電磁的記録不正作出及び供用/コンピュータ犯罪に関する刑法改正

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2015.4.30mf
弁護士河原崎弘
 
刑法161条の2
人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 
前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。

  • 権利、義務に関する電磁的記録
    銀行の預金残高記録、プリペイカードの残高記録、自動改札定期券の残高記録
  • 事実証明に関する電磁的記録
    キャッシュカードの磁気ストライブ部分の記録
作出権限:私電磁記録の場合
  • 権限ある場合を含む
    「不正作出」との言葉が、公電磁的記録、私電磁的記録罪に共通なので、文書偽造罪とは異なる。
  • 権限をなくして作出する場合に限る
    文書偽造罪と同様と考える

昭和62年新設された電磁的記録不正作出及び供用した場合の罪です。
  1. キャッシュカード大のプラスチック板八枚の各磁気ストライプ部分に、オフィスコンピューター、実習用ATM等を用いて、「暗証番号」、「銀行 番号」、「支店番号」、「口座番号」等の順に、別表の「作出」欄記載のとおり、「八六○○」、「○○○三」、「○一二四」、「○○一三五七一」等を表す印磁をそれぞれして、同銀行の預金管理等の事務処理の用に供する事実証明等に関する電磁的記録をそれぞれ不正に作出し、現金自動預入払出機等を作動させ現金を取り出す行為は、私電磁的記録不正作出罪、同供用罪(これは平成13年の改正法以降は、支払い用カード不正作出等に該当するであろう)と窃盗罪との牽連犯である(東京地判平1・2・22、判例時報1308- 161)。
  2. 窃取したキャッシュカードから磁気ストライプ部分を複写、印磁し、別のカードを不正に作出したうえ、これを利用しててATM機 から現金を窃取したときは、私電磁的記録不正作出罪、同供用罪と窃盗罪との牽連犯である(東京地判平1・2・17、判例タイムズ700-279)。
  3. 連勝式勝馬投票券の電磁的記録を、的中馬券の内容に印磁・改ざんし、これを自動払戻機に挿入して現金を払い出させたときは、事実証明に関する私電磁的記録を不正作出、供用、窃盗の牽連犯である(甲府地判平1・3・31、判例時報1311-160)。
  4. 使用済テレホンカードの磁気情報部分に記録された通話可能度数を権限なく改ざんして通話可能とした行為につき、 作出されたカードの外観の異常を理由に、有価証券偽変造罪の成立を否定し、電磁的記録不正作出罪を認定した(名古屋地方裁判所平成5年4月22日判決)
  5. 東京高等裁判所平成2年11月28日判決
    テレホンカードの一部である磁気記録部分の通話可能度数を不正に改ざんすることは、有価証券の変造に当たる。
    テレホンカードをカード式公衆電話機のカード差し込み口に挿入して使用することは有価証券の行使に当たる。
    上記両者は電磁的記録不正作出罪、同供与罪にも当たる。
平成13年に支払い用カード不正作出等の規定が新設された。これは電磁的記録不正作出罪の特別規定です。そこで、現在では、上記 a , b , c のうち、私電磁的記録不正作出罪、同供用罪は、支払用カード電磁的記録不正作出罪および同供用罪になるでしょう。これと、電子計算機使用詐欺(第246条の2)の観念的競合ないし牽連犯となります。保護法益が異なるからです。


(支払い用カード電磁的記録不正作出罪は、 電磁的記録不正作出罪の特別規定です)
【支払い用カード不正作出等】  
第163条の2(支払用カード電磁的記録不正作出等)  
人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカードを構成するものを不正に作った者は、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録を不正に作った者も、同様とする。  
不正に作られた前項の電磁的記録を、同項の目的で、人の財産上の事務処理の用に供した者も、同項と同様とする。
不正に作られた第一項の電磁的記録をその構成部分とするカードを、同項の目的で、譲り渡し、貸し渡し、又は輸入した者も、同項と同様とする。


