「もうこれ以上大都会にはいられない」
           「南の島で自由に生きるんだ」

           そんな無責任な手紙を一枚残して、
           が家出をしてから5年が過ぎた。







DIGITAL BLUE SKY

(インターネット版)
BY 水野浮人





December, 202X.

Tokyo

         その後、南方からの手紙が一度届いたのみで、
         連絡は途絶え、今では生死すらもわからなくなった。
         も最近ではあきらめているようだ。

ざわ ざわ ざわ

         ときおり、都会のざわめきの中で、
         父の声が聞こえたような気がする。
         それは、錯覚だとはわかっているが。

         5年も経つのに父のことが忘れられないのだ。
         あんな、を捨てた父のことを!

「死んだって、絶対に許してなんかやるものかー。」

そう叫びたい気分だ。




          12月の町では、新作のHCD(ホログラムCD)
          の宣伝であふれている。

          それは南国の景色を映したものだが、
          こんな寒い都会で暮らす人にとって、
          映像の中だけでも暖かく自由になりたいのだろうか?

          友達のマサルの家でそのシステムを
          買ったというので、見に行くことにした。

          「やあーマリエ、いらっしゃい」
          マサルは優しく迎えてくれる
          「相変わらず何にもない部屋ね」
          つい憎まれ口を言ってしまう、
          私の悪いくせだ


          「じゃーんついに買ったよニューHCD,
          『南国でGO!』」

          「最新作だよ、いいだろー?
           そういえば、マリエのお父さんも
           この南国シリーズのファンだったよな」

      「父のことは言わないで!」

          つい、声を荒げてしまった。
          父親のことを言われると、
          感情的になってしまうようだ。

          「思い出すだけで腹が立つんだから
           あんのークソおやじー」

          「・・・しかし、よくそんなに怒りを持続できるなあー」
          「そりゃそうよ、忘れるもんですかあの仕打ち
           絶対忘れないために、写真を常に持ち歩いてんだから」

          「・・・(汗)」



          「マ、マリエも大変だよな、お父さんの今いる場所どころか
           その生死さえもわからないんだものな。」

          「見つけたら絶対いじめてやるー!」
          「じゃ、じゃあHCD始めるよ」
          マサルはそう言ってスイッチを入れた。
          カチリと音がして、まず部屋が一瞬、真っ暗になった。
          そしてすぐに映像が部屋中をつつんだ。













 



          「きっれーい」

          なんだか暖かさまで感じるようだ。
          (これなら流行るわけだよね)
          ちょっと幸せな気分になった。

       


  

         「チャンネル変えるよ」
         マサルはそう言って次々とボタンを押していった。

          目まぐるしく変わる画面に、ちょっと驚いたけど
          ひとつ一つの映像は、それは美しく、とても
          ゆったりとした、優しい気持ちになれた。

          「はあー、いいなあ。こんな所に住めたらいいなあ」
          「そうだね」
          マサルもそう思っているようだった。





          ひとしきり映像を楽しんだ頃、ある箇所に気がついた。
          (まさか、まさかとは思うけど)
          なんだかその箇所がすごく気になりだした。

          「ねえこの映像って、拡大できる?」
          「えっ、できるけど」
          「じゃ、ここ、ここを拡大して」
          私はその箇所を指さした。
          マサルは拡大のボタンを押した。

  パッ

         「もっと、もっと大きくして!」
         「これ以上拡大したら、画像が荒れちゃうよ」

       「いいからお願い!」

  パッ

「もっと、もっと大きく!!」


(まさか、まさか?)
なんだかドキドキしてきた。
ドキ ドキ ドキ

「もっと、もっと大きくしてー!」
ドキ ドキ ドキ ドキ
(やっぱり、やっぱりこれはー)

  パッ

「お父さん、お父さんだ!」

「えっえっ、まさかー?」

「ううん、わかるの!お父さんだよ!」






          海水浴をしているのだろうか
          大勢の人が海の中で遊んでいる映像のアップだ。
          乱れた画像だが、その中の一人は
          確かにお父さんのように見えた。


         「お父さん・・・生きてたんだ・・」

         「まさか・・そんな・・」
         マサルは半信半疑で近づいてくる。
         映像を覗き込み、私の肩に触れようとして
         ハッとして、マサルは言った。



         「・・マリエ?・・おまえ」



 
 
         なぜだか、涙があふれてきて止まりませんでした。

         流れた涙が床に落ちて、映像にノイズが入りました。
         ノイズでゆがんだお父さんの映像は、
         何だか笑っているように見えました。







END


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