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神話『ブルーポールズ』

【第2巻】-                                                  

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 こうしてナユタは地上に降り立つこととなった。

 ナユタがマーシュ師の館を出ると、空には虹がかかり、天空に一本の道が開けた。ナユタはプシュパギリとともに戦車に乗り、城門で手を振るユビュやウダヤ師、マーシュ師をあとに、大空に羽ばたいた。まるで永遠の別れを告げるかのようにナユタは何度も大きく空を舞い、そしてついにかなたの地上を目指して飛んで行った。

「ナユタが行ってしまった。ユビュ、これからはそなたが我らの柱だ。」

 マーシュ師はそうぽつりとつぶやいた。

「でもナユタはきっとすぐに戻って来ます。地上の問題を解決し、地上に平和が確立されればすぐに戻ってくるでしょう。」

 そうユビュは言ったが、マーシュ師は首を横に振って答えた。

「いや、そうはなるまい。ナユタはきっとヨシュタを守るだろう。たしかに彼を完全に守り切れるのはナユタをおいて外にはおるまい。だが、平和はすぐには来ないだろう。」

「マーシュ様。」

 ユビュは驚きのまなざしでマーシュ師を見上げた。マーシュ師はナユタが去って行った虚空を見つめたままつぶやいた。

「ユビュ。悲しいことだが、我ら神々にあっても、物事のうちで思いどおりに進むことなどほんのわずかしかない。どこにも不確定な要素があり、しかも、目指すところの異なる無数の神と人間が入り乱れている世界ではないか。ナユタは地上で苦労するだろう。ヨシュタをして、地上に平和を築かせるには多大な労苦が伴うだろう。だが、悲しんでばかりはいられない。今日は物思いに沈んでいてもよいが、明日からは新たな戦いに備えねばならない。イムテーベとムチャリンダは必ずやってくる。」

 ウダヤ師はできるかぎりの笑顔を作って言った。

「マーシュ殿、我ら老神が安心して隠居できる日はまだまだ来ませんな。我らもまだまだ何かをなさねばなりませんな。」

 マーシュ師は深く何度もうなずいた。それを側で見ていたユビュには心に深く刻み込まれるものがあったに違いなかった。

 

 プシュパギリがナユタを伴って戻ってくると、シャルマは満面の笑みを浮かべて迎えた。

「まさか、あなた自身がやってくるとは夢にも思ってもいませんでした。」

 ナユタも久しぶりの再会を喜んだ。

「シャルマ、地上では苦労をかけるな。だが、この地上でのことは天空の戦い以上に重要だ。だからこそ、後をユビュに託してやって来たのだ。」

「分かりました。では早速、ヨシュタに会う手筈を整えましょう。それで、どういう身分、肩書きでいきますか?」

「実は、ウダヤ師に書いていただいた書状を持ってきた。軍略、武略に通じているということになっている。」

「そうですか。それは良い。では、私の軍略、武略の師ということにいたしましょう。」

 ナユタはシャルマ、プシュパギリから戦況を聞いて状況を把握すると、シャルマの軍略、武略の師として、プシュパギリとともにヨシュタの前に現れた。

 ナユタが進み出ると、ヨシュタが口を開いた。

「ナユタ殿、よく来てくださった。そなたのことはプシュパギリより詳しく聞いている。ウダヤ師の書状も受け取った。この危難のとき、ぜひ力を貸していただきたい。」

 ナユタは頭を下げて答えた。

「ありがとうございます。ここにはシャルマを助けるためやって参りました。レゲシュの勝利のため全力を尽くす所存です。ここに来る前、前線にて、両軍の動き、兵力、そして地形などじっくり見させていただきましたが、明らかにレゲシュに利があります。勝利への道は必ず開けましょう。」

 ヨシュタはややけげん気に聞いた。

「レゲシュに利があるとはうれしい話だが、実際には、兵力は互角。戦局は膠着している。なぜ、明らかに当方に利があると言えるのか?」

 ナユタは落ち着いて答えた。

「たしかに、兵力は均衡を保ち、戦線は膠着しているように見えます。しかし、状況は互角ではなく、明らかにレゲシュに二つの利があります。ひとつは、要衝トドラ渓谷を押さえていること、もう一つは、相手方の兵站の方がはるかに長く延びている点です。よって戦略としては、トドラ渓谷を堅く守るとともに、陽動部隊によって敵の兵站を撹乱し、機を見て決戦を行うのが上策でしょう。」

 ヨシュタはなるほどというようにうなずいたが、同意はしなかった。

「戦略的にその策が悪いとは思わない。だが、決戦には大きな犠牲が避けられないし、必ず勝利できると言い切れるものでもない。むしろ私が望んでいるのは、チベールを滅ぼすことではなく、戦禍を避け、平和共存する道を探ることなのだ。」

 この言葉を聞くと、ナユタは前言をあっさり覆してこう言った。

「王として懸命なお言葉です。そうであれば、停戦交渉を行うのが良いでしょう。幸い、現在の戦況は均衡を保っているように見えて実は我が軍に有利。強気の交渉が可能なはず。ただ、チベールをして停戦に傾けさせる策が必要です。私にいくばくかの軍を預けてくだされば、ボルシッパの野に釘付けとなっているチベール軍を苦しめ、停戦の機運を醸成してみせましょう。」

 アッガ将軍が口を挟んだ。

「たしかに、チベール軍を苦しめ、有利な停戦交渉に持ち込むというのは理に適っている。しかし、そんなにうまくチベールを苦しめることができるものか。敵は堅固な陣地を築いており、攪乱するのも容易ではない。下手なことをすれば犠牲も増え、むしろ停戦交渉に不利になるのではないか。」

 ナユタは落ち着いて答えた。

「さすがはアッガ将軍のお言葉。的を得たご指摘です。正面からただ戦いを挑むのであれば、将軍のおっしゃるとおり。それゆえ、堅固な守りを固めている敵に対しては、機動的な軍によって敵を誘い出してこれを叩きます。また、チベールの兵站は長いため、必ず弱点となる箇所があるはず。そこを突くのも有効かと思います。」

 アッガ将軍は唸りながら言った。

「たしかに、ごもっともかもしれぬ。しかし、そのような戦い方がうまくできるだろうか?」

 これにはナユタはゆとりの笑みを浮かべて言った。

「今の軍では無理でしょう。それゆえ、私にいくらかの軍を預けて頂ければ、それを鍛錬し、先に申したような策に適した部隊に仕上げて見せましょう。」

「良いだろう。ヨシュタ王の裁可があれば、同意しよう。」

 アッガ将軍の言葉に、ナユタが、

「ありがとうございます。」

と答えると、プシュパギリも付け加えて言った。

「現在、戦局は硬直し、敵も武力で解決できない状況に陥っております。我が国の経済への負担も少なくありませんが、チベールの被っている負担も並大抵ではありません。しかも、ボルシッパの野はチベールから遠く、その兵站の確保だけでも大きな負担となっているはず。それにバドゥラも本心から戦いを望んでおりますかどうか。交渉によってきっと道は開けましょう。」

 ヨシュタはこの言葉を聞くと、ナユタの提案に同意した。こうしてナユタは一軍を与えられ、停戦交渉はプシュパギリが行うこととなった。

 

 一方、ナユタがマーシュ師の館を離れたことは、ムチャリンダの城にもすぐに伝わった。イムテーベは、ムチャリンダに向かって進言した。

「既に、シャルマとプシュパギリが地上に去り、今また、ナユタがヨシュタの元に向かいました。マーシュの館にはか弱いユビュと老神のマーシュ、ウダヤしかおりません。ヴィクートやカーシャパが残っているとはいえ、ナユタ、シャルマ、プシュパギリがいない今こそ宇宙の形勢を再び逆転させる絶好の好機と言えましょう。」

 ムチャリンダもうなずいて言った。

「いいだろう。早速軍を出そう。こちらも、ウツ、ヤンバー、ルガルバンダなどの剛の者がいなくなったとはいえ、まだ、ギランダもいればバルカもいる。一気に押しかけよう。」

 こうして、ムチャリンダとイムテーベは急いで軍勢を整え、すさまじい勢いでマーシュ師の館に向かって進軍した。

「再びムチャリンダがやってくる。」

 その知らせに全宇宙が戦慄した。風雲急を告げるその事態に多くの神が顔を曇らせ、遠く宇宙の洞窟に隠遁する神も続出した。

 しかしユビュは毅然としていた。マーシュ師とウダヤ師を前に、ユビュはきっぱりと言った。

「予想されていたとおり、ムチャリンダがこちらに向かってきます。しかし、決して負けません。戦いの間どうか創造の火をよろしくお願いします。」

 ユビュはすぐさまカーシャパとヴィクートを呼び、作戦を練らせた。カーシャパは冷静に状況を分析し、籠城を進めて言った。

「あの戦い以降、再び今回のようなことがあることを想定し、このマーシュ師の館の防御を強化して参りました。前回の戦いでは、この館が籠城して戦うだけの堅牢さをもっていなかったが故に、野に出て戦いました。しかし、今回は違います。しかも、ナユタ、シャルマ、プシュパギリの面々もおりません。城の門を堅く閉ざし、籠城するのが賢明です。敵もヤンバー、ルガルバンダ、ウツが既になく、イムテーベとムチャリンダのみです。我々が門を閉ざせば、彼らとてこの城を攻略することはできないでしょう。そして、地上の問題が片付いてナユタたちが戻って来るのを待つのです。」

 しかし、ユビュは同意しなかった。

「カーシャパ、あなたが優れた戦略家であることは誰もが知っています。確かに、籠城すれば、より安全に勝利が得られるでしょう。しかし、宇宙の神々は今回のムチャリンダの進軍に震えおののき、不安のまなざしで事の成り行きを見つめています。我々が籠城して戦いが長引けば、創造を破壊することによって、ムチャリンダと和睦し、宇宙に平和を取り戻すべきという輩も続出するでしょう。そのようなことを許してはなりません。それゆえ、まずは野に出て戦おうではありませんか。万が一敗れた場合には止むを得ません。籠城しましょう。カーシャパ、どうか、野に出て戦うための作戦を練ってもらえないでしょうか。」

 カーシャパは食い下がった。

「ユビュ様の大いなる意気込みと、自らに課せられた責任を果たそうとする崇高な使命感には心打たれます。しかし、戦いは意気込みだけでできるものではありません。勢いのあるものにはこれを避け、勢いが収まるのを待つのが常道です。こう申し上げると気を悪くなさるかもしれませんが、かつてのヴァーサヴァの館での戦いのことを私は聞き及んでいます。今回と同じようにムチャリンダが攻め寄せた際、シュリーは籠城を勧めるバルマン師の言葉を聞き入れず、無謀にも野に出て決戦を挑み、無残な敗北を味わいました。今回もよく似た状況です。野戦で敗れたら籠城すればよいと思っていても、そう簡単にことが運ばないのが戦さの常。ヴァーサヴァの館での戦いが良い例です。」

「それはよく分かっています。でも、あのときとは力関係が違います。あのときは、ムチャリンダ側には、イムテーベ、ヤンバー、ルガルバンダなどそうそうたる武将が控え、ウツまでも加わっていました。それに対して、父ヴァーサヴァ側にはシュリーとバルマン師、それにライリーだけ。はっきり言って互角以下の戦いでした。でも、今は違います。敵はムチャリンダとイムテーベだけです。こちらにはナユタ、シャルマ、プシュパギリがいないとはいうものの、あなたとヴィクートがいます。正面から戦って負ける言われはないはずです。」

「しかし、城に籠もっていれば、決して敵は攻め落とせません。危険を冒すのはいかがなものかと思いますが。」

 そう言ってカーシャパは執拗に食い下がったが、ユビュの決意は揺るがなかった。

「カーシャパ、戦略としてのあなたの考えはまったく正しいでしょう。この戦いだけがすべてなら、私もあなたの言葉に従うでしょう。宇宙一と言われるあなたの戦略に疑義を挟む余地などありません。でも、宇宙のこの形勢の中で、籠城して長期戦にしてはならないのです。私たちがここで窮すれば、必ず地上にも悪い影響を与えます。ナユタも安心して地上に留まれないでしょう。今、この戦いで私たちに求められているのは、速やかに勝利を収め、ムチャリンダを再び追い返すことなのです。」

 ユビュの意志が固いことを見て取って、ヴィクートが口を挟んだ。

「カーシャパ、ユビュ様の言われる通りかもしれん。もし、我らが籠城すれば、簡単に攻め落とすことができないことは、ムチャリンダもイムテーベも分かっていよう。それでも攻めて来ているのは、仮に勝利をあげることができなくとも、ここで我々に籠城を強いることが彼らにとって有利と判断しているに相違あるまい。だとすれば、籠城することによってこの局地戦で最終的な勝利を得たとしても、大局的にはただ敵に利したことにしかならないかもしれん。カーシャパ、ここは打って出て、敵の思惑を粉砕すべきではなかろうか。」

 カーシャパはしばし虚空を睨んで考え込んでいたが、やがて意を決して言った。

「ユビュ様、分かりました。お言葉はまさに宇宙の王女にふさわしいお言葉。すぐにも決戦の戦略を練り、準備を進めることに致しましょう。最初は籠城を考えておりましたが、はっきり目が覚めた思いです。」

 数日後の満月の夜、ユビュは沐浴を済ませて神々の前に現れた。ユビュは、マーシュ師とウダヤ師から勝利の祈祷を受け、さらに、ナタラーヤ聖仙とヴィカルナ聖仙に祈りを捧げた。ユビュを大将軍に任じる儀式が荘厳のうちに執り行われ、ユビュは再び黄金の鎧兜を身につけた。兜の赤い羽根飾りが鮮やかだった。

 多くの神々は、ルガルバンダを打ち倒した時のユビュの出陣の様をまざまざと思い出し、ある者は歓呼の声を上げ、ある者は感涙の涙を流した。夜空を焦がすように煌々と燃える炎の中で、ユビュの毅然とした美しさがひときわ輝いた。