平成13年新設(161条の2の特別規定、同条よりも刑罰を重くし、処罰範囲を広げ、譲渡、貸渡、輸入、所持を罰した)
支払い用カードの不正作出した場合の罪です。



第163条の3(不正電磁的記録カード所持)
前条第一項の目的で、同条第三項のカードを所持した者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。


第163条の4(支払用カード電磁的記録不正作出準備)
第百六十三条の二第一項の犯罪行為の用に供する目的で、同項の電磁的記録の情報を取得した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。情を知って、その情報を提供した者も、同様とする。
不正に取得された第百六十三条の二第一項の電磁的記録の情報を、前項の目的で保管した者も、同項と同様とする。
第一項の目的で、器械又は原料を準備した者も、同項と同様とする。



  • クレジットカードを偽造する目的で、生カードを輸入などして準備しても処罰できなかったが、この規定の新設により処罰が可能となった。
    東京高等裁判所平成13年10月16日判決
    クレジット会社の登録商標に類似した商標を付した偽造クレジットカードを、本邦内で、これを用いて登録商標権者の役務提供を受ける目的で輸入する行為は、商標法七八条、三七条四号の輸入罪には当たらない。
対象のカードに含まれる・・・クレジットカード、預貯金の引出用カード、キャッシュカード

含まれないもの・・・ローンカード、生命保険カード、証券カード、量販店のポイントカード、マイレージカード

(不正指令電磁的記録取得等は、コンピュータビールス作成等を処罰する規定です)
【第十九章の二 不正指令電磁的記録に関する罪】
(不正指令電磁的記録作成等)
第168条の2
正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
前項の罪の未遂は、罰する。


  • ウイルス感染によって他人の業務に損害を与えたケースでは、電子計算機損壊等業務妨害罪、個人のコンピュータを壊した場合は器物損壊罪等で処罰できます。しかし、その前の段階のコンピュータウィルス作成、提供、所持等については、従前は、処罰できませんでしたが、この規定により、処罰することが可能になりました。


(不正指令電磁的記録取得等)
第168条の3
正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。



(わいせつ物頒布等)
第175条
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。



【電磁的記録を損壊し業務妨害をした罪】  
第234条の2(電子計算機損壊等業務妨害)
人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
前項の罪の未遂は、罰する。

ホームページの不正書き換えは、これにあたります。

福岡高等裁判所平成12年9月21日判決
パチンコ遊技台の電子計算機部分が刑法二三四条の二電子計算機損壊等業務妨害罪にいう「業務に使用する電子計算機」に該当しない。・・・
電子計算機損壊等業務妨害罪にいう「業務に使用する電子計算機」とは、それ自体が自動的に情報処理を行う装置として一定の独立性をもって業務に用いられているもの、すなわち、それ自体が情報を集積してこれを処理し、あるいは、外部からの情報を採り入れながらこれに対応してある程度複雑、高度もしくは広範な業務を制御するような機能を備えたものであることを要するものというべきであり、そ のような性能、実態を備えている電子計算機をいうものと解するのが相当である。立法担当者の解説にも、刑法二三四条の二にいう業務妨害罪との関係では、自動販売機に組み込まれたマイクロコンピューターは、販売機としての機能を高めるための部品にとどまるものであって、同条の電子計算機には当たらないとされ、これに該当しないものの例示とされているが、この点にも右の趣旨をうかがうことができる。・・・
結局、自動販売機の電子計算機部分と同様に、個々のパチンコ遊技台の機能を向上させる部品の役割を果たしているにすぎないと認められるから、刑法二三四条の二にいう「業務に使用する電子計算機」にはいまだ該当しないと解するのが相当である。
このようなロムやフラットハーネスの取り替えは、・・・刑法二三三条に定める偽計を用いた業務妨害罪の成立についてはこれを免れない。

登録 1994.1.17