My Work Stationgroup B太陽系物理木星圏の探査第2衛星エウロパの生命探査

  木星の第2衛星

                 エウロパ 生命探査

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  トップページHot SpotMenu最新のアップロード          担当: 高杉 光一/折原 マチコ

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プロローグ 2000. 2.17
No.1   エウロパの概要 2000. 2.17
No.2  ラプラス共鳴 2000. 3. 9
No.3  南極のボストーク湖と、エウロパの海 2000. 3.13

 

                参考文献    日系サイエンス/2000年2月号

                                 エウロパの隠された海

                                                   R.T.パパラルド/J.W.ヘッド(ブラウン大学)

                                               R.グリーリー(アリゾナ州立大学)

  プロローグ      house5.114.2.jpg (1340 バイト)      h2.9124.3.jpg (1855 バイト)wpeC.jpg (18013 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「ええと、塾長...」マチコが、超ワイド・モニターの方に歩み寄って言った。「今回は

木星の第2衛星エウロパの話になるわけですが、この衛星は何か特別な意味があ

るのでしょうか?」

「うむ、ある...」

 

  高杉は、壁全体の大型モニーターに映し出されたエウロパの画像の前に立ち、し

ばらく考え込んでいた。企画室の里中響子がセットした大型液晶スクリーンは、まる

で映画館の大画面のようだった。しかもこれは、コンピューター・ターミナルになって

いる。いまのところコンピューターの能力はたいしたものではないが、いずれ強化す

ると言っていた。

  さて...ここに映し出されている木星の第2衛星エウロパは、ガラスのビー玉の

ような天体である。固体質の、類例の無いツルリとした水色の衛生なのだ。その中

央部には、焦げたような茶色のシミが広がっている。また、このなめらな球面には、

綿か糸クズ、あるいは引っかき傷のようなものがが無数に見える。なぜこのような衛

星表面が出来あがったのか...

  おそらくそれは、このエウロパという天体全体が海で覆われていて、その海が凍

ったものと考えられている。ツルリとした表面と、そこにある細かな無数の傷は、ほ

ぼ間違いなく、氷の表面にできたひび割れが再氷結したものである。たぶん、木星

を周回しながら、潮汐力によるひび割れと再氷結が、天文学的な規模で繰り返され

てきたのだろう...

  いずれにしても、21世紀を迎え、太陽系はすでに直接探査の時代に入っている。

この木星の第2衛星のエウロパも、推測よりも具体的観測事実として、現在もガリレ

オ探査機による解明が進んでいる。高杉は、画像を切り替えた。木星を大きく周回

する画像から、太陽系の中心部の方を眺めた。

  それにしても、木星軌道は約5天文単位にある。1天文単位の地球から探査に出

かけるのは容易なことではない。現在、木星へ向かう探査機は、地球や火星、ある

いは金星の重力を利用するスイングバイという方法で加速度を得ている。これは惑

星にギリギリまで接近して行き、軌道を急カーブさせると、惑星の重力によって弾き

飛ばされる。これによって探査機の推進力を重ねて行くのだ。ちなみに、木星探査

機ガリレオは、地球と金星をスイングバイして木星に到達している。

  しかし、こうした寄り道は探査機の日程に制限を加え、さらに距離を遠いものにし

ているわけである。ごく大雑把な計算だが、将来原子力・ロケット・エンジンやイオ

ン・ロケット・エンジンが投入されてくれば、木星へは2年程度の旅になる。この場合

は、スイングバイはせずに、強力な推進力で直接木星軌道に送り込むわけである。

しかし、往復で4年の旅となれば、やはり大航海、大冒険になる。原子力ロケットや

生命維持システム、強力な観測機材などを考えれば、まさに全人類的な規模で推

進しなければならないだろう...

  太陽系空間に乗り出す人類文明にとって、木星までの道程がいかに遠いものか

が分かるというものである。そして、これが土星となると、片道だけで3年から4年に

なってしまう。ただし、将来的には、こうしたロケット・エンジンを越える、新たな技術

革新があるのかもしれない...

