電子計算機使用詐欺/コンピュータ犯罪に関する刑法改正

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2015.6.2mf
弁護士河原崎弘

【電子計算機使用詐欺】
第246条の2(電子計算機使用詐欺)
前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

昭和62年6月新設

規定の位置および立法趣旨から見て、保護法益は、個人的法益である財産です。詐欺罪中の2項詐欺罪の特則と考えが多いです。「コンピュータを利用した取引の安全、コンピュータシステム自体の安全」とする学説もあります。

行為
  • 人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り
    コンピュータシステム内の電磁的記録を改変する行為
    拾得した他人のCDカードをATMに使用して自己の口座に振込む行為(従前、他人のCDカードを利用して現金を引出す行為は窃盗罪とされたが、振込みに使う場合は処罰する規定がなかったので、新設された)。
  • 財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供し
    犯人の手元にある虚偽の電磁的記録をコンピュータの処理に供する行為
    定期券などのプリペイカード不正使用。

電磁記録を書き換えて利得を得る詐欺罪です。
「虚偽の情報」とは、当該システムで予定されている事務処理の目的に照らしてその内容が真実に反する情報を指します。

窃取したカードを使用してサービスを受けた場合、本条に当たらない。
「虚偽の情報若しくは不正な指令」、「 財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供した」とはいえない。

盗んだ他人のキャッシュカードを使ってATMから、現金を取り出す行為は、電子計算機に虚偽の情報を与える点で類似の行為ですが、これに当たらず、窃盗罪になります。
【理由】
  • キャッシュカードやクレジットカードの磁気ストライプ部分は一定の事実を証明する記録にすぎず、財産権の得喪、変更にかかる電磁的記録に当たらない(山口厚)。
  • 「財産上不法の利益を得(財産上不法の利益)」の言葉は、財物に対する概念であるから、246条の2項の特則。 通説は、このような行為を窃盗罪として処理してきた。しかし、今後は、本状に当たるとの解釈は可能であろう。
判決例
  • 銀行の女子行員が、オンラインシステムの端末を操作して、自己の預金口座等に振替入金があったとする虚偽の情報を与え、同システムの電子計算機に接続された記憶装置である磁気ディスク中の同口座の預金残高を書き換えたときは、財産権の得喪・変更に係る不実の電磁的記録を作り、財産上不正の利益を得た場合にあたる(大阪地裁昭和63・10・7判決、判例時報1295-151)。
  • オンラインによる電信為替送金のシステムを悪用して、勤務先の電算機の端末から不正の振込発信をし、これと接続している被仕向(振込先)銀行の電算機に接続された磁気ディスクに記憶された預金口座の預金残高を書き換えた行為が電子計算機使用詐欺罪に当たる (東京地裁八王子支部平成2年4月23日判決、判例タイムズ734号249頁 )。
  • 本条にいう「虚偽の情報」とは、電子計算機を使用する当該事務処理システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報をいい、信用金庫の支店長が、情を知らない支店職員に命じてオンラインシステムの端末機を操作させ、振込入金等の事実がないにもかかわらず、自己の預金口座または自己の債権者の預金口座に入金させた場合も、「虚偽の情報」を与えたものである(東京高裁平5・6・29判決、高刑集46-2-189)。
  • 電話回線に接続したパソコンを操作して、エレクトロニック・バンキングサービスに虚偽の振込送金情報を入力する方法で、共犯者らの預金残高を増加させた行為は、銀行のオンラインシステムを介して財産上不法の利益を得た場合にあたる(名古屋地裁平9・1・10判決、判例時報1627-158)。
  • 国際電信電話会社の回線に通話料金が計算されないようパソコンで不正信号を送って国際通話を行い、電話料金課金システムの不実ファイルを作成して、国際通話料金の支払いを免れた場合には、電子計算機使用詐欺罪が成立する(東京地裁平7・2・13判決、判例時報1529-158)。
  • 窃取したクレジットカードの番号等を冒用し,いわゆる出会い系サイトの携帯電話によるメール情報受送信サービスを利用する際の決済手段として使用されるいわゆる電子マネーを不正に取得しようと企て,5回にわたり,携帯電話機を使用して,インターネットを介し,クレジットカード決済代行業者が電子マネー販売等の事務処理に使用する電子計算機に,本件クレジットカードの名義人氏名,番号及び有効期限を入力送信して同カードで代金を支払う方法による電子マネーの購入を申し込み,上記電子計算機に接続されているハードディスクに,名義人が同カードにより販売価格合計11万3000円相当の電子マネーを購入したとする電磁的記録を作り,同額相当の電子マネーの利用権を取得したものである。
    以上の事実関係の下では,被告人は,本件クレジットカードの名義人による電子マネーの購入の申込みがないにもかかわらず,本件電子計算機に同カードに係る番号等を入力送信して名義人本人が電子マネーの購入を申し込んだとする虚偽の情報を与え,名義人本人がこれを購入したとする財産権の得喪に係る不実の電磁的記録を作り,電子マネーの利用権を取得して財産上不法の利益を得たものというべきであるから,被告人につき,電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた原判断は正当である(最高裁平成18年2月14日決定)。

【電磁的記録の毀棄及び隠匿の罪】

第258条(公用文書等毀棄)
公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
第259条(私用文書等毀棄)
権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、五年以下の懲役に処する。

弁護士河原崎法律事務所ホーム刑事事件 > 電子計算機使用/コンピュータ犯罪に関する刑法改正 登録 1994.1.17
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