2010.09.04

   「二酸化炭素温暖化説の崩壊」広瀬隆(集英社新書)を読んだ。

      地球が温暖化している、という話は、縄文時代は今よりもずっと暖かくて海岸線も入り込んでいて、太平洋側よりも日本海側が日本の中心であった、という事は知っていたし、現在は氷河期に向っているという話もあって、あまりよく判らなかった。何時だったか多分10年位前か、日本学術会議の吉川先生の講演で、世界の学術会議が主導して地球全体の温度を測定するための組織を作り、いろいろな警告を発している中で、二酸化炭素と温暖化の話が出てきて、国連を動かし始めた、と聞いた。ただし、因果関係がどちら向きなのかははっきりしない。そうこうしている内に、環境問題が世の中で問題とされ始めて、京都で国際会議が開かれて、二酸化炭素排出量に焦点が絞られてきた。温暖化という意味では原子が3つもあればたいていのガスは赤外線を吸収するだろうし、他にも大事な分子はある。水蒸気なんかは影響ないんだろうか?という事も考えたが、まあ、世界中の学会が集まって議論しているのだから間違いはないのだろう、と思っていた。ただ、物理学会誌では槌田先生が一人で意義を唱えておられて、読んでみてもそうかもしれない、と思ってはいた。しかし、昨年だったか一昨年だったか、ゴア氏の作った映画「不都合な真実」を見て、近代化以降の急激な二酸化炭素の増加と地球の平均温度の増加が見事に対応したグラフ(ホッケースティックと呼ばれているらしい)が出てきて、本当にそうかもしれない、と思った。勿論この段階でも因果の向きについては何ともいえないが、人間の過剰なエネルギー消費行動が地球を暖めているということは確信したのである。しかし、今更抑制したところで焼け石に水であって、それよりもその被害に対して適切な準備をするほうが賢明だろうと思っていた。環境に対する負担の程度が二酸化炭素排出量で評価されるようになり、電気自動車が環境に良いとか、原子力発電までがそういう観点から復活してきて、経済的には二酸化炭素排出量取引市場が生まれて、更には鳩山首相が25%削減する、という大見得を切った。挙句の果てに二酸化炭素を固定化して地下に閉じ込めるという技術開発まで進行している。世の中の動きというのは動き始めたら速いもので、今度は止めるのが大変になる。省エネという意味では良いのだが、二酸化炭素だけで良いのか、という疑問は残ったままである。

    昨年暮れに、IPCC(国連の地球環境委員会)のデータに捏造があった、正確にはその経緯を証明するEメールがハッキングされて公表された、と聞いても、まさかゴア氏の使ったグラフの事だとは思わなかった。そこに間違いがあれば専門家が異議を唱えるだろうと思っていたからである。それがまさか捏造したグラフだった、というのが、恥ずかしながら、この本で知った衝撃である。(雑誌「化学」に詳細な解説があるようなので図書館で読んで確かめようかと思う。)そもそも以前のIPCCの公表データと大きく食い違っている。気温の測定というのは、勿論何処で測定するのか、という問題がある。その為に専門家が議論するのである。偏ってはいけないし、地球全体の大気の温度変化を論じるのであるから、大都市の周辺は局所的な温度変化をするので外したほうが良いと思われる。しかし、どうもそういう配慮も無かっただけでなく、そのあたりのバランスを勝手に調整して、二酸化炭素排出量と見合うように平均温度を調整していた、ということのようである。こんなに強引な事が出来るような組織なのだろうか?しかし、ご本人は認めているらしい。もっとも、おかしいという話は専門家(IPCC 自身は気候測定の専門家ではない。)から異議が出ていて、日本では赤祖父俊一氏が、2008年に指摘していたらしい(「正しく知る地球温暖化」(誠文堂新光社))。こういう専門家の議論というのは活発になされてはいたが、マスコミに取り上げられる事が殆どなかったし、IPCC 幹部の捏造事件の意味も伝えられていなかったために、鳩山首相の耳には届かなかったということである。

    今年の夏は特に暑く、これはラニーニャ現象であるが、近年見られる「温暖化傾向」は殆どが都市と工業活動による放射熱である、というのが広瀬氏の結論である。京都の温度が沖縄の温度よりも6度も高いのは、放射熱で暖められた空気が盆地に蓄積するからである。しかし、これらは地球全体でみると局所的な温度上昇であって、正しく地球大気を平均化すれば殆ど変化がないか多少低下気味である。そういう意味での温度変化を支配する一番の要因は太陽活動である。11年周期と100年周期がある。太平洋での地球自転と海流、気圧の相互作用から生じる約20年周期のサイクルもある。一番大きなサイクルとしては、地球の軌道が約100,000年周期で変わって、太陽に近づいたり遠ざかったりする、地軸が41,000年周期で変わって極圏と赤道付近のバランスが変化する、地軸そのものの歳差運動が25,800年周期。この3つの周期を取り入れてミランコヴィッチという人が計算を行い、考古学での地球温度変化と一致した。二酸化炭素は結局地球大気全体の温度変化には殆ど影響を与えていないが、全てが解明されたわけではなく、今後どうなるかは判らないといういうのが正直なところであり、これを人類がどうこうすることは不可能である。

    広瀬氏の言いたいことは実は以上のようなことではない。問題はエネルギー資源の有効利用である。原子力発電は最も効率が悪く、30%程度である。次は火力発電で、45%程度、天然ガスのcombined cycle が60% 程度、最近開発された PEM型家庭用燃料電池では 最大80%の効率である。(水力や風力については「原料」が把握出来ないので難しいのだろうと思う。)問題は捨てられる熱の有効利用であり、輸送損失を考えても、大都市近郊で可能なシステムに軍配が上がる。原子力発電や水力発電は最悪である。原子力発電は最低発電量を保たないと原子炉を止めなくてはならなくなるから、夜間の電力使用量を無理にでも上げる必要がある。その為に夜間電力の低価格化や完全電化を進めているのが実体である。完全電化というのは最も品位の高い(自由エネルギーの高い)電気エネルギーを熱に変える訳だからもっとも効率の悪いエネルギー使用方法である。電気自動車も同じ。更には夜間に余ってしまう電力でダムを揚水している。環境破壊を促すこれらの技術を選択する「唯一の口実」に「二酸化炭素による地球温暖化」という珍説が使われている、ということで、広瀬氏はこの本を書いたのである。(しかし「珍説」ではないということが後に判った。)

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