 

  高杉は、腕組みをとき、ゆっくりとマチコの方を見た。それから超ワイド・モニターを

操作するコンソール・テーブルの方へ体を移した。

「...木星の1番内側の衛星は、イオという。そして、今ここに映っているのは、内

側から2番目の第2衛星、エウロパだ」

「はい、」

「うーむ...ま、大きさは、ちょうど我々の月ほどだな...それから、このエウロパ

の外にはガニメデが回っている。そして、その外側に、カリストがある。これらの木星

の衛星を発見したのは、あの望遠鏡を発明したガリレオだ。したがって、この木星

の4大衛星のことを、別名でガリレオ衛星ともいう。ちなみに、木星には、合計で16

個の衛星がある」

「はい」

「まあ、発見されたのはガリレオの時代だから、相当に古いわけだ。ところがだ、最

近このエウロパに、生命がいる可能性が出てきた」

「生命がですか?」

「ああ...ま、可能性だ。もしかして、その可能性が有るや無しやということだ。ま

ず、表面は硬い氷に覆われているが、その氷の下に液体の海があると考えられて

いる」

「ふーん、海ですかあ...」マチコは後ろで両手を組み、見上げるように壁の大型モ

ニターを眺めた。

「ま、木星からだと、太陽ははるかに遠い...ほとんど光の届かない暗く冷たい海

だ」

  ミケがマチコのそばにやって来た。マチコの脚に頭をこすりつけた。マチコは、ミケ

を片手で拾い上げ、両手で胸に抱いた。

「21世紀初頭から本格的なの惑星探査時代が始まる。ま、その最大のテーマが、

地球生命圏以外にも、生命が生息している場所があるかどうかということだ。また、

過去に、この太陽系で、地球以外の場所に、生命が発生した痕跡が残っているか

どうかということだ。そのために、きわめて慎重な惑星探査が開始されているわけ

だ。投入される観測機材に、もし地球のDNA型のウイルスやバクテリアが付着して

いれば、それだけでその環境は汚染されたことになる。惑星や衛星の開発は、その

次の段階ということになる」

「はい...それじゃあ、火星探査もそういうことで、」マチコは、ミケの頭を撫でた。

「うむ、」高杉は、うなづいた。「人類にとって当面最も関心が高いのは、生命体は、

この私たちの地球圏以外の場所にも生息しているかどうかということだ。そして、も

し他の場所にもいるとすれば、何処に、どのような環境下で生活しているのかだ。ま

た、それは私たちと同じように、DNAタイプの生命体なのか。それとも、DANとは

全く異なる系統の生命体なのかということだ。どっちにしても、大問題だが...」

「うーん、色々あるのね...」

「さらに細かく言えば、そのタンパク質は私たちと同じようにL型(タンパク質には、L型とR型

がある。生命体のタンパク質は、ほとんどL型と言われる。)なのか。エネルギーはどのように新陳代謝

しているのか。それはどのぐらいの生命圏を形成しているのか...その興味は、ま

さに尽きるところがないだろう。むろん、対象は太陽系内部にとどまるものではない

がね」

「太陽系の外には、私たち以外の生命体はいるのかしら?」

「うむ。いると思うがね。銀河系空間にまで拡大すれば、我々以外にも生命体は必

ずいるだろう。さらに、その生命体が私たちのように文明を形成するレベルにまで達

していることを想像してみれば、まさに壮大なロマンが広がる。人類文明も、有史以

来たかだか1万年前後だ。このぐらいの時間で、その星の重力圏を脱出できるわけ

だ。こう考えてくれば、宇宙に乗り出している知的生命体も、そうとうにあるのではな

いかな。ただ、文明の寿命というものはどのくらい続くものかという、不確定要素は

あるがね」

「どのぐらい続くんですか?」

「うーむ...つまり、その推計が難しいわけだ。文明が崩壊する危機は、それこそ

無数にある。細菌、核兵器、食料、種のDNAの衰退...いずれにしても、我々は

まだたかだか人類文明自身のことしか知らない。人類の中での国家や種族の興亡

