〔1〕
巨大危機の輻輳は
何を意味しているか・・・?

「ええ、高杉さん...人類文明が、いよいよ大混乱の様相ですね、」
「そうですねえ...
大きな危機が、まさに輻輳(ふくそう)してやって来ています。様々な危機が、津波のよう
に押し寄せて来て います。1つでも対応を誤ると、重大事態になります。今後、こうした
傾向は、ますます強まって行くでしょう」
「はい。“大艱難(だいかんなん)時代”の、まさに序曲という様相ですね...」
響子がクルリと椅子を回し、スクリーン・ボードに目を投げた。
「ご存知のように...
地球温暖化=気候変動=海洋酸性化・・・
人口爆発=深刻化する食糧危機・飢餓・・・
資本主義の暴走=グローバル化による弊害・・・
核兵器・原発の世界的拡散・・・
世界経済・金融の混乱・・・
感染症圧力の増大・・・
こうした項目の中に、それぞれ深刻な状況があります...解決困難な危機が、輻輳
して押し寄せています。これが、何を意味しているかは明白ですわ。巨大危機の輻輳
は、“文明の破局”へ集束して行くということですね、」
「そうですね...しかも、これらの危機は、連動
しています。防波堤の小さな亀裂が、全
体を破壊します...“文明の破局”へ向かって、瓦解(がかい)して行きます」
「はい、」
「さて...問題は...
今なお、世界構造は、“持続的発展可能(サスティナブル)な経済成長”というパラダイム
の中にあるということです。世界情勢は、このパラダイムに依拠していて、依然として、
“地球温暖化”を進行させる、“経済競争”と、“覇権競争”に耽っているということです」
「そうですね、」
「このパラダイムは...
資本主義/市場主義にとっては都合のいいものです。グローバル経済の、理論的な
拠り所となっています。しかし、このパラダイムが破綻するのは、時間の問題です。時間
の問題なのですが...はたして、人類文明に、その時間が残されているのかということ
ですねえ...」
「はい、」響子が、深く頭を傾げ、顎ににコブシを押し当てた。
「“地球温暖化/気候変動”が、いよいよ深刻な事態に突入しています。2008年は、や
はり、節目の年になりそうです」
響子が、自分のモニターに目を戻した。
「それと...」響子が、モニターを読みながら言った。「人類文明は、脆弱化(ぜいじゃくか)し
ていますわ...また、精神性も、軟弱になっています。こうした事と、“気候変動の慣
性”を考慮すると...残された時間は、限られてきています...」
「そうですねえ...いよいよ、何らかの要素で、“人口の激的な消滅”という事態が来る
でしょう。例えば...
“気候変動による大干ばつ・大凶作/・・・飢餓の拡大/・・・新型インフル
エンザのパンデミック/・・・世界ネットワークの停止/・・・世界経済の破綻
/・・・日和見(ひよりみ)感染症の拡大/・・・20億〜30億の、人口消滅・・・”
...こうしたごく単純なシナリオでも、壊滅的な事態が、容易に想像できるわけです。
地球ネットワークの破綻/人類文明の防護ラインの崩壊/食糧危機で...“文明の崩
壊”は、容易に起こりうるのです。確かに、文明社会は非常に脆弱化しています。
こうした状況下では、ヒューマニズム(人道主義)は存在しません。膨れ上がった人口は、
大発生したイナゴやバッタと同様に、ごく単純に物理的に死んで行くことになります。生
態系での調整が、静かに進行することになります」
「恐ろしいですね、」
「“文明の防護ラインの1つ/・・・医療ネットワーク”が崩壊しただけで、軽い怪我や、日
和見感染菌や、軽い疾患等も、全て非常に恐ろしいものになって来ます。医療サポート
が無いということは、野生のレベルになるということです」
「でも、逆に...文明が暴走し...地球環境の相転移が起こっても、同じ結果になりま
すね...文明に起因する“地球温暖化”や...森林の伐採、海洋環境の破壊でも、」
「そうです...
環境破壊により、生態系が沈没しても、結果は同じです。まず、食料が手に入らなくな
り、グローバル社会は機能停止に陥ります。一時的に暴動なども発生するでしょうが、と
もかく食料がなくなっては、餓死して行く他はないということです...
生態系が沈没すれば、“地質年代的な種の大量絶滅”が起こると言われています。そ
れこそ、生態系が一変することになるでしょう。6500万年前に、恐竜が絶滅し、生態系
が一変したような風景ですねえ...あるいは、それ以上の状況とも言われますが...」
「はい...
ともかく、“地球温暖化対策”に、戦略的・齟齬はないかという事ですね...“北海道
/洞爺湖サミット”では、再度、大局的な展望を検証して欲しいという事ですね。排出量
取引のレベルでもめていては、それこそ、地球環境の相転移が起こってしまうということ
ですね、」
「そうです...
CO2排出量の対策/クリーン・エネルギーの開発/低炭素社会の実現も、当然、必
要な事です。しかし、そうした戦術レベルの対策で、本当に大丈夫なのかという事です。
おそらく、これから始まる“大艱難時代”は、戦術レベルの対策では乗り切れないと思
います。
つまり、戦略レベルの対策が必要だろうということです。この戦略レベルの対策を誤る
と、“文明の破局”へ突き進むことになります。くり返しますが、時間は非常に限られて
来ました。そして、戦略のやり直しは、膨大な時間の損失になります...」
「はい...
