企画/総合管理センター危機管理センター天体衝突地球直撃天体への対策
             地球直撃天体への対策     

 

                    

   Emergency !(緊急事態!)                              航空・宇宙基地“赤い稲妻” 

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   INDEX                  wpeB.jpg (27677 バイト)  

プロローグ   2004. 2. 1
No.1 〔1〕宇宙からの衝撃/ 2004. 2. 1
No.2     ≪小惑星“2002EM7”の衝撃 2004. 2. 1
No.3     ≪スペースガード・サーベイ≫ 2004. 2. 1
No.4 〔2〕地球直撃回避のテクノロジー 2004. 3.28
No.5     <1>強い力を、急激に加える方法...核爆弾   2004. 3.28
No.6     <2>静かに、長時間かけて加速する方法...小惑星タグボート 2004. 3.28
No.7     ポン助のワンポイント解説 <6500万年前の小惑星の衝突.../恐竜の絶滅 2004. 3.28
No.8 〔3〕B612計画 <2015年までに、実証するための試験的なミッション> 2004. 4.16

  

       参 考 文 献                                          

  日経サイエンス  2004/02/

        小惑星直撃から地球を救う ≪宇宙のタグボート≫ 

                ( R.L..シュワイカート/E.T.ルー/P.ハット/C.R.チャップマン.....いずれも、B612財団 )

 

  プロローグ                      wpeB.jpg (27677 バイト)

 

「ええ...“危機管理センター”管制官の里中響子です...

  あれは、2000年の8月だったと思います。高杉・塾長と折原マチコが地球近傍天

(NEO/Near Earth Object の監視”というページを始めました。それが、現在も中断し

たままになっています。大変申し訳ありません。兄弟ページですので、いずれ、ちらの

方も、簡単にまとめておこうと考えています。ご了承ください...」

 

「響子、コーヒーが入ったわよ...」マチコが、窓明りの中に降り落ちる、雪を見なが

ら言った。「今が、一番寒い時期よね、」

「ええ...今が大寒ね...」響子が、ノートパソコンからゆっくりと顔を上げ、マチコを

振り返った。「あ、ありがとう、マチコ...」

「うん、」

  高杉とポン助が、コーヒーを飲みながら、壁面の大型液晶スクリーンを調整してい

る。そこに、深宇宙探査体からの、リアルタイム彗星の画像を表示しようとしていた。

「ダメだ」高杉が言った。「無理だな。磁気嵐が来ている...今は、太陽が活動期に入

っているのかな、」

「フレアーが来るぞ!」ポン助が言った。

「うーむ...」高杉は、大型画像を見ながら、コーヒーを口にふくんだ。

「来るよな!」

「映画の“ディープ・インパクト”では、彗星が地球に衝突するわけだが...」高杉が、

作業テーブルの響子とマチコを振り返った。「彗星の脅威というのは、全体の1%程度

しかない。本当の脅威は、小惑星の方にあるわけだ...」

「ええ...」響子が言った。

「ちなみに、彗星というのは、“ほうき星”のことだ。太陽に近づいていくと、尾が光り

だす。この彗星というのは、主に氷が主成分になっている。これに比べ、小惑星と呼

ばれる方は、アステロイド・ベルトを故郷にする、岩石や鉱物質の小天体と考えてい

い。

  まあ、これまで、人類は直接観測したということがないわけだが、小惑星は地球に

落下した隕石などから、その成分のおおよその所は分っている...しかし、彗星も

小惑星も、直接人類の手で物理的に探査するのは、これからの時代になるわけだ」

「あの“ディープ・インパクト”では、ガラガラに崩れそうな氷の塊の彗星を、核爆弾で

破壊したわよね」マチコが言った。「それでも、1部が地球に衝突して、大津波が起き

て...」

「これから、本格的に地球近傍天体(NEO)の監視が始まれば...」高杉は、ゆっくりと

作業テーブルに戻った。「あんなふうに、突然危険な彗星が出現するということは、ま

ず無いと言われる。数十年、あるいは数百年前から、そうした危険な小天体は特定

できるのだそうだ。

  まあ、そのためにも、“スペースガード・サーベイ”による、監視ネットワークの強化

が必要だがね、」

「うーん...」マチコが、高杉を見上げた。「宇宙空間での監視も、始まるのかしら?」

「ま、」高杉は、椅子の背に手をかけた。「近々、そうした時代も来るだろう。“地球圏

に侵入する天体の脅威”に対処するためにも、本格的な宇宙開発が必要になってく

る。

  ちなみに、直径が200m級の小惑星なら、巨大都市が壊滅すると言われる。しか

し、直径が1km級の小惑星だと、人類が滅亡するほどの生態系の激変が起こると言

われる。あの恐竜時代が突然終焉したような、地質年代的な異変が起こるということ

が考えられる...

  まあ、最悪の場合だろうがね。しかし、それは、人類文明としては、何としても回避

しなければならない。つまり、そのために、まず人類文明の総力を上げて、そうした危

険な地球近傍天体の軌道マップ作りが始められたわけだ」

「うーん...」マチコが、首をかしげた。「実際、どんな風になるのかしら?」

「まあ、そのクラス小惑星が地球に直撃すれば、凄まじい衝撃が起こる。ともかく、そ

れはちょっと、例えようのないものだと思う。それから、その衝撃で舞い上がった膨大

な塵が、厚く地球大気圏を覆うことが想定される。そうすると、長い間太陽光線が地

表に届かなくなり、地球はどんどん冷えていくことが考えられる...

  まあ、そうなれば...地表の緑の植物は壊滅的な被害を受け、それに連なる食物

連鎖も壊滅して行くだろう。それがどういう事態か、容易に創造できるだろう。あるい

は、そうした緩やかなものではなく、もっと直接的に、地表の生物種が大量絶滅して

行くのかも知れない。例えば、植物による炭酸同化作用がなくなれば、酸素呼吸型

の生物種は、それこそ9割以上が大量絶滅していくのかもしれない。あの <2億

4800万年前 / 古生代・ペルム紀の末期 >のように...この時も、小惑星か

彗星の直撃が、その原因の可能性として考えられているわけだ...」

「海に直撃した場合は、どうなるのかしら?」響子が聞いた。

「うーむ...海洋のど真ん中に直撃した場合は...海洋は地殻が薄い。マントルに

大衝撃が加わった場合は、何が起こるのか...まあ、様々なバリエーションが考え

られる。いずれにせよ、地球規模の大津波は避けられない。が、問題はマントルだな

あ...破られた地殻とマントル、そして海水がどう影響するか...

