最新レビュー


9/1 - 9/31


Robbie Fulks/Let's Kill Saturday Night(Geffen/GEFD25159)

今まではブラッドショットからの2枚により、堂々としたカントリー・サウンドを聞かせていたオルタナ・カントリー界期待の新人がついにメジャー・デビュー。ルシンダ・ウィリアムズやビル・ロイド、アル・アンダーソンをゲストに迎えて、ポップ度を高めた力作だ。過去の2作は正直よくわからない面もあって、それほどのめり込まずにいたのだが、今度のアルバムはまず何よりロックしているのがいい。それなりにメジャーを意識したのか、従来のカントリー風味を受けつぎながら、ポップにまとめており、一時期のフリーディー・ジョンストンにも通じる勢いも感じさせる。一見軽くなったようでいて、随所に挿入されるチューニングの狂ったようなギターの音色に、どこか一筋縄ではいかない個性をのぞかせているのもこの人らしい。歌詞も相変わらず屈折しているみたいだ。次もこの路線でお願いしたいものだが、またがらりと音楽性を変えそうな気もするし、どうなることやら。

ところで、先日ある人から教えられて初めて気づいたのだが、本作のタイトル・トラックは1年も前に発表されていたものだった。といっても本人の演奏ではない。ニュー・ヨークのネオ・ルーツ・バンド、5チャイニーズ・ブラザーズの4枚目「Let's Kill Saturday Night」(1-800-Prime/97年)収録のタイトル・トラックがそれだ。アルバム・タイトルも全く同じで、買った当時はかなりお気に入りの1枚だったはずなのに、全然結びついてなかったんだよね。改めて確認してみると、ロビー本人も参加しているし、5CB版はピアノを使って少し爽やかに仕上げられてはいるけれど、アレンジもほとんど同じ。ロビーはフィラデルフィア出身のようで、つながりがあっても不思議はないけど、ちょっと意外な結びつきでした。


Mary Cutrufello/When the Night Is Through(Mercury/314 558 720-2)

少し前、某所に「女スティーヴ・アール」と書かれていたので、気になっていた女性ロッカー。その後インディーからリリースされていた96年の「Who to Love and When to Leave」を入手したところ、これがなかなかの出来だった。それに続く新作は何とマーキュリーから。スティーヴ・ポルツ、ルシンダ・ウィリアムズ、デビー・シュウォーツ(ジェイムズ・マストロがプロデュースを手がけた女性アーティスト。出来の方はもう一つでした)と、マーキュリーのラインナップはここしばらく意欲的なのだが、いずれも国内盤はなし。まあ、どうせ売れないだろうし、ポリドールにもいろいろ事情はあるのはわかるけど、こういう地味な(音楽じゃなくて存在の話ね)アーティストこそ、国内盤を出して話題にすべきでは。同じマーキュリーでも、リンゴ・スターやスウォール360(これは結構よかった)あたりがすぐ出るのに比べると随分差があるのは、何とかならないのでしょうか。

さて、肝心の内容の方だが、前作で聞かせてくれたパワフルでストレートなアメリカン・ロックにはさらに磨きがかかり、王道路線を極めた仕上がりを見せている。前作に比べると、全体的に軽めの印象で、スティーヴ・アールの持っている音の深みからはむしろ遠ざかってしまったように思えるが、この方が一般的には受け入れられやすいことも確かだろう。同じ黒人女性シンガーという点では、アーニー・ディフランコのようにとんがっていない分、日本では話題になりにくい音ではあるものの、注目に値する新人の登場であることは間違いない。リズム・セクションはケニー・アロノフ、ジム・ケルトナー、ボブ・グラウブといったベテラン陣が支え、キーボードでラミ・ジャフェ(ウォールフラワーズ)が参加している。


Lowen & Navarro/Scratch at the Door(Intersound/9540)

ほめておいてけなすというありがちな展開。ローエン&ナヴァロではなくて、マーキュリーの話です。確かに今年のリリースは立派だったが、過去はどうだったかというと、全くもって理解しがたい過ちを数年前に犯している(大げさ?)。2枚のアルバムをリリースしていた(1stの再発も含めると3枚)優良フォーク・ロック・デュオ、ローエン&ナヴァロとの契約を打ち切ってしまったのだ。「Pendulum」の出来が悪かったのならそれも仕方がないと思うけれど、内容は文句のつけようがないものだったのだから、どうにも納得がいかない。まあ、売れなかったからと言われれば、それまでだが。