現時点において、間違いのない大局的展望と、ロードマップを作成しておくということ
ですね...CO2排出量削減の目標数値だけでなく、〔人間の巣〕を展開して行くのでな
ければ、気候変動による大災害や、食糧危機には対応しきれないわけですね?」
「うーむ...そうだと思います...
“地球温暖化対策”も、ある種の臨界値を超えると、生態系の復元は不可能になると
言われます。しかも、人口爆発は、すぐにも70億に達する勢いです。現在の世界体制
が破綻することは、誰の目にも見えているわけですねえ...」
「ええと...高杉さん...
“サスティナブル/持続的発展可能という=経済成長のパラダイム”ではなく...
“文明のお返し=人間の巣のパラダイム〕が選択され...〔人間の巣〕が世界展開し
て行けば、既得権の構造は失われて行きます ね...
でも、楽に、確実に、“地球温暖化対策”が進行します...そして、価値基準の再構
築が始まると思うのですが...これは、“文明形態の大転換”へ進むのでしょうか?」
「まあ、〔人間の巣〕か展開して行けば...そういう風景になりますねえ...
欲望を捨て、新しい文明形態に軟着陸することが、可能だということでしょう。価値基
準も、それぞれの〔人間の巣〕の多様性に委ねられることになるでしょう。世界金融は、
そうした“世界価値基準の道具/・・・管理の一部門”という事になっるでしょう...」
「経済原理のダイナミズムは、失われるわけですね...?」
「そうしたダイナミズムが、果たして必要かどうかということです...
しかし、まあ、それも完全に失うということはないでしょう。現在のような資本主義も、
〔人間の巣〕の単位では、いくらでも可能なのです。ただ、“世界を動かす基本原理の地
位”は、失っていくでしょう。つまり〔人間の巣〕は、それぞれ、独自の価値基準を持って
運営されて行くからです」
「はい...世界金融は、そうした〔人間の巣〕を、緩くつなぐものになるわけですね?」
「まあ...こうした問題は、より専門的な高度な研究が必要になりますねえ...
ともかく〔世界市民〕は、安定指数のきわめて高い〔人間の巣〕を獲得し、それぞれ
独自の価値基準を持って生活して行くことになるでしょう。独自の〔理想郷〕を、創出して
行くということです」
「はい...そうした〔人間の巣〕の小単位で、教育や社会福祉も行われて行くわけです
ね。膨大な、“人類文明の変容”が起こるわけですね...」
「そうです...」高杉が言った。「〔人間の巣のパラダイム〕は...世界の分散化...
〔人間の巣〕の展開という...非常に単純明快な目標に向かいます。それぞれが、自
給自足で、独自に社会展開して行くわけです。人口増加も、やがて自己責任で抑制され
て行くでしょう...
〔人間の巣〕は、特別な高度技術も、特別な材料も、莫大な費用も必要としません。
とりあえず頑丈な、〔コンパクトな未来型都市〕を世界展開することは容易です。このこ
とで、現在の時代的危機は、ほとんど解決されて行くはずです...
まあ...〔人間の巣のデザイン〕については...長い試行錯誤の中で、その歴史
過程の中で、しだいに洗練されて行くと思います。ともかく今は、〔原型的・人間の巣〕
で、“地球温暖化対策”を先行する必要があります...」
「うーん...そうですね...
国際的援助も、この方向へ向かえば、有意義なものになりますわ...でも、既得権
の構造は、失われて行くということですね、」
「そうです...
支配階級のない、自給自足型・農業社会が、〔人間の巣〕の“基本的な形態”になり
ます。〔人間の巣〕は、非常に安定指数の高い、楽に暮らして行ける社会です。こうした
社会では、犯罪発生率そのものも、非常に下がると思います」
「好きな体制/好きな分野/必要に特化した、〔人間の巣〕を選択できるなら...それ
が一番いいのではないかしら...それから、自分の生まれ育った〔人間の巣〕に、強い
アイデンティティー(自己の存在証明、自己同一性)を持つということですね...」
「まあ、そうしたことも...今後の試行錯誤...今後のデザインということになります」
「はい...しだいに、洗練されたものになりますね...それは、私たちの子孫の仕事に
なりますね」
「そうですねえ...
文明社会は...“農耕・文明の曙”から...“エネルギー・産業革命”...そして、
“意識・情報革命”へ推移しています。〔人間の巣〕はこれから来る、“意識・情報革命”
の器/ステージになります...私たちの時代が、子孫のために、その未来型ステージ
を準備して行くということになります」
「はい...〔人間の巣〕は、そうした“発展的な文明の大転換”になるわけですね、」
「そういうことです...」
<人口の減少/文明の縮小は不可避・・・>
「ええと...」モニターを眺めながら、響子が言った。「くり返しになりますが...