  ま、しかし、そんなことよりも、人類文明がやらなければならないのは、そうした衝

突コースの天体の、軌道を変えることの方だ。深宇宙において、衝突を回避するテク

ノロジーを身に付けることだ。小さなものなら、核爆弾で蒸発させてしまうということも

ありうる。ま、これらについては、あとでもう少し詳しく考察していくことにしよう」

「はい」マチコがうなづいた。「私たちの運命は、そんな所で決まってしまうのかしら、」

「こうした、地質年代的な生物相の激変は、地球はこれまで何度も経験しているわけ

だ。べつに珍しいことではない。

  しかし、唯一、巨大な文明社会を建設したホモサピエンスとしては、そのテクノロジ

ーで、この記念碑的な大事業は、是非とも達成しておきたいものだ...」

「はい...」響子が、高杉にうなづいた。「ええ...次へ移ろうと思います」

「うむ...」高杉は、パソコンで何かをやっている、ポン助の方に目を投げた。

 宇宙からの衝撃 wpeB.jpg (27677 バイト)   

        地球近傍天体   NEO Near Earth Object ) 

           地球近傍小惑星 ( NEA Near Earth Asteroid ) 

≪小惑星“2002EM7” 衝撃     wpe85.jpg (4903 バイト)   lobby4.1119.1.jpg (2391 バイト)     

       直径約70m/地球への最接近距離46万1000km(月との距離の1.2倍)のニアミス!

「高杉・塾長、」響子が言った。「それでは地球近傍天体の話から、お願いします」

「うむ...」

「...」響子は、高杉を見ながら、自分のコーヒーカップを取り上げた。

「あれは、2002年の3月18日だった...」高杉が言った。「世界中のマスメディア

が、一斉に、小惑星と地球との“異常接近”があったことを伝えた。

  この小惑星は、これまで全く知られていなかったものだった。直径約70m、地球と

の最接近距離は、46万1000km...これは、地球と月との距離の1.2倍に相当

する。まさに、月軌道にまで迫る、スレスレのニアミスだった...

  響子さんは、このニュースは覚えているかね?」

「はい...」響子は、コーヒーカップを、カチャリ、と受け皿に下ろした。「覚えています

わ。その時は、ひどく驚いたんですけど、最近はもう忘れていました。今、あらため

て、背筋が寒くなるのを感じています...」

「うむ、」高杉は、苦笑した。

「私も覚えているわ!」マチコが言った。「何日か、テレビで騒いでいたわよね」

「うーむ...そうだったな...マスコミも、冷や汗をかいたことは、すぐに忘れてしま

った。しかし、これは1つのモニュメント(記念碑)だ...

  この2002年の小惑星/“2002EM7”は、地球の衛星である月軌道の距離ま

で、地球圏に侵した。まあ、地球圏というよりは...まさに庭先を通り抜けて行った

ようなものだ。

  そして、小惑星は、再び広大な太陽系空間の闇に消え去った...ま、この小惑星

の正確な軌道計算は知らないが、いずれまた近くを通るのかも知れない...」

「怖いわよねえ...」マチコが、コーヒーカップを口に当てた。

「さて...

  もし、この小惑星が地球を直撃していたら、巨大都市が消滅するほどの衝撃エネ

ギーが発生していた。もちろん、広島に投下された原爆の比ではない。あるいは、

その時...月が月軌道上でどの位置にあったかは知らないが...もし月に命中し

ていても、大変なことになっていた...」

「どうなったかしら、」響子が言った。

「まあ...月が、割れていたかも知れないねえ...ま、それはそれで、風流がなくな

り、困った事態になっただろう。いや、それ以上に大変なのは、大量の破片が、地球

に落下してきたかも知れない...これはこれで、また大変な話になる...」

「うーん...」マチコが言った。「月に、そんな小惑星がぶつかったら、困るわよね。月

は、その小惑星を吸収するのかしら?」

「うーむ...」高杉は、アゴに手をやり、首をかしげた。「私は、本格的な数値計算は

したことがないが...直径70mの小惑星を、月の質量で吸収できるものかな...

いずれにしても、月は相当のダメージを受けることは間違いない...まあ、ぶつかる

角度にもよるだろう...」

「はい、」響子が言った。

「最悪の場合...月が砕けて、徐々に地球に落下して来ることだが...この小惑星

“惑星運動エネルギー”を吸収し、その影響で、月軌道が変ってしまうことも考えら

れるな...

  まあ、いずれにしても、月の地球周回軌道上の数秒ほどのタイミングのズレが、事

態を左右しただろう...もっとも、月との距離の1.2倍だから、命中はしていないわ

けだが、怖い話ではある...」

「はい、」響子が、コブシを握り締めた。「もし、本当に命中していたら、大変でしたわ」

「うむ...

  満月の夜に、直接そんな壮大な天体ショウを肉眼で目撃できたら...それこそ、

何というかな...46億年の地球史を飾る、大目撃者になれただろう。月が壊れるの

を、目撃できるなどということは、まずありえないからねえ...」

「うーん...怖いわよね、」マチコが、コーヒーを飲み干した。

「ちなみに、この小惑星は、2002年をとって“2002EM7”と名付けられた。それか

ら、この小惑星が実際に観測されたのは、地球に最接近してから、4日後のことだっ

たそうだ...

  まあ、現在追跡されている小惑星の多くは、このように地球の近くから去りつつあ

る時に、初めて発見されるということが多いようだ。しかし、こうした小惑星も、しっかり

と軌道計算され、次に地球に接近するコースが予測されるわけだ」

「はい」響子がうなづいた。

「こうやって、地球近傍の小天体の調査が始まっているわけだが...もし地球との衝

突コースの小天体があれば、“数十年前”から“数百年前”に特定できると言われて

いる。これだけ事前に予測できれば、人類の科学技術文明を持ってすれば、何とかで

きるだろうというわけだ」

「こうした小惑星は、さあ...」マチコが言った。「地球の近くを通るけど、太陽の周り

をまわっているわけよね?」

「うむ、そういうことだ...

  “衛星”というのは、地球のような惑星のまわりを回っている天体のことを言う。人類

が打ち上げている多くの人工衛星がそうだ。そして、も地球の衛星だ。火星には、

“フォボス”“ダイモス”という2つの衛星がある...

