2021.10.05
『脳の大統一理論』乾敏郎 & 坂口豊(岩波サイエンスライブラリー)は最初の自由エネルギーの定義で躓いている。ダイバージェンスというのは2つの確率分布の相違を表現するもので、これはよく判る。これを最小にすると確率分布が一致する。真の分布と予測分布のダイバージェンスを変形すると、自由エネルギーとシャノンサプライズの和になるというのだが、式の導出が書かれていないので判らない。この自由エネルギーというのも定義が判らない。本文では、この自由エネルギーとシャノンサプライズの和を自由エネルギーと称していてますます混乱する。話の筋としては、脳内モデルによる予測信号と感覚信号を一致させる、ということで、脳内モデルの方を変えて合わせるのが認知作業、感覚信号を変えて合わせるのが行動、ということになるらしい。後者の例としては眼球の動きということで、これもまあ判る。そもそも確率分布というのは背後に想定されているだけであって、現実に起きていることはイテレーションによる予測信号と感覚信号のすり合わせである。それが何か自由エネルギー類似の確率分布表現(汎関数)の最小化であるという風に体系化した、ということなのだろう。力学にしても統計力学にしても同じような数学的手法が使われているのだが、脳機能を論じるためにこのような手法(見方)が有効なのだろうか?単なる理論家の趣味的体系化(哲学?)なのかもしれない。フリストンの論文を読んだ方が手っ取り早いように思われる。

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