人類文明は現在...“無数のヒビが入ったガラスの球体”...のようですわ。それで
もなお、“ガラスの球体”に、機械仕掛けの圧力が加えられている状態です。壮大な文
明社会は、確実に“文明の大崩壊”へ向かって、圧力が増大し続けています...」
響子は、2つ用意したペットボトルに手を伸ばした...烏龍茶のボトルのキャップをと
り、 ゆっくりと一口飲んだ。それから、ペットボトルのキャップをし、水滴で円い輪のつい
ている場所に戻した。高杉も、それにつられ、ペットボトルに手を伸ばした。
「これは...」響子が、頭をかしげて言った。「エゴや、愚かさで、済まされる問題ではあ
りませんわ...
気候変動/飢餓/新型インフルエンザ等で...億単位という人命が、アッサリと消
滅する可能性が濃厚です...高杉さんの言われるような、“人口の激減という事態”
が、可能性というよりも、必至という、逼迫した情勢になって来ました。
現在でも人類は、過食や肥満に悩み、大量の食べ残しを廃棄しつつ...一方では、
億単位の人々の飢餓や、餓死者を出しています。しかも、それが構造化しています。こ
うした中で、“地球温暖化”がいよいよ加速し始めました。
この種の、“文明の大崩壊”を回避するには、“人口の減少/・・・肥大化した文明
の縮小”は不可避です。“異常に増え過ぎた種”は、環境の中で確実に整理されて行き
ます。この摂理から、逃れることはできません...
また、飢餓の予測とは別に...生態系のホメオスタシス/恒常性/治癒力が起動し
ていて...“文明の縮小/排除”を招いているのかも知れません。人類文明は、その
文明の威力で、ストレートに整理されることは無いのかも知れません。でも、生態系の沈
没が、結局、“種の大量絶滅”を招くことになりそうですね...
ともかく、対処するには、“文明の縮小”は不可避です。でも...それをとりあえず、
〔文明のコンパクト化/高機能空間化=人間の巣〕で、対処が可能だと思います。ま
た、この方法以外に、“根本的な対処方法”というものが、あるのでしょうか...?」
〔2〕
究極的対策の・・・速やかな始動を!
「ええ...」響子が、細い指をキーボードに当てた。「当、HP(ホームページ)では...
各部門が考察し...各スタッフがくり返し提唱していることですが...“文明の折り
返し”を、速やかに実現するためには、〔人間の巣/未来型都市/千年都市〕の世界
展開が...〔世界市民〕に対応可能な...“究極の策”と考えています...
〔人間の巣〕は、“究極の温暖化対策”と同時に、“万能型・防護力”という、強力な裏
面があります。65億の人口をコンパクトに安定化し、軟着陸させて行くことが可能です。
“無数の将来不安/時代的不安”に対して、〔人間の巣のパラダイム〕は、再び、人類
に“夢”と“希望”と“秩序”をもたらす事ができると考えています...
その延長線上には...〔極楽浄土/理想郷〕...が創出されるという、新たな可能
性も見えています。〔人間の巣〕という小単位で...その、多様性・複雑化のベクトル空
間の中で...多様な理想社会を実現することが可能です...
資本主義も、社会主義も、宗教も、芸術も、学術も、スポーツも...〔人間の巣=小
単位の開放系システム〕で...その〔理想郷〕を創出することができそうです...こう
した〔人間の巣=自給自足型社会〕の単位が、緩いネットワークをとり、これを“世界
政府/地球政府”が、緩く管理して行くというものです...」
*********************************************
<人間の巣とは・・・>

「ええ...何度もくり返して説明していますが、〔人間の巣〕とは...
安定した大地に、頑丈な構造物を建設し、適量の土をかぶせた、コンパクト
な人間サイズの高機能空間です。数メートル〜10メートルの土をかぶせれ
ば、外環境からは完全に遮断されます。例えて言えば、アリの巣のようなもの
ですね...それが、高度に進化形態したものと考えて下さい...
春と秋は、大扉/窓/隔壁を開放し...新鮮な空気と風を入れます。夏と
冬は、それらを遮断/調整し...寒暖の差のない厚い土の衣をまといます。
この基本機能は、あらゆる災害に対しても、“万能型・防護力”として、強大な
能力を発揮します。
これは、生態系で生きている生物体としては、ごく普通の姿です...人類
文明は、異常な形で地上の緑の大地を席巻するのではなく、文明として半地
下に潜るということです。おそらく、この方法でしか、文明社会を軟着陸させる
道はありません...
〔人間の巣〕を、どのぐらいの人口規模にするか...建造物をどのように連
結するか...また、どのぐらいの科学技術力を組み込むかは...デザインの
問題になります。ともかく、基本構造としては、原始的な建造物でも、十分に
機能しますわ。これらの〔人間の巣〕を、さらに広域的に緩く連結して行くわけ
ですね。これには、とりあえず、既存の道路や鉄道が使われます...