  それから、“惑星”というのは、太陽のまわりを公転している。つまり、小惑星は、こ

っちの方に入るわけだ。火星軌道と木星軌道の間に、アステロイド・ベルト(小惑星帯)

あるだろう。いわゆる、地球に落ちてくる隕石や、小惑星の故郷だ。

  まあ、別のペーで詳しく説明するつもりだが、こうした小惑星というのは、太陽系が

形成される初期に、惑星になりきれなかった天体のかけらだと考えられている」

「ふーん...」マチコがうなづいた。

「ちなみに、2003年6月12日現在で、6万5634個の小惑星の軌道が確定され、

管理されている。まあ、各国が地球近傍天体の探索を開始したここ数年で、その数が

急速に増えてきているわけだ」

「ハレー彗星なんかも、そうかしら、」マチコが言った。

「うむ...彗星も、太陽のまわりを回っている。しかし、彗星の中には、双曲線軌道

描いて、太陽系の重力圏をそのまま飛び出して行ってしまうものもあるがね...こう

した彗星は、“彗星の巣”といわれる“カイパー・ベルト(海王星軌道の外側)ではなく、はる

か太陽系の外側の、“オールトの雲”あたりから、太陽系の重力圏に落下してくるよう

だ...もちろん、詳しいことは分っていないがね...」

「はい...」響子が言った。

≪スペースガード・サーベイ≫       

               /地球近傍天体を監視する国際的活動/

「ええ、それでは...」響子が、手元のキーボードを叩き始めた。「私の方から、スペ

ースガード・サーベイについて、もう一度、簡単に説明しておきましょうか...

  “スペースガード・サーベイ”というのは、“地球近傍天体を監視する国際的な活

動”を言います。“2002EM7”は、こうした活動で発見された、特筆すべきニアミス

地球近傍小惑星です。しかし、実際には、こうした大小の小惑星や彗星は、実に数多

く、地球という惑星に接近して来るようです...

  1998年...NASA(米航空宇宙局)10カ年計画を掲げ、約1100個ある推定され

直径1km以上のNEO(地球近傍天体)のうち、90%を特定すると発表しました。現在

は、その道半ばにあるわけですが、直径1km以上の小天体が660個以上、それよ

りも小型のものが1800個以上見つかっています。

  こうした、現在追跡されているNEOの多くは、“2002EM7”と同じように、地球か

ら去りつつある時点で発見されているようです。私には、観測現場の技術的なことは

分りませんが、その方が太陽光が反射して、発見しやすいのでしょうか...」

「でも、さあ...」マチコが言った。「地球に接近してくる時に発見しないと、意味ない

わよね、」

「あ、いえ...そういうことはないの、」響子が、顔を上げ、マチコの方を向いた。「小

惑星は、一発必中で地球に命中するわけではないの。今回のニアミスは、特別だと

考えるべきかも知れないわね...地球近傍天体の監視が始まったとたんに、こんな

ニアミスがあるなんて。でも、それだけ、こうしたスケールの小さなニアミスが、頻繁に

起こっているのかもしれないわね...」

「うん、」

「つまりね...

  こうした地球近傍天体は、まず“発見”することが大事なの。もし、問題の小惑星

が、地球との衝突のコース上にあったとしても...うーん、そうねえ...地球に実際

に衝突するまでに、月軌道の数倍あたりの距離を、何千回も通過することになるわけ

なの...

  つまり、何十年も、何百年も前から、その小天体が特定され、軌道予測されるわけ

ね。この壮大なスペースガード・サーベイの仕事は、こうした天文学的なスケールの

大戦略でもあるわけなのよ...」

「それじゃ、今回のようなニアミスは、滅多にないことかしら?」

「そうねえ...」響子は、高杉の方を見た。「そうともいえないわねえ...直径1km以

上のものは約1100個と推定されているけど、“2002EM7”のように70mやそれ

以下のものになると、膨大な数になるでしょう...

  このクラスのものでも、地球に直撃すれば、超大型の核爆弾並みの破壊力があり

ます。東京に直撃すれば、東京は壊滅してしまいます。もっと大きなものになれば、

直撃の衝撃エネルギーだけでなく、地球全体の気候変動をも引き起こすことが考え

られるわけです」

「うむ、」高杉がうなづいた。「地球には、過去に、こうしたものが相当数直撃している

痕跡が残っているわけだ」

「はい!ええ、話を戻します...

  つまり...今後、地球近傍天体の監視体制を整備し、精度を上げ、本当に危険な

小天体を絞っていくということですね。そうなれば、登録されている地球近傍天体だっ

たら、衝突直前まで発見されないというような事態は無いわけです。

  ともかく、地球表層の生物圏に壊滅的な被害を及ぼす、直径1km級以上の小惑

星の発見が、急務となってきます。それから、200m級、100m級と、監視の目を細

かくしていくということになりますね。いずれにしろ、人類文明による、スペースガード・

サーベイの本格的な活動は、まだ始まったばかりです...

「うーん...」マチコが、腕組みをした。

「ええ...ちなみに...

  新しい地球近傍天体が発見されるたびに、スペースガード・サーベイは、その惑星

軌道をもとに、今後100年以内に地球と衝突する可能性があるかどうか調べます。

ええと、これまで発見されたものでは、99%以上が危険なしとされています。

  それから、軌道予測の精度にも限界があるわけだから、きわどい地球近傍天体に

ついては、さらに注意深く監視して行くことになります。もちろん、観測の制度、計算

の精度も、よりいっそう高めて行く必要があります」

「うん!そうよね!」

「それから...ええと、直径200m級の小惑星の話をしましょうか、」

「うむ」

「そうですねえ...

  この直径200m級のもので、地球の公転軌道を横切る危険なものは、およそ10

万個は存在すると考えられています。広大な太陽系空間の中で、地球の軌道を横切

るものです。うーん、太陽系全体を考えれば、こうした小天体というのは、非常に多く

存在するということになりますね。さらに、膨大な量の小石程度のものでも、本格的な

宇宙時代になれば、超高速の宇宙船にとっては、大きな脅威になるわけです...」

「そうかあ...」

「ともかく...

  “黄道面上”の地球軌道を横切る小惑星は、地球と衝突する危険が、天文学的な

スケールで見れば、非常に高いわけです。事実、直径1km級以上のものも含め、こ

の200m級のものになると、過去に相当数が地球を直撃しています...」

「響子、」マチコが、言った。「“黄道面上”というのは、何かしら?」

「あ、“黄道”というのは...天球上の大円のことなの。つまり、大雑把に言えば、太

陽を中心にしたこの平たい円盤上で、ほとんどの惑星が公転運動をしています。これ

は、天の赤道に対して、約23.5度傾斜しています。ええと、黄道赤道が交わる点

を、“春分点”“秋分点”といいます...」

「ふーん...そうかあ...」マチコは、椅子の背にそっくり返った。「それで、“夏”

“冬”があるわけよね。何となく、分ったような気がするわねえ...」

「ええ、とりあえず、それだけ分れば十分です。ええと、話を戻すわね...