 次の朝、ユビュは出陣した。ユビュが野に出て布陣しているのを見たイムテーベはほくそ笑んだ。

「愚かな輩だ。てっきり城に籠っていると思っていたが、こうして野に出てくるとはな。城攻めに労力を要すると思っていたが、敵からわざわざ城を出て来てくれたのはもっけの幸い。ヴァーサヴァの館でのシュリーとまったく同じだな。女の考えることはこの程度のことよ。一気にもみつぶし、退路を断って、城になだれ込もう。」

 イムテーベはそう言って部下に細かな指示を飛ばし、全軍に号令をかけた。

 突撃が開始されると、前回の敗北を一気に取り戻そうとするムチャリンダ軍の強い意志がすさまじい勢いとなって押し寄せた。

 その先頭に立つのはバルカであった。バルカは華麗な鎧兜に身を固め、青銅の長槍を朝日にきらめかせながら戦車を駆けさせた。ギランダも負けていなかった。激しく檄を飛ばすギランダに鼓舞されてギランダ軍が敵陣に突っ込み、バルカ軍が、バルカの見事な采配のもとで攻勢を強めると、ユビュの軍はその勢いに押され、一部では戦列が突破された。

「踏みとどまれ。戦列を立て直し、ユビュ様を守るのだ。」

 そう叫ぶヴィクートの声も、軍の動きを必死で指揮するカーシャパの叫びも、荒々しいムチャリンダ軍の勢いに掻き消された。

 イムテーベは混乱するヴィクートやカーシャパの軍をギランダとバルカに任せ、自身は一気にユビュの本陣を目指した。城で見ていたウダヤ師とマーシュ師は不安を押さえ得なかった。自分たちの混乱する軍勢を横目に本陣を目指すイムテーベを見てヴィクートもカーシャパも激しく狼狽した。

「ユビュ、今日こそおまえの最期だ。シュリーと同じ運命が今日おまえを捉えるだろう。」

 イムテーベはそう叫びながら、ぐんぐん迫ってくる。

 しかしユビュは毅然としていた。黄金の鎧兜に身を固めたユビュは四頭立て戦車の上にすっくと立ち、イムテーベが迫ってくると、両手でマーダナを天にかざして叫んだ。

「ナタラーヤ聖仙、この戦いに宇宙の命運がかかっています。宇宙に正義と真理を普遍させるため、私はどこまでも戦い続けます。イムテーベには決して屈しません。このマーダナに力をお与え下さい。」

 その瞬間、高貴な赤と緑の光が大地と天空に激しく輝いた。その光でイムテーベ軍は目をくらまされ、軍勢の足が止まった。次の瞬間、ユビュの軍勢からは無数の矢が射かけられ、次々とイムテーベの軍勢を倒した。

 ユビュはゆっくりとマーダナを収めると、ブルーポールを右手にかざして全軍に合図した。潮目が変わった瞬間だった。

 ブルーポールの青い光を受けてユビュの軍が陣形を立て直して動き出すと、イムテーベの軍勢は劣勢に回り、軍団は分断された。ユビュの戦車が戦場を駆け巡り、ブルーポールの光が大地にゆらゆらと揺れた。

 カーシャパもヴィクートも驚嘆した。

「恐ろしいと言っていいまでの奇跡的な力が発露している。神を越える超越的な力が宿っているとしか思えない。」

 そして彼らも戦列を整え、再び攻撃にかかった。算を乱したムチャリンダ軍に対し、ユビュ、カーシャパ、ヴィクートの軍が次々に襲い掛かった。

 イムテーベは歯軋りし、

「あの小娘が。神器に頼って戦っているだけではないか。」

と吐き捨てるように言うと、自らもブルーポールを取り出した。

 ブルーポールをかざすイムテーベの動きもすさまじかった。ムチャリンダ軍はイムテーベの活躍で息を吹き返し、激しい戦闘があちこちで起こり、戦場ではもうもうと砂ぼこりが舞った。戦局は一進一退でいつはてるともない激闘が続いた。

 それを見てユビュは御者に言った。

「このままでは決着がつかない。ブルーポールをもつイムテーベに向かいなさい。」

 そう言ってユビュは戦車をイムテーベに向かわせた。ユビュがやって来るのに気づいたイムテーベはユビュの方に向きなおり、大声で叫んだ。

「ここはおまえのような小娘が来るところではない。鎧を脱いで城でおとなしくしていた方が身のためだ。シュリーのようになるだけだからな。」

 だがユビュはひるむこともなくブルーポールを構えて言った。

「ブルーポールは父ヴァーサヴァが高貴な創造の力を結集して打ち立てた神器です。創造を擁護する正義のためには力を奮いますが、邪悪な欲望のためには力を発揮しません。おまえが邪悪なやり方で奪い取ったブルーポールは、今日、私の手に戻るでしょう。」

 そう言い終わるやいなや、ユビュはブルーポールでイムテーベに打ちかかった。イムテーベは余裕でユビュのブルーポールをはねのけた。武術ではユビュはイムテーベの足元にも及ばなかった。だが、次の瞬間、「あっ。」と声を上げたのはユビュではなくイムテーベの方だった。ユビュのもつブルーポールが煌々とした輝きをいや増したのに対し、イムテーベのブルーポールは、年月を経た青銅のように輝きを失っていたからだった。

「もう一度打ちかけられたら、おれのブルーポールは死んでしまう。」

 そう悟ったイムテーベは顔色を変えた。ユビュは再びブルーポールを振り上げていた。イムテーベは必死の思いでユビュのブルーポールをかわし、ブルーポールを抱えて走り去った。

 ユビュの軍からは歓声があがった。

「イムテーベが逃げ出したぞ。敵は総崩れだ。一気に攻撃だ。」

 ユビュ軍は勢いを得て攻勢に出た。イムテーベ軍が崩れだしたのを見て、カーシャパ、ヴィクートを相手に奮戦していたムチャリンダもため息をついた。

「軍神イムテーベがブルーポールをもって出撃しても撥ね返されたとあっては、到底勝利はおぼつかない。たかが小娘と思っていたが、ユビュには神を越える絶対者の力が宿っているとしか思えない。」

 ムチャリンダ軍は散々に打ち破られた。ムチャリンダは全軍に退却を指示し、兵をまとめて引き上げていった。ユビュの軍勢からは、ユビュを称える勝鬨が高らかにこだました。

 城から見ていたマーシュ師は深く感嘆してウダヤ師に語りかけた。

「ブルーポールはもつ者の力に応じてその輝きを発するというがまさにそのとおりではないか。かつての戦いでは、ブルーポール対ブルーポールの戦いでイムテーベがユビュを窮地に追い込んだが、今回は逆だった。イムテーベのブルーポールは輝きを失い、ユビュのブルーポールはますます輝きを増した。」

 ウダヤ師も答えた。

「その通りですな。すべてはユビュの勇気の賜物。うら若くか弱い乙女にすぎなかったユビュが今はさっそうとして軍団を指揮し、先頭を切って戦っている。強い信念と正義のための献身的な心でイムテーベに立ち向かっていったユビュの勇気がブルーポールに最高の力に与え、イムテーベのブルーポールを打ち破った。ユビュは成長した。その心意気、その覚悟、その責任感と使命感、どれをとっても宇宙の王女にふさわしい。今回ユビュが籠城せずに野で戦うと言ったとき、血気にはやる勇み足にならねばよいがと案じたがまったくの取り越し苦労だった。」

「ほんとうにな。ナユタは万一を考えてサーチャバを残していったが、ユビュにはそれも不要だった。このことを一刻も早くナユタに知らせてやろう。ウジャスがいいだろう。」

 ウダヤ師も同意し、ウジャスが使者としてナユタの元へ派遣された。

 

 一方、地上では、一軍を与えられたナユタが、トドラ渓谷のレゲシュ側に広がるヴィンディヤの野で軍の閲兵を行っていた。

 ナユタは勇壮な鎧兜に身を固め、神のごとき威厳を伴って軍の前に現れた。ナユタが現れると軍の中にどよめきが起こった。いまだかつて、これほどまでに神々しい将軍の姿を目の当たりにしたことはなかったからだった。

 ナユタは閲兵が終わると、繰り返し実戦の訓練を行った。レゲシュの兵士たちはいまだかつて経験したことのない複雑な動きを要求された。しかし、レゲシュの兵士たちがその動きを飲み込んでくると、ナユタの軍はきわめて複雑な陣形変化をナユタの指揮のままにまるで水の流れのようにスムーズに行うことができるようになった。

 ナユタの率いる軍を見て、ナラム将軍は感嘆して言った。

「これであれば、敵を打ち破ることができる。」

 アッガ将軍もうなずいたが、ナユタは軽く笑みを浮かべて答えた。

「だが、戦いは水ものです。それにまずは、この軍に実戦を経験させねば。」

 そう語ると、ナユタは訓練の終わった兵を連れてトドラ渓谷から出撃した。ナユタ軍がボルシッパの野に出撃してくると、チベール軍はどよめき、すかさず応戦の軍が出てきた。チベール軍を指揮していたのは左将軍のジウスドゥラであった。

 ジウスドゥラはナユタ軍の三倍の軍勢で迎え撃ったが、ナユタは交戦前に陣形を複雑に動かしてジウスドゥラ軍を困惑させ、その隙をついてジウスドゥラ軍を切り崩した。戦果を上げるとナユタは深追いすることなく軍をまとめて自陣に引き下がった。それは決して大きな戦果ではなかったが、チベール軍が寡兵のナユタ軍に翻弄されたことだけは確かだった。

 ナユタは繰り返し出撃した。あるときは大きな出陣の合図とともに出撃し、また、あるときは夜陰にまぎれて密かに出撃した。堂々と出撃したときは、決して深手を負うことがないようにチベール軍を翻弄するだけで引き上げ、一方、密かに出撃したときには、ときには遠くまで出かけて兵站を撹乱した。

 この動きはチベール軍を悩ませた。兵站が長いだけ、常にいくつかの地点に守備の弱い部分が生じざるを得なかったからである。

 

 こうして、ナユタが後方撹乱に奔走している中、プシュパギリはチベールからの情報収集に務めた。プシュパギリがジャムシードと相談してこの役目のために目をつけたのが、マナフという男だった。背の低い小太りの男だったが、商売のために何度もチベールに行ったことがあり、また、レゲシュのごろつきのような輩にも顔が利く男だった。ある意味、ずるがしこい男でもあったが、先見の明があり、さまざまなことに目端が利く賢い男でもあり、また、信義にも厚かった。プシュパギリとジャムシードからこの話を聞くと、マナフは喜んで引き受けた。

「私のような小者に目をかけていただき、ありがたい限り。私には手足となって動く者たちが付いていますので、お二人のお役に立たせていただきます。彼らは、私の指示一つで火の中にでも水の中にでも飛び込んでゆきますからな。では、まず、ジャムシード様からいろいろ教えていただかねばなりません。間諜として彼らを闇雲にチベールに入り込ませても有益な情報に辿り着くために時間と労力を無駄にすることになりません。なんといっても、ジャムシード様はチベールの宮廷内部のことにも通じておられるはずですので。」

 マナフに問われて、ジャムシードはさまざまなことを教えた。特に重要だったのは、ルドラに近い者が誰で、ルドラのことを快く思わない者が誰かということであり、さらに、その彼らにどのようにすれば近づけるか、どのようにすれば彼らに関する情報を得られるかということだった。さらにマナフは、彼らの家に繋がっている商人や教師、祈祷師や楽師など伝手となり得るものも聞き出したのだった。

 マナフはそれらの情報を得ると、自分の息のかかったごろつき連中を集めて言った。

「さあ、仕事だ。たんまり金にありつけるぞ。これでうまい酒も飲めるし、若い女も抱けるぞ。」

 マナフは各自に金を渡してそれぞれの役目を伝え、さらに言い含めた。

「金はこれが全部じゃない。首尾良くやってきたら、これの何倍もの金を払うぞ。おれはこの仕事をとある方から請け負っている。ものすごい金持ちだ。だから、金に糸目は付けん。良い情報さえ取ってきたら、いくらでも金が入る。だから遠慮はいらん。つまらない情報じゃないかと縮こまる必要もない。小さな情報も実は重要な事柄に結びついていることが往々にしてあるからな。それと、ひとつ言っておくが、この金のなる仕事を持ってきたおれへの感謝だけは決して忘れるなよ。おれは裏切りだけは絶対に許さんからな。」

 そう言うと、マナフは連中を間諜として送り出した。彼らは、ある者は穀物商人や奴隷商人に化けて商人仲間からの情報を集め、またある者たちは、奇術師、占い師、蛇使いなどに化けて、チベールの街から様々な声を拾い集めた。また、マナフ自身も隣国の商人になりすまして、チベールのいくつかの貴族の家を訪ねて情報を集めたのだった。

 しばらくしてマナフが情報を集めてくると、プシュパギリは、ナユタ、シャルマ、ジャムシードと共に引見した。マナフは四人の前に現われると、大きく頭を下げ、へりくだって言った。

「これはこれは、レゲシュを支えるナユタ将軍、シャルマ将軍にお目にかかれるとはまたとない光栄。末永くお目にかけていただければと存じます。」

 簡単な挨拶を済ませると、さっそくプシュパギリが言った。

「チベールでは戦いが長期化していろいろ影響が出ているはずだが、実際のところはどうなんだ?」

「おっしゃるとおりでございます。チベールの街中ではこの戦いへの不平がさまざまなところで語られています。街中で男たちが集まっても、女たちが集まっても、決まって話題に出るのがモノの値段が上がっている話、市場にモノがない話で、最後には、小声で国やルドラへの不満が語られています。特に、レゲシュ産のオリーブ油が途絶えたことで油の価格は激しく高騰しておりますので。」

 マナフは実際に街で売られているものの価格をこと細かく説明し、それらが住民の生活を圧迫していることを語った。

「それで、宮殿の様子はどうなのだろう。」

 こう問いかけたシャルマに、マナフは説明した。

「宮殿が揺らいでいるというほどではないようです。貴族たちもいろいろ不満は抱えているようなのですが、王の権威は絶大なので表立っての批判は出ていないようです。ただ、近隣の国の中には、チベールの主力部隊がトドラ渓谷に行っているのをいいことに、国境の石を動かす試みまでやっている国もあるということですし、街の有力者の中には、公然とルドラへの不満を口にする者もいるようです。」