生物はみな、このように、生態系と協調した形で生活しているのですわ。増
え過ぎた人類は、既存の文明形態では、あまりにも環境負荷をかけ過ぎるよ
うになりました。それゆえに、新しい文明形態をとり、環境負荷を軽減して行く
べきなのです。
くり返しますが...この〔人間の巣のパラダイム〕でしか...65億〜70
億の人口を、軟着陸させるのは困難だと思います。人類文明もまた、それな
りに、“つつましやかに、生態系の1角に納まって行こう”というものです。
私たちは、〔半地下式/高機能空間〕を、緩く連結することで、“脱・エネル
ギー文明”を実現できると考えています。こうした〔未来型都市〕を展開すれ
ば、短期・長期の気候変動/全ての自然災害/飢餓・食糧危機/感染症圧
力等を、克服できます。原子力エネルギーも必要としません。究極的には、バ
イオマスやクリーン・エネルギーで十分なはずですわ。
ええ...もう1つ肝心な事は...〔人間の巣〕は、周囲に自給自足型農業
を展開するという事ですね。こうした自給自足型・農業社会が、〔人間の巣〕
の“基本的形態”となります。こうした社会は、かつては世界中に存在してい
た、牧歌的・農村風景ですね...
こうした郷愁の、自然と一体化した社会を想像するのは、それほど難しくは
ないと思います。ただ、昔と違うのは、〔未来型都市〕の展開では、ここに高
度な、“意識・情報革命”のテクノロジーが加わるという事です。
したがって...物流は自給自足社会で減少しますが、洗練された情報ハ
イウェイができることになります。このあたりが、〔人間の巣〕でどのような位置
づけになるかは、未知数です。でも高度なテクノロジーは、自然と一体化して
生活する人々には、必ずしも必要のないものかも知れません...
高度なテクノロジーやダイナミズムは、1部の特化した領域に限られて行く
と思います。人間が最も幸せに生活して行くのは、自然と共に生きることなの
ですから...そこが、〔極楽浄土〕になるのだと思います...
したがって...自給自足型・農業社会では、機械やエネルギーを多用する
のではなく、労働集約型・農業になるのかも知れませんね。支配階級を作らな
い〔人間の巣〕では、自給自足/・・・非常時の備蓄だけで、“非常に楽に暮
らして行ける社会”です。
また、学術、芸術、国家管理、世界管理に参加したいのであれば、そうした
〔人間の巣〕へ出かて行けばいいわけです...でも、そこも原則として、自給
自足社会ということですね...原則として、市場原理のような効率化/競争
社会である必要はありません...」
*********************************************
〔3〕
戦略的・齟齬は、文明の崩壊に直結!
「高杉さん...」響子が、肘をついて手を組み、高杉を見た。「それでは、改めて、“地球
温暖化対策”の、具体的な齟齬を検証してみようと思います」
「うむ、」高杉が、うなづいた。
「ともかく...事態が、非常に加速していますね?」
「そうですね。加速が始まっています...
それから...“新型インフルエンザ”や、“新型肺炎・SARS”などの、感染症のパン
デミックのも気になります。これはまるで、“時限爆弾”ですねえ...また、未知の感染
症も、考慮に入れておいた方がいいでしょう。
つまり...生態系のホメオスタシス/生態系の恒常性/生態系の治癒力というもの
が、いよいよ、“時限爆弾”として起動しているように感じます...とりあえず、“新型イン
フルエンザ”の“プレ・パンデミック・ワクチン”だけでなく、より汎用性のある準備が必要
ででしょう」
「メガロポリスに、“人間の巣型・災害対策拠点”を展開するようなことですね?」
「そうです...それと、〔自衛隊の再編成〕も必要でしょう。
こうした“感染症のパンデミック災害”に対し、大機動力を持って展開できる〔防疫・医
療部隊〕です。私たちは、近々予想される大震災に対し、〔災害救助船隊〕や、〔対震
災・空中機動師団〕を提唱していますが、感染症はそれ以上の被害も予想されます。
そもそも...防衛予算は、百万人単位の犠牲者が予想される、“真の危機”の方へ
投入するべきでしょう...MD(ミサイル防衛)構想などで、戦争ゴッコをしている時ではあり
ません」
「はい...地球生命圏が危機的状態となれば、何らかの治癒力が動き出して当然です
わ...この方向へ、〔自衛隊を再編成〕するということですね、」
「軍事担当の大川さんが言っていましたが...それが、〔真の防人(さきもり)〕ということ
でしょう...数十年間も、ただ戦争ゴッコをしているだけでは、国民の信頼感は遠くなり
ます...もう、冷戦構造時代は終わったのですから...」
「はい...
生物個体においても、治癒力・再生力というものは、凄まじい威力を持ちますわ。そも
そも、この治癒力というのは、医療の中核となっています。でも、その本質となると、構
造的には解明されていませんね。
そうした地球生命圏の治癒力が、“人類文明の縮小/人類文明の排除”で、起動
している可能性が濃厚ということですね...こうした戦いに、勝てる見込みはあるので
しょうか?」
「勝つ見込みは、皆無でしょう」
「そうですね、」
「人類文明を形成している、“言語的・亜空間”...そうしたバーチャル空間や、虚数空
間に、“意識体”としてシフトして行けるのなら、話は別です。しかし現在は、とてもそれ
ほどの文明は持ち合わせてはいません。
地球生態系から太陽系空間へ展開することですら、ままならない状況です。人類文明
は、まだまだ原始文明の段階といった所でしょう。まあ...“文明の第3ステージ/意
識・情報革命”が進展して行けば...その想像を絶する進化の中で、あるいは可能に
なるかも知れません...」
「うーん...とりあえず...〔人間の巣〕の世界展開しかないということですね、」
「そうです...