  ええと、こうした直径200m級の小惑星が地球に衝突した場合、その衝撃エネル

ギーはTNT火薬換算約600メガトンと言われます。人類が実験した最大級の水爆

100メガトンほどですから、それよりもはるかに大きなエネルギーですね。

  “2002EM7”の直径が70m級ということですが、これでも100メガトン程度の衝

撃はあったのでしょう。もちろん、海に落下すれば、大津波の被害になり、海岸線の

大都市が津波に呑み込まれる被害になります。これは、状況によっては、津波の被

害の方が、大きい場合もあるでしょうね...」

「うーん、響子...こうした200mクラスの小惑星の調査は、まだしていないのかし

ら?」

「ええ、」響子は、小さくうなづいた。「提案は、何度もなされているようですけど、一度

に全部ができるわけではないのです。まずは、1km級の大きなものからということに

なります。それに、こうした小さなクラスのものになると、より高精度の望遠鏡が必要

になるわけなの」

「うーん、そうよね、」

「でも、着々と整備が進んでいくと思います...そして、それは、ただ見つけるだけで

は、意味がありません。そうした危険な小惑星を発見した場合、それを排除・回避す

る宇宙技術も確立していかなければならないということです。

  つぎに、深宇宙での、小惑星処理の宇宙技術について、簡単にその展望を説明し

ておこうと思います」

「あ、塾長」マチコが言った。「もし、今回ニアミスのあった“2002EM7”が、事前に発

見されていたら、破壊したのかしら?」

「うーむ...鋭い質問だなあ...」高杉は、パン、と両手を組み合わせた。「つまり、

この程度の、スレスレのニアミスの場合、どうするかという判断だな、」

「はい」

「まず、1つ言えることは、2002年の時点では、その数ヶ月前に発見していても、

宙技術的に、対処できなかったろう。こうした技術は、実はこれから本格的に開発して

いくことになるわけだ。

  次に、月軌道の1.2倍のニアミスを、どう判断するかということだが、これは軌道

計算の精度の問題になるわけだ。2002年の時点では、出来ることなら、核爆弾で破

壊しておいた方が、危険回避ということでは、正しかったかも知れない。ま、このあた

りは、それがどの程度のものかは、我々には分らんがね。

  ともかく、宇宙技術においても、軌道計算においても、いずれも対処できなかった

のが実態だった。いずれにしろ、通り過ぎてから、4日後にはじめて発見した程度だ。

  しかし、もしこの小惑星が数年前に発見されていて、地球とのニアミスが非常に高

い精度で計算されていたら、この小惑星は“安全です”と的確な判断が下せていたか

も知れない。総合的な軌道計算に、それだけの自信がもてることが前提だがね」

「はい!」響子が、うなづいた。「つまり、軌道計算の精度を高めるというのは、非常に

重要な要素だということですね」

「そう、」高杉は、壁面の大型液晶スクリーンに目を投げた。「場合によっては、その逆

もあるわけだからね。安全と思っていた小惑星が、実は直撃コース上にあったという

場合もあるわけだ」

「はい!怖いですね!」

「うむ...」

〔2〕地球直撃回避テクノロジー  wpeB.jpg (27677 バイト)  

         「マチコです。しばらくご無沙汰している間に、桜の季節になりました」  

  ≪軌道変更する、2種類の手段≫

    ************************************************************************

<1>強い力を、急激に加える方法

               核爆発/物理的衝撃/質量駆動装置/溶融蒸発法...

<2>静かに、長時間をかけて加速する方法

        小惑星タグボート 

    ************************************************************************

 

<1>強い力を、急激に加える方法  

         lobby4.1119.1.jpg (2391 バイト)

 

  マチコとポン助が、息を呑んで、壁面の大型液晶スクリーンを見ていた。映画“ディ

ープ・インパクト”のクライマックスだ。すでに、彗星は地球に迫りつつある。その彗星

のガサガサの氷の内部に入り、男たちが核爆弾を固定しようとしている所だ...

  しかし、氷の彗星内部は、足場すらなく、中心部にも入れず、固定も出来ない。しか

も、彗星の軌道変更をするには、タイミングが重要だ。そのタイムリミットが、刻々と

迫ってくる...もはや、核爆弾をセットするだけで、脱出する時間はない。むろん、彗

星衝突で、地球生態系が崩壊すれば、生きて帰る場所すらもない...

  選択の余地はない!一瞬で、核爆弾と共に、自らの命が蒸発する運命!あとは、

この不完全な核爆発のセットで、彗星が地球直撃コースからそれる事を祈るのみ!

 

「ええ...」響子が、マチコとポン助の後姿を見ながら言った。「塾長...さっそくです

が、具体的な話に入ろうと思います」

「うむ、」高杉は、壁面スクリーンの方から、肩を回した。

「ええ...まず、<強い力を、急激に加える方法>の1つは、“核爆弾”のエネルギ

ーを使うものですね...」響子が、キーボードを叩きながら言った。「この核爆弾は、

ウラン型、プルトニウム型の、いわゆる“核分裂型”と、この核分裂を利用した“核融

合型”があるわけですね?」

「そうです...」高杉が言った。「20世紀の核戦略時代には、両方とも“核爆弾”とし

ていましたが、“核分裂型”と“核融合型”は、全く違うものです」

「はい。一言でいうと、どう違うのでしょうか?」

「そうですねえ...今後は“原子力発電所”から“核融合発電所”へと移行していく

時代ですから、ここでも、一応説明しておこうか...ま、繰り返しになるが、」

「お願いします」

「うむ...

  そもそも、日本の電力の1/3をまかなっている“原子力発電所”というのは、ウラ

ンやプルトニウムを原料とした“巨大な核分裂爆弾”を、非常に“ゆっくりと爆発”させ

ているものなのです。したがって、それが暴走した時は、非常に怖いと言われるわけ

です。

  一方、今後登場してくる“核融合発電所”というのは、本来は放射能は関係ありま

せん。これは、太陽が自らの膨大な質量で重力収縮する、“超高温・超高圧の核融合

炉”を再現するものなのです。この時、水素の核融合反応から生み出されるエネルギ

ーは、ウランの核分裂反応から放出されるエネルギーよりも、はるかに大きなものだ

ということだね」

「はい、」

「しかし、現在の人類の科学技術力では、その条件になる“超高温・超高圧”を実現

できるのは、核分裂爆弾だけだったというわけです。まあ、しかし、この核分裂爆弾を

使った核融合の技術については、成功しているわけです。したがって、“水素の核融

合爆弾”は、その芯に核分裂爆弾を使っているということで、これもまた核爆弾と呼

ばれて来たわけです...まあ、こっちの方を、“水爆”と呼んで、区別している場合も

あります...

