5時ちょっと前に出かけた。時間がありそうだったので八丁堀で丸善に寄ってラジオフランス語の6月号のテキストを買ってから、エリザベト音大に行った。3階のザビエルホールで今日は公開のレクチャーコンサートがある。ベルリンフィルの主席フルート奏者を今年定年になるアンドレアス・ブラウ氏である。小さいホールで400人弱しか入らないので満員となった。昨日のメンバーが沢山来ていた。ピアノ伴奏は垣内敦さんでエリザベト音大の先生のようである。ドイツ語の通訳は昨日のインペクの一人万代先生である。最初にカルメン幻想曲の演奏があった。何とも姿勢が良い。よくコントロールされた音である。音の意図がはっきり判るような吹き方とでもいうべきか?この難曲でやすやすとそれを実現する。そして、最初に結構時間をとって自分の経歴を喋った。これにどんな意味があるのかなあ、と思ったが。お父さんがベルリンフィルのヴァイオリン奏者である。カール・ハインツ・ツェラーの奥さんにフルートを指導されて良かったということである。最初にきっちりと基礎を固められたからだという。20歳でベルリンフィルに採用されてから今まで勤め上げている。指揮者はカラヤンである。次の曲はソロで、シランクス。これも直感的なものに流されることなく解釈の明瞭な演奏であった。

      その後、会場からの質問に答えた。まあいろんな質問が出た。この人の言う基本というのは姿勢とか指を上げすぎないとか、大抵の教科書に書いてあることで、具体的には話さなかったが、他にはビブラートをどこでかけているのかを自覚することとか、唇の真中で吹かないと細かいニュアンスが表現できない、とかである。音色については曲想に合わせてよく考えること、ということで幾つか極端な例を吹いてくれた。トロンボーン奏者に求めること、というのもあって、正しい音程をピアノとフォルテを使い分けて他の奏者の邪魔をしないこと、とあった。日本人の欠点としてタンギングが弱いことを挙げて、これは言語上の習慣だからどうしようもないかなあ、と答えていた。

      フルートについては40年間ずっとムラマツの銀を使っていたが限界を感じてマタイ受難曲を吹くときに要請されて木管にしたそうである。木管とは言っても歌口部分には金が使ってあって、これによって強いアタックが可能になるということである。限界というのはそのことであった。彼はベルリン地区のフルート奏者14人のフルートオケを主催していて、その編曲者が彼のためにティコティコとチャールダーシュを編曲してくれたそうで、その2曲の演奏があった。まあちょっとびっくりである。確かに強いアタックが見られた。アンコールにフォーレのシシリエンヌをしっとりと吹いてくれた。これは意図的にだろうが灰汁を抜いたような抑制的で美しい演奏であった。とはいえ、低音におけるアクセントの付け方はやはり解釈を前面に押し出している。こういう演奏は何もかも自然に聞こえるパユの演奏とは対照的である。

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