まあ、ここに〔極楽浄土〕を展開できるのであれば...人間としては、それが一番幸
せなのではないでしょうか...あまりにも進化し過ぎるのは...そして、あまりにも知り
過ぎるということは、必ずしも幸福とは結びつきません...
自然と共に生きるのが...その単純な生き方が...人間として一番幸福なのです。
〔人間の巣〕を展開し、大自然と共に生きる姿が、一番いいのだと思います。貴重な教
訓は、まさに過去の歴史の中に存在しています」
「はい、」
響子が、マウスを使い、モニターをスクロールした。それから、カチッとクリックし、ジャ
ンプした。
「高杉さん...その〔人間の巣/未来型都市〕へのシフトですが...具体的に、私た
ちはどうしたらいいのでしょうか?」
「当、HP(ホームページ)としては...
〔人間の巣/未来型都市〕の展開について...具体策として、〔日本版/ニューデ
ール政策〕の推進を打ち出しています。それでいいのではないでしょうか。大公共事業
で、日本列島を改造し、日本の社会インフラを、〔未来型都市/千年都市〕に転換して
行くということです。この政策で、世界をリードして行きます。
これによって...環境負荷は激減して行くでしょう。無秩序な都市の広がりが無くな
り、地表全体が緑色で埋まって行くでしょう...住宅建設用の木材の伐採もなくなりま
すますねえ...河川や港湾も、昔の姿を取り戻して行きます...
〔人間の巣〕と...周辺の耕作地...必要な交通網以外は...基本的に、大自然
に帰していくことになります...実際に、これぐらいのことをやらないと、“地球温暖化対
策”にはなりません」
「はい...」響子が、コクリとうなづいた。「ええ...
現在問題になっている、“道路特定財源”も、“CO2排出権取引の財源”も、“環境税”
も、全て〔人間の巣/未来型都市〕の展開に投入できるわけですね...“農業の基盤
整備財源”も、自給自足農業の整備に使えますわ...産業構造も劇的に変化して行く
と思いますが...」
「それが...“文明の折り返し”になります...
そして、それこそが、“地球温暖化対策”なのです。私たちは、もともと、文明形態そ
のものを、変えて行くことが必要だったのです。資本主義の暴走/ギャンブル資本主義
/覇権競争は、もはや必要としないということです。
現在、莫大な資本の蓄積や、バーチャル金融が世界を支配していますが...〔世界
市民〕が自給自足生活にシフトし...バーチャル金融にソッポを向けば...そんなもの
は何の価値もなくなります」
「うーん...“裸の王様”になるということですね...莫大な資本は...」
「私たちは、巨大資本とは関係のない...スロー・フード/スロー・ライフを選択すること
になるでしょう...そうなれば、巨大資本は、まさに“裸の王様”になります。それによっ
て動かされる人間がいなくなれば、巨大資本は何の価値も持ちません。
そして、この“文明の折り返し”がなければ...およそ“地球温暖化”にブレーキが
かからないでしょう...またここが、既得権構造とぶつかる所ですねえ...しかし、とも
かく、〔世界市民〕が、スロー・フード/スロー・ライフで歩き出すことです...」
「はい...
昔から...清貧に暮らしている人々には、“莫大な富は何の価値もない”と言います
わ...〔世界市民〕にとって、そうした時代が訪れるのでしょうか、」
「まあ、過渡期というものがあるでしょう...
しかし、〔世界市民〕が〔人間の巣〕を獲得すれば、これまでの時代的反動というもの
も出てくるでしょう...ともかく、バーチャル金融のようなものは消えて行きます...〔人
間の巣〕では、そんなものは必要のないものですから....」
「うーん...はい、」響子がうなづいた。「本来の“人間生活”を、取り戻すわけですね、」
「“温暖化対策”は、必然的に、そういう事になります...」
「はい、」
<CO2の排出量取引・・・/低炭素社会・・・/省エネ技術・・・
これらの、
戦術的蓄積の検証・・・ >

「ええ、高杉さん...」響子が、まっすぐに高杉の方を向いた。「現在、様々な“地球温
暖化対策”が俎上に上げられていますが...いずれも、“目的達成の可能性”、“究極
的対策”として、疑問符がつくわけですね...
“努力を強制”されるにも関わらず、“報われない結果”になりそうです。何よりも、これ
では“地球温暖化”は、“止められないだろう”ということですね?」
「その通りです...」高杉が、ゆっくりと脚を組み上げた。「これらの、“対処療法/・・・
戦術”を全てを積み上げても、“パラダイムシフト/・・・戦略”を超えることはできません。
戦術と戦略の関係というものは、そういうものです」
「はい...」響子が、自分のモニターをスクロールした。
「結局...」高杉が、響子の横顔を見ながら言った。「つまるところ人類文明は、現在の
文明形態を続けて行くことは、不可能だということです...必ず、“文明の破局”がやっ
て来ます。“パラダイムシフト/・・・戦略”を誤ると、大混乱の中で、戦略を見直すという
ことになります。その時はもう、“破局”がやって来ているでしょう。
ともかく、リスクが非常に高くなりますねえ。しかし、このリスクは回避可能なものであ
り、犯すべきものではありません。今、戦略を再検証し...〔人間の巣〕を展開して行く
のであれば...楽に、確実に、安全に...軟着陸が可能だということです」
「うーん...そこで失われるのは...既得権構造ということですね、」
「そうです...