  みなみに、広島に投下されたのは、ウラン型で、“リトルボーイ”というニックネーム

を持ちます。長崎に投下されたのは、プルトニウム型“ファットマン”というニックネー

ムです。これらはいずれも、核分裂爆弾であり、核融合爆弾ではありません...」

「はい...ええ、それで、核融合発電というのは、どのようなものなのでしょうか?」

「今後、10〜20年後に登場してくる“核融合発電所”と言うのは、核分裂爆弾を使わ

ずに、核融合を達成する技術が結晶化したものです。磁場で、燃料になる重水素の

ペレットを固定したり、あるいはマイクロ波で固定したり。強力なレーザーで“超高温・

超高圧”に挑戦したり...

  ま、いずれ、実現するでしょうが、“小型の太陽”を作り出すわけですから、なかな

か簡単には行かないでしょう。時期も、さらにずれ込む可能性もあります」

「はい。でも、それは、究極的なクリーン・エネルギーなのですね?」

「うーむ...まあ、そうですが...如何にクリーンであっても、核融合の“熱量”その

ものが、無制限に地球表層に蓄積していくとなると、それはそれで問題でしょう。ま

あ、常に、環境への配慮は大切だということだね」

「はい」響子は、トン、と1つキーボードを叩いた。

 

<核爆弾による、2つの方法...>       lobby4.1119.1.jpg (2391 バイト)

       

「はい...ええ、それでは...」響子が言った。「衝突コースの小惑星を、核爆弾で

軌道変更する話に戻りたいと思います。高杉・塾長、具体的に、それはどのようなも

のになるのでしょうか?“2つの方法”があるとのことですが、」

「はい...

  1つは、単純に、小惑星を、核爆弾で“木っ端微塵に爆破”してしまう方法です。ま

あ、非常に荒っぽい方法です。しかし、その後の状況が予測出来ないという弱点が

あります。まあ、現在、実現できる手段としては、こんなものでしょうか。したがって、

技術的には面倒な事は何もありません。映画の“ディープ・インパクト”でも、こんなふ

うに彗星を爆破し、一部が地球に衝突して来たわけです。これは、岩石質の小惑星と

は異なり、爆破対象としても難しいわけですが、非常に印象的です...」

「はい...核爆弾を使うもう1つのやり方というのは?」

「うむ...この方法は、科学技術的に、もう少し凝ったものになります。この方法で

は、小惑星の“片側で核爆弾を爆発”させることになります。片側岩石を蒸発させ、

宇宙空間へ飛散させることにより、その反作用で小惑星は逆方向へわずかに加速さ

れます。これで、軌道が少し変化するわけです...」

「うーん...そういうものなのですか...」

「ま、これも、それほど難しいものではないね。技術的にも、すでに確立しているもの

です。まあ、小惑星の大きさによっては、こうした技術が必要になるのかもしれませ

ん。

  いずれにしても、核爆弾という手段は、映画でもあったように、短期間でも実行可

能だということです。これが、非常時、緊急事態下では、最も優れた点となるわけで

す。こういう最後の手段を持っているということは、“不測の事態”でも、応用が利くと

いうこともあります。危機管理とは、本来そういうものですからねえ...」

  響子は、黙って、コクリとうなづいた。

「それにしても、地球直撃コースの天体は、少なくても10年前、出来れば50年ぐらい

には特定しておきたいですね。まあ、観測体制も育ってきていますし、いずれ太陽系

内の小天体は、捕捉整理されていくと思います。ただ、さらに小さな微小天体となる

と、より高性能の観測技術が必要になってきます」

「はい...ええ、次に、“物理的衝撃”というのは、どのような技術なのでしょうか?」

「これも、既存の宇宙技術で出来るものです。まあ、ロケットを打ち上げたり、宇宙空

間で組み立てたりして、“質量を可能な限り高速で衝突させる方法”です...まあ、

打ち砕くと考えていいかも知れない」

「うーん...」

「この方法で、小惑星の軌道をそらすには、相当大きな相対速度が必要になる。しか

も、この方法も、爆破と同じように、結果の予測が計算しきれない所があります。した

がって、より確実に破壊するということなら、核爆弾を装着した方がいいのかも知れ

ない...技術が未熟で命中できないような時は、核爆弾の中に呑み込めるし...」

「はい...次に、“質量駆動装置”というのは?一風変っていますけど?」

「うーん...

  これは、“宇宙空間に向けて、繰り返し、岩を発射する装置”のようですねえ。まあ、

これを、小惑星の表面に設置するわけです。これで、発射の反作用によって、小惑星

は逆の方向へゆっくりと加速されます。

  この装置の利点は、小惑星の質量を放出するわけだから、地球から推進剤を運ぶ

必要がないということかな。しかし、発射装置にもエネルギーが必要だし、今後、相当

の技術開発が必要になってくるだろうね。時間的な余裕も必要だし、」

「はい...ええ、あとは、“溶融蒸発法”ですけど、」

「うーむ...これは、核爆発による加熱を、もっとゆっくりとやる方法のようだ。小惑星

と、平行して航行する宇宙船から、“一点に、強力なレーザー光線を照射して加熱す

る方法”のようだ...あるいは、“鏡で、太陽光線を反射”させてもいいようだが、い

ずれにしても、今後の技術開発が必要だな」

「はい。この他にも色々とアイデアがありますが、これらも今後の技術開発になるわ

けですね」

「まあ、そうだな。今は思いもつかないような方法が、続々と出てくるかも知れない」

「はい!」

 

<2>静かに、長時間かけて加速する方法...   

