2012.08.01

      広島市立図書館で借りた岸田秀の「嘘だらけのヨーロッパ製世界史」(新書館)を読んだが、どうもこの人は雑な人である。本を読んで感想文を書いただけという感じなので、ザーッと読み飛ばした。

      白人はアフリカでの突然変異による白子が人種差別によって追い出されて寒いヨーロッパに移住し、そこで優性遺伝子となった、とか、黒人エジプトの中で差別された白人がユダヤ人であって、現地の人を追放して国をつくったものの、その後も周辺国に支配され、ローマに支配されていた頃に、一神教を弾圧され、その中で、そんなに厳格に規律を守らなくても来世において報われるというイエスの思想が広まり、イエスの捕縛に至ったという。

      ピラトはイエスの死刑に積極的ではなかったとされるが、これはローマを刺激しないためのその後のパウロによる創作である。ユダヤ教が現世での神の国を目指したため迫害され、国を失うのに対してイエスの弟子達は現世を諦めたために下層階級に広まり、ユダヤ教をスケープゴートにしながらローマ時代に広まって国教となった。その後キリスト教の布教において、北方の国々が多神教であるために抵抗を受けたが、武力で制圧していった、という歴史がある。

      北方のゲルマン民族にとってローマというのは必ずしも同じキリスト教同士というものでもなく、恨みが残っている。ローマ教会体制への反逆が宗教改革となってプロテスタントが生まれるが、多神教までは戻らなかった。ただ、現世的な性格を帯びていて、資本主義を支えることになった。

      さて、「大航海時代」から植民地支配の時代において、比較言語学が始まり、ヨーロッパの言語とサンスクリットなどの共通性が発見されて、インド=アーリア語族と纏められたので、その源流となる民族がどこかに居て、その子孫がインドからペルシャ、ヨーロッパに拡がっている、という考えが出てきた。これに乗って、イギリスは現在のインドが実は昔アーリア民族によって現地のドラヴィダ族などが追い払われて出来た国だ、という歴史を捏造した。これはイギリス人もアーリア民族の末裔だから、ということで支配の正統性を訴えるためであった。一方、ヨーロッパでは、特にドイツを中心として、アーリア人が北方からヨーロッパに入ってゲルマンになったという神話を捏造し、ギリシャ人もそうだ、ということにして、ギリシャの正統を継ぐものはローマではなく、ドイツだ、ということになった。これがワーグナー、ヒットラーに繋がる。勿論このアーリア人伝説というのは、現在は否定されているが、確かに高校の歴史ではそうなっていたのを覚えている。

      史的唯幻論と称して、恨み辛みが深層にあって歴史が動かされている、という説を唱えているが、本人も言っているように、これ自身が幻想でもある。そもそも歴史というのは語る人の都合に合わせた幻想なのだから、それもよし、ということである。そういう目で見ると、例えば、戦前の日本はアジア共栄圏という幻想に支配されていたし、その幻想は北朝鮮や中国に現在も引き継がれている、と見ることができる。それに対抗するためにアメリカの幻想は戦前は日本、現在は中国が自国の権益の為にアジア地区を占拠しようとしているということであって、それに対する戦略も一貫していて、日本と中国を引き離すために片側を支援している、という次第である。

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