「貴族の中で、ルドラに心良からぬ思いを持っている者たちもいるはずだが、彼らはどうなのか?」

 ジャムシードの問いかけに、マナフは、

「まさに、そこです。」

と手を打ち鳴らし、さらに続けた。

「バドゥラ王の妹のユリアを嫁にもらっているので表立ってはルドラへの非難は難しいようですが、好戦的なルドラを排して平和裏にことを解決できないかと考えている者は少なくありません。ある商人について有力な貴族の家を訪ねた時、その貴族は、バドゥラ王を説き伏せて、王の権限で兵を引かせるべきと言うようなことを言っていました。」

「チベールも一枚岩ではないということだな。」

 そう口を挟んだナユタに、マナフが答えた。

「まことにその通りでございます。実に、この世界では信義は第二。第一は自分の利得ですので。めいめいが自分の利得を第一に考えて動き絡み合っているのがこの世界というもの。ですが、そこにこそ、つけ込む隙が生じるというものです。」

 この言葉は、ナユタがレゲシュにやって来て以来、実感しているところと一致するものだった。ナユタは、シャルマとプシュパギリの三神だけになると、ため息交じりに言った。

「これが人間たちの世界ということだな。」

 この言葉に、シャルマが答えて言った。

「ああ、その通りだ。人間の世界は神の世界とは違うからな。神の世界にも考え方や思想の違いによる争いや諍いはあるが、自らの権勢を広げるためだけの権謀術策はない。自らの欲望を満たすだけのための裏取引や密約もない。しかし、人間の世界では、そんなものは日常茶飯事だ。恫喝と甘言を組み合わせた調略が横行している。そして、誰もがそれを当然のこととし、それをうまくこなすものが賢い者、立派な者として見なされる世界だ。ムチャリンダの主張も分からなくもないと思えるときがあるくらいだ。」

 だが、ヨシュタだけは高潔な理想を持ち、それを推し進めようとしているはずなのだ。

 ナユタとシャルマはさらにチベールの情勢についてさらにさまざまな分析と考察を行ったが、頃合い良しと結論付けると、プシュパギリをチベールに派遣することにした。

 バドゥラは前線での混乱の報告が入っていただけに、レゲシュから停戦交渉の使者が来ると聞いて、その交渉に興味を示した。

 プシュパギリがチベールの宮殿にやってくると、バドゥラは謁見の間で自らプシュパギリを引見した。部屋の中には白檀の匂いが立ち込め、床には房飾りの付いた豪勢な絨毯が敷かれていた。バドゥラは玉座につき、父祖伝来の王笏を持っていた。鮮やかな赤色の縁取りの付いた紫の寛衣を纏い、線条細工の施された王冠をかぶり、なめし皮のように柔らかい帯を締め、靴紐には宝石がちりばめられていた。

 その顔には威厳があったが、同時に、暗く、疑い深く、脅迫的なまなざしもあった。飽くなき権勢欲と無類の警戒心、王座を守るためならいかなる残虐行為も辞さない無慈悲な人格。それがプシュパギリが直感的に感じ取った印象だった。

 だが、プシュパギリはそのことはおくびにも出さず、バドゥラの前に進み出て、型どおりの挨拶を行い、バドゥラに敬意を表した。バドゥラが口を開いた。

「レゲシュとは交戦状態にあるが、そのレゲシュからそなたはやってきた。停戦交渉のためと聞いておる。わしは何も自ら好んで戦さをしたいわけではない。ただ、いかなる条件で停戦をしようというのか、それはきっちり聞かねばならぬ。この国の為にならぬことは、王として認めるわけにはゆかぬからな。」

 プシュパギリは大きくうなずくと、落ち着いて答えた。

「おっしゃるとおりでございます。ただ、停戦のことを話す前に述べさせていただきたいことがございます。」

 いったいそれは何だ、という顔でバドゥラはプシュパギリを見つめた。その目には警戒心がありありと浮かんでいたが、プシュパギリは謁見の間全体を感嘆のまなざしで眺め回し、次のように語った。

「うわさには聞いておりましたが、立派な宮殿でございますな。バドゥラ王の玉座の周りには黄金が敷き詰められ、柱は金の刺繍で飾りつけられている。チベールの国力に改めて感嘆したします。また、チベールの町の大きさと美しさにも感嘆させられました。満々と水を湛えた濠の広さといい、街の四方を囲む城壁の高さといい、街路に並ぶ緑の棕櫚の見事さといい、これほどの街を見たことはございません。」

 バドゥラが警戒心を隠しながら満足そうにうなずくとプシュパギリは続けた。

「この周りの壁画、特に王の勇壮な戦いの場面を描いた壁画は素晴らしいものですな。貢物を捧げて歩く異邦人たち列、チベールの華麗な戦士たちの列、戦利品の数々。見ているだけで、チベールの底知れぬ力を教え諭される思いです。しばらくこの宮殿に留まらせていただき、この国の栄華の片鱗でも味合わせていただきたいものです。」

「それは良いが、そなたは停戦交渉のために来たのではないのか?」

 そう問うバドゥラにプシュパギリは笑って答えた。

「良いのです。急いで交渉しても埒があくわけもない。交渉が簡単にまとまるくらいなら、とっくにまとまっておりましょう。しばらくこの国の繁栄を体感させていただき、その上で交渉を行おうではありませんか。」

 そう言うと、プシュパギリは壁際に飾ってある竪琴の前に歩み寄って言った。

「この竪琴もすばらしい代物ですな。レゲシュでは見たこともない。」

 その竪琴には美しい螺鈿細工が施され、貝殻のはめ込まれた飾り板には、動物たちが竪琴を弾いたり踊ったりする姿が描かれていた。

 プシュパギリがその飾り板を眺め回していると、自慢の品を褒められたバドゥラは上機嫌に、

「ではしばらくこの宮殿に留まっていただくとするかな。」

と言い、

「そなたの日々が幸あるように。」

と型通りの言葉を付け加えたのだった。この宮殿に留まるというプシュパギリに探りを入れ、情報を引き出すのも今後の駆け引きを考えると悪くないとバドゥラが判断したことは間違いなかった。

 こうしてプシュパギリはチベールに留まることとなった。チベールの側では、チベールの国力を見せ付けることが得策と考え、毎日のようにプシュパギリを宴会に招いた。

 もっとも、プシュパギリに対しては厳しい監視の目が光っており、その行動は制限されていた。ただ、許されている中にいる限り、プシュパギリは自由だった。

 毎日、美しい若い女たちが身の回りの世話をしてくれ、朝起きると肌触りの良い仕立て下ろしの美しい肌着とその上から纏うゆったりした外衣が用意されてる。プシュパギリは、午前中は、チベールの役人たちと情報交換、意見交換などを行い、午後になると、つややかな足に見事なサンダルを結び、毎日のように上機嫌で宴会に出かけた。

 宴会では麗しい美姫が黄金の杯に霊酒を注ぎ、艶かしい若い乙女が情感たっぷりの音楽に合わせて舞い踊った。

 そんな宴席で、プシュパギリは王家の人々を知ることができた。王妃のマカリアはときどきバドゥラとともに同席したし、王位継承者である長男のシュッタルナ皇太子とその妻マルニガル、次男のジャンダヤが同席することもあった。シュッタルナ皇太子は精悍な武人といった雰囲気で、プシュパギリが弓の話をしたときには、ずいぶん興味津々に聞き入っていたものだった。一方の次男のジャンダヤは見るからに色男風情といった感じで、別の日に宮廷内で若い娘を何人も連れ歩いている姿を見かけたこともあった。

 またバドゥラ王の三人の娘たちが宴席に同席したこともあった。長女のシーラは長女らしい落ち着いた雰囲気をもっており、大人の女性の魅力が漂っていた。そろそろ適齢期という感じだった。次女のセレーネと三女のアズラーはそろそろ思春期を抜けて若い乙女の色香が漂い始めているといった感じであったが、円満な一家という様子が漂っていた。

 そんな宴席で、ある時、同席したバドゥラが見事な竜の飾りのついた黄金製の混酒器を運ばせてきた。

「これは、昨年、我が国のルドラ将軍が征服した国が貢物としてよこしたものだが、なかなかよくできている。二つよこしてきたので、一つは神殿に奉納してあるがな。」

 バドゥラは上機嫌に語り、この混酒器から美姫に酒を注がせた。強い香りを含んだ酒で、バドゥラは自慢げに言った。

「この酒は我が国の特産で、レゲシュにはあるまいて。」

 プシュパギリも調子を合わせた。

「まことに結構な酒でございますな。酔いつぶれるまで飲み続けたいくらいです。」

 すると、豊かな肢体を薄絹に包んだ美女たちが、人の心を惹きつけずにはおれない微笑みを湛えてプシュパギリの両側に座った。彼女たちの体から漂う馥郁たる香りも心地よく、プシュパギリはチベールの音楽や女たちの舞いを素直に楽しみ、さらにさまざまな四方山話でバドゥラやチベールの面々を面白がらせた。

 プシュパギリはしばしば言った。

「この戦時にありながらこれだけの料理が運ばれてくるとはさすがでございますな。この栄華は末永く保たねばなりませんな。このように皆が繁栄を続けてゆくのはすばらしいことですな。」

 そう言って、プシュパギリは上機嫌にチベールの生活を楽しみ、上等な料理に舌鼓を打ち、酒盃を傾け、美女たちと浴場で戯れた。

 そんなある日、一人の美姫がプシュパギリの元にやってきた。

「夜のお世話をさせていただくために参りました。フリュネと申します。」

 フリュネはラクシュミー女神の化身かとも思える美女で、その表情は月のように輝き、胸にはラピス・ラズリの美しい飾玉が光っていた。平素の身の回りの世話をしてくれる女たちや浴場で相手をしてくれる女たちより格段に美しく、気品もあり、しかも妖艶でもあった。煽情的な切れ長の大きな眼、腰まで垂らした漆黒の髪、むっちりと盛り上がった乳房とほっそりとした肢体がいやでも男心をそそらさずにはおかなかった。

 最初の夜、フリュネは恥じらいを見せながら胸元を緩めてプシュパギリを誘った。プシュパギリが豊満な乳房に触れてゆっくりなで回すと、フリュネはプシュパギリに抱きつき、唇を合わせた。舌が触れ合い性感が高まってくると、二人は裸になってベッドに倒れ込み、プシュパギリはフリュネの上に体を重ねて唇を合わせ、舌を絡ませ続けた。プシュパギリが乳房をもみ、乳首を指でつまみ、口をつけて吸い上げると、フリュネの口から喘ぎ声が漏れた。

「あそこもお願いします。」

 フリュネがそうささやいて足を軽く広げるとプシュパギリは彼女の濡れた唇を貪った。

「ああ、いく。いく。プシュパギリ様。入れて。入れてください。早く欲しいんです。」

 その声に誘われるように、プシュパギリが硬直化した陰棒を彼女の秘部に滑り込ませ、前後に激しく動かすとフリュネは大きくのけぞり、悲鳴にも似たよがり声を上げた。

「もう駄目。駄目です。もう行きそうです。」

 陰唇の中に暖かく包み込まれた陰棒を動かす度に生まれるこの上ない快感にプシュパギリも我慢の限界だった。プシュパギリが彼女の中に射精すると、彼女はいっそう大きな声を上げて喘ぎ、そして果てた。

 その夜から、プシュパギリは激しい欲情の虜となって日夜この美女を抱き、その体を貪った。だが、この女が、プシュパギリの動向や考えを探らせるために送り込まれたことは間違いなかった。

 プシュパギリはフリュネの前でしばしば口走った。

「両国が戦うのは愚かなことだ。どちらの利にもならぬ。」

「チベールがほんの少し譲歩してくれれば、停戦はまとまるのだがな。」

 バドゥラの信用を得るための策だった。

 そんな日々の中、プシュパギリはチベールの街のはずれにあるイナンナ神殿を訪れることができた。イナンナは、愛と美、戦いと豊穣の女神であり、チベールの守護神として崇拝されていた。さらに、この神殿には市内のどの建物よりも遥かに高い塔があり、プシュパギリがぜひ一度訪れたいと思っていた場所だった。

 出迎えてくれたのは、ふさふさした髭が顔を覆い、真っ黒な大きな目を光らせた司祭だった。物腰は重々しく威厳があったが、その表情の奥には心を許していない相手への警戒心も潜んでいた。

 神殿の中で特に目立つ塔は彩色煉瓦で美しく輝く七層の塔であり、塔の外側には塔に登るためのらせん状の通路がつけられていた。

「それにしても立派な塔ですな。私も広く世界を見聞きしてきたと自負しておりますが、こんな高い塔はこれまで一度も目にしたことがありません。」

 感嘆したまなざしで塔を見上げながらプシュパギリがそう言うと、司祭は顔をほころばせながら言った。

「バドゥラ王のおかげですよ。イナンナ女神のために世界一高い塔を建てよと王が命じられて、金も人も惜しみなくつぎ込んでいただきましたので。設計士も、技術的にこれより高い塔を建てることは不可能と断言いたしましたので、世界でこれより高い塔はあろうはずはないと信じております。」

 そう言うと、司祭は塔の入り口に案内し、そこに嵌め込んである碑文を示しながら言った。

「この塔はナブー神に捧げられており、ナブーの塔と呼ばれています。ナブー神は知恵と書の神であり、その知力でイナンナ女神を支えています。そしてこの塔はバドゥラ王の命により、尊いラピスラズリのレンガをふんだんに使って仕上げているのですよ。」

「なるほど。由緒と言い、美しさと言い、高さと言い、まさに噂に違わぬ塔ですね。」

 プシュパギリがそう言うと、祭司は顔をほころばせて言った。

「なんと言っても、我らの神は世界一の神ですからな。ともかく、まずは、この塔に登ると致しましょう。」

 そう言うと、司祭は先に立って塔に登るための通路を登っていった。登るにつれて街全体が広く見渡せるようになり、頂上に着くと、街の外の遠い平原まで見渡すことができた。街には家や通路が密集しており、人々が行き交う様も眺められた。少し遠いところにバドゥラ王の立派な宮殿も見て取れた。