これは、“革命のレベル”をはるかに超える...“文明史的な舵取り=文明の折り
返し”という、“文明のステージを変える大事業”です。21世紀初頭は、そうした文明の
転換点にあります。
それでも、やがて、“大艱難の時代”が押し寄せて来るでしょう。私たちは、この未曾
有の困難な時代に備え、〔人間の巣〕を展開して置く必要があるのです」
「はい...」
響子が、またペットボトルに手を伸ばした。そして、ウーロン茶を一口飲んだ。
「ええ...いくつかの、具体的に検証に入りましょうか...
ドイツでは...低炭素社会、省エネ技術は、だいぶ進んでいるようですね。ドイツの
国民性でしょうか...真面目な取り組みと計画性、目的遂行能力は、さすがですわ。政
治も行政もデタラメな日本とは、大違いです...」
「はは...」
「でも、高杉さん...
このドイツのプログラムで...はたして“地球温暖化”は克服できるのでしょうか...
これは、大いに検証してみる必要がありますね。計画性と努力は認められても、“地球
温暖化”が克服できないのであれば、戦略的・齟齬があるということですね、」
「そういうことになりますねえ...
世界の叡智が、何故こんな所で、つまずいてしまったのでしょうか...まあ、まさに現
在...その“パラダイムシフト/・・・戦略”を、検証して行けばいいわけですが...」
「はい...ええ、くり返しになりますが...
“サスティナブル・・・/持続的発展可能な、経済成長のパラダイム”では、“地球
温暖化”は、克服できないということですね...ここが、戦略的・分岐点ですね...
“地球温暖化”は...節約・努力/低炭素化/新技術開発という苦行と勤勉で、越え
られる壁なのかどうかということですね。越えられない壁だとしたら、それは無駄な努力
ということになります...戦略レベルで、的外れだということですね、」
「そうです...
まず、壁の高さ/壁の厚さ/壁の材質を調べ...それを打ち破り、越えて行くための
戦略を立てるのが、冷静な対応でしょう。まず、“サスティナブルな経済成長ありき”で
は、最初から、“文明の大崩壊”は必至ということです」
「はい...
もし、壁の実態/・・・温暖化の実態というものが、分からないのであれば...戦略と
して、〔人間の巣〕を選択して置くべきですわ...」
「そうですねえ...
ボス(岡田)は、東西冷戦構造の核戦略時代に...“巨大な宇宙人工島に生態系を搭
載”し、太陽系を離脱することも考えていました...そういうことを、『小説/人間原理
空間』に書いています...」
「はい、」
「あの時代は、宇宙・技術革新というものに、大きな野望がありました...文明の閉塞
状況を、“巨大な宇宙人工島/・・・地球と同一軌道上を周回する人口惑星”に...“宇
宙植民”で乗り切ろうと構想していたわけです...
当時、そんな構想をしていたわけですが...現在の宇宙技術のレベルでは、相当な
未来社会ということになりますねえ...やがては、そうした時代が来るのかも知れませ
んが...」
「このHPのタイトルの借用している、『小説/人間原理空間』の話ですね、」
「そうです...
ところが、何故か...科学文明のミッション/・・・巨大科学システムの野望は...こ
とごとく頓挫し始めました...宇宙・技術革新/原子力技術/核融合技術など...何
故か、ことごとく、突然のように、頭打ちの状態になりました...非常に不思議な事態で
す...」
「はい...」
「【人間原理空間・ストーリイ】は...
“文明の第1ステージ/農耕・文明の曙”から、“文明の第2ステージ/エネルギー・
産業革命”を経て...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”を示唆してきたのです。
何故そうなのかは...現段階の文明では、解答を得るのは難しいですねえ...」
「はい...そういうわけで...ボス(岡田)の、“宇宙人工島/・・・地球軌道の人工惑星”
の意を受け継ぎ...私たちは、地上での〔人間の巣〕の構想を打ち出したわけですね」
「そうです...
〔人間の巣〕の構想は...もともとが、その“宇宙人工島”の内部空間にある居住ス
ペースを、地上で実現したものです...文明の版図を、太陽系空間へシフトして行けな
いとなると、地球生態系の中で、処理しなければならなくなったわけです。
これは、良いとか悪いとかの問題ではなく...【人間原理空間・ストーリイ】が、“文
明の第3ステージ/意識・情報革命”の方向性を示唆してきたのです...さて、この方
向で...人類文明は、最大の危機/“大艱難の時代”を乗り越えて行けるのでしょう
か...」
「うーん...〔人間の巣〕を世界展開できれば...おそらく乗り越えて行けるのではな
いでしょうか...」
「そうですねえ...
ともかく...世界の叡智は/世界のリーダーは...“経済競争”や“覇権競争”とい
う、惰性的な競争原理にとらわれるのではなく...“真の危機”に対応した、大局的展
望に立って欲しいということですねえ...」
「高杉さん...」響子が、耳の後ろへ髪を撫でた。「ともかく...