   ≪小惑星タグボート ...≫   

 

「ええ...」響子が言った。「タグボートというのは、港の内外で他の船を引いたり押し

たりする、強力なエンジンを持つ小型船舶のことですよね。宇宙空間でも、このような

船が活躍するのでしょうか?」

「まあ、現段階では、このような宇宙船が活躍する場は、ほとんどありません。宇宙社

会がそれほど充実していないからです。しかし、あれば、間違いなく便利なものです。

したがって“宇宙タグボート”というのは、そういうイメージの宇宙船ということで、いい

と思います」

「でも、小惑星を補足するのに、タグボートでいいのでしょうか?」

「地球直撃コースにある天体を発見した場合、いずれにしても人類文明は、科学技

術の粋を結集し、その天体への接近を計らなければなりません。核爆弾で破壊する

にせよ、他の物理的なエネルギーでコースを変更させるにせよ、問題の天体への接

近は至上命題です」

「はい、」

「そのためにも、広大な太陽系空間を航行できる、宇宙船技術は不可欠なのです。ス

ペースシャトルのような“渡し舟”ではなく、本格的な“巡洋船”が必要なのです」

「はい。それが、原子力エンジンとか、イオン・ロケット・エンジンとか言われるもので

すね」

「そうです」

「開発は、進んでいるのでしょうか?」

「私の感触では、だいぶ進んでいるようです。木星の衛生の、エウロパの海を探査す

る計画がありますが、この探査船にはそうしたエンジンが使われるはずです。NASA

(米航空宇宙局)を中心にした、国際協力になるのでしょうか。まあ、ともかく、膨大な予算

を必要とするので、どういうことになるのか...これからは、頻繁にこうしたニュース

も出てくるのではないでしょうか。ま、木星圏の探査計画については、後でもう少し詳

しく説明します」

「はい、お願いします」

「さて、こうした“惑星間飛行型の強力なエンジンを搭載した宇宙船”で、地球直撃コ

ースにある小惑星に接近し、その“小惑星をプッシュ”するというのが、この構想の全

貌です。それで、天体のスピードが多少変化する事で、地球との衝突が回避されま

す」

 

≪惑星・地球≫ 地球の直径/1万2800km...

              地球の平均秒速/29.8km/太陽を公転運動... 

  地球の中心に命中するとして、半径分の距離を進むのに、215秒...

  この215秒間を、【加速】、または【減速】すれば、直撃を回避できる...

                        lobby4.1119.1.jpg (2391 バイト)

「うーん...215秒ですか...4分弱でしょうか...この分だけずらせば、小惑星は

スレスレで、地球に衝突せずに飛び去っていくわけですね?」

「そうです。そうしたタイミングのズレで、地球への直撃が回避されます。この【加速】・

【減速】を人為的にやるのが、“宇宙タグボート”の構想になるわけです...

  まさに、地球が通過する215秒を、如何に小惑星がやり過ごすか...それが、地

球を救うことになるわけです」

「うーん...」マチコが言った。「そんなことで、大きな地球が衝突回避ができるのかし

ら?」

「うむ!高杉は、マチコにうなづいた。「地球は...直径が1万2800kmある。そし

て、平均秒速が29.8kmの超高速で太陽の周りを公転している。いわゆる黄道面の

地球軌道上を、猛スピードで突っ走っているわけだ。したがって、これに他の天体が

命中するのは、微妙なタイミングが必要になるわけだ」

「そっかあ...」マチコは、ドン、と椅子の背にそっくり返った。

「しかし、命中すれば、大型の核爆弾なみのものから、地球の全生態系を激変させる

ほどのもの被害を及ぼす。

  6500万年前に、恐竜が絶滅したのは、直径が10kmもの小惑星の直撃だという

のは、広く知られている。そして、まさにそのクレーターの痕跡が、メキシコのユカタン

半島の浅瀬の海で、つい最近発見された。まあ、科学的にも、中生代・白亜紀の終

わりの、地質年代的な大異変が証明されたわけだ...ともかく、あの恐竜の世界

が、この小惑星の衝突によって終焉した...もしまた、そんなものが地球に落ちてき

たら、たまったものではない」

「うーん...恐いわねえ...でも、隕石や隕鉄は、よく落ちてるわよね」

「うむ...小さいものは、地球の厚い大気圏の中で、ほとんど燃え尽きてしまう。これ

が、流れ星だ。しかし、それでも比較的大きなものは、燃え尽きずに落ちてくる」

  マチコが、神妙にうなづいた。 

 

***********************************************************************

   lobby4.1119.1.jpg (2391 バイト)≪ポン助のワンポイント解説/No.4≫ 

  <6500万年前の小惑星の衝突...   

            /恐竜の絶滅/そして人類の出現 ...

「ポンちゃん、私も手伝うわけ?」マチコが、パソコンを操作しているポン助

の後ろで聞いた。

「おう、頼むよな!」ポン助が振返った。

「いいわよ」

 

「今から6500年前だよな...」ポン助が言った。「中生代の白亜紀からよ

う、新生代の第三紀へかけて、地球上の生物種が、ガラリと入れ替わって

いるぞ...

