広島駅から駅で3つめ、丁度山陽本線と呉線が別れる所の海田市。随分寂れた感じのだだっ広い駅である。駅からちょっと歩いたところにセブンイレブンがあって、その隣に MAKURAGI という軽食喫茶があるので、そこで780円の日替わりランチを食べた。量・質とも大満足。そこの隣が安芸区民文化センターである。そこの図書館で「二十歳の炎」を返却して、「あきクラシックコンサート」を聴いてきた。無料である。プロとしてのキャリアーを始めたばかりの若い人たちが毎年市民のためにクラシック入門みたいなプログラムで演奏している。今年はちょっと趣向を変えてジャズとのクロスオーバーということである。実行委員は会長:サクソフォンの山下雅也、ソプラノの平福知夏、毎年フルートフェスティバルでお世話になっている根石照久、サクソフォンの前田悠貴、ピアノの大下由紀江。今回は他にバリトンが1人、ピアノが2人、ジャズということでドラムとベースが加わった。

      前半はまずフルートとサックスとピアノでギドーニという人の Classical Fuga Goes Jazz で、根石さんが YouTube で見つけたそうである。バッハのインヴェンションとか現代音楽とかジャズをうまくミックスした楽しい曲で、結構聴き応えがあった。根石さんも生き生きとしている。この人はいかにも秀才という感じで飄々と難しいパッセージを吹きこなす。あまり情熱的なそぶりは見せない。次の2曲はソプラノとピアノであったが、あまり良くなかった。どうも大げさな割には声が通らない。最後のは吉松隆のFuzzy Bird Sonata で3楽章から成る。 Run Bird といういかにも忙しそうな曲、 Sing Bird というサックスが思いっきり歌う曲、 Fly Bird というちょっと気持ちの良い曲とその即興演奏。なかなか楽しめたが、即興部分はややアイデア不足の感があった。

      後半はドラムとベースが入る。まずボランという人のフルートとピアノジャズトリオの為の組曲よりEspiegle(陽気ないたずら)。ジャズではあるが、全て楽譜になっている。しゃれた曲である。即興を命としたジャズもこうして完全に解読され作曲されるようになってしまったのか、という感慨を覚えた。次のピアソラの名曲 Oblivion はサックスとピアノトリオで、なかなかサックスの表現力に感心したが、曲そのものは何のことはないいつも僕が吹いている Teo による編曲のヴァージョンだった。ただ終盤での一箇所だけ難しい高音の上下動が簡略化されていた。編曲者を表示しなくて良いのだろうか?次の2曲はバリトンでこれまた冴えなかった。何しろ声が通らないのである。声楽というのはいくら勉強したり練習したりしても、その人の持つ喉の構造が声の質に反映されてしまうから、仕方ないのではあるが、その難しさを改めて感じたくらいにどうしようもなかった。次はサックスとピアノトリオでガーシュインメドレー。よく頑張っていた。最後はチックコリアの名曲「スペイン」で、フルートとサックス2本とピアノトリオである。よく乗っていたし、サックスの即興もなかなかのものだった。

      観客は500人位だろう。全体に印象に残ったのはやはり根石さんのフルートである。左足の踵を床につけて足先を反らせてリズムを取るというなかなか面白いスタイルで軽々と吹きこなす。まあ、重みとか深い味はないのだが、軽妙で楽しいフルートである。こういうセッションにぴったり。
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