「立派な街ですな。レゲシュも立派だが、チベールはさらに立派だ。レゲシュにはこんな高い塔はありませんし。」

 そう言ってチベールを称えるプシュパギリに、司祭は機嫌良く塔から見える街の説明をしてくれた。

 塔を降りると、司祭は塔のそばにある立派な青銅製の門構えのあるイナンナ神殿に案内してくれた。

 神殿の入り口の両側には、イナンナ女神に捧げられたという石碑が何本も並んでいた。

「歴代の王が寄進したものなんですよ。」

 石碑には歴代の王の業績が誇らしげに書かれていた。

「イナンナ女神のめでし者、偉大なる王マンダルは強力なる軍隊で獅子のように進軍し、獅子が前足で攻撃するように都市ハッシュワを打ち負かした。彼はそこを埃の中に埋め、ハッシュワの財宝でチベールを満たした。銀と金はとどまることがなかった。そして、その神々の像をイナンナ女神のところに持って上がった。」

「偉大なる王イルタサドゥムは、大河を渡って西へと進み、余の軍隊がそれに続いた。余はクシュシャラの軍を破り、クシュシャラに火を放ち、天上のイナンナ女神に煙を立ち上らせた。そして、クシュシャラの王を荷車の前に繋いだ。」

 司祭はそれぞれの石碑に刻まれた碑文や歴代の王についても説明してくれた。

 神殿の中に入ると、そこにはイナンナ女神をはじめ、さまざまな神が祀られていた。神殿の内部を見学し、さらに宝蔵室に入ると、すばらしい奉納品が並んでいるのが一目で見て取れた。

「ほんとうにすばらしい。うわさに違わぬたいした神殿でございますな。チベールの繁栄はこの神々が支えておられるのでしょうな。」

 大きくうなずきながらそう言うプシュパギリに、司祭は言った。

「さようでございます。この神殿もあの塔もみなチベール王のおかげですよ。歴代の王たちはこの神殿に膨大な貢物を奉納されておられますからな。王の力がこの神殿を立派にし、そしてその立派な神殿に住まう神々が王に恩寵を与え、王国を支えるというわけです。イナンナ女神は王権を授与する神でもありますので。」

 司祭はそう言うと宝蔵室の奉納品をひとつづつ説明してくれた。そこにはさまざまな奉納品があった。純金製の獅子像、銀製の甕、金と銀の合金でできた聖水盤、金製の盾や槍などが並んでおり、バドゥラが自慢していた竜の飾りのついた黄金製の混酒器もあった。

「この黄金の混酒器はバドゥラ王がたいそう自慢しておられました。」

 プシュパギリがそう言うと、司祭は我が意を得たりという表情で語った。

「そうでしょうとも。こんな見事な混酒器はそうはありませんからな。しかも、これはルドラ将軍が昨年成敗した国が平身低頭我が国に服属してきた際に捧げた貢ぎ物です。チベールにとっても誇らしい品と言えます。」

 さらに司祭は、かつてのチベール王が裁きの時に腰掛けていたという金箔の貼られた見事な王座も見せてくれた。四本の脚にはライオンが彫られ、背もたれには、王の栄光を神が嘉する絵が描かれていた。また、部屋のいちばん奥まったところには等身大に近い黄金の半裸女神像があった。恥じらいの表情を浮かべ、右手で軽く股間を隠しているその像はバドゥラ王のたいへんなお気に入りの像だと司祭が説明してくれた。

 司祭からの一通りの案内が終わると、プシュパギリはこの神殿に奉納するために持参してきた宝物を運ばせた。その宝物は黄金の牡牛像で、牛の額や角にはダイヤが散りばめていた。黄金の牡牛像を見ると司祭は大いに感謝して言った。

「あなたの将来にもチベールの神々は大いに意をもたれることでございましょう。」

 プシュパギリはさらに、司祭にも黄金の指輪やネックレス、翡翠の印章石や装飾品など多くの礼物を渡した。

「私は、レゲシュの人間ですが、チベールの繁栄も心より願っております。両国の繁栄こそが今の私のなによりの心からの願いなのです。この私の真摯な思いを、ぜひ、バドゥラ王にもお伝えいただければと思います。」

 司祭はおおいに喜び、お礼として、この神殿の印の入った上等のイナンナ女神の護符をプシュパギリに渡してくれた。

 その護符をありがたく受け取って、司祭と供に神殿の出口に向かって歩いていると、年の頃十五六と見える若い乙女二人が巫女に付き添われて歩き過ぎるのが目にとまった。プシュパギリにはそれまで聞いていたことから思い当たることがあったのだが、そんなことはおくびにも出さず、司祭に聞いた。

「彼女たちは?この神殿の者ではないように見受けましたが。」

 司祭は笑顔で答えた。

「ええ、そうです。お聞きになったことはありませんか?今夜、彼女たちはこのイナンナの神殿で聖なる初夜を迎えるのですよ。」

「聖なる初夜。」

「ええ。イナンナ女神は愛と子孫繁栄を司る女神でもあります。この国では、イナンナ女神の元で聖なる初夜を迎えることなく嫁に行くことはできません。ですから、すべての少女が必ずこの聖なる初夜をこの神殿で過ごすのです。そして、もちろんのことですが、その少女は処女でなくてはなりません。たいていは、娘が初潮を迎えてしばらくすると、親が聖なる初夜に送り込むのです。」

「なるほど。それで、その聖なる初夜とはどんなものなのですか?」

「彼女たちはこれからあの塔の一番上にある部屋にそれぞれ入ります。この部屋はお見せすることができませんが、その部屋には黄金のイナンナ女神像が安置されており、その前には金箔の貼られたベッドが置かれています。但し、彼女たちがそれを見ることはありません。なぜなら、彼女たちには目隠しが施されます。これは相手の男が誰であるかが分からないようにするためです。」

「それで、その男というのは?」

「相手の男は私どもが市民の中から選びます。チベールでは、聖なる初夜の相手に選ばれるということはある意味、名誉なことでしてね。もっとも、あまりおおっぴらに公言したり吹聴したりはできませんが。ともかく少女たちは愛と美の女神であるイナンナの加護のもとで女としての聖なる喜びを知り、大人の女となるのです。」

 司祭はそのように説明してくれたが、帰ってから召使いの女に聞くと、男性が選んでもらうためには多額の賄賂が必要ということであった。その女は部屋の掃除や洗濯をする初老の女で、何度か顔をあわせるうちに口を聞くようになったのだが、あけすけにものを言うのでプシュパギリも気安く相手にするようになった女だった。彼女は忙しそうにしていた手を休めるとプシュパギリの方を向いて言った。

「だからね。金持ち連中はしょっちゅう聖なる夜に行ってるんだよ。まあ、やつらにとっては、金さえ出せば、娼婦の女とは違う初々しい処女を抱けるってわけだからね。そして、司祭様方はがっぽり儲かるというわけさ。それに、女の方もそれを結婚のときの持参金にできるしね。」

「おまえも聖なる夜に行ったのかい?」

 プシュパギリがそう聞くと女は大きく笑って言った。

「もちろんよ。はるか昔のことですけどね。旦那様には想像できないかもしれませんけど、これでも娘時代はそれなりに器量好しと言われてたんですよ。体もすらりとしてましたしね。もっとも、旦那様のそばのあの女ほどの色気はなかったでしょうけど。それに、今ではすっかり、色気も何にもない太ったしなびた婆さんになってしまいましたけどね。」

「そんなに卑下することはないじゃないか。おまえはよく気がきくし、ともかく世話になっている。おれにとってはありがたい存在だ。」

 女はちょっと首をすくめたが、一息つくと続けて言った。

「私のときは、近所の女友達と一緒に行ったんですけど、なにせまったくの未経験だから、怖くて緊張してね。お友達の手をずっと握りしめてました。その子の手も汗でべっとりしていたのをよく覚えています。それから一人にさせられて目隠しされて部屋に入れられて。そのうち男が入ってきて私を抱いたのよ。でも、今の夫と比べたら、その時の男の方がずっと上手だった。きっと、聖なる夜にも何回も行ったりして女の扱いがよく分かっていたんでしょうね。胸の揉み方、乳首の吸い方だってとっても上手だったし。お腹や太腿を丁寧になめてくれるのも良かったわ。男のあれが私のところに入ってくるとき、あそこが濡れてるのが自分でも分かりましたよ。初めてだったからちょっとだけ痛かったけど、あとはとても良い気持ちになりました。旦那はちょっと触ってすぐ入れて、すぐ出しちゃうから、それに比べれば、あの夜は素敵でしたよ。それに、後でびっくりするくらいたくさんのお金をもらいました。きっと、どこかの金持ちだったんでしょうね。今私がもらっている給金の一年分くらいでしたよ。」

「じゃあ、それが結婚のときの持参金になったわけかい。」

「ええ、そのお金のおかげで、胸を張ってお嫁に行くことができました。貧乏人にとっては、ある意味、ありがたい仕組みです。町で身を売っても、一回でそんな金は稼げないし、身を持ち崩したとかあばずれとか蔑まれますからね。でも、聖なる夜なら、同じように身を売っても、名誉が傷つくことはないし、しかも大金が稼げますのでね。但し、一回きりですけど。」

「だけど、子供ができて困ったことになったりはしないのかい?」

「ええ、それは大丈夫。司祭様方は、女の月のものとの関係でいつなら子供ができないとはっきり分かってらっしゃいますのでね。」

「それにしても聖なる神殿がそんなことをしてるんだな。」

 女は鼻で笑って言った。

「聖なると言ったって、結局は、人間の欲が優るのよ。司祭様方はこれで金儲けができて、裕福な暮らしができる。街の金のある男たちは、いたいけな処女の少女を抱くことができるってわけですからね。そもそもイナンナ女神は王権を守る豊穣の女神と言われてるけど、愛欲と戦いの神でもあるんですよ。言い伝えでは、男と交わることが好きで、夫のドゥムジ以外に恋人が百二十神いたそうで、休むことなく次々に男神と交わって疲れることがなかったそうですよ。だから、街の娼婦たちはイナンナをいつも拝んでいるのさ。」

「なるほどな。それじゃあ、おれも金を払えば行けるのか?」

 プシュパギリがそう言うと、女は手を振って笑った。

「あんたは駄目だよ。よそ者だからね。一応、これはイナンナ女神に通じる聖なる秘儀ということになってるんだから、あそこに行けるのはこの街の者だけなんだよ。それに、そもそも、あんたには王から賜った美女のフリュネがいるじゃないか。」

 そう言うと、女はついでにという感じで、ルドラが征服した周辺国での結婚に関する風習についても聞かせてくれた。

「ある国ではね、毎年一回、嫁入りの年頃の娘を広場に集めて、男たちが取り囲むんだそうですよ。そして、まず、一番器量の良い娘から競りが始まる。」

「娘を競りに掛けるのか。」

「ええ、そうですよ。そして、一番高値を付けた男がその娘を連れて行く。そうやって順番に娘に値がついてゆんです。でも、器量の良くない女には金を出してその娘をもらおうという者がいなくなる。そうするとどうなると思います?」

「いや、ちょっと分からないね。」

「今度は男が金をもらってその娘をもらうという競りが始まるわけですよ。そして、その娘は、一番少額でその娘を引き取ろうという男のものになるというわけです。庶民階級の男たちは美人なんて求めないで、金をもらって醜い女を手に入れるのが普通のようですよ。」

「なるほどね。しかし、どうして、そんな風習ができたのかね。」

「さあ、そこまでは知りませんが、でも、器量の良い女のために支払われた金が、不器量な女をもらい受ける男に支払われるわけで、ある意味、器量の良い娘が器量の悪い娘に持参金を持たせてやるようなことになってるわけですよ。まあ、賢いかもしれませんね。」

「なるほど。しかし、勝手に娘を自分の選んだ相手に嫁がせることはできないのかい。」

「ええ、できないみたいです。だから、どうしてもその相手に嫁がせたければ、その相手に競り落とさせるしかないんですよ。」

「なかなか難しいものだな。」

 プシュパギリがそう言うと、女はあっけらかんと笑った。

「難しくなんてないですよ。男と女は惹かれ合うように神様が作ってますからね。男は女を乳繰って、あそこに自分のものを突っ込めば喜びが得られるでしょう?女もですけど。簡単なことですよ。さあ、今日は女たちにお風呂に入れてもらう日ですよ。そろそろ時間。裸になって若い女と思う存分楽しんでらっしゃい。私はここで掃除や洗濯の片付けをやっておきますから。」

 彼女はプシュパギリを部屋から送り出すと、これからプシュパギリの世話をする若い女のひとりをつかまえて囁いた。

「旦那様は今日、外で神殿の処女のことを聞いてきて、今し方はそれに類する話をしたから、きっと今日はいつも以上だよ。しっかり相手をおしよ。」

「ええ、そうするわ。ご心配なく。」

「まあ、おまえさん方も楽しんでるんだろうけどね。」

「ありがとう。ともかく、今日は楽しみね。」

 軽く明るい調子でそう言うと、彼女は弾むようにプシュパギリの後を追った。

 プシュパギリが浴場に行くと既に二人の若い女が待っており、さらにもう一人がやって来た。彼女たちはさっそくプシュパギリに服を脱がし、自分たちも裸になった。浴場で女たちはいつも通りプシュパギリの体を丁寧に洗ったが、先ほど初老の女から話を聞いた女はプシュパギリの股間に手を伸ばし、石鹸のついた男根をやさしく掴んで軽くしごいた。男根がすぐに勃起するのを見ると、女は笑顔をプシュパギリに向けた。

「あら、もう。これが欲しがってるんですね。」

 亀頭を指でつんつんしながらそう言うと、女は股間の石鹸を洗い流し、プシュパギリの男根を頬張り、舌と唇で舐め回した。女たちは代わる代わるプシュパギリの股間のものを口にし、残る二人はプシュパギリに体を寄せて、唇を合わせたり、乳房や股間を自ら愛撫したり、プシュパギリに愛撫されたりした。女たちの行為はいつも以上に濃厚で大胆だった。