  この時、地球上の動植物種の75%以上が、絶滅したと言われるぞ。原

因は、小惑星の衝突だよな...」

「うーん...」マチコが、腕を組んで、首をかしげた。「最近、この小惑星が

衝突した時のクレーターが、特定されたわよね。科学的な解明が進んでい

るのかしら?」

「おう...この小惑星は、メキシコのユカタン半島付近の浅い海に直撃し

たぞ...そのむこうに、キューバなんかがある、メキシコ湾だよな...」

「ふーん...そんな所に直撃したわけか...」

「その、場所の地名にちなんでよう、そこは“チチュルブ・クレーター”と呼ば

れてるぞ。クレーターの直径は180kmもあるぞ。そして、さらにその外側

に、直径240kmの円を描いて、断層が走っているぞ。小惑星の衝突の衝

撃が作った、地殻の断層だよな...」

「断層か...衝撃は、ものすごかったわけね」

「小惑星は、直径10km以上だったらしいぞ。それが、音速の40倍以上

の猛スピードで地球に激突したぞ。その衝撃エネルギーはよう、広島型原

爆の、60億個にも相当するよな...」

「うーん、よく分らない数字ねえ、」

「ともかく、衝突によって、小惑星は粉々に砕け散ったよな。地球の地殻に

の方にも、直径240kmの円形の断層が出来たよな。それから、かなりの

質量が、高熱で気化したと推定されるぞ」

「うーん...衝突はさあ、どんな感じだったのかしら?」

「おう...小惑星衝突の瞬間はよう...このクレーターのできた所から、

相当量の質量が、プルーム(上昇流)となって立ち昇ったぞ。プルームは直径

100〜200kmにも膨れ上がり、やがてそれは大気圏を突き抜けて、宇宙

空間まで達したぞ。そして、月と地球の中間点あたりまで行き、再び地球

へ落下してきたぞ。もちろん、全部が、そんなに宇宙まで吹き上げられたわ

けじゃないけどよう...」

「うん、そうよね、」

「この宇宙へ出た膨大な質量が、流星群のように地球に再突入し始めた

時、地球大気はその摩擦熱で、高温に上昇し始めたぞ。場所によっては

数百℃にもなったと推定されるぞ。こうした地球をおおう熱気で、地球規模

大火災が引き起こされたよな。

  この大火災で、植物の大部分が燃え上がり、動物も逃げ場がなく、恐竜

も含めた白亜紀の生態系が、大崩壊していったぞ...」

「うーん...火災も、すごかったんだあ...」

「この小惑星の衝突ではよう、衝撃エネルギーよりも、この地球規模の火

の方が、大きな被害をもたらしたよな。それから、衝撃と火災の後、舞い

上がった粉塵が、地球の大気圏を覆ってしまったぞ。地表は、日光の

届かない世界になったよな。それが、どのぐらい続いたかは分らないけど

よ、植物は光合成が出来なくなったぞ」

「うーん...小惑星が衝突したら、そんなことになるんだ...」

「この地球規模の大火災ではよう、メキシコ湾からはるか北の方では、多く

の生物が生き延びたぞ。被害が大きかったのは、クレーターと、そのクレー

ターの地球の裏側が最大だったぞ」

「地球の裏側?」

「おう...そういうことになるみたいだよな、」

「ふーん...そうなんだ」

「しかしよう、焼け残ったわずかな極地域の生態系から、生物は再び地球

全体に広がっていったぞ...

  中生代・白亜紀恐竜の世界は全滅し、今あるような新しい新生代

地球生態系が生まれてきたよな...そこでは、哺乳類がもっとも進化した

ぞ。その中から人類が出現したぞ。そして、人類によって初めて、火と道具

と言語が使われ、文明の黎明期が訪れたぞ...」

「うーん...そうかあ...」

 

***********************************************************************

  〔3〕 B612計画            wpeB.jpg (27677 バイト) 

            2015年までに、                   

       “小惑星タグボート”の技術を実証するための、試験的なミッション  

 

「さて...」高杉が言った。「“小惑星タグボート”と、その関連技術を実証するために、

現在“B612計画”が進行しています」

「はい、」マチコが、うなづいた。

「まあ、あまり詳しい技術的な話は避け、簡単にその全体像を話しておこう」

「はい...この“B612”というのは、何を表わしているのでしょうか?」

「うむ...」高杉は、椅子に反り返り、腕組みをした。「それは...サン・テグジュペリの

有名な童話、『星の王子さま』から取ったものだ...そこに登場してくる小惑星の名

前が、“B612”というんだそうだ。まあ...それほど深い意味があるわけじゃない

が、夢のある話というところかな...

  それから、現在、この計画を推進するために、“B612財団”というのがあるようだ。

参考文献の著者は、その財団に所属しているからね」

「やっぱり、アメリカのNASAのような所が、中心になっているのかしら?」

「うーむ...まあ、財団があるから、そこが中心になっているんだろう...

  しかし、こうした技術開発を実際にやっているのは、NASAのような所だろう。確か

にNASAは、この“小惑星タグボート”の、“宇宙船用原子炉”の予備テストを進めて

いる。それから、アメリカの国立ロスアラモス研究所が開発中ものもに、“新型宇宙船

用原子炉/SAFE-1000”というのがある。

  いずれにしても、こうした原子炉を搭載するわけだから、これまでの惑星探査体に

比べれば、はるかに大型の宇宙船ということになる。そして、次のステップとしては、

有人宇宙船というものも視野に入って来る...」

「うーん...宇宙船かあ...」

「ちなみに、こうした“宇宙船用原子炉”は、打ち上げ時の安全性というものを考慮し

た設計になっている。仮に、原子炉の打ち上げが失敗しても、環境への影響がほとん

ど無いような配慮がなされているそうだ」

「うーん...もし、放射能がばら撒かれたら、大変よね」

「そういうことだな...ま、あまり詳しい話しではなく、全体像について話そう」

「あ、はい、」

                                       

「まず...全体のスケッチをしよう...

  前に話したように...地球は超高速で、惑星軌道を描いて、太陽の周りを公転し

ている。惑星空間に対する相対速度は、平均秒速/29.8km だ。この地球に、同じ

ように惑星軌道を描いている小惑星が、超高速で衝突してくるわけだ。したがって、衝

突するかしないかは、まさに秒単位の微妙なタイミングになる...」

「うーん...それでも、ぶつかって来るわけよね。地球の引力はどうなるのかしら?」

「それは、微妙で複雑な問題になる...まず、こうした天体が地球の近くを通過する

と、地球の重力によって軌道を曲げられ、“共鳴軌道(地球の軌道周期と、整数比をなす周期を持った

軌道)に入るケースが多いといわれる。そして、結果的に、小惑星は地球の近くに戻っ

てくる事になる...したがって、こうしたケースも、できれば“小惑星タグボート”で排除

したいわけだ...」

「じゃ、近くを通ると、危ないということかしら?」

「うーむ...

  しかし、小惑星という、惑星軌道を描く“速度と質量”からすれば、地球の引力とい

うのは、それほど大きなものではない。まあ、月は地球の引力で捉えられているわけだ

が、惑星と衛星では速度がまるで違う...」

「でも、月は大きな質量よね...」

「うむ...ま、そのあたりは微妙な問題だと思う。塵のようなものから、小石や車のよう

な大きさから、家のような大きさのものまである。しかも、それに速度という要素が加

わるわけだ」

「うーん...でも、命中コースの範囲に入っていると、大事な問題よね」

「そうだ...しかし、もっと大事なのは、小惑星が衝突コースに入ってきた時、予防的

措置としてどうするかということだ。きわどいものなら、10年以上も前から、排除する措

置を取らなければならない...つまり、そういう対処が必要だということだな」

  マチコは、コクリとうなづいた。

「いずれにしても、小惑星も地球も、太陽の重力圏にあって、太陽の周りを周回運動し

ている仲間だ...広大な太陽系空間だが、何度も惑星軌道を描いているうちに、いず

れ衝突する可能性があるというような世界だ...

  そうした小惑星が、それこそ大小無数にあるわけだ。現在は、地球に壊滅的な被

害を及ぼす直径1km級のものを捕捉しているが、いずれ100m級のものや、数十m

級のものまで補足して行く必要がある。

  これらは、いわば太陽系の横道面にある、“機雷”のようなものだと言うこともでき

るだろう...仮に小さなものでも、宇宙船・地球号がぶつかると、超大型核爆弾なみ

のエネルギー弾になるということだ...都市に命中すれば、都市が蒸発してしまう」

「うーん...」

                                       

 

「さて...話を“小惑星タグボート”に戻そう...

  そうした、秒単位のタイミングのズレを操作するために、質量の大きい地球を動か

すのではなく、小惑星の方を【加速】、あるいは【減速】するわけだ...まさに、地球

が通過する215秒を、如何に小惑星がやり過ごすか...それが、地球を救うことに

なる。

  まあ、この215秒というのは、1つの目安だがね。実際のミッションとなると、こんな

風に、紙一重でかわすというような芸当は出来ない。もっと、十分な余裕を持たないと

いけない。二段、三段の構えが必要になる...なにしろ、地球の運命がかかってくる

わけだ」

「うーん...そうよね...」

「しかし、いざ実行となると、色々な技術的な問題が噴き出してくる...

