弁を開いて水の注入が可能となり冷却が始まったが、その後またNHKのニュースによると、水の注入の為にSR弁を開くと東京方面への放射能拡散が増加していたという明らかな相関関係が見つかったそうである。本来SR弁から出てくる格納容器内への放射能物質は下にあるドーナツ状の復水装置に入り、水に溶け込んで外部への漏洩を最小限にとどめる筈なのだが、あまりにも高温の蒸気であった為に水は蒸発してしまってその機能を果たせなかったということである。これもまた「構造的欠陥」である。少なくともこの型の原子炉はメルトダウンに対する最後の防備が出来ていないことが明らかとなった。

      多分こんな新事実はこれからどんどん出てきて、事故原因の解明が進むのであろう。しかし、それが生かされるのだろうか?そもそも原発の危険性は判っていたのであるが、それでも日本は原発に依存していった。危険性が個別に指摘され改善の要求が数知れず行われてきたが、それに対応することは(勿論コスト優位性が無くなるという意味もあるが)住民を不安に陥れるという理由で先延ばしされてきた。施政者の中にこの論理は今後も生き残るだろう。一度始まったことに対して自暴自棄となってまで完遂しようとする精神構造は武士道に内在するものかもしれない。先日も政府の公聴会で発言したどこかの社長さんの言葉に唖然とした。「エネルギーの自給が必要である。太平洋戦争も連合国の禁輸策によってエネルギー源を失ったことによって起きたのだから、原子力エネルギーで自給できるようにしなくてはならない。」という。核燃料サイクルが破綻しているのだから、これは技術的に意味のない根拠ではあるが、それにしても、エネルギーの自給の為に、原発の危険と隣り合わせに生きるという道を選択すべきなのだろうか?既に運用コスト的には原発が無意味であることは明らかとなっている。唯一残る問題は、現在の設備の処理コストである。これを運転継続によって支払うか、それとも一時的な国民負担で支払うか?である。これは国民の側の覚悟の問題であって、施政者の判断すべきことではない。施政者は事実を明らかにして国民の前に選択肢を示すだけでよい。
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