2018.11.28-30
28-30日は所用で京都。今回は家内と一緒で、晩秋の京都なのだが、あまり人の多くない場所を選んだ。まずは、9番の市バスに乗って堀川通りの銀杏並木を眺めながら「下岸町」で降りて、西の方に歩いてカフェ「STARDUST」に到着。ここはヨガの先生の推奨。自然派女子が独りでやってきて、ふーっと溜息ばかりついている処。その恰好がいかにも自然派スタイルで、目の綺麗な子が多い。古い民家みたいなところに入ると<別世界>で、見れば見るほど細かい処に拘っていることが判る置物や飾りや庭、その拘り方というのが、また使い古しの日用品ばかり、。。メニューは訳の分からないお茶類のオンパレードと、自然食品に凝った野菜スープやパン。ランチは予約制で12時半からになっている。一つ予備があるけれども遅くなるので、野菜スープとパンのセットを頼んだ。家内はチャイと(原材料に拘った)RAW CAKE。最初にしゃぶる為のニッケの棒みたいなのが石の上に乗って出てきて、何だこりゃ?と思ったのだが、古布で作ったお手拭を巻いたものだった。。。まあ京都ならではである。ストレスの溜まった女の隠れ場所という感じなので、男ひとりではちょっと入りづらい。。。貴重な体験であった。

・・・STARDUSTからは賀茂川を渡ると直ぐ上賀茂神社である。大きな広場があって、手作り市などに利用される他、流鏑馬なども行われる。その傍にどくどくと清流が流れていて、周辺に紅葉があって美しい。

・・・帰りに焼き餅を食べてから、また市バス9番に乗って、堀川中立売まで戻り、楽美術館に行った。開館40周年 秋期特別展 「光悦考」を開催中。楽家は千利休が切腹した後、苦境に陥り、光悦が面倒を見たということである。光悦も焼き物をやっていたので、楽家の作風には光悦の影響が見られる。光悦作品も観たがやはりモダンな感じである。古典的なものとして、黒を基調として白い星屑の散ったような茶碗を沢山見た。インターネットで類似物の写真を探したが見つからない。やはりここでしか見られない貴重なものだったらしい。まあ、僕には茶の心が判っていないので、何とも鑑賞のしようもなかったのだが、沢山見ている内に、これはある種の欠陥とか逸脱とか、そういう理想形からの差異を楽しむ芸術かなあ、という感じを受けた。考えてみれば抹茶のようなものを飲む茶碗には物理的生理的に最適な形状とか表面特性があるし、それに伝統的な審美観も融合されてくる。そういうものが共有された上で、そこからの、多分に焼くときの偶然にも左右される逸脱が、あっと驚いたりふっと気を抜かせたりして、心を解放させる。茶碗が心を包み込む一つの宇宙となる。そういった発見がまた伝統の中に取り込まれる。これは案外と「濃い」文化なのかもしれない。言葉では説明できても自分でやってみないと決して伝わらない。。。

・・・翌29日、ポルタ地下街「リプトン」で朝食。4番の市バスで出町柳をぐるっと回って「新葵橋」で降りた。丁度家庭裁判所前である。その裏にある塀に囲まれた広い敷地は昔から知っていたのだが、入れなかった。説明によると、もともと江戸時代三井家が一族の会合の為に下賀茂神社から購入して、一族を祭る神社もあったという。中心となる建物は木屋町三条上るに建てていたものを移築したそうである。一番上に小さな見晴し部屋があって、五山の送り火が全て見える。戦後の財閥解体で国の資産となり、最近まで家庭裁判所長官の宿舎に使っていたが、寒々として居住に耐えないというので、売却すべく建物を調査すると、価値の高いものだということが判り、重要文化財に指定。修復して2016年から公開されるようになった。見晴し部屋は非公開であったが、2階からの庭の眺めが良かった。また今回は、市内各所で最近発掘された桃山時代の町衆が使っていたと思われる陶磁器が展示してあった。織部の時代のものでデザインがモダンで面白い。
 
鴨川三角州でちょっと遊んでから、目的の会議の場所に向かった。

・・・翌30日は友人の車で滋賀県をドライブ。坂本の西教寺に行った。延暦寺系統の立派なお寺である。明智光秀の一族のお墓もあった。紅葉が見事である。本堂は行事中の為参拝できなかった。

次は、その途中にあった日吉神社。ここは大きな神社で、正月には賑わう。なかなか風格がある。境内に立派な柿の木がある。

・・・次の佐川美術館で長時間過ごしたが、あまり写真は無い。午後1時からの茶室の予約をしておいてから、ちょうどやっていた「アートたけし展」を観た。ピカソのスタイルを現代の漫画風に応用した感じで、なかなか諷刺も効いていて、才能を感じさせる。どれも面白い。

・・・茶室の方であるが、案内人の説明と先導に従って鑑賞する。現在の楽家15代当主吉左衛門が、現代に生きる茶室として、設計したものである。美術館を取り囲む水と同じ平面上にあって、水の中に浮かんでいるような茶室である。正面の水面にはガマとアシを生やしている。入口は地下にあって、壁は木目を付けるようにして造ったコンクリート。型板の幅が茶室に近づくにつれて狭くなる。通路は防腐剤を使っていないというオーストラリアの枕木、待合のテーブルは黒檀の次に硬いカンボジア産の木で出来ていて、見つけた時には裂けていたので、その裂け目をそのまま生かしている。茶室への入口あたりから、床材にはジンバブウェイ産の黒い石である。これは割った時の面が気に入ったらしくて、茶室の下や周囲は全てこの石で出来ている。茶室そのものは覗いてみただけである。3畳半の畳と1畳の床の間。何とも言えないが確かに立派なものだった。その他に10人位は入れる広い茶室もあって、こちらは外のアシ等を通して水面が見える。自然の中に溶け込むように感じられる。他いろいろあったが忘れた。とにかく凝りに凝った「現代風」の茶室である。吉左衛門さんの意気込みだけはよく伝わる。まあ、一度見ておく価値はある。

・・・そこを出ると、吉左衛門さんの最近の作品とコラボしてWOLSさんという人の前衛的なエッチングみたいな線画が展示されていた。これはよく判らなかった。ちょっと逸脱しすぎではないかなあ、と素人目には感じられた。千利休の教えに「守破離」というのがあって、今は「守」と「破」の間を行き来しているらしい。家元というのも大変である。

・・・次に佐川美術館のあちこちにある彫刻の作家である佐藤忠良の展示室。今回は「おしゃべりしない眼」と題してあって、彼の作品の眼の作り方で分類して展示してあった。それはともかく、彼の彫刻は近代西洋の彫刻が日本人のものとして消化され尽くしている感じで、安心感と親しみが持てるので、僕は好きである。美術館の水面に立つ「冬の像」というのもいつまでも見飽きない。ちょうどカフェの前の椅子に座って眺められる。他、平山郁夫の「仏教伝来の軌跡」という展示もザーッと観た。


 
<目次へ>  <一つ前へ>    <次へ>