2021.07.05
大分前に本屋をぶらぶらしていて見つけた『空間は実在するか』橋元淳一郎(インターナショナル新書)を読み終えた。新型コロナのワクチン接種に行ったときに、何となくさらさらと読んでしまって、まあこんなものかなあ、というのが感想である。この人は予備校の物理の名物教師らしい。なかなかよくかみ砕いて説明してあって感心した。
・・・物理学は万物を支配する基本法則を求めている学問なので、当然と言えば当然であるが、時空を超越した神の視点で語る学問である。神にとって時間の流れは無くて、過去も未来もすべてが見えている。相対論の枠組みは実際そうなっていて、時間は流れるのではなく、あるのは世界線であって、理論的に時間軸と空間軸を区別する理由は無い。だから、逆に、我々はなぜ時間と空間を区別しているのかが「問題」となる。
・・・時間の方向性(つまり過去から未来への流れ)についてはエントロピー増大原理によって説明されるが、その成立には多くの自由度が必要となり、物質(フェルミオン)の誕生にまで遡る。そして、時間の方向性を決めたのは、偶然に反物質よりも物質が多かった為である。
・・・それでも、時間が、その向きだけではなく、時間経過として存在する為には、生命の誕生が必要であった。このあたり(第6章)からちょっと面白くなってくる。有機システムの本質は、その状態が内外の情報によって次々と遷移していって、元に戻る、というサイクル運動にあるという。そのサイクルこそが時間経過の由来である。生物は環境に働きかけて自らのエントロピーを減少させようと逆らう。その行為が時間である。
・・・そして、時間が物理学の体系に取り込まれる為には、環境にある周期現象を利用して時間を数値として測定する必要があったのだが、その行き着く先が時空の区別もなくなる「神」の視点であって、現代の科学技術の根幹となっている。良し悪しは別として。。。

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