“差し迫った圧倒的な壁/巨大危機の津波”に対して...戦略的・齟齬は、重大な
結果を招くということですね...現在、“文明史的な岐路での、戦略的検証”が、ゴッソリ
と抜け落ちた所で...CO2の排出量取引という、“戦術的な議論”をしているということ
ですね...?」
「そうです...
CO2の排出量取引/CO2の地中埋め込み/省エネ技術/クリーン・エネルギーの
開発/低炭素社会/循環型社会/化石燃料発電から原子力発電への転換...
色々と言われていますねえ...しかし、これらのいずれもが、“サスティナブルな経
済成長のパラダイム”で、考えられているということです。まさに、ここが、“地球温暖化
対策”の最大の焦点ということでしょう...
ここを超えれば、“地球温暖化対策”は非常に簡単なものになります。〔人間の巣〕を
世界展開して行けばいいわけです。特に、困難な壁はありません。地上に広がる都市
文明から、〔半地下のコンパクトな高機能空間〕へシフトするだけです...」
「うーん...」響子がうなづいた。「その通りですわ...」
「そもそも...」高杉が、ペットボトルの烏龍茶をゴクリとやった。「人類文明は...
何故こんな、閉塞状況に陥ったのかということです...その原因は、“文明の第2ス
テージ/エネルギー・産業革命”の暴走にあります。また、資本主義の暴走で、文明が
グローバル化し、“ギャンブル資本主義”を招きました...資本主義が、投機的資金の
暴走で、構造的堕落/・・・インチキに陥っています...
こうした、閉塞状況に陥った原因を考える時...これらの俎上に上がっている対策
は、そもそも“対応が甘い”という事になります。何故なら、“病気に陥った原因”を克服
していないからです。
依然として、“エネルギー消費=経済競争のパラダイム”の中で、対策が考えられ
ているからです。対処療法で努力しても、病根を排除しない限りは、病気の快癒はあり
得ないということです」
「そうですね...」響子が、ゆっくりと頭を振った。
「まあ、それゆえに...人類社会は、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”へ、ステ
ージ・アップして行く必要があるのです」
「はい、」
「エネルギー形態で言えば...
“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の、<熱運搬型/巨大エネルギー
>から...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の、<情報運搬型/稠密エネル
ギー>へのシフトです。
21世紀に入った現在、そのシフトは相当に進んでいます。<熱エネルギー>から<
情報エネルギー>への、文明の転換が始まっています...電子工学、光工学、量子
情報工学などで広がっている、<上位ステージのエネルギー形態>です...」
「はい、」
「<情報エネルギー>というのは...
実は、“意識”という...“主体性”が強く絡んでいるエネルギーなのです...あるい
は、“主体性の影”と言った方がいいかも知れませんね...これから、おそらく、そういう
事が問題になってくると思います。
生態系においては、そもそも、<巨大な熱エネルギー>は、中核的な存在ではない
のです。地球生命圏で、より奥が深いのは、<意識/情報運搬エネルギー>の方で
しょう。それが、“文明の第3ステージ”ということになります。
それは...“文明の第2ステージ”において、石炭から原子力エネルギーへ飛躍した
ように、“私たちの想像を絶するもの”になるでしょう...産業革命の当初は、原子力エ
ネルギーなどは、まるで想像もできないものでした...」
「うーん...」響子が、顎にコブシを当てた。「“文明の第3ステージ”において...その
“新しい領域/・・・意識・情報革命”において...“想像を絶した飛躍”が始まるわけで
すね...それが、“第2ステージ”を、古典的として行くのでしょうか?」
「そうです...さて...どういうものが出てくるでしょうか...
まあ、宇宙論においても...<熱的エネルギー>の解明が終息し、<意識・情報
処理エネルギー>との絡みが、主要課題になって行くのかも知れません。つまり学問
的な、“第3ステージ”へのステージ・アップです...
我々にはまだ...“海のもの”とも“山のもの”とも分かりませんが...“この世の最
も基本的なもの”が...人類文明の“言語的・亜空間座標”を、再構築して行くことにな
るでしょう...途切れ、消失していた座標系が...“第3ステージ”において再構築され
て行くのかも知れません...」
「そうしたエネルギーと、“主体性”の絡みが、課題になってくるという事でしょうか?」
「うーむ...
それが、“物の領域”と“心の領域”の、統合になるのではないでしょうか...面白そ
うですねえ...ここに、【人間原理】や、“妖怪”や、“神”なども、再登場してきそうです
ねえ...物理的宇宙空間に、膨大な“心の領域”が覆いかぶさって行くのでしょう...」
「なんでもアリ...ですか?」響子が、顔を崩した。
「まあ...そういうスタンスです...」高杉も、顔を崩した。「しかし、これは...
新しく覆いかぶさるものではなく...もともとが、そういう世界だったということです。
その新たな“人間的解釈/人間的構造化”が...文明の“言語的・亜空間世界”を、再
構築して行くということですかね...」
「うーん...眼前するリアリティーの、“人間的解釈”が進化して行くわけですね?」
「うーむ...進化とも言えますし、より深くなる深化とも言えます...
