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2024.2.15 mf

貸金など債権の消滅時効期間:民法大改正後

弁護士河原崎弘

問題:民法大改正後の消滅時効

Aさんは、2018年9月10日に、昔、恋人だった彼に60万円を貸しました。Bさんも、2020年9月10日、元カレに、50万円は貸しました。返済は、それぞれ、1月後の約束とします。
請求などすることなく放置した場合、債権は、いつ時効消滅しますか。
民法大改正を考慮して、検討しましょう。

回答:貸金など債権の消滅時効期間

民法改正(2020年4月1日施行)があり、消滅時効も大幅に改正されました。一般の債権では、旧法では10年で時効消滅しますが、新法では5年で時効消滅します。
発生が上記施行日より後の請求権に新法が適用され、発生が上記施行日より前の請求権には旧法が適用されます(附則10条)。
そうすると、Aさんには、旧法が適用され(時効は10年)、2029年10月に債権は時効消滅し、Bさんには、新法が適用され(時効は5年)、2025年10月に債権は、時効消滅します。

新民法による各種債権の消滅時効期間

民法改正(2020年4月1日施行)があり、消滅時効も改正された。発生が上記施行日より後の請求権に新法が適用されます(附則10条)。

1.契約上の債権については、実質的に時効が10年間から5年間に短縮されました。
民法は、新たに、 債権者が権利を行使することができることを知った時との用語をとりいれ、そこから、時効期間を計算しました。これが、主観的起算日です。
債権(民法166条1項)は、次の期間経過で時効消滅します。
@債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間(主観的起算点)
A権利を行使することが出来る時から10年間(客観的起算点)

2.新法では、不法行為による損害賠償請求権の20年間という期間が除斥期間ではなく、時効期間であることを明示しています(民法724条1の2)。
例外的な消滅時効期間(民法724条)。
 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効期間
@被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間(主観的起算点)
A不法行為の時から20年間(客観的起算点)

3.不法行為による生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の主観的起算点からの時効期間を3年間から5年間に長期化しました。
生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については、債務不履行による場合と不法行為による場合とで消滅時効期間に差異がなくなりました。
 生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間
@5年間(主観的起算点)(民法724条の2)
A20年間(客観的起算点)

4.養育費等、定期金債権の消滅時効期間は、主観的起算点、客観的起算点とも原則的な消滅時効期間の2倍となっています。
 定期金債権の消滅時効期間(民法168条)
@ 債権者が定期金の債権から生じる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間(主観的起算点)
A @の各債権を行使することができる時から20年間(客観的起算点)

5.用語の変更
一定の事由により進んでいた時効の期間がリセットされ、またゼロからスタートする「中断」という用語が「更新」に(152条)、時効の進行を一時的にストップすること「停止」という用語が「完成猶予」(150条)に、それぞれ、名称変更されました。
中断ー→更新
停止ー→完成猶予

消滅時効の起算点・時効期間に関する新旧対照表

権利の種類新法旧法
債権権利行使できることを知った時から 5 年(166条1項1号)
権利行使できる時から10 年(166条1項2号)
人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の場合は、20年(167条)    
権利行使できる時から10 年
商事消滅時効廃止5年
職業別等の短期消滅時効 廃止各債権により1〜3 年
不法行為による損害賠償請求権損害及び加害者を知った時から3 年(724条1号)
人の生命・身体の侵害による損害賠償請求の場合は、5年(724条の2)
不法行為の時から 20 年(消滅時効) (724条2号)
損害及び加害者を知った時から知った時から 3 年
不法行為の時から 20 年(除斥期間
定期金債権各債権を行使することができることを知った時から10年(168条1項1号)
各債権を行使することができる時から20年 (168条1項2号)
第1回の弁済期から20年間
最後の弁済期から10年間
判決等で確定した権利権利確定時から 10 年 (変更なし) (民法169 条) 権利確定時から 10 年

対処方法:時効の更新

債権は、5年で時効消滅します。 時効中断方法としては、返済を約束 してもらうとか、借用書を書き直してもらえば、債務の承認として時効の更新(旧法の中断)します(民法152条)。しかし、 時効完成間際の場合は、内容証明郵便で催告してください。時効は6か月間完成猶予されます(民法150条)。その後、6か月以内に訴えを提起すればよいです。
内容証明郵便を出してみたが、相手が受取らなかった場合は、受取らない理由により、対処方法が異なります。 留守の場合は、再度、出す。受取拒否の場合は、訴え提起する。
相手の住所が不明の場合は、訴えを提起してください。訴え提起によって、時効は更新(中断)されます。相手の住所がわからなくても、公示送達 との方法で訴状を送達し、裁判できます。

参考:旧法による各種債権の消滅時効期間

民法の条文は、旧法です。

民事の一般債権の時効消滅期間は10年(民法167条1項)、商取引(債権者、または、債務者が商人の場合)から発生した債権の時効消滅期間は5年です(商法522)。
従って、一般人の貸金債権の消滅時効期間は、10年、会社など商人の場合は5年です。

債権の種類消滅時効期間根拠条文
原則
個人間の貸金
個人間の売買代金
10年民法167条1項
判決で確定した債権、調停、裁判上の和解で決まった債権 10年民法174条の2、1項
商取引上の債権、商人に対する債権 5年商法522条
短期消滅時効
利息債権
家賃、地代債権
マンション管理費
NHK受信料
5年民法169条
相続回復請求権 5年民法884条
退職金債権 5年労働基準法
115条
公務員の給料債権 5年会計法30条
地方自治法236条1項
交通事故など不法行為による損害賠償請求権
離婚の慰謝料
3年民法724条
医師、病院の医療債権
設計・監理の債権
3年民法170条
弁護士の報酬債権 2年民法172条
労働基準法が適用される給料債権(退職金を除く) 2年労働基準法
115条
生産者、卸売商人、小売商人が売却した代金、電気料金債権
大工、左官、植木職人などの賃金
理容師、クリーニング業者などの代金債権
商取引上の売買代金
学校、塾などの授業料
2年民法173条
給料債権
芸能人の出演料
運送賃
ホテル、旅館等の宿泊料
料理店、バーなどの飲食代金
レンタカーなどの(動産の使用)料金
1年民法174条

判決

登録 2012.6.1
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