 女たちはプシュパギリを仰向けに寝かせると、馬乗りになって代わる代わるプシュパギリの勃起した陰茎を自らの女陰の中に導いた。彼女たちは陰部を嵌めたままで自らの乳房を揉みつつ腰を振って体を上下させ、快感を感じる度に艶めかしい喘ぎ声を上げた。女たちは、何度も、

「もう駄目。行きそうです。」

と言って体をくねらせてたりのけぞらせたりして身もだえたが、プシュパギリはその度に、

「まだ駄目だ。」

と言って、自らの陰棒を抜き、次の女に移るのだった。

 

 そんな日々がしばらく続いた後、プシュパギリはバドゥラの前に進み出て言った。

「この宮殿に留まらせていただき、チベールの繁栄をとくと見させていただきました。たいへんにすばらしい国であることがよく分かりました。ただ、この繁栄を保ち続ける策をお持ちなのかどうか、私はここに留まっている間考え続けましたが、その策は見えてきませんでした。」

 この思いがけない言葉に、バドゥラはやや咎めるように言った。

「それはどういうことか?このチベールは繁栄の道を歩み続けているはずであるが。」

「この国の繁栄の策というのは、常に国を膨張させ続けようという策ではありませんか?」

 プシュパギリはそう言ってバドゥラのまなざしを鋭く覗き込み、さらに続けた。

「古今東西、戦いによって栄華を築き、さらに拡大を目指して戦いに明け暮れた国で栄華を持続できた国がただの一つとしてないのをご存知でしょうか?」

 バドゥラが黙っていると、プシュパギリはさらに言った。

「私はレゲシュに仕える前、広く諸国を遍歴し、さまざまな都市と国の栄枯盛衰について学んで参りました。ときには自らの目でそれを目の当たりにしたこともあります。その結論は、戦いに依拠し、常に国を大きくしようとし続ける国は必ず破れるということです。なぜだかお分かりになりますか?」

 バドゥラが考え込んでいると、プシュパギリはきっぱりと言った。

「まず、第一に明確に言えることは、敵国に対する勝利は新たな敵を生み出すということです。」

「それはどういうことか。」

「敵国の向こうには、さらに別の敵国があるからです。その別の敵国は、貴国との間に別の国がある間は、むしろ、その国を敵と見做し、ある意味では、貴国とは友好的でありえるでしょう。しかし、その国がなくなれば、その別の敵国は貴国と国境を接することになり、必然的に、その国との新たな争いが誘起されざるを得ないからです。そもそも、」

 そう言って、プシュパギリは言葉を切った。バドゥラが考え込み、プシュパギリの次の言葉に真剣に耳を傾けようとしているのを確認して、プシュパギリは続けた。

「そもそも、戦いを軸に国の成長を考えるのは最初は良いのです。しかし、国が大きくなるにつれて、軍が覆うべき面積が増え、軍の弱点となる断点が鼠算式に増えてゆきます。そしてまた、軍と行政の能力の観点から、国が覆うことのできる面積には限りがあるのです。そのため、光輝に満ちた領土の拡大は必然的に軍の増強を引き起こさざるを得ず、その負担は民衆の肩にのしかかり、民衆の生活の破綻はやがて無言の抵抗へと還元されるのです。国が拡大政策に立脚し続けると、必ず破断点が生じ、しかも、先に申しましたように、新たな敵国が貴国の前に立ちはだかる。だから、貴国は軍事への負担を増大させ続けねばならない。軍事だけで国の成長を図るなら、国は必ず破れます。これが天地の道理なのです。」

 バドゥラは真剣に聞いた。

「それに対するそなたの策はあるのか?」

 プシュパギリは

「もちろん」

と答えた。

「軍によって国を拡充する政策をある時点で転換することです。すなわち、適正な規模の国土を保ち、近隣諸国と平和共存するのです。実際、今のチベールとレゲシュはその地点に差し掛かっています。両国が恒久の平和を取り交わせば、この宮殿の栄華は永劫に続きましょう。この国から脅威は去り、軍は敵を侵略するための攻撃軍ではなく、平和を維持するための治安軍となりましょう。それはこの国から危険を取り除き、安全な繁栄を約束するものなのです。」

 この言葉に対し、群臣の一人が反論した。

「だが、このたびの戦いは、レゲシュがトドラ渓谷からわが軍を追い出し、トドラ渓谷を封鎖したために起こっている。われらとしては平和的にことを解決したいとしても、レゲシュから挑戦を受けている以上、受けて立つしかないではないか?」

 プシュパギリは答えた。

「おそらく幾多の誤解や行き違いがありましょう。あまりいちいち弁解していてもその弁解がまた新たな誤解や疑念を呼び、決して建設的とはなりますまい。ただ、我が軍がトドラ渓谷に進出したのは決して貴国の領土を侵略するためのものでないことだけは申し上げねばなりません。ただただ、わが軍がトドラ渓谷周辺の群盗どもを排除したときに、貴国がトドラ渓谷を閉ざしたため、我が国が必要とする通商の安全を確保するためトドラ渓谷に進出しただけのもの。よって、商業の安全さえ確保できれば、トドラ渓谷からは速やかに兵を引きましょう。」

 最後の言葉はバドゥラを喜ばせた。ここのところのプシュパギリとの会話の中で、現状の栄華維持をより強く願う気分になっていたバドゥラはこう答えた。

「わが軍も好んで軍を進めたわけではない。できるだけ早く平和な状態に戻そうではないか。」

「ぜひそういたしましょう。そこでひとつ提案させていただきたいのですが、今回、ただの停戦交渉ではなく、恒久的な平和を維持するための平和条約の締結をしたいと考えております。実際、チベールとレゲシュは長年にわたって争いを続け、多くの血を流してきました。しかし、それによって何が得られたでしょう。両国にとってただただ損失があっただけではありますまいか。両国とも領土的にこれ以上膨張し続けるべきでない段階に来ているのです。むしろ、ここで過去を清算し、平和条約を締結することによって、両国の未来永劫の繁栄の礎を築くことができるのではないでしょうか。そうすれば、子孫代々、末代までの栄華が約されたも同然となりましょう。」

 バドゥラはこの言葉に同意した。チベールに留まり、時間をかけてバドゥラをはじめとする王族や貴族たちとの信頼関係を築いてきたプシュパギリの策が功を奏したのだった。

 次の日から、事務レベルの折衝が開始された。交渉は順調に進んだ。

 交渉が進むにつれ、交渉の内容は前線にいるルドラの耳に入るところとなったが、ルドラは目を吊り上げて怒り、軍の指揮をジウスドゥラに任せると、チベールに駆けつけ、バドゥラに面会を求めた。

「これはどういうことですか。」

と気色ばむルドラに、バドゥラは鷹揚として答えた。

「前線で苦労しているそなたに無用な心配をかけまいと思ってのことだ。他意はない。だがともかく、レゲシュと恒久的な平和条約を結ぶというのはたいへん良いことではないか。わが国の将来の発展、繁栄も約束される。おまえはすぐれた武人だ。それはよく承知している。だが、おまえは優れた武人であるがゆえに、力をもってすべてを解決しようとしがちだ。政を行い、国を治めるためにはそれだけでは不十分と古来より言われている。大切なのは人の和、人の心だ。心をなくした王は結局滅びるしかない。我が国が小国で、レゲシュが今にも我が国を併呑しようとしておるなら、わしもおまえの言に耳を貸そう。しかし、我が国はおまえの努力で大国となり、強い兵ももっている。決してレゲシュにひけを取るまい。そしてそのことをヨシュタも知っておろう。それゆえ、ヨシュタとて我らを軽んじることはできず、心を割って話し合えば、我が国にとっても決して悪いようにはなるまい。」

 しかし、ルドラはきっぱりと答えた。

「そんなことはありません。敵方がそのような提案を持ち出してくるのには理由があるのです。それは敵方にとっては、それが繁栄への道だからです。それに丸め込まれてはなりません。もちろん、わたしも平和条約の締結それ自身が悪いとは言いません。問題はその内容です。聞くところによると、敵方のプシュパギリはたいそう交渉上手だとか。敵の交渉術に乗せられ、不利な条件での条約になりはしないか、それが心配なのです。」

 しかし、すっかりプシュパギリとの平和条約の気分に浸っていたバドゥラは耳を傾けなかった。

「今回レゲシュがチベールに割譲すると言っている地域はレゲシュにとってはさしたる意味を持たぬ地域であろうが、我が国にとっては新たな交易路を切り開くための戦略的な拠点となりうる。軍事的にも重要な拠点であり、また、将来の勢力拡大の起点にもなりうる地域だ。交渉については、大臣たちが責任をもって行っている。それに自分にとって不都合とだけ言い張ってみても交渉としてまとまりはしない。そもそもこのような交渉をせざるを得ないのもそなたがトドラ渓谷を打ち破れないからではないか。そればかりか、レゲシュ軍にしばしば兵站を撹乱され、当方はボルシッパの野に大軍を張り付けているだけで国庫にとっては極めて大きな負担となっている。それ自身が国を傾けかねない。」

 この言葉にルドラは引き下がるしかなかった。

 彼はバドゥラのもとを去ると、ひとりこぶしを握り締めてつぶやいた。

「文官たちは保身と今の栄華を守ることしか頭にないのだ。」

 そう吐き捨てるとルドラは前線に戻っていった。

 

 停戦交渉は着々と進んだ。プシュパギリは巧みに交渉をリードした。プシュパギリが特にこだわったのは、トドラ渓谷をレゲシュが管理すること、そして、レゲシュ及びチベールの商人が関税なしに自由にチベール領内及びレゲシュ領内を通過できることであった。

 プシュパギリは、バドゥラをはじめ宮廷の面々に次のように説得した。

「トドラ渓谷をレゲシュが管理いたしますが、それはただ不法な徒党を抑えるため。駐屯の兵力は百名以下といたします。これによって両国の平和が醸成されるのです。また、レゲシュ商人とチベール商人に対する関税をなくすことによってレゲシュ商人のチベールでの活動、チベール商人のレゲシュでの活動が活発になります。チベールにおけるレゲシュ商人の宿泊や飲食あるいは商売そのものによってチベールが得る利益もまた膨大なものとなりましょう。これはチベールの繁栄にとってもまことに大きな効果があるといえます。そして同様の利益をチベールの商人及びレゲシュが享受できる仕組みなのです。」

 チベールの群臣のあるものはプシュパギリの考えに同調し、また、あるものは、現在の軍事状況を考え、かつ、軍と経済への負担を考え、プシュパギリの申し出を止むなしと受け入れる空気であった。

 そのころ、ルドラは前線でしきりとこの交渉について頭を悩ませ、ジウスドゥラに吐き捨てて言った。

「このままではいかん。このままでは、レゲシュはただ繁栄し、チベールとの差が開くばかりだ。」

「しかし、戦局も膠着し、我らがそれを打破することもできない中、交渉をまとめるほかないのでは。」

「いや、平和が持続することはない。」

 そうルドラは断言した。

「強大な二国が境界を接し、しかも両国がともに繁栄するということは古今東西ありえたためしがない。平和共存など絵に描いた幻想でしかない。近攻遠交というではないか。必ず、両国は衝突する。」

「だとしたら、そのときのための布石を打ってはいかが。」

 このジウスドゥラの進言に基づいて考えたルドラは、前線から一つの提案をよこした。それはヨシュタの妻クマールの妹ウルヴァーシーとバドゥラの次男ジャンダヤの婚姻であった。

 バドゥラが王妃のマカリアに考えを尋ねると、マカリアはルドラの妻ユリアを呼んで言った。

「ルドラは勇猛苛烈な武人と思っていましたが、ずいぶん狡猾な策も弄するのね。王も私もこの婚姻は悪くないと思っているのですが、ルドラからは何か聞いていますか?」

「いえ、おばさま。ルドラからは何も。あの人は軍務や政治のことは私にはほとんど言わないので。」

「そうですか。ともかく、私としては、ジャンダヤを臣下の娘と結婚させるよりずっと良いと思っているのです。そんなことをすると、その嫁の家の者たちが宮廷で大きな顔をするようになりますからね。」

 ユリアは大きくうなずいて言った。

「その通りですね。それにチベールとの婚姻は和平にも役立つでしょう。いざというときには人質になりますから。」

 その通りという狡そうな顔を見せてマカリアは言った。

「先のナソス王の娘で、王妃の妹がいるとなれば、レゲシュもゆめゆめこのチベール相手に戦いを起こすこともできないでしょうからね。それに、ジャンダヤも若い娘相手に浮き名ばかり流しているのも困ったものだと思っていましたから、そろそろ身を固めると良いでしょうし。」

「聞くところによると、ウルヴァーシーはレゲシュでも右に出る者のない絶世の美女だとか。それならジャンダヤも首ったけになるかもしれませんね。」

 ウルヴァーシーとジャンダヤの婚姻についてチベールの宮廷が同意すると、チベールからの提案としてすぐにレゲシュ側に伝えられた。プシュパギリはこれを受ける意を固め、ヨシュタの元を訪れると、次のように提案した。

「すでにご存知かと思いますが、先方はウルヴァーシー様とバドゥラの次男ジャンダヤとの婚姻を提案してきております。これについては、ここレゲシュにおいてもさまざまな異論が喚起されていることも承知しております。しかし、考えますに、これは我が方にとっても悪い話ではないと思われます。たしかに、チベールがこの様な提案をしてきたのは、人質をとることを意図しておりましょう。実際、短い目で見れば人質をとられている面も否定できないでしょう。しかし、長い目で見れば、このこと自体がわが国とチベールとの恒久的な平和を担保できるものに変じます。ウルヴァーシー様とそのお生みになる子供を取り巻く勢力は、チベールの中で重要な親レゲシュ勢力となり、チベール内の反レゲシュ勢力を抑えるために有効に機能しましょう。また、今回の交渉の局面だけを考えてみましても、この婚姻は我が方に有利に働きましょう。今回の交渉ではさまざまな条件で厳しいせめぎ合いをしています。しかし、この婚姻は先方の提案であるため、これを当方が譲歩して合意した形にすることにより、他の条件では当方に有利な形で条約を結ぶことが可能となります。このように考えますと、この話はレゲシュにとってたいへん実利の大きなものであるということができます。ですから、最初はこの話に難色を示しつつ、最後は譲歩してこの話を受けることで他の部分ではチベールに譲歩させるべく交渉したいと思いますが、いかがでございましょうか?」