は歴史に刻まれているが、生態系の中での“種の新陳代謝”は、この生命圏の多様

性の問題だ。シーラカンスカブトガニのように、生きた化石といわれるような種も生

存しているわけだから、単純な速度で計れるものではない。しかも、文明となると、

DNAとは別のレベルの文化やテクノロジーの要素も入ってくるわけだ。それに、アク

シデントもな...」

「面白そうね...そんな風に推計できるのかあ...本当に、エウロパに生命体は

いるのかしら?」

「うーむ...もし、太陽系の各所で、生命が発現しうるものなら、その証拠が欲しい

な。仮に、DNA型のものなら、その経歴が調べられる」

「うーん...」マチコは、ミケを下におろした。「はたして、いるのかしら?」

「ま、生命体は、奥が深い。分かってくれば、ますます簡単には発現し得ないように

思えてくる。そんなことは、不可能のようにも見えてくる...が、しかしだ、まさに我

々が、ここに、こうして存在しているわけなんだ。ここが、肝心な所だ」

「そうねえ...山へ行けば、草や木はやたらに生えているわねえ...どうして、こん

なに高度で面倒なシステムが、無意味に暴走しているのかしら...」

「まあ、無意味とは言えない。つまり、それが生命圏を形成しているわけだからな」

「そうかあ...」

 

 

 <1> エウロパの概要       

 

「さて、エウロパだが、この氷に覆われた木星の第2衛星は、太陽系内で生命が存

在しそうな最有力な場所の1つだ。表面温度は、赤道付近で絶対温度110K

(−163℃)、両極域では、絶対温度50K(−223℃)。このエウロパのツルリとし

た表面は、硬く冷たい岩石のような氷だということだ。ところが最近、このエウロパと

いう天体の最大の特徴は、実はそのツルリとした表面よりも、その下の内部にある

らしいことが分かってきた。というのは、その硬い表層の下に、比較的暖かい“流動

する氷”“液体の海”があるらしいと推定されるようになった。しかも、液体の海が

存在するとすれば、そこには生命が存在する可能性がある」

「うーん...高杉さん...このエウロパは、氷だけでできているんですか?つまり、

かき氷みたいに?」マチコが聞いた。

「いや、エウロパも、その主成分は岩石だ。中心部は鉄のコアで、その外側に岩石

マントルがある。海と氷の地殻は、その外側を薄く取り巻いているだけだ。しか

し、ともかく大量の水があったわけだ。だから、表面はツルリとして、陸地が無い。そ

して、その海の表面に、卵の殻のような硬い氷の層ができているわけだ」

「うーん、地球と似ていないかしら、」

「うむ...ま、岩石のマントルがあるといっても、放射性元素の崩壊で発生する熱

放出はもう無い。ちょうど地球を周回する月と同じだ。すでに冷たくなった、死んだ天

体と考えていい。ただ、このエウロパも第1衛星のイオと同じように、木星からの強

力な潮汐力を受けている。つまり、この潮汐力で、衛星そのものがかなり激しく変形

し、その繰り返しによって内部発熱が起こっているようだ。まあ、イオのように火山が

噴き出すほどではないにしても、かなりの発熱があることは十分に考えられる。つま

り、この熱量によって、液体の海が存在し、生命も存在しているのではないかという

わけだ」

「もし生命が存在していたら、それはどんなものかしら?」

「うむ。ま、この程度の生態系では、ごく単純な生物に限定されるだろうな。地球のよ

うな、巨大生命圏の大型生物とは比較にならん。ま、単細胞の微生物でもいたら大

したものだ」

「はい」

「しかしな、何と言うかな...この我々の存在している世界というものは、かなりドラ

マチックな構成になっているようだ。何故かは分からんぞ...何故かは分からん

が...我々が想像するよりは、かなりダイナミックなものになって行く傾向があるよ

うだ...特に、宇宙においてはだ」

「何故かしら?」

「そう言われると、難しい話になってしまう。ま...ロマンということだな」

「はい...」

 

