2000.01.16

「ココ、お話しよう」(F.パターソン、E.リンデン;どうぶつ社)

    メスのゴリラに言語(手話)を教えた話で、大変面白いので紹介します。チンパンジーに対しては多く試みられていて、成功した例も失敗した例もある。ゴリラというのは身体が大きいものだから扱い難いと思われていただけであるが、その知能程度はチンパンジーとあまり変わらない。言語能力を大雑把に言えば人の発達遅延児位に対応する。時間感覚とか類似性の洞察力については特に優れている。記憶力も高く、何か事件を見た後は一生懸命知らない人に手話で説明する。性格としては頑固で単純過ぎる命令や繰り返しを嫌う様である。

    新しいものを今まで覚えた手話を組合せて表現したり、対応する英語が韻を踏む様に手話語を並べてみたり(人の音声言語は理解する)、婉曲な表現を選んでみたり、皮肉を言ってみたり、まあ余り人と変わらない。勿論これはシンボル(記号システム)としての言語の基準を満たしている。年頃になって人に対して発情する様になったので、オスのゴリラと一緒にしてあるが、彼に手話を教えているし、会話もしている。チンパンジーに言語(手話)を教えようとして失敗した例について、おそらく客観性を保つ事に注意を払いすぎてチンパンジーとの信頼関係を築けなかった為ではないかというのが著者の意見である。人の子供でさえそうなのだから、これはもっともな意見である。言語能力というのは動物と動物の信頼関係と必要性抜きには育ち得ないものである。

    出張の列車の中で読み終えて、帰宅するや「あなた、少し様子が変よ。何だか動物みたい。」と言われてふと我に還りました。

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