 これに対して、ヨシュタはしばらく考え込んだが、次のように言った。

「いいだろう。そなたの言うように、たいへん良い話に思える。この話を進めよう。」

 こうしてウルヴァーシーとジャンダヤの婚姻にはヨシュタの同意が得られたが、ヨシュタがこう答えたのには別の大きな理由があった。それはウルヴァーシーがヨシュタに寄せる想いをひしひしと感じ、また、自分もウルヴァーシーに強く惹かれていたため、この婚姻はその思いにけりをつける良い機会と考えたためであった。

 ナソス王の次女ウルヴァーシーは、レゲシュでもたぐいまれなる美女であった。ヨシュタに嫁いだ姉のクマールが美貌に欠け、愛想もなく、女性としての魅力に乏しかったのに対し、ウルヴァーシーは才気と美貌に溢れ、男の心をとりこにせずにはいない魅力に溢れていた。

 そんな彼女に心を寄せる男性は少なくなかったが、彼女がただただ心をときめかせていた相手は、実はヨシュタであった。ほんの小さな少女であった頃から常にヨシュタはウルヴァーシーにとってやさしく頼もしい兄のような存在であり、憧れの存在であり、そして初恋の相手であった。しかし、ヨシュタの結婚相手として決まったのは、彼女ではなく、姉のクマールであった。このことは彼女を深く落胆させたが、しかし、その後もヨシュタへの思いは断ち切れなかった。

「私の方がずっと素敵なのに。私の方がずっとヨシュタを幸せにできるのに。」

 そういう心の中の呟きが止むことはなかった。

 一方のヨシュタの方もナソス王に望まれてクマールと結婚し、それがゆえにレゲシュの王になったとはいうものの、冷淡な性格でかわいげのないクマールに対して心はとうの昔に冷めていた。だが、ウルヴァーシーへの思いは断ち切らなければならなかった。その意味でも今回の縁談は良い機会かもしれなかった。

 こうして、ウルヴァーシーとチベールの王子ジャンダヤとの婚礼の準備が進む中、ルドラはもうひとつの提案を行った。それは両者の友好関係を固めるためバドゥラとヨシュタの会見を行おうというものであった。これも両者の合意事項となった。

 会見についてヨシュタは素直に歓迎したが、シャルマは慎重だった。

「よく考えねばなりません。バドゥラは謀略や陰謀に長けた人物とは思えませんが、問題は、悪知恵をもった者たちがバドゥラの後ろに控えているというということです。将軍ルドラは頭の切れる人物で油断できません。彼は軍略に長けているだけでなく、政略やあらゆる陰謀に通じています。自分たちの利になることなら、どのような卑劣なことでもやりかねないでしょう。万全の準備を整え、あらゆる危難を想定して万全の対策を立てておかねばなりません。背後にどのような陰謀が潜んでいるものか分かりませんから。」

 そう言うと、シャルマは慎重に準備を進めた。屈強の兵士たちをさらに訓練し、ヨシュタの回りを固めされることにした。さらにあらゆる策謀や危急の状況にも対応できるように手筈を整えた。

 

 実際、ルドラはこの会見を利用してヨシュタを暗殺する準備を進めていた。ルドラはひそかに陣を離れると、天界の北方の山の中に住んでいるレヴァルハンという妖艶な女神を訪ねた。

 レヴァルハンは巨大な釜を持っており、その釜で英知と霊感を調合する神であり、同時に交霊術の魔術を行う魔女でもあった。そして、その釜から得られる魔酒こそがレヴァルハンの若さと美貌の源泉と言われ、彼女は妖艶な魅力で次々に男神を虜にしてきた魔性の女神でもあった。

 ルドラが訪ねたとき、レヴァルハンは大きな釜を一億四千四百万年火にかけて攪拌し続けて魔酒を調合し、占星術の書に従った祈りを捧げ終わったところだった。

 ルドラはやってくると、彼女に親しく挨拶した。

「どうだい。調合はうまくいったかい。おまえさんの魔酒はいつも霊験あらたからしいからな。」

 レヴァルハンは涼やかな笑いを浮かべて応えた。

「お久しぶりね。地上もいろいろ騒がしいようだけど、それにしてもちょうどいいところに来てくれたわ。今、魔酒が出来上がったとこなんだけど、魔術書によれば、できれば男の精力を加えるようにって書いてあるのよ。」

 ルドラは笑って答えた。

「そうかい。おれのでよければかまわないがね。」

「そう。じゃ、精子をもらえる?ついでなんだけど、あたしも久しく男と交わってないんで、たまには男が欲しいのよ。人間の男を誘っても、あそこに入れる前にみんな射精してしまうし、あたしの裸を見ただけで出してしまった男もたくさんいたわ。だけど、昔、あんたが奉じてるっていうサヴィトリ神は私を抱いてずいぶん気持ちよくさせてもらったものだわ。だから、あんたもきっとあたしを喜ばせてくれるわね。」

 レヴァルハンはもう服を脱ぎ始め、形の良い乳房を両の手で支えながら言った。

「あたしの中に精液を一滴、この釜の中に精液を三滴注いでくれる?」

「分かった。ところで、実はひとつ欲しいものがあるんだ。人間には決して見破られることのない毒をもらいたくてね。」

「それなら、おやすい御用よ。この釜で作られている魔酒の最初の一杯は霊験あらたかな飲み物だけど、残りは毒でしかないのよ。神にとってはただの水だけど、人間が口にすれば数日後に確実に命を落とすわ。好きなだけもっていっていいよ。」

 ルドラが裸になると、その陰棒は既に激しく勃起し、反り返っていた。ルドラはレヴァルハンの体を抱き寄せると、左手で豊満な乳房を揉みしだき、右手で自らの股間のものをしごいた。ルドラがレヴァルハンの乳房の先端の乳首を強く吸って舐め回すと、レヴァルハンは表情を歪めて艶めかしい喘ぎ声を上げた。

「ああ、いいわ。もっと、もっとよ。」

 快感で表情を歪め、身をくねらせるレヴァルハンの股間にルドラは手を伸ばし、ぬめっている奥処の内側の秘肉をまさぐった。

「ああ、いい。いいわ。はやく、はやく私のあそこに男のものを突っ込んで。ああ、もうがまんできない。」

 そう喘いで、レヴァルハンはいっそう甲高い喘ぎ声を上げ、その悶える姿と喘ぐ表情がルドラをさらに興奮させた。ルドラは自らの男根を女の陰部に思い切りねじ込んだ。ねっとりと濡れた女陰に男根はするりと入り、それを前後に動かす度に走る快感はたまらなかった。

 ルドラはうめいた。

「おれが地上で結婚しているユリアのあそこよりはるかに気持ちいいな。」

 息を弾ませるレヴァルハンは切れ切れの声で言った。

「当然よ。私が男にあげることのできる快楽は人間の女とは全然違うのよ。」

 興奮して女陰に深く入り込んだルドラは我慢できる限界を超え、女の深膀に精液を一滴漏らし、さらに大釜の中に三滴漏らした。すると大釜はさらに煮えたぎり、最初の魔酒が釜から溢れ出した。

 しかし、レヴァルハンはルドラと交わった快楽に浸っていたため、その霊験あらたかな最初の一杯を受けることができず、それは大地に浸み込んでしまった。レヴァルハンは驚き、そして落胆して言った。

「こんな大切なときに男との快楽におぼれた私がおろかだった。残っているのは毒だけよ。ルドラ、好きなだけもっていっていいわよ。でも、魔酒の醸造に失敗し、この一億四千四百万年を無駄にしたつけは払ってもらうわ。あんたは人間との戦いのもっとも大切なとき、神として優越性を失うわ。」

 ルドラはレヴァルハンの呪いを受けたが、ともかくも暗殺のための毒を携えて戻り、ヨシュタとバドゥラの会見でヨシュタを毒殺する手はずを整えたのだった。

 

 いよいよヨシュタとバドゥラの会見がボルシッパの野の只中で行われることとなった。

 会見に先立って、シャルマは入念に準備を行い、ナユタとプシュパギリに語った。

「政略をよく知るものは、身に迫る危険を未然に避けねばならないと言います。たとえ森が火事になっても穴の中の動物が身を守れるように、火から逃れる術を知っていなくてはなりません。」

 そう語るシャルマは万全の手配について説明し、ナユタに対しては、特にルドラから決して目を離さないように依頼したのだった。

 ヨシュタがナユタらを伴って会見場に入るとバドゥラは既に来ており、立ち上がってなごやかな表情で語りかけた。

「おお、ヨシュタ殿か。よく来てくださった。うわさには聞いておったが、立派な王になられたな。」

「ありがとうございます。」

 そう言ってヨシュタが頭を下げると、バドゥラはヨシュタに席を勧めた。

 二人が座に着くと、バドゥラが改めて語りかけた。

「先のナソス王との間には不幸な戦さもあったが、お互い水に流そうではないか。たしかに両国の間に積年の諍いがあるとは言え、貴公とわしの間には本来なんの恨みもないはず。これからは手を携えてともに未来と繁栄を分かち合おうではないか。」

 ヨシュタも年配者であるバドゥラに敬意を表して言った。

「ありがとうございます。近年小さな諍いがあったとはいうものの大きな戦いには至りませんでした。そのお陰で商売は繁盛し、人々は平和に暮らし、多くの民が平和のありがたみを噛みしめていました。我々が手を携えて平和を守ることこそ両国の発展を支えるもの。最近、つまらぬうわさから双方が兵を動かし、民の生活を脅かす事態になっていること、残念であると同時にまことに申し訳なく思っております。今回、こうしてやって参りましたのも、双方の誤解を解き、再び両国が平和共存する道を築きたいからです。」

「おお、よくぞ言ってくださった。それはわしも同じ気持ちだ。子孫代々まで受け継がれる平和を貴公とわしとで築き上げようではではないか。」

 会見は友好的に進んだ。出兵した双方の兵を引くこと、そしてそれに伴ういくつかの妥協点が双方の高官から報告され、合意が得られた。

 さらにヨシュタの妻の妹ウルヴァーシー王女とバドゥラの次男ジャンダヤ王子の婚姻が確認され、日取りが取り決められた。

 バドゥラもヨシュタも満足だった。

 バドゥラはレゲシュから割譲された地域を手に入れることによって、レゲシュ以外の国への新たな勢力拡大の道を開くことができた。一方、ヨシュタは実質的な不利益を被ることなく平和を維持できたのだった。

 バドゥラは小声でルドラに囁いた。

「どうだ、これが外交というものだ。相手はすっかり満足している。前にも言ったが、今回我が国がレゲシュから得た土地は、今後の戦略拠点となろう。まさに、我が国発展の生命線となる地域だ。必要とあらば、他国を征服するための橋頭堡となりうる地域だからな。」

 ルドラはうなずきつつも小声で返した。

「たしかに、そのとおりと存じます。ただ、それで十分かどうか?」

 こうして会見は無事に終わったが、ルドラは会見場を出ると、ひとりこぶしを握り締めて、後からついてきたジウスドゥラに言った。

「レゲシュを倒さぬ限り、わが国の覇権もありえぬし、我が国の恒久的な安泰もありえない。割譲してくれた地域を起点に勢力を拡大したとて、レゲシュとの力関係は逆転しない。」

 ジウスドゥラはなだめるように言った。

「ルドラ殿。しかし、これで良かったのかもしれません。たしかに我が国は相次ぐ戦いによって繁栄してきましたが、いつまでもそれだけで良いわけではないはず。これだけ国も大きくなり、民も栄え、これ以上、危険を冒して他国と事を構えるより、他国と協調して平和を保つことこそ、民のため、王のため、そして我々のためではないでしょうか。」

「ジウスドゥラ。真の賢者は、未来に迫り来る危険がいまだ萌芽の段階であらかじめ察知し、備えるものだ。それに対して、愚かな者は危険が眼前に迫って来て初めて慌てふためき、狼狽し、愚策を練る。たしかに、我が国は強国となり、平和を維持しているように見えるかもしれん。だが、隣国レゲシュは日の出の勢いで勢力を拡大している。今はまだ良いが、このまま放っておけば、我が国にとってまちがいなく危険な存在となるということが分からぬか。危険の芽は早めに摘んでおかねばならぬ。」

「しかし、レゲシュのヨシュタ王は、今回の会見でも分かりましたが、人間は温和、正義を重んじ、平和を愛する方とお見受けしましたが。」

「たしかに、ヨシュタは見所のある奴かもしれん。しかし、奴を取り巻く重臣たちは己の欲望によって新たな領土と権勢を求め続ける。今後いつまでもヨシュタが彼らを押さえ切れると考えるのは、楽観し過ぎというものだ。」

 そう言うとルドラは、ジウスドゥラを残してひとり、宴会の料理の準備をしている天幕へと足を運んだ。ヨシュタを毒殺するための手順の最終確認を行うためだった。

 一方、会見場では宴会の準備が進む中、シャルマがナユタに小声でささやいた。

「万事順調に進んでいますね。いろいろと心配しましたが、取り越し苦労だったのかもしれません。」

「そうだな。だが、油断は禁物。バドゥラはどうやら心底ヨシュタとの和睦を望んでいるようだが、ルドラはそれを望んではいまい。また、両国の利害関係も非常に微妙なだけに、ちょっとしたきっかけから感情のもつれが起こり、会談が決裂にならないとも限らない。」

「そうですね。そういった意味では、この後の宴会も心配ですね。」

 宴会の準備が整って皆が座に着くと、まず、両国の永久の和平を誓うため、一同が祈祷を行い、次いで、生贄の獣を切り裂いて串に刺し、粗挽の小麦粉を振りかけ、薪の上に載せて焼いた。老祭司がその肉にきらきらと輝く新酒を振りかける。ぱっと赤い炎が上がり、香ばしい香りがあたりを包んだ。