 

                                                                                                                  (2000.3. 7)

 <2> ラプラス共鳴              

 

「さて、木星の潮汐力による内部発熱についてもう少し詳しく話しておこう」

「はい、」マチコは、ノートパソコンを引き寄せ、手早く操作した。

「木星のガリレオ衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストの4つの衛星)のうち、イオ、エウロパ、ガ

ニメデの、3つの衛星の公転周期の関係には、ラプラス共鳴という特殊な関係が成

立している」

「ラプラス共鳴ですか?」

「そうだ。これは、1番内側のイオが木星の周りを4回公転する間に、エウロパは

、ガニメデは1回公転することを指している。この関係は、まるで時計で測ったよう

な正確さで噛み合っている。何故こうした関係になったかというと、つまり、この3つ

の衛星の公転運動は、共鳴し始めたからだ」

「うーん...共鳴か...」

「しかも、こうした公転周期の共鳴の結果、重力的な押しと引きの力の作用がおこ

り、3つの衛星軌道は次第に歪んでいってしまったと推定される、」

「歪む?」マチコは、小首をかしげた。「それは、どういうことかしら?」

「つまりだ、これらの衛星はだな、現在のような細長い楕円軌道になってしまったと

いうわけだ。そしてこの楕円軌道が、まさに衛星を押し潰し、引き伸ばす、恒常的な

内部発熱を起こす要因になっているというわけだ。月の引力が海水を引っ張るのを

潮汐力というが、ここではそのスケールが桁違いに大きい」

「はい...それが、半永久的に続くということね」

「そういうことだ。この木星の重力システムが、バランスを失うまでだ」

  マチコは、アローンスタンドのコンソール・テーブルの方へ歩み寄り、超ワイド・モニ

ターの画像を木星の大画面に切り替えた。燃えるようなオレンジ色の巨大惑星の上

に、目玉のような不気味な大赤斑が迫った。その、大迫力の木星の表面に、ポツンと

丸い点が浮かび上がっている。木星と同じピザのような色合いからして、第1衛星

のイオのようだ。この衛星は、内部発熱が岩石の融点にまで達していて、現在でも

火山活動がある。一方、第2衛星のエウロパの方は、水色を基調にしたの氷の衛

星である。

  マチコは、木星の画像をスーッと急速に遠ざけていった。そして、4つのガリレオ

衛星すべてを壁面のスクリーンに映し出した。(木星には合計16個の衛星がある。)