  まず、そうした深宇宙へ到達できる強力な宇宙船が必要になるわけだな。それは、

現在打ち上げに使われている化学推進ロケットでは無理だ。原子炉を搭載した原子

力エンジンや、イオン推進システムのようなものが要求されて来るわけだ」

「あの、」響子が言った。「そうした技術開発というのは、進んでいるのでしょうか?」

「そうだねえ...我々が一般的に考えているよりも、はるかに進んでいるのではない

かな...まあ、知っている人は知っているわけだが...」

「はい...そうした時代に入っているということですね、」

「うむ。日本が打ち上げた“科学探査機/はやぶさ(旧ミューゼスC)も、イオン推進エンジ

を搭載し、現在“小惑星/1998SF36”へ向かって、深宇宙を飛行している。この

日本の探査機は、小惑星の表面に何度か軽くタッチし、試料を地球に持ち帰る計画に

なっている」

「あ、そうなんだ!」マチコが言った。「日本も活躍しているんだ!」

「まあ、日本だって...“腐っても鯛だ!”と言うよりは...本来、技術大国なんだか

らねえ...政治や文化やモラルハザード等をキチンとすれば、当然21世紀の人類文

明をリードしていく国なんだ」

「うーん、そうよね!」

「さっきも言ったように、NASAは惑星間探査機のイオン推進システムを駆動する

宙船用原子炉を開発中だ。そしてまずこれを、木星氷衛星周回機JIMO/Jupiter 

Icy Moons Orbiter)に搭載し、10年以内に、木星へ飛ばす計画だ...

  これは、木星の衛星、ガニメデ、カリスト、エウロパを探査するものだが、例のエウロ

パの“内部海(詳しくは、こちらへジャンプ)で、地球外生命体の調査をするヤツだ。この木

第2衛星エウロパの、ツルツルの氷表面の下には、“内部海”があることが分っ

ている。そして、液体の水のある所には、生命が存在する可能性があるわけだ...

  ま、いずれにしても、この木星圏の探査計画に、原子力炉で駆動するイオン推進シ

ステムを使う事になるわけだ。まあ、例によって、こうした惑星間飛行システムにも、実

に色々なアイデアのものがある。が、しだいに幾つかのものに絞られていくと思う。そ

して、実際に、“小惑星タグボート”に搭載され、ミッションが動いていく...いずれ、こ

うした時代が、近いうちに、必ずやってくるわけだ...」

「はい、」響子がうなづいた。

「2002年3月18日に、地球に異常接近した小惑星“2002EM7”のように、いつ地

球に小惑星が衝突してくるか分らない。人類文明は、こうした小惑星の危険性を知っ

た事により、はるかな宇宙から来る危機と、恐怖...そうした悩みを抱え込んだわけ

だな...」

「うーん...はい...」

                                         

 

「さて、もう少し、この“小惑星タグボート”ミッションの、本質について話しておこう」

「あ、はい」響子が言った。

「まず、これらの小惑星は...いずれも...広大な太陽系空間を、太陽の引力に引

かれて、孤独な惑星軌道の旅をしているわけだ。そして、そうした小惑星表面は、天

文学的な年月の旅の中で、厚く塵が積もっていると考えられる。まあ、日本の“科学探

査機/はやぶさ”は、その塵や岩石のサンプルを取って来るわけだがね。小惑星の

表面や内部構造を知ることは、“小惑星タグボート”を固定する時に、非常に重要にな

ってくるわけだ」

「そうよね、」

「それから、さらに大きな問題がある。それは、こうした小惑星は、ロケットや矢のよう

に、真っ直ぐ前を向いて飛んでいるわけではないということだ。野球やサッカーのボー

ルのように、自然な状態でも、回転していると考えるべきだ」

「はい、」

「この回転している小惑星を、タグボートで押すには、多少細工をしてやらなければな

らない。“回転を止める”なり、“ひねる”なりして、加速や減速をできるようにすることが

必要なのだ。この“B612計画”では、そうした諸々のことが試されることになる」

回転...大きさ...」響子が言った。「形や表面の状況、...それに、内部構造

重要ね。一枚岩の硬い岩石なのか、他の小惑星などと衝突して、砕けているのか。あ

るいは、土砂なのか。それから、彗星のような氷を含んでいるのか...それぞれ対応

が違ってきますよね、」

「うむ...まさに、それぞれあると思う...

  しかし、地球生命圏に大被害をもたらすような小惑星は、いずれにしても、人類文明

の総力を上げて、排除しなければならない。“小惑星タグボート”は、そうした手段の1

つだということだな。それが全てではない...」

「はい、」

「イオン・エンジンのわずかな推力で...そう...5年、10年、20年、と押し続け、そ

の推力を蓄積して、数分のタイミングをずらすわけだ。まあ、非常に地味な技術だ。し

かし、確実なのだ。したがって、少なくとも10年ぐらい前には、問題の危険な小惑星を

発見していないと、使えない技術ということになる」

「はい」響子が、うなづいた。「そうした、早期の発見は、可能なのでしょうか?」

「現在、監視体制が整いつつある。まあ、将来的には、十分可能だ!

  しかし、宇宙空間からやって来る、絶滅の危機、あるすは超大型核爆弾なみの危

に対し、人類文明はようやくその対応に着手したばかりです。ともかく、できるだけ

早く、危険な地球近傍天体を発見すること。そして、その深宇宙へ到達する、確かな

宇宙技術を確立していくこと。まず、そうした基本技術の開発が求められるわけです」

「はい」

 

      lobby4.1119.1.jpg (2391 バイト)       

 

「ええ、マチコです...

  人類文明は、21世紀に突入しました。文明の進展と共に、人類は非常に多くのこと

を知るようになりました。そして、その分、心配事も増えてきました。宇宙からの脅威

などは、その典型ではないでしょうか...

  昔の人々は、こんな事を心配せず、歌い、笑い、自然を愛で、その生涯を送っていま

した。また、魚や小鳥や昆虫は、今もそんな事は気にせずに、その与えられた命を謳

歌しています。

  うーん、文明の進展で、便利になる事、多くの事を知ること...そのことが、心を豊

にし、幸せに生きる事とは、だいぶズレがあるような気がします。でも、宇宙への備え

も、重要です。私たちは、まさに、そうした時代に生きています...」