天園ハイキングコース-天台山付近・・その1

五大堂明王院から天園へ
天園へ上るルートは幾つかあります。今回は金沢道沿いの十二所にある明王院(五大堂)の東脇から上るルートをご案内します。明王院は茅葺きのお堂がある静かなお寺です。京からきた四代将軍九条頼経が鎌倉大火など苦難の末に建立したといいます。左の写真は明王院脇から上り始めたところの坂を撮影したものです。この付近はちょっとした竹林ががあり雰囲気がとても良く、これから先にどのような景観が現れるのかとても楽しみです。写真の道がカーブしたすぐ先で、左手の山への細い道に入ります。写真の道を真っ直ぐ進むと民家で行き止まりになってしまうので注意です。

細い山道に入ってからはかなりの急登です。強引に急斜面に付けられた道のようで古道の雰囲気は殆どありません。それでも尾根に上り着くとそこには右写真のような古そうな尾根道が現れました。この尾根道は梶原景時屋敷跡辺りから上ってきている道のようですが、そちらの方向の道は藪状で進むことはできないようです。この尾根道を天園方面と進みます。尾根上は歩きやすい道で静かな山歩きが楽しめます。私がここを歩いたときは暖かい冬の陽ざしにつつまれていました。

やがて現れたのは左写真の石祠の神社でした。鳥居もあり、何という神社なのか? 塚のようなところの上に建てられています。祠の手前の鳥居のところを注意して見ると、かすれ掛けた文字で弁財天と読めました。持参した地図にはこの辺りには何も記されていなく、弁天様が祀られていたのは意外でした。祠があるということでこの尾根道は古くからあったものと考えられ、鎌倉の古道の一つであったのではないでしょう。鎌倉の山の中は意外なところに地図にはない古いものが彼方此方に見られ、このようなものに出会えるものですから鎌倉の山歩きはやめられません。

石造多重塔
弁天社から更に尾根を上っていきます。するとまたしても、地図には載っていない、大きな石造物が見えてきました。右の写真がそれで、これは石造多重塔であるようです。石塔の角は摩耗し丸みを帯びていて、この石塔はかなり古いものであることがうかがえるのです。これだけ立派な石塔にも拘わらず、地図にはないのは不思議なくらいです。後で調べたところによると、この石塔は、大江広元の墓と伝えられているものだということがわかりました。因みに大江広元の墓は源頼朝の墓のある尾根の裏側にもあるのです。

十二所稲荷小路からのルート
大江広元の石塔の少し先では道は尾根の右斜面を進みますが、尾根上へ上がる踏み跡道もあるようなので、そちらに上ってみることにしました。上りきったところは平場状になっていて、以前ここには何かがあったような気配が感じられました。その先道は尾根の左手に浄明寺住宅地を見下ろしながら進み、やがて瑞泉寺から上るルートと、十二所の稲荷小路と呼ばれるところから上ってくる道とに合流します。天園へのハイキングコースは瑞泉寺方面からがメインルートのようで、ここまでくるとハイカーの人達も多くなります。左の写真は十二所の稲荷小路から瑞泉寺裏に出るルートです。

右の写真は上の写真のルートを山側から撮影したものです。このルートはあまり知られていないわりには、途中の谷戸に切り岸状の崖や、やぐらも一部見られ、地図上で追ってみると十二所から二階堂へ抜けるには最短のコースになっていて、嘗ての古道であった可能性も考えられます。『旧鎌倉街道探索の旅』の著者である芳賀善次郎氏も「下道編」でこのルートが古道であると紹介されています。

瑞泉寺裏のルートの更に杉本方面に見られる切通し

瑞泉寺裏ルート上の切通し
上の写真と左の写真は瑞泉寺の手前から天園方面に上るハイキングコースが尾根上に上がったところを、天園とは逆に杉本城跡方面に少し進んだところの切通しを撮影したものです。切通しはご覧のとおりの見事なものです。この尾根上の道は中世まで遡るような古いものなのかはわかりませんが、人工的に造られた切通しと思われます。切通しを見る限りでは鎌倉古道の典型的な姿です。上の写真に見られる石積みは何の目的で造られたものか? 石積みそのものも古い物か新しいものなのかはわかりません。

ここの切通し道は横浜市金沢文庫駅の北にある「能見堂」への切通し道に似ているように私には思えました。しかし、この付近の切通し道について触れられている資料は殆どなく、ここの道が確実に古道であるのかどうかは確かめることはできませんでした。現在では天園へのハイキングコースということですが、ただ、この尾根道は杉本城へと続いている尾根上にあるわけですから、或いは杉本城との関係がある道とも考えられるのではないのかとも思うのです。

左の写真のところを尾根から左に下っていくと瑞泉寺の前の道まで下りられます。一般的には天園へのハイキングコースは瑞泉寺の手前から尾根へ上ってきてここへ出るようにガイドブックなどには載っています。この写真の付近は天気の良い休日などにはハイカーで賑わうところです。鎌倉を取り巻く山のハイキングコースは随所にこのような切通しが見られ、普通の山道よりも古道を感じられる趣があります。或いはハイキングコースの多くは実際に中世以来の古道であったのかも知れません。

鎌倉七口と呼ばれる切通し道の上は大概が平場になっていて、敵がその切通ししを通るときに、その上の平場から敵を射るために造られた平場だといわれてきていますが、ここの瑞泉寺から上ってきたところの切通し道の上にも『瑞泉寺裏山周辺詳細分布調査報告書』(財団法人・鎌倉風致保存会)には平場が形成されていることが調査されています。ここの切通しの上の平場が果たして鎌倉七口と同じ機能を有した平場なのかは大変に興味をそそがれるところなのであります。

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