  高杉は、腕組みをし、マチコの操作する大画面の木星を眺めていた。

「さて...木星で目に付くのは、この目玉のような大赤斑だ...それにしても、この

太陽になりそこなった惑星は、白いガスの流れも不気味だ...それに、無数の渦

巻きも、まさに不気味だ...」

「塾長、」

「何だ?」

「どうして、木星は太陽になれなかったんですか?」

「おう、そのことか...つまり、それは、質量の集中が少し足りなかったからだ。も

う少し木星に質量の集中があれば、その自らのガスの重力圧力で中心部が超高温

になり、核融合の火がついていたからだ。つまり、第2の太陽になったはずだという

わけだ。しかし、現実にはそうはならなかった。そしてそのことは、地球生命圏の環

境を現在のものにし、ここに知的生命体による地球文明を育んだというわけだな」

「そうかあ、」

「それにしても、膨大な質量だ」高杉は、宇宙の闇に浮かぶ木星を、じっと見つめて

いた。

「この大赤斑は、どのぐらいの大きさなんですか?」

「このサイズから計算して、この中に地球がすっぽりと呑み込まれると言われる」

「うーん...この中に地球が入っちゃうのかあ...木星は大きいのねえ、」

「ああ、」

「質問いいかしら?」

「うむ、」

「外から見ているだけで、どうしてエウロパに海があるなんて分かるのかしら?」

「そうだな、その説明もしなくちゃならんな...」高杉も椅子から立ち上り、超ワイド・

モニターの前へ歩いていった。「それはまず、ガリレオから送られてくる、微妙な重

力データの分析などから分かる。これは、ガリレオ自体が受ける楕円軌道の微妙な

重力場の歪が、ガリレオが地球に送り出す電波の周波数のズレになったりするわけ

だ。そして、地球ではそれを、太陽系、木星圏という天文学的な場で解析していくわ

けだ。途方もない作業だということが分かるだろう。しかも、微妙なものだ」

「うーん...でも、スーパーコンピューターとかを使うんでしょう?」

「もちろんだ。そうしたものを最大限に使っても、大変な作業だということさ。しかし、

そうした成果として、エウロパの平均密度、中心部の鉄のコア岩石のマントル、そ

して氷地殻の厚さ等が推計されてくる。もちろん、氷地殻という概念には、液体の海

も含まれる。

  ちなみに、この氷地殻の厚さは、80kmから170kmの間といわれている(約100k

mという値が最も近いらしい)。いずれにしても、本格的な調査はこれから始まるわけだ」

「塾長、やはりエウロパの海も、私たちの海のように塩辛いのでしょうか?」

「うむ、どうやらそうらしい。かなり高濃度の塩水だという仮説が支持されているよう

だ。さて、このあたりで、小休止といくかね」

「あ、はい」

 

h2.9124.3.jpg (1855 バイト)<Tea Time>              wpeC.jpg (18013 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

「Pちゃん!」マチコが、片手を上げ、P公に声をかけた。「お茶をお願いね」

「うん...」

  P公は、すぐにワゴンの方へ走っていった。それをチュー・2と一緒にマチ

コの所まで押してきた。

「じゃ、入れてくれる?」

  P公は、チュー・2と一緒にお茶の用意をした。それをワゴンからテーブル

の上に載せた。

「ありがとう...もうPちゃんも一人前ね。今日はサンドイッチかあ」

「響子さんが用意してくれたんだ...」P公が言った。「まだ、自分じゃ作れ

ないから」

「そう...」マチコはサンドイッチに手を伸ばした。「頑張ってね」

「うん...」

 

    wpe56.jpg (9977 バイト) house5.114.2.jpg (1340 バイト)    

                                                   

   高杉は、黙って茶碗を取り、茶を一口すすった。

「もうじき桜の季節ね」マチコもお茶をすすった。「でも、塾長、今年は色々

ありそうですね。総選挙があるし、アメリカでも大統領選挙だし、」

「そうだな、」

「それに、オリンピックもあるし。それから、20世紀最後のカウントダウン」

「世紀末と言っても、単なる時代の通過点だと言う人もいるが、やはり人類

文明全体から見ても、ひとつの大きな節目になるようだ。世紀末から新世

紀へかけて、実質的にも世の中がガラリと変わりそうな雰囲気だ。何といっ

ても、壮大な情報革命が定着しつつあるように見える」

「ええ。政治はどうかしら?」

「日本の政治も、やはり変わらざるを得ないだろうな。これは私の領分の話

ではないがね」

「ガラリと変わるかしら?」

「うーむ...その前に、国民のほうが変わり始めている。このままでは、こ

の国がダメになると思い始めている。政治はまだ掛け声ばかりでそのこと

に気付いていないが、いずれは気付くはずだ。そうでなければ、国民が承

知しないだろう」

「そうかあ、」

                           house5.114.2.jpg (1340 バイト)wpeC.jpg (18013 バイト)           

 

 

                                                                                                                    (2000.3.13)

 <3> 南極のボストーク湖と、エウロパの海     

                   参考文献: 日系サイエンス/2000年2月号

                                  <“エウロパの隠された海”のなかの囲み記事>

                                         南極ボストーク湖とエウロパ内部海の直接探査計画

                                                F.D.カーセイ/J.C.ホーバス  (ジェット推進研究所)

 

ボストーク湖             

              

