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神話『ブルーポールズ』
あとがき(1)
インドの古代叙事詩『マハーバーラタ』は、自ら、「ここに在るものはすべてこの世界に在り、ここに無いものはどこにもない。」と語っています。
この『ブルーポールズ』は、この世界の森羅万象すべてを盛り込むことはできていないかもしれませんが、可能な限り、この世界にある多様なものを盛り込もうとして描いたつもりです。
『はじめに』でも書きましたが、この物語は、当初、3巻構想で書き始め、第3巻で完成のはずでした。ただ、第3巻までの全体像が見えてきたころから、心のどこかに、「これですべてなのだろうか?この世界において重要なものはこれで語り尽くしたのだろうか?」という思いがくすぶっていました。パキゼーの聖なる悟りである「一切は空」という思想は、たしかに、この世界の根源的な真理であるかもしれないが、現実の世界は、それとはまるでかけ離れた世界で動いているという事実を無視することが適切ではないというような思いでした。
その思いが第4巻を生み出しました。もっとも、第4巻の発想が浮かんでから、実際に筆が進むようになるまでには5年くらいの歳月がかかりました。その発想を実際にどのように展開し、どのように意味のある物語にまとめればよいのか、自分でも分からなかったためでした。
同じことは、第5巻でもそうでした。そして、現在、第5巻までそれなりに書き上げましたが、今は、未来を舞台にした第6巻の執筆に努力しています。
(2014年11月)
あとがき(2)
ミカ・ワルタリの小説『エジプト人』(1945年)は、古代エジプトを舞台とした物語で、主人公シヌヘの手記という形をとっているが、その冒頭部分に、次のようなで始まっている。
「センムトと、その妻キパの息子なるシヌヘ、すなわちかくいう私が、これをつづる。この手記はケムの国の神々の栄光をたたえて捧げまつったのではさらさらない。おお、神々にはまったくうんざりしているのだ。さらに、国王の栄光に捧げんためでもない。彼らの所業にもあきれはてている。とはいえ、わが未来への不安からでも、ましてや希望を抱いて書きしたためるのでもない。ただただ私自身のためにしるすのである。(中略)自分はただ書きたいだけだ。この点で、過去から未来への他の作者たちと区別してほしい。」[1]
この基本姿勢は、私がこの神話『ブルーポールズ』を書いたのと、まさに同じである。この『ブルーポールズ』は、この世界を讃えるために書いたのでも、人間たちを讃えるために書いたのでもない。そして、また、誰かに読んでもらうために書いたのでも、誰かに何かを訴えんがために書いたのでもない。ただただ、私自身のために、そして、私自身が書きたいがために書いたのである。
そして、『ブルーポールズ』と『エジプト人』はもう一つ共通点を持っている。それは、現代の人間が現代の感覚や価値観に基づいてこの作品を書いたのではなく、舞台となっているその世界の者が彼ら自身の感覚や価値観で書き記すというスタイルをとっている点である。それゆえ、現代の感覚や価値観から言えば、ひんしゅくを買ったり、顔を背けたりしたくなるようなことが、平然と当然のこととして、そしてしばしば正しいこととして描かれている。この点について、不快に思う方もいるかもしれないが、これはそういうスタイルで書かれているが故であると理解いただいてご容赦願いたい。ただ、この神話に含まれる感覚や価値観が現代において正しいとか適正であるとか許容されるなどとはさらさら考えていないということだけはあえて申し上げておくことにする。
[1] ミカ・ワルタリ『エジプト人』, 飯島淳秀訳(角川文庫, 1989年11月15日発行第6版).
(2018年12月)
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向殿充浩 / 神話『ブルーポールズ』