その後インターサウンドなるインディーに拾われ、リリースは続いているのが唯一の救いだろうか。ライブだった前作に続く新作は、ひさびさのスタジオ盤。取り立ててすごいというわけではないが、この落ち着きと自然体が彼らの持ち味である。ライブも随分昔の音源だったし、もう活動はしていないのかと思っていたところだったので、健在が確認できただけでも個人的にはうれしい。プロデュースは自分たちで手がけており、過去3作全てを担当していたジム・スコットはミックスのみ関係している。ディスコグラフィは以下の通り。

(1) Walking on a Wire(Chameleon/D2-74828)90*後にMercuryから再発
(2) Broken Moon(Parachute;Mercury/314 518 309-2)93
(3) Pendulum(Parachute;Mercury/314 528 572-5)95
(4) Live Wire(Intersound/3595)96


Tonio K./Rodent Weekend 76-96(Gadfly/242)

デビュー当時はボブ・ディラン、コステロ、スプリングスティーン等と比較されていた人だが、活動歴は古く、72年からしばらくの間、末期のクリケッツに在籍していたというから、かなりのベテランだ。ここに収録された初期の曲を聞いていると76年頃は完全にパンクだったことがよく分かる。その後「トニオ・クレーゲル」から取ったというこの芸名を使って、78年にデビュー。力強くメッセージ色の濃い歌には、なるほど一時期のスプリングスティーンに通じるものがあったが、アクの強さもあってか、一般的な人気は得られず、T・ボーン・バーネットがプロデュースした5以降はほとんど名前を聞かなくなってしまった。それが3年前に始まる近年のCD化により再びクローズ・アップされ、89年に制作されながらお蔵入りになっていた6までリリースされてしまうのだから、世の中はまだまだ捨てたもんじゃない。6は何でも歌詞が問題となってお蔵入りしていたそうだが、内容は最高の1枚。ピーター・ケイスやポール・ウェスターバーグも参加している傑作である。

再発シリーズの最後(?)を締めくくるかのようにリリースされた本作は、いわゆるベスト盤ではなく、未発表デモを中心にした編集盤。どちらかというとマニア向けの1枚なので、入門盤としては、下記の5か6をお薦めしておく。

(1) Life in the Foodchain(Epic;Full Moon)78(Gadfly/208)95
(2) Amerika(Arista;Full Moon)80(Gadfly/226)97
(3) La Bomba EP(Capitol;EMI)82
(4) Lomeo Unchained(What;A&M)86(Gadfly/217)96
(5) Notes from the Lost Civilization(A&M)88
(6) Ole(Gadfly/233)97

1,2,5は国内盤あり。3と4の国内盤は未確認。


Howe Gelb/Hisser(V2/63881-27028-2)

アリゾナのベテラン・デザート・ロック・バンド、ジャイアント・サンドのリーダーによるソロ・アルバム。91年の「Dreaded Brown Recluse」に続く2枚目だが、それなりに完成されていた前作とは随分違いがある。よくメジャーからリリースできたものだと感心するほかない宅録集で、ほとんど予想通りとは言え、ちょっと僕にはつらかった。ただ、ほとんどデモ・テープのような、粗っぽい感触にはロー・ファイに通じる奇妙な味があるのは確か。近年のジャイアント・サンド作品が気にいっている人なら大丈夫だろう。クレジットにRainer(念のために言っておくと、ハウ・ゲルブは例のトリビュート盤を企画した人です)の名前があり、あれっと思っていると「Ambience」と続くのが、泣かせる(でも、ちょっと危ないかも)。

Katy Moffatt/Angel Town(HMG/3004)

70年代から活躍している本格派女性シンガーによる新作。この人も日本ではなかなか紹介に恵まれない人で、僕はWatermelonからの傑作「Hearts Gone Wild」(94年)で初めて作品に接し、たちまちファンになってしまったのだが、それ以前のPhiloに残した3枚も素晴らしい。P-Vineのハイトーン・シリーズは残念ながらあれで終わりのようだが、もし続いていれば、この移籍第1作も当然候補に入っていたはず。演奏はシンプルこの上なく、いい意味で肩の力が抜けている。いつものようにトム・ラッセルとの共作に加えて、クリス・スミザー、スティーヴ・グッドマンなどをカヴァー。

The Kennedys/Angel Fire(Philo/11671-1211-2)