「これまで話してきたように、エウロパの内部海は、極低温の氷地殻の下にある」高

杉は、壁面の大型モニターの前に立ち、レーザー・ペンの赤い点で円を描きながら

言った。「この状況は、南極大陸の氷の下に眠っているボストーク湖の状況が最も

よく似ているといわれる。マチコ...南極大陸の画像を、」

「はい...」マチコは、今度はテーブルの上のコードレス・キーボードを引き寄せ、モ

ニターに南極大陸を映し出した。

「うむ、」高杉はうなづいた。南極大陸の中央よりやや東の位置に、ボストーク湖が

青いシミのように表示された。

「やはり、かなり大きいわねえ...」マチコが、ボストーク湖のデータを表示しながら

言った。「広さは、アメリカの五大湖のひとつ、オンタリオ湖に匹敵か...ええと、日

本の琵琶湖の30倍に相当...うーん...水深は百数十メートル...相当に深い

のかしら...」

「ま、湖としては深いだろう...さてと...このボストーク湖は、この名前が示すよう

に、ロシアの南極観測基地/ボストーク基地の真下にある。このあたりの氷床の厚

さは約4km...うーむ、ボストーク湖は、まさにこの膨大な量の氷で密封された形

になっているわけだ」

「湖には、氷の重量がかかっていているわね。水圧が高いのかしら?」

「うむ。そういうことだ。このボストーク湖の発見は、1970年代に、航空機のレーダ

ー探査によって発見されているようだ。いや、まて。それよりも以前に、当時のソ連

南極観測隊による地震波探査にひっかかっているようだ。これはつまり、爆薬のよう

なもので人工地震を起こし、地震波の伝わり方で南極大陸の地下構造を調べたわ

けだ」

「驚いたでしょうね」

「うむ。ま、色々な角度から確認されていったわけだろう。それから...うーむ...

現在に至ってもなお、厚い氷を破って、その氷下湖に到達した者はいない、か...

ま、ざっとこんなところだな」

「塾長、どうしてこんな4kmもの厚い氷床の下に、湖が出来たのでしょうか?」

「うむ。いい質問だ。南極大陸には、実はこうした氷の下の湖、つまり氷下湖という

のはいくつも観測されている。ただ、このボストーク湖は、それらの中でも桁外れに

大きいので有名なのだ。それから、何故氷下湖が出来たかということだが、ホットス

ポットや火山等の熱源が考えられる」

「そうかあ、地球内部からの熱ですか」

「ああ。むろん、地形も関係するがね」

「はい、」

  マチコは冷めた茶を一口飲んだ。ミケが、ヒョイとマチコの膝の上に跳び乗った。

      house5.114.2.jpg (1340 バイト)    

「さて、このボストーク湖の氷の厚さと、エウロパの氷地殻の厚さは、ほぼ同じぐらい

だと推定されている。しかし、エウロパの重力は地球の約1/7。氷の重量としては

当然エウロパの方が相当に軽くなる。しかし、それ以外の点では、ボストーク湖とエ

ウロパの内部海とは非常によく似ているといわれている」

 

 

ボストーク湖とエウロパの内部海を、同じ手法で探査!       

 

「さあ、そこでだ、この数百万年にわたって密封されてきた、学術的にもきわめて貴

重なボストーク湖の探査と、エウロパの内部海の探査を、同じ手法で進めようという

壮大な計画がある。これは時代にマッチしたもので、双方の研究を進めている科学

者にとっては、それぞれ計り知れないほどのメリットがあると思われる。予算面、技

術開発面のメリットに加え、エウロパへ送り込む探査ロボットの性能を、ボストーク湖

で事前に試すことが出来るわけだ。むろん、この時点でもさまざまな改良や開発が

加えらるだろうし、信頼性も格段に向上するだろう」

「はい、」

「木星圏は、すでに我々人類文明の直接探査の領域に入っている。したがって、こ

うした本格的な探査計画も、遅かれ早かれ確実にやってくるわけだ」

「はい...」

 

 

探査ロボットのペア・・・/“クライオボット”と“ハイドロボット”

 