“量子もつれ”などの...最新の量子科学の現象/局所性の否定なども...大きな
影響を及ぼすことになるでしょう...まあ、大きな論争も起こるでしょうねえ...しかし、
量子コンピューターでは、すでに“量子もつれ”が、コンピューター・デバイスに組み込ま
れているようですねえ...」
「はい...ええ...こうした話を、もっとお聞きしたいのですが、話を戻しましょうか、」
「そうですね、」高杉が、椅子の背に肩を引いた。
「ともかく“地球温暖化対策”は...“努力の問題”でも、“利害対立の問題”でもなく、
“人類文明の舵取りの問題”だという事ですね...現状では、ここに戦略的・齟齬が
生じている...という事ですね?」
「そうです...
我々には、断言する権利/資格はありませんが...その可能性が濃厚だと、指摘し
ておきたいと思います...是非、戦略的・齟齬がないか、検証して欲しいという事です」
「はい...
“世界中がラクに受け入れ可能”な...〔人間の巣のパラダイム〕が...最良の策
だという事ですね...他に選択肢はないのでしょうか?」
「むろん、あるかも知れません...
しかし...戦略的・選択肢となると、多くはありませんねえ...現在の、人類の技術
力...そして、65億〜70億の人口を軟着陸させて行くということ...これは、地球上
に豊富にある、土を使う方法しかないでしょう...人類は、まさにこの土/生態系に依
存して生活しているわけです。
アメリカの巨大トルネード(竜巻)や、巨大ハリケーンの被害も、アジアの台風やサイクロ
ンの被害も、〔人間の巣〕の“万能型・防護力”によって、克服が可能です。それと、これ
は気候変動とは関係ないのですが、巨大地震に対しても、頑丈な構造物は必要です」
「大量破壊テロに対しても、“感染症圧力”に対しても、この“万能型・防護力”は有効で
すわ...」
「さて...
その、〔人間の巣のパラダイム〕の、具体的入口が...〔日本版/ニューデール政
策〕です...これが世界展開して行けば、“温暖化対策”、食料問題、そして様々な紛
争から、〔世界市民〕が防護されます...後は、〔極楽浄土/理想郷〕を創出して行く
ということでしょう...」
「はい、」響子が、コクリとうなづいた。「〔人間の巣〕の形成で、人類文明の版図を、非
常に縮小できるますわ。道路や港湾や都市も、その大部分は大自然へ還元して行くわ
けですね、」
「まあ、過渡期を経て...そういう事になるでしょう...」
「でも、“地球温暖化”の加速状況を考えると、ノンビリもできませんわ」
「そうですえ...もっと、ずっと早くに、〔人間の巣のパラダイム〕へ移行するべきだった
のでしょう...世界のリーダーが合意し、それを決断したら、ともかく全力で展開するべ
きでしょう...」
「はい、残された時間は、もうありませんわ...すでに、“大崩壊の序曲”は始まってい
ます」
「そうですねえ...」高杉が、スクリーン・ボードを眺めた。「“北海道/洞爺湖サミット”
では、戦術で揉めているようですが...そもそも、その入口で、戦略的・齟齬があるとい
うことです。戦術で努力しても、戦略が間違っていては、何の解決にもなりません...」
「人類文明は今...文明史的な大転換点...にあるという事ですね。既得権や利害
対立は、瑣末な問題ですわ。経済原理/市場原理を超越して、“文明の折り返し”の局
面にあるという事ですね...」
<迫りくる巨大危機の津波・・・!!!>
「ええ...」響子が、モニターをのぞいて、息をとめた。「避けがたい巨大危機が、輻輳し
てやって来ています...
北極圏や南極圏の氷の減少...ヒマラヤなどの山岳氷河の後退...気候変動によ
る大規模災害の増加...感染症圧力の増大...進む人口爆発と食糧危機...
見えているだけでも、巨大危機の津波が...いよいよ、文明の防護ラインを洗い始め
ています。グローバル経済がさらに進めば、必ず“文明の破局”へ向かって瓦解(がかい)
が始まります...
これらの、全問題を解決していくには...〔人間の巣/未来型都市〕の、速やかな
展開が必要です。省エネ技術や、CO2の排出量取引で争うのではなく、“文明形態の
大転換”こそ急務ですね。
〔人間の巣〕を展開するのであれば、後は面倒なことは何もありませんわ...〔人類
文明が地上から半地下へシフト〕することで...世界は逆に...再び“明るい空”を取
り戻すことができますわ...」
「そうです!」高杉が、強くうなづいた。「それが、ラクで確実な方法でしょう。“戦略の検
証”と、世界のリーダーの決断を求めたいと思います」
「はい!私たちは、子孫のために、〔極楽浄土〕を残して行きたいですね!」
「ええ、響子です...
“北海道/洞爺湖サミット”が近づいています。“地球温暖化対策”に、戦略
的・齟齬がないか、改めて検証して欲しいと思います。
“経済原理/CO2の排出権取引”で行くのか、“文明の折り返し/人間の
巣の展開”で行くのか、文明史的・選択になると思います。残された時間はあ
りませんわ。
世界のリーダーの、果敢な決断を期待しています。また、議長国の日本に
も、大いに期待しています。“文明史に足跡を残すサミット”になることを、期待
しています...」
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