ピート&マウラ・ケネディ名義の「River of Fallen Stars」(Green Linnet/95年)、ケネディーズ名義の「Life Is Large」(Green Linnet/96年/MSIに国内盤あり)に続く3枚目。ファーストではリチャード・トンプソンの名曲"Wall of Death"をカヴァー、セカンドではロジャー・マッギン本人に"She Don't Care about Time"の間奏(バッハの引用)を弾かせてしまうなど、往年のファンを喜ばせながら、バーズ直系のオリジナル曲を聞かせる夫婦デュオで、夫のピート・ケネディには過去にも数枚アルバムがあるそうだが、そちらは未聴。豪華なゲストの割には、作りこみすぎの感があり、前作には1stほど入れ込めなかったのだけれど、今回は1stのモノクロ感が戻ってきて、ちょうど1stと2ndのちょうど中間といったところか。リッケンバッカーの音色とマウラの透明感あふれるヴォーカルがほどよく溶け合って、これぞ現代版フォーク・ロックという世界を作り上げている。ベスト・トラックはラストの"A Place in Time"。

The Mysteries of Life/Come Clean(RCA/07863 67496-2)

日本ではジュリアナ・ハットフィールドばかりやたらと注目を集めているが、ブレイク・ベイビーズの残り2人、すなわちフリーダ・ラブとジョン・P・ストロームの2人は、このところジュリアナ以上に気になる存在になっている。6年前はジュリアナ以外のメンバーにほとんど興味がなかったのに、今では全く逆転しているのだから、年月とは不思議なものだ。一応簡単におさらいしておこう。ブレイク・ベイビーズ解散後、フリーダ・ラブとジョン・P・ストロームは2人ともインディアナに戻って、新たにアンテナを結成したが、2枚のアルバムを残して93年に解散。ジョンはヴェロ・デラックスで1枚のアルバムを制作した後、新たにネオ・ルーツ・バンド、ハロー・ストレンジャーズを従えて、96年にアルバムを発表(過去のレビューを参照)。

一方、フリーダの方はアンテナのベーシストだったジェイク・スミスと新バンド、ミステリーズ・オブ・ライフを結成し、今までに「Keep A Secret」(RCA/96年)とEP「Focus on the Background」(Flat Earth/97年)の2枚を発表している。ルーツ風味を効かせた素朴なポップ・ソングを中心にした作風は今回も変わらず、どこか捕らえどころがないのも否定はしないけれど、カレッジ・ロック世代の飄々とした魅力がつまっている。

ほとんどの曲作りとヴォーカルを担当するジェイク・スミスの才能にも注目しなくてはならないが、もう一つ見逃せないのは1st以来ずっと参加しているデイル・ローレンスの存在である。デイルはもともと70年代のインディアナ州で、ギズモズ(Gizmos)というパンク・バンドの中心人物として活躍した後、フロリダのヴァルガー・ボートメン(Vulgar Boatmen)に参加。サイロズのウォルター・サラス・ヒューマラが在籍していたことでも知られるこのバンドを、ウォルターが去った後、ロバート・レイと共に支えてきたという経歴を持っている。ヴァルガー・ボートメンのアルバムは3枚あるが(1枚となると1stか2ndがお薦め)、95年作を最後にリリースはなく、今のデイルはミステリーズ・オブ・ライフに本腰を入れていると見た方が良さそうだ。デイルは新作でも1曲ヴォーカルをとっているほか、曲作りにも関係し、ピアノ、オルガンなども担当。ジェイク・スミスやフリーダ・ラブとは年齢的にも随分離れており、横の関係と言うよりは縦の関係と言った方がいいはず。音楽的にもヴァルガー・ボートメンの影響が強く感じられることもあり、おそらくは良きアドヴァイザーとして、デイルのバンドへの貢献度はかなり高いとにらんでいるのだが、どうだろう。


Amy Rigby/Middlescence(Koch/KOC-CD-7998)

2年ぶりの新作。プロデュースは前作同様エリオット・イーストンが手がけている。前作は悪くはなかったのだが、今度のアルバムはメリハリがきいていて、曲調も多彩になり、音の面から言えば、落ち着きの目立った前作よりも若々しい印象さえ受ける。今年の春、オースティンでライブを見たときにも思ったのは、女性っぽさを前面に押し出したジャケットとは逆にタフな一面があるんだな、ということだった。この新作でも3には、そんな彼女の激しさ、骨っぽさがよく表れている。その一方、フォーク調の6など、ほのぼのと聞かせる曲もあり、ポップからジャズ、ラウンジ、ラテン調の曲まで、引き出しの多さに改めて驚かされた。ソロとして完全に自立したことを実感できる力作といってよく、この先の活躍も楽しみだ。