「ジェット推進研究所では、ウッズホール海洋研究所とネブラスカ大学と協力して、2

機1組の探査機の研究を開始している。1機は“クライオボット”といって、厚い氷を

解かしていくものだ。エウロパでは、赤道付近でさえ表面温度は−163℃だ。我々

の感覚で、薬缶の熱湯をかけたくらいではどうにもならない。つまり、解けたそばか

らすぐに凍り付いてしまうからだ。

  したがって...つまりこういうことなのだ。南極のボストーク湖の探査において

も、最初から極寒で低重力の、エウロパの内部海を想定して探査機を動かしていく

ことになる。もっとも、重力のきつい地球の方が、負荷が大きい部分もあるが、」

「熱源は何になるのかしら?」

「うーむ...分からんな。ここにはそうしたデータは載っていない。ただ、これは私の

推測だが、原子力電池が使われるかも知れんな。木星探査機ガリレオ土星探査

機カッシーニでは、エネルギー源として原子力電池を搭載している。これはプルトニ

ウム238の放出する崩壊熱を利用しているわけだ。本質的に小型で、この程度の

ロボットには具合はいいだろう。しかし、何といってもプルトニウム238は放射性が

高い。生命探査ロボットに向いているかどうかとなると、どうかな...」

「放射能の環境への影響もあるわけですか?」

「うーむ...これ以外の強力な熱源となると、何があるかな?探査船本体からマイ

クロ波やレーザー・ビームを受けるとか...しかし、いずれにしても、探査ロボットを

木星圏へ送り込むとなると、きつい重量制限がある。もう1機の生命探査を行う“ハ

イドロボット”の方も、相当な水圧を覚悟しなければならないが、これもまた重いもの

では困るわけだ」

「うーん、そうかあ...」

「ま、技術的に超えなければならない壁もあるようだ。木星圏へ送り込む探査船も、

原子力ロケットになるのかどうかというような問題もある」

「ふーん、原子力ロケットが可能なんですか?」

「うむ。ま、可能性は高いだろう。この手法によるボストーク湖の探査は、早くて

2003年といわれる。そして、エウロパの探査はそれから10年後と推定されてい

る。その頃になれば、原子力エンジンを搭載した木星探査船も、実用段階に入って

くるかも知れない。これなら、地球の引力圏から離脱して、寄り道なしで木星へ直行

できるわけだ。つまり、火星や金星の重力を利用するスイングバイは、必要なしとい

うわけだ。これだけでも、ずいぶんと時間と距離を短縮できる」

「ふーん。その頃には、本格的になるのね。でも、エウロパに、生命の痕跡は見つ

かるのかしら?」

「これまでの人類文明の知識から言えば、生命が存在するのに必要なものは、エネ

ルギー炭素の3つだけだという。エウロパには、一応このすべてが備わってい

るということになる。まあ、いずれにしても、この“水”の存在というのは重要な要素

だ。そして、宇宙にはこの水というのが意外と多くあるようだ。氷が主体でできてい

る彗星やカイパーベルト天体、地球の海やエウロパの海。それに、木星の第4衛星

のカリストにも内部海の存在の可能性が出てきている。こうしたことから、他の大型

氷衛星にも、すべて内部海の可能性や痕跡があるのではないかという話にもな

るわけだ。いずれにしても、太陽系における地球圏以外の生命体の可能性や痕跡

は、そう遠くないうちにはっきりしてくるだろう。地球生命圏以外で、生命が存在する

にしても、存在しないにしてもだ」

「うーん、大きな話になるわね」マチコは、ミケの頭をひと撫でした。

「21世紀は、太陽系における大航海と大冒険の時代になる。あのコロンブスの新大

陸の発見や、ヴァスコ・ダ・ガマの地球一週時代のようにな」

「人間も行くんですか?」

「ああ。無人探査の次は、直接探査になる。まずは火星あたりに有人探査船が送り

込まれるだろう。それから、火星基地の建設だ」

「うーん、21世紀かあ、」マチコはミケを持ち上げ、肩の上に乗せた。

「さて、エウロパについては、次の新展開を待つとしようか」

「はい」

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