 肉が焼きあがると美姫たちがそれを参会者に配り、同時にそれぞれの杯に新酒を注いだ。一同が杯を掲げてバドゥラ王とヨシュタ王を称え、一気に飲み干して肉を食べ終わると、いよいよ酒宴だった。

 次々に料理が運ばれ、美姫が甘美な霊酒を注いで回り、音楽座の一団はなまめかしい音楽を奏で、その音楽にあわせて美姫たちが舞い踊った。

 宴たけなわになり、音楽や踊りで打ち解けた頃、ルドラが手配した毒料理が運ばれてきた。そのとき、ルドラの目が異様に光った。誰も気づかなかったが、しかし、ナユタはそれを見逃さなかった。

 美姫たちは一番立派な赤い皿に載った料理をヨシュタの前に置き、同様に立派な青い皿に載った料理をバドゥラの前に置いた。さらに、参会者たちの前にも同じ料理が並べられた。

 ナユタはそっと隣のヨシュタにささやいた。

「理由は聞かず、私の皿とお取り替え下さい。誰かに聞かれたら、私の皿に盛られた肉の方が脂身が少ないので取り替えた。今日は脂身を食べ過ぎて胃にもたれる、とでもおっしゃって下さい。」

 ヨシュタが自分の皿をナユタに渡すと、ナユタは自分の皿をヨシュタに渡し、何食わぬ顔で毒の入った料理を平らげた。

 これを見たルドラは「ちっ。」と舌打ちすると、席をはずして奥へ引っ込んだ。

 ナユタはルドラが席をはずしたのを見ると、隣のシャルマにささやいた。

「ここを頼む。ルドラはまだ何かを企んでいる。もし何か動きがあったら、なにはともあれ、ヨシュタを守ってレゲシュに帰れ。」

 シャルマが小さくうなずくとナユタは席をはずした。宴会場の外に出てルドラを見つけると、ルドラは左手に長剣を握っていた。ナユタは後ろから声をかけた。

「ルドラ。」

 はっとして振り向いて驚くルドラに、ナユタは厳しい口調で言った。

「その剣はなんだ。おまえはその剣で剣舞を舞い、隙を見つけてヨシュタを殺そうとしているのだろう。」

 ルドラは平然を装い、笑いながら答えた。

「ナユタ、まったく心外な言葉だな。おれはただ、このめでたい宴席を祝うための剣舞を舞おうとしているだけだ。言いがかりはやめてもらいたいものだ。」

 しかし、ナユタは厳しい表情を崩さず、さらに詰問した。

「おれが先ほどの料理に仕込まれたものを見抜けなかったとでも思っているのか。だが、おまえだとて神の端くれ。神が人間を倒してはならないという掟があることくらい知っていよう。」

 ここまで問い詰められて、ルドラは開き直った。

「ナユタ。言っておくが、ヨシュタは人間じゃない。あいつはウダヤのおかげで生きながらえた半神半人だ。おれが倒すのになんの問題もない。」

「それは詭弁というやつだ。だがな、ともかく、ヨシュタは殺させない。」

 むっとするルドラにナユタは続けた。

「それにそもそもおまえに剣を持って宴会場に行かせはしない。」

「それでも行くと言ったらどうする。」

「どうしても行きたければ、おれを倒してから行くんだな。」

 そう言うとナユタは身構えた。ルドラも銀の鋲を打った柄に手をかけた。緊張が走った。だが、身構えたままナユタが言葉を続けた。

「おまえはヨシュタを倒しさえすれば、おまえの望むようにことが展開すると思っているのだろう。だが、ヨシュタはシャルマが守る。そして、次の瞬間には、プシュパギリが手配している配下の者たちがバドゥラを倒しているだろう。その結果、チベールは壊滅し、レゲシュの覇権が成り、おまえやムチャリンダのもくろみは水泡に帰すだろう。」

 ルドラは唇を噛み、ナユタを睨みつけたがどうすることもできなかった。しかたなくルドラは捨て台詞を吐いただけだった。

「おまえもおれを倒すことはできないだろう。いかにおまえが武術の達神だとしてもおれを一撃で倒すことはできない。そうなれば、騒ぎを聞きつけて人が集まってきて、おまえが剣でおれを倒そうとしていることが露見し、その結果、ヨシュタが望む和平は水泡に帰すだろうからな。」

 ルドラは部下を呼んで剣を預け、宴会に戻っていった。ナユタも宴会に戻った。

 宴会場に戻ると、ルドラは胸の内の憤怒を押し殺して両の取っ手のついた盃をもって立ち上がり、シャルマの前に差し出した。美姫がその中に芳香を放つ酒をなみなみと注ぎ込む。シャルマは微笑を浮かべて盃を受け取ると、一気に飲み干した。

 ルドラはシャルマを称えて言った。

「さすがは天下にシャルマありと言われた勇者。国士無双とはこのことだ。お互い、両国の平和の礎となろうではないか。」

 シャルマも応えて、

「ルドラ殿、我らの契りは両国の契りとなる。」

と言い、金の柄のついたみごとな短剣を贈った。

「これはすばらしい短剣だ。ありがたくいただく。」

 ルドラはそう言うと、琥珀のちりばめられた自分の短剣をシャルマに贈った。

 宴は日の暮れるまで続き、参加した一同は、美姫たちが酌をして回った甘美な酒にも、たっぷりの料理にも、麗しい音楽と美姫たちの舞いにも、すっかり満ち足りた思いであった。

 こうして、宴会は何事もなくにこやかに終わり、両国の平和条約が締結されたのだった。

 

 両国が兵を引くと、ナユタにとっては、レゲシュでのいくらか平穏な日々が始まった。軍の強化に力を尽くし、シャルマやプシュパギリと相談を繰り返し、ときには、アッガ将軍をはじめとする武人たちと意見を交わしたり、ヨシュタやラシード、ジャムシードらに会ったりする日々だった。

 そのナユタには宮殿にほど近い場所に立派な邸宅が与えられた。大きな庭に何本もの大きな棕櫚の木が並んでおり、さまざまな色の鯉の泳ぐ池もあった。立派な構えの青銅製の門の両側には夜ともなれば灯火が赤々と燃え、中ではたくさんの使用人や奴隷たちが仕えていた。

 使用人の長である侍従長としてこの邸宅を取り仕切ったのはマナフだった。チベールへの諜報活動の功が認められてナユタの侍従長に抜擢されたというのがもっぱらの噂であったが、ともかく抜け目のない賢い男だった。

 ナユタの元にやってくると、マナフはへりくだって言った。

「改めまして今日よりお世話になります。レゲシュを支えるナユタ将軍にお仕えすることになり、私にとりましては誠に光栄でございます。この邸宅はナユタ様にふさわしい邸宅として準備させていただきました。ナユタ様がお召しになる豪勢な衣服やナユタ様にふさわしい装飾品も多数取りそろえております。召使いたちもよく教育しておりますので、何なりとお申し付け下さい。」

 ナユタは軽く笑って言った。

「おれはそんなものを求めているわけじゃない。おれはただの武人。まあ、言ってみれば、ここは仮の宿に過ぎない。」

 これを聞くと、マナフはきっとして真顔になり、たしなめるような口調で言った。

「旦那様は武人としては並び立つ者がないほどのお方と聞いておりますが、物事の本質を申し上げるなら、武は政の一手段に過ぎませぬ。そして、政の世界で大事なのは、人の知らない情報と人を威圧し感嘆させる威容。人は、その人の外観や雰囲気で動かされるのです。それなくして権勢は維持できません。政の世界で培った権勢が、いざというとき、ナユタ様の武の力となるのです。」

 たしかにこの言葉には納得せざるを得なかった。

 この邸宅もまさに人を感嘆させ威圧することが必要というマナフの言葉を体現していた。壁には大きな壁画が描かれ、列柱には彫刻が施され、美しい花々の咲く庭には何体もの彫像が立っていた。

 庭に面した壁画の一枚にはイルカに乗った青年を描いた絵があった。ナユタがこの絵のことを訊ねると、マナフは、

「アリオンのことはご存じありませんか?」

と言った。ナユタが知らないと言うと、マナフは続けた。

「そうですか。アリオンの伝説はそれなりに有名でしてね。ただ、ここから遥か遠い海の方の世界の話ですので、ナユタ様がご存じないのも無理はありません。アリオンは当時比肩するものがないと言われた竪琴弾きの歌い手でしてね。庭に竪琴弾きの像がありますでしょう。あれがアリオンです。そのアリオンは故郷から離れた遠い地に行って大金を稼いだのですが、故郷に帰るために同郷人の船を傭って出航したところ、船員たちがアリオンを亡きものにして金を奪おうとしたのです。船員たちに脅されて、アリオンは金はやるから命だけは助けてくれと頼んだのですが、船員たちは聞き入れず、陸地で埋葬して欲しければここで命を断て、さもなくば海に飛び込めと迫ったのです。どうしようもなくなったアリオンは覚悟を決め、そうと決まったなら仕方ないが、せめて最後に、完全なる衣装で海の舳先で歌うのを見逃してくれ、そうしたら海に飛び込むと約束したのです。船員たちは世界最高の歌を聴いてみたいという思いもあってその申し出に同意しました。アリオンは美しい衣装を身につけて竪琴を手に取り、船の舳先で歌い、歌い終わるとそのまま海中に身を投じたのです。船はそのまま走り去ったのですが、アリオンの方は一頭のイルカが彼を拾い上げ、故郷の岬まで運んでくれたのです。陸に上がったアリオンは王の所に行ってことの次第を申し立てたのですが、王はそれを信じず、アリオンを宮廷内に留めました。そのうち、その船が港に入ってくると、王は船員たちを呼んで、アリオンがどうしているか知らないかと訊ねたのです。彼らは、アリオンは向こうで元気にしており、船が出航するときにも見送ってくれたと答えたのですが、その時、アリオンが海に飛び込んだときと同じ姿で彼らの前に現われたのです。彼らは仰天しましたが、もはやどんな言い訳もできず、観念したのです。」

「なるほどな。他の壁画や彫像にもみな物語や意味があるのか?」

「ええ、さようでございます。また、追々、ご説明差し上げます。」

 そう言って、マナフは含み笑いを見せた。マナフはとにかく物知りで、知恵もあったが、ナユタには忠実で、主人思いで機転が利き、さまざまな差配も適確で信頼できる男だった。ただ、部下や奴隷には傲慢な姿勢で偉そうに命令するのも常だった。奴隷を足蹴にしたり、鞭でひっぱたくことも多かったが、ナユタがそのことについて少し苦言を呈すると、マナフは平然と返してきた。

「そうしないとやつらは働きませんのでね。怠惰なことときたら、馬や牛以下ですよ。」

 そんな使用人や奴隷たちは見ていて情けなくなるほど身をかがめて仕えていた。彼らはいつもマナフの杖を恐れ、ナユタの前では両手を膝のあたりに差し伸べてひれ伏した。ある日、召使いの女が食事時にナユタの服の上に酒をこぼしたときには、地面に頭をこすりつけて言ったものだった。

「私はご主人様の豚めにございます。どのような罰でもお与えください。どんなご命令にも従います。」

 それがこの世界の現実だった。ある意味、これが、ヴァーサヴァの始めた創造の結果ということなのだ。そういえば、ナユタがこの地に来た当初、ヴィンディヤの野でプシュパギリも言っていたものだった。

「ここは神々の世界とは違います。ですから、よく心しておいてください。人間の兵士ときたら、鞭なしには戦おうとしないし、そのくせ、戦利品や巷の女たちには目がない。神々のように使命のために戦うとかそんなものはあったもんじゃない。でも、そんな連中に戦わせなければ勝利は得られません。欲と恐怖だけが彼らを動かすのです。」

 レゲシュでナユタは貴族や有力者が行うさまざまな宴にもしばしば招待された。マナフはその度に立派な衣装を用意し、装飾品などもぬかりなく手配してくれた。

 そんな宴では、香りの強い美酒を美しい衣装を纏った美姫たちが配って回り、溢れんばかりの豪華な料理を味わうことができた。出席者した者たちは、料理をたらふく食べ、さまざまな話で盛り上がっては杯を重ねる。ときには、聞くに耐えない痴話や中傷を面白おかしくしゃべる者もあり、そんなときには、場がいっそう盛り上がるのだった。ある意味では、この創造が生み出した世界を牛耳っている者たちが実に低俗な精神しか持ち合わせていないことが露呈される場面とも言えた。

 ある宴席では、レゲシュいちと言われる踊り子が踊った。彼女は四肢が透けるような薄い生地の衣装を纏い、まるで女神と見まがうほどに輝いていた。眉墨をひき、目の下は緑色にくまどり、真紅の宝石を身につけ、頭には金の刺繍のついた冠をかぶっていた。彼女は甘美な音楽に合わせて妖艶に舞い、後半になると、着ている衣装を次々に脱いでいった。

 一枚脱ぐ毎に、男たちからは大きな歓声が上がり、ついに全裸になると、男たちの目はその美しい裸体に釘付けになった。真っ白な肌と長いすらりとした脚、踊りに合わせて大きく揺れる二つの乳房に惹きつけられない男はいなかったろう。宴席で披露される舞いで美女が衣装を脱いでいって全裸で踊るのはしばしばだったが、彼女ほど美しい裸体で踊る姿はナユタも見たことがなかった。

 踊りが終わって舞台から引っ込むと、彼女は再び鮮やかな色の透けるような衣装を身に纏って宴席の中に現われた。男どもがすぐに彼女を取り囲み、彼女は男どもを相手に杯を掲げていたが、ふとその囲みを離れてナユタに近づいてきた。

「アッガ将軍も敬意を表するというナユタ将軍ですね。」

「ええ、初めまして。」

 ナユタはちょっとそっけなく返事をしたが、彼女は軽い嘲りを含んだ笑みを浮かべて言った。

「私の踊りを見て、そんな冷ややかな調子で応えられるのは初めてですわ。さっきは私の一糸纏わぬ裸を見たんでしょう?」

「ええ、拝見しました。たいへんお美しい舞いとお姿でした。」

「なんとも心のこもらないお追従ね。股間のあそこも見たくせに。まあ、いいわ。普通ならそんな男性は相手にしないんだけど、でも、今日の様な宴でそんな反応をするのはあなただけね。それがレゲシュを支える将軍とあっては興味が沸くけど。それに、あなたの目はたいへん澄んでらっしゃる。」

