声と楽器
 

インドの古典音楽では人間の声が殊の外重要視される。
vocal percussion。これは、ダブラなど打楽器のリズムを声で真似たものである。本来楽譜を重視しない(あるいは楽譜のない)民族音楽では曲を伝承するために使うが、それ自体が曲として独立することもあり、インドの民族音楽アルバムを聴いていると出会うことがある(日本で唱歌(しょうが)と呼ばれ三味線や箏を教えるときに使われる「チン・トン・シャン」と同じ)。
さらにインドの古典音楽では、歌詞がそれほど重視されないらしく、 歌詞は音楽の導入に必要な部分にすぎないともいわれる。

そういうインド音楽の風土にSheila Chandraの音楽の基礎がある。
声を楽器のように使い(voice as an instrument) 、音楽の中に自らの声を同化させる。
そして、さらに進んで楽器になった声がもう一度生き物としてうねりはじめる。
彼女のアルバムを続けて聴いていくと、その変化がよくわかる。
機械的な早口のStruggleから、なまめかしいSpeaking In Tongues「へ
整然としたQuietから、形態を放棄しながら強い動きを感じさせるABoneCroneDroneへ
ダイナミック な声の変貌はSheila Chandraの音楽を大いに魅力的なものにしている。

  音楽の融合
 

Sheila Chandraの音楽のもうひとつ魅力が、様々な音楽の融合である。
インドのトラッドにはじまりイスラム/グレゴリオ聖歌/ブルース/ブリティッシュ・フォークと次々に展開していく。そして見事に融合してしまう
彼女自身はインドの旋律法「ラーガ」を使ってそれぞれの音楽を解釈していっているようである。
確かに注意して聴くとインドの笛ととケルトのホイッスルまたはバグパイプの音なども大変よく似ているし、インドのトラッドには日本の「音頭」や「子守唄」に聴こえるものもある(Om Namaha Shiva)。旧大陸の民族音楽はインドで発明されたのではないかとさえ思えてくる。

 
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