前作のレビューはこちら


Greg Trooper/Popular Demons(Koch/KOC-CD-7997)

ルシンダ・ウィリアムズの再発やビル・ロイドとの契約で、KOCHも頑張ってるなと思っていたら、この人まで移籍。一時のWatermelonやESDを思わせる好調ぶりは一体なんなのだろう。うれしいからいいんだけどさ。というわけで、グレッグ・トルーパー。ただ、申し訳ないが、あまりこの人のことは詳しくはない。たぶんナッシュヴィルのシンガーで、今までのアルバムは「Everywhere」(Black Hole/92年)と「Noises in the Hallway」(D'ville/96年)の2枚しか持っていないけれど、いずれもオーソドックスなSSWアルバムとしてのレベルは高く、「Everywhere」にはシド・グリフィンとの共作もあったり、ゲイリー・タレントのプロデュースした「Noises in the Hallway」にはスティーヴ・アールやビル・ロイド、ジェフ・フィンリン等がゲスト参加していて、大変気になる存在ではあった。今回もバディ・ミラーがプロデュースしている上、スティーヴ・アール、エミルー・ハリス、デュエイン・ジャーヴィス、ジュリー・ミラー、タミー・ロジャーズといった、ナッシュヴィルのオール・スターがずらりと勢揃い。それだけでもすごいのに、更に驚いたことには、ジョン・シーガー(R&B Cadets、Semi-Twang等で活躍。ソロ・アルバムも1枚あり)との共作を3曲も収録していることに加えて何と! エリック・アンベルとの共作"Long Gone Dream"(エリック・ヴァージョンは一足先に「Loud & Lonesome」で披露済)をセルフ・カヴァーしているのだ。豪快なエリック版に比べるとやや大人しめの仕上がりだが、名曲であることに変わりはない。とにかく、これだけの話題性を持ちながら(まあ、普通の人にとっては、それで? となるのだろうが、この人の人脈って本当においしいところばかりにつながっていると思う)、あんまり話題になっていないのが、まあ、この人らしいというか何というか。おそらく一生このまま地味な存在で終わるのだろうが(涙)、愛すべきシンガーであることは間違いない。バディ・ミラー、ジム・ローダーデイル、ジェイムズ・マクマートリーといった地味渋シンガーが好きな人は必聴です。

Splitsville/Repeater(Big Deal/9058-2)

今さらですが、一応取り上げておきます。過去の2枚に比べて、少しポップ度がアップ。今までの中では一番好きかな。

Buddy Love/Sheila And Other Delights(No Label)

Not Lameで買った1枚だけど、届いたものを見たら、レーベルも番号もなく、完全な自主製作のようだ。もしかして海賊版? それにしても、こんなものまでCDになってしまうとは、パワー・ポップ再評価の波はすごいね。70年代のNYで活躍したアラン・ミルマン・セクトの中心人物、アラン・ミルマンが80年代に組んでいたユニットによる唯一のアルバムを含んだ編集盤である。ゲイリー・グリッター、バディ・ホリーなどのカヴァーを含んだ元のアルバム全10曲(このCDでは11から20に該当する)に加えて、他の音源を13曲も収録している。こんなに曲があったとは知らなかった。内容的にはいかにもB級っぽさの漂うパワー・ポップだが、ファンにとっては下世話な音楽性がたまりません。カラー・プリンターで印刷したとしか思えないドットの粗さが目立つジャケットは、一応元のアルバムをそのまま使用。ここに写っているラテン系のおじさんがバディ・ラブなのかと思っていたが、そうではなくて、実際はアラン・ミルマン・セクトでもギターを担当していたダグ・カザムがバディ・ラブを名乗っているのだとか。

The Rubinoos/Paleophonic(Pynotic/CDLP-1970)

いつ頃の録音なのかは知らないけれど、少し前にカセットを入手して、あまりのよさに驚いていたアルバムが無事リリースされた。まずはお蔵入りにならなかったことを喜びたい。前回、Vox Popのレビューでも書いたように、この人達の年齢を感じさせない芸風は、さすがだと思う。プロというのはこういう人たちのことを言うんでしょうか。2曲目なんか過去の作品に比べても、全く遜色のない出来映えで、まだまだ現役でいけるという底力は十分感じられた。