「ありがとうございます。レゲシュにお役に立つのが私の役目ですので。」

 彼女の顔にちょっと不快そうな表情が浮かんだ。

「でも、清流に魚棲まず、というのはご存じでしょう?あなたのお心は立派かもしれないけど、それがかえって身を滅ぼすことにならないようにお気を付けられることね。」

 そう言い捨てると、彼女は行ってしまった。

 帰りの馬車の手綱を引きながらマナフがナユタに囁いた。

「あの女を相手になさらなかったのはよろしゅうございました。あの女が素っ裸で寝椅子に眠る姿は月よりも美しいと噂されておりますが、あの女はやめておかれて賢明ですよ。」

「ほう。何かあるのか?」

「ある意味、金に目のない女として有名ですからね。あの女を抱くために途方もない金銀を貢がされた男はたくさんおりますので。むしろ私としましてはナユタ様をお連れしたいところが別にございますので、明日にでも。」

「それはどこへ?」

「まっ、それは明日のお楽しみということで。」

 次の日の夕方、マナフが案内してくれたのは、レゲシュの守護神を祀る拝火神殿だった。

「拝火神殿じゃないか。ここなら、戦勝祈願のためにアッガ将軍らと訪れたよ。」

「ですが、神殿の処女にはお会いになっておられないのでは?」

 そう言うと、マナフはどんどん進んでいった。行き着いた先では、神殿の巫女が神々を讃えて肉惑的な踊りを踊っていた。

「彼女たちが神殿の処女とでも?」

「ええ、その通りです。まっ、実際には処女ではありませんがね。ですが、この女たちは一晩に一人の男しか相手にしないことになっておりますので、その日においては、処女というわけです。お気に召す女を選ばれるとよろしいかと存じます。」

「おまえはここで女を相手にしたことはあるのか?」

 ナユタにそう問いかけられて、マナフは悪びれるでもなく大きく笑って答えた。

「もちろんでございますよ。レゲシュのいっぱしの市民で神殿の処女を抱いたことのない男などおりますまいな。それに、彼女たちの手練手管はそれはそれはたいしたもので、こんな楽しみ方もあるのかと驚かされること間違いなしですよ。男のものを口にくわえて舐め回したりもしてくれますし。」

「なるほど。だが、今日は帰るとしよう。」

 そっけなく言ってナユタが向きを変えて歩き始めると、マナフは後ろからついてきながら、ぼやき口調で言った。

「ナユタ様のご趣味には合いませんでしたかな。まっ、日頃のナユタ様を見ておりますとなんとなくは分かりますがね。」

 その日はそれで終わったが、数日経って、マナフは、器量の良い奴隷娘を買ってきた。マナフは彼女にきれいに体を洗わせて化粧をさせ、淡い色の薄衣の衣装をまとわせ、香水を振りかけて、ナユタの前に連れてきた。彼女は肌は白く、雌の子牛のようなつぶらな優しい目をしていた。

「この奴隷娘を市場で買って参りました。旦那様がこの邸宅の若い召使いの誰にもお手をつけておられないので、いろいろ考えまして。旦那様のような潔癖な性分の方はだいたいにおいて清楚でほっそりした娘がお好きなもので、胸もさして大きくなく、尻もそれほど盛り上がってない娘を所望されるものです。この娘などいかがでしょう。なんでも言いなりになりますし、どんなことでもしてくれますので。」

 ナユタはあまりうれしそうな顔をせず、娘をさがらせるとマナフに言った。

「買ってきてしまったものはしょうがない。物のように捨てるわけにもいかんだろうからな。だから、あの娘はおまえにやるよ。だから、今後は、こんな気は使わないでくれ。」

 だが、マナフはすぐには引き下がらなかった。

「あの女はお気に召しませんでしたか。もし、そうなら、申し訳ございません。別の女を見つくろってまいりましょう。」

「いや、女を買ってこなくて良いと言っているんだ。」

「ですが、旦那様のような若い御仁が女をひとりも近づけんというのは体にも心にも悪うございますよ。およそ一人前の男で女を欲しがらぬ男などというものはあるはずありませんからな。女のすべすべした肌の柔らかさと温もりは男の心を言いようもなく癒やしてくれるものです。それを旦那様のように隠し、抑えているのは精神にもようございません。英雄色を好むと言いますでしょう。」

「ともかく、あの女はおまえにやる。おれは自分で欲しければ、自分で見つけるからいらぬ気は使わんでくれ。」

 マナフはその返事を聞いてたいへん残念がったが、実のところはその奴隷娘が自分の物になってまんざらでもなさそうだった。

 これもヴァーサヴァの創造した世界のまぎれもない現実の姿ということであった。

 そして、この世界の現実としてナユタが目の当たりにしたのが、貧しい人々の姿だった。この世界では一部に豊かな者たち、豪壮な暮らしをする者たちがいる一方で、膨大な数の隷属的な民と奴隷たちがいるのだ。彼らを取り巻いているのは、夏の熱風や腐った水、イナゴや蠅、旱魃や豪雨、疫病や熱病、重い労苦などであった。手足が曲がった者、腰が曲がった者、顔に深い憂いと皺が刻み込まれた者がいかに多かったことか。しかも、それに追い打ちをかけるように、呵責なき収税吏、奴隷たちをためらうことなく激しく打擲する監督官、腐敗せる裁判官などが威張り散らしているのだ。結局、彼らを待っているのは、不幸と病と死でしかない。それが彼らの人生なのだ。

 それがヴァーサヴァの創造した世界だった。ムチャリンダの主張に一理も二理もあることは明白だった。

 ただ、だからと言って、この世界は救いようがないとは言い切れないはずだった。世界に可能性がないわけではないはずだった。ともかく、今、ムチャリンダに屈するわけにはゆかないのだ。ナユタはシャルマとプシュパギリに繰り返し言った。

「チベールとの和解は成り、平和条約は調印できたが、決して油断してはならない。チベールにルドラがいる以上、必ず次の策を練ってくるだろう。」

 その思いはシャルマもプシュパギリも同様だった。プシュパギリはアッガ将軍とともに軍の鍛錬にいっそう力を入れ、シャルマはラムシードと結託して軍の予算を増やし、戦備の強化に努めた。レゲシュの街では槍や刀、弓矢、盾などを作る者たちが大勢集められ、鍛冶屋の槌の音が休むことなく鳴り響いた。

 

 さて、レゲシュではウルヴァーシーの輿入れの準備が着々と進められたが、ウルヴァーシー王女の心は穏やかでなかった。王の娘としての定めとはいえ、どうしても納得できないものがあった。

 意を決したウルヴァーシーは密かにヨシュタを訪ねた。ヨシュタと二人だけになって向き合うと、ウルヴァーシーは思いを堪えることができず、涙顔になった。

 ウルヴァーシーはうつむいて、ぽたぽたと涙を流し始め、ひっそりとした声で語り始めた。

「私がほんの小さな少女だったときにあなたはやって来ました。そして、それ以来、いつもあなたは私をかわいがってくれました。そして私もあなたを心から慕っていました。今もそれは変わりません。私がお慕いしているのは、ヨシュタ、あなただけなのです。私にはあなたしかいません。ほかに何も要りません。ほかの男に嫁ぐなど考えられません。」

 ヨシュタは動揺を押し隠して言った。

「しかし、そなたも年頃だし、いつまでも一人でいるわけにもいくまい。チベールのジャンダヤは立派な王子と聞いている。申し分ない相手のはず。いろいろ不安はあろうが、レゲシュ、チベール両国のためでもある。それにチベールに行っても不自由のないよう十分な準備をするつもりだ。」

「でも、私はあなただけを愛しているのです。」

 そう言ってウルヴァーシーがヨシュタの手をとり、つぶらな瞳でヨシュタの目を見つめると、ヨシュタは言葉に詰まった。

 実際、ヨシュタ自身、心の冷たいクマールよりもはるかにウルヴァーシーに好意を寄せていた。ぎすぎすした性格のクマールはナソス王の長女という身分を鼻にかけ、ヨシュタを蔑んだような態度を見せることも少なくなかった。クマールには温かみや愛情は微塵も難じられず、私のおかげで王でいられるのよとでもいうような高慢な態度を露わにすることも少なくなかった。それに比べ、ウルヴァーシーは何百倍も何千倍も素敵だった。気立てがよく、暖かい心に溢れ、しかも美貌と女性としての魅力に溢れていた。

 ヨシュタの手の上にウルヴァーシーの涙がぽたぽたと落ちた。ウルヴァーシーが涙に濡れた顔をヨシュタの胸にうずめると、ヨシュタは彼女を強く抱きしめた。ヨシュタがウルヴァーシーの艶かしい唇に口づけすると、もはや二人を押しとどめるものは何もなかった。ヨシュタは狂ったようにウルヴァーシーの衣服をはだけて肢体をむさぼった。豊かな乳房の勃起した乳首を強く吸うとウルヴァーシーは大きく喘ぎ声を上げた。ヨシュタはウルヴァーシーを裸にして全身を愛撫し、ウルヴァーシーの秘部が潤ってくると、おのれの男根をウルヴァーシーの股間の秘部に突き入れて激しく前後に動かした。ウルヴァーシーは大きくのけぞって体をひくつかせた。ヨシュタの欲情は極限に達し、ウルヴァーシーの柔らかな女体の深奥におのれの精を吐き出したのだった。

 こうして二人は結ばれた。しかし、ウルヴァーシーはチベールに輿入れしなければならなかった。約束を反故にするなど、考えられるはずもなかった。

 ヨシュタは冷静さを取り戻し、次の日になると、花嫁だからという理由をつけて、ウルヴァーシーへの監視を強化し、決して自分に近づけさせないようにした。

 

 三ヶ月後、ウルヴァーシーの輿入れの日が近づいた。

 レゲシュではウルヴァーシーの婚礼を祝う催しが華やかに営まれた。街では祭が繰り広げられ、宮殿では、高官たちが居並んで祝辞を述べ、盛大な宴が催された。

 ヨシュタはあの日以来初めてウルヴァーシーと顔を合わせたが、一言も声をかけなかった。

 宮殿での宴と街での祭は三日間に渡って続き、レゲシュは完全に祝祭ムード一色であった。

 祭が終わると、次の日、いよいよウルヴァーシーの輿入れの行列が出発した。それは誰も見たことがないほど壮麗で長大な行列であった。

 立派に飾り付けられたレゲシュの門が開くと、槍をもった護衛の兵士の列に始まり、戦車に乗った勇壮な戦士たちの列が続いた。奴隷たちが婚礼の品の積まれた車を引き、あるいは、みやげ物を背負ったロバを引く。さらにウルヴァーシーに付き添う女官たちの乗り物が続き、一段と豪勢なウルヴァーシーの車が続く。その後ろを付き添いの文官たちの車が続き、これらすべてを立派ないでたちの兵士たちが守った。

 チベールでの婚礼の儀式も華麗であった。バドゥラは国の威信をかけて準備を整えさせた。各国からの賓客を招くため、チベールの街は隅々まで掃き清められ、道には白檀の水がまかれた。芳しい花々が道の両側を飾り、色鮮やかな旗幟が街中にはためいた。

 チベールのイナンナ神殿で、身内の親族と神官による結婚の秘儀が済むと、ジャンダヤとウルヴァーシーは、宮殿の広間に現れた。正面には精悍なジャンダヤと優美なウルヴァーシーが並び、多くの参列者がウルヴァーシーの魅力に心奪われた。

 そして、高官たちが祝いの言葉を述べ、さらに各国からの使者も次々に祝いの言葉を述べ、祝いの品を披露した。レゲシュから出席したプシュパギリも結婚した二人とチベールの繁栄のために祝いの言葉を述べた。

 一連の儀式が済むと、高らかに音楽が奏でられ、婚姻がつつがなく整ったことが街中に伝えられた。二人は宮殿のバルコニーに現れ、街の人々に手を振った。多くの群集が押しかけ、けが人や死者が出たほどだった。人々は歓声を上げ、喝采を叫んだ。街中が華やかに飾り付けられ、何千というラッパが鳴り響いた。三日間にわたるお祭りの始まりであった。

 宮殿での婚礼の宴も三日間に及んだ。たくさんのご馳走が並び、珍しい酒が振舞われた。

 出席者たちは豪華な衣服に身を包み、装身具に贅をつくした。女性たちは髪を美しく結い、薄絹の衣装に、首輪、腕輪、足環、耳飾り、腰帯などを身に着けた。それらの宝飾品は金、銀、水晶、琥珀、瑠璃、碧玉などでできており、さまざまに光り輝いた。男性も宝石を吊り下げた金の首飾りをさげ、宝石のちりばめられた立派な短刀をさして列席した。

 そして、チベールやレゲシュの踊り子が舞い、さらに異国の踊り子が魅惑的な舞いを舞った。

 バドゥラはたいへんに満足し、プシュパギリに語りかけた。

「この婚礼は本当にすばらしい。このような美しい姫がわが国に来てもらえるだけでもすばらしいことだ。そしてこれによって両国の絆が深まり、恒久和平の礎となる。」

 プシュパギリも頭を下げて答えた。

「まことにその通りでございます。今回の婚礼の儀式を見させていただき、改めてチベールの繁栄ぶりを理解させていただきました。そして、その繁栄を担保するものこそこの婚儀でございます。平和条約の締結とこの婚礼に理解を示していただいたバドゥラ王の聡明さに深く感謝しております。これによってレゲシュもチベールと手を携えて繁栄を享受できるというものです。」

 街でも賑やかなお祭りが続いた。いたるところで婚礼を祝う祝杯が上げられた。男たちは、あちらで飲み、次はこちらで飲みと、酩酊するまで場所を変え、相手を変えて飲み歩いた。いたるところで生贄が屠られて神に捧げられ、鳴り物や花火でけたたましく興奮した三日間が過ぎていった。

 

2014年掲載 / 最新改訂版:202187日)

 

 

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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 神話『ブルーポールズ』第2巻