「よみがえる暗闇バット」

 列車旅行に出かけているやまとね一行。鉄橋に差しかかったところで突然列車が急停車する。その一瞬後、爆発炎上する鉄橋! やじうまと化したたけるは、単身で鉄橋を見に行くが、ダイナマイトが仕掛けられていたことに気付いた途端、ナゾーの手下に捕まってしまった。たけるがいないままバックして現場を去る列車。「たけるさんがいないわ」と言うこうもり少女(マリー:以下こう もり少女)に、たけるの父であるやまとね博士は「大丈夫だよ。きっとどこかの車両に乗っているだろう」とさして根拠もなく自信たっぷりに言い放った。 一方、ナゾーが建設中の秘密基地では、幹部マゾが列車強奪に失敗したことを報告していた。列車には金の延べ棒が積んであったのだ。なぜ行楽列車に金 塊が? それはともかく、ナゾー基地建設の軍資金にぜひとも必要だったのに、き〜〜〜っと怒るナゾー。マゾは停まるはずがない場所で何故か列車が急停車したのです、と説明するがナゾーの怒りは収まらず、眼から発する怪光線で手下を消してしまった。冷や汗三斗のマゾは「その代わり手土産に」と捕まえたたけるを差し出す。このときたけるに付き添う屈強な手下は、どうみても頭がたけるの1/5しかない。10頭身の超ナイスボディだ。ナゾーは「やまとねの小倅」はどうでも良い、こやつと一緒にこうもり少女が列車に乗っていたに違いない、だから列車を停めたのは黄金バットであり、大事な計画がバッ トに勘付かれた恐れが十分にある、このままではマズイ、すぐさま「悪の徹底したガードマン」を探せ! と一気にまくしたてた。

 特命を受けたマゾは、なにやら「悪い人:人名録」のような書物を手に、小型艇で謎の城へと向かう。マゾには「悪の徹底したガードマン」に心当たりがあった。その名も暗闇バット。彼しかいない、と一人ほくそ笑むマゾ。謎の城ではいかにも悪そうな顔をした老婆がマゾを待ち受けていた。マゾは書籍と首っ引きで、そこに載っている人物と同じだとはしゃいでいる。「死者を呼び戻せる老婆だな」「老婆ではない、オセロじゃ」「わかったオセロ婆さん」「婆さんは余計だわさ」……どうやら老婆は年寄り扱いがお気に召さない ようだ。マゾは暗闇バットを蘇らせてくれ、と頼む。かつてアトランティス大陸で大暴れした「滅法悪い」骸骨だが、坊主を襲ったためばちが当たって一万年間眠らされていたらしい。なんだ、意外とへちょそうだ。以前にナゾーが一度蘇らせたものの、黄金バットに敗れて灰になったという。オセロは暗闇バ ットを操らせてくれるなら、と依頼を受けた。灰から蘇った者は普通の人間の言うことを聞かないそうだ。マゾは普通の人間か? と問い質す間もなく、 復活の儀式が始まった。突如吹き荒れる風。稲光が走り、雷鳴が轟いた。建物の中なのに何故? 直撃した落雷で崩れる魔人! だから建物の中なのでは? 揺らめく祭壇の炎をかき消すように暗闇バットが蘇った! 蘇った暗闇は開口一番「殺す!」とマゾに襲いかかろうとする。「待て、この人はお前の蘇生を頼んだ人だ」と言うオセロに「知ってる。こいつはナゾーの部下のマゾだ」と突き放す暗闇。「だがそんなことはオレに関係ない」。 開き直られても困るぞ、暗闇。

 灰から蘇った者は非常に凶暴で、蘇らせた魔力を持つオセロの言うことしか聞かないのだという。オセロから「灰に戻してしまうぞ」と脅された暗闇は、不承不承マゾを襲うことを止めるが、マゾの依頼が黄金バットを倒すことだと知ると「奴はまだ生きているのかっ」とまた興奮して黒いバトンを振り回し始めた。びびるマゾ。とにかく基地に連れ帰ることにする。一方、鉄橋爆破現場に立つやまとね博士とこうもり少女。「二日も探したのですが見つかりません」と報告する電鉄会社職員の言葉に、谷底はどうでした、と尋ねるやまとね博士。二日も経ってるというのに妙に冷静だ。金田一少年やコナン少年なら、事故の原因としてまずやまとねを疑うのではないか、と思われるほど取り乱していない。そんな外野の声には頓着なく、ダイナマイトが発見されたと聞いたやまとねは一連の事故をナゾーの仕業と断定する。「こうもりさん、たけるさんを守って」と相変わらず哀願調のこうもり少女。やまとねたちは事件の続報を待って麓のホテルに滞在することになった。その頃ナゾーの基地では、ナゾーが暗闇バットにオリエンテーションをしていた。どうやらナゾーの秘密基地は完成すれば直径2キロの大きさとなるのだが、今は半分だけできているらしい。 完成するまでに黄金バットに邪魔されないよう、ガードマンをやれ、というのだ。暗闇が「バカにするなっ」と断わると、ナゾーは暗闇バットを封じる呪文が刻まれた古代の遺跡を使うぞ、と脅迫にかかった。しかし、一度死んだ暗闇にはもはや効果のないしろもので、今や暗闇に言うことを聞かせられるのは、魔女オセロしかいないのだった。

 立場の弱くなったナゾーだが、オセロは「金が欲しいから打倒黄金バットに全面強力する」と確約。それを聞いてナゾーは胸を撫でおろし、「いいものを連れてきた」とマゾを誉めた。すると突然暗闇がバトンを振り回し部屋の一角にある太いパイプを引き千切った。途端に響き渡る聞き慣れた高笑い。黄金バットの登場だ! 「ろ〜〜んぶろぞ〜!」と一際高く叫んだナゾー! そのまま、すーっと姿を消す。なんだ逃げたのか、ナゾー。マゾもオセロも潮が引くように左右に散った。黄金バットに恨みを持つ暗闇バットは、全力で襲いか かる。激しい攻防の最中、物陰から覗くマゾが一本のレバーを手前に引いた。すると、バットの立つ床から白い煙が立ち上る。「バットの弱点は身体から水分がなくなることだ!」それはお前でもそうだろう、マゾ。「カラカラに乾いて死ね〜!」聞いてないな、マゾ。白い煙に取り巻かれ、カラカラになったようには見えないながらも、ばったりと倒れ伏すバットの背中にバトンを突き立て、とどめを刺す暗闇。よくやった、と小躍りしながら近づいて来たマゾを暗闇は「余計なことをするなっ、オレの実力で倒すのだ!」と突き飛ばした。倒すのだ、って倒れている人の背中を刺してから言う台詞なのか、暗闇? そこへ傍観していたオセロが割って入る。「無駄だ。お前は悪の執念で生きているが、バットは偉大なる力のために死ねない身体になっているのだ」と諭すオセロ。「なら、どうすればいいんだっ」と喚く暗闇に、きらーんっと目を輝かせてオセロは言った。「それはこの、オセロお婆に任せておけ!」。ちょっと待て。自分で言うのはいいのか、《婆》。

 オセロお婆は黄金バットの葬式を出すことにする。棺に納めて深海に横たえ、 封印の呪文を唱えるお婆。「これができるのはわしだけじゃわい」。口調まですっかり年寄りだぞ、お婆。地下牢から司令室へ連れ出され、バットの葬儀の一部始終を見せられたたけるに、ナゾーは言い放つ。「お前たちのたった一人の味方はもういない」。やまとねの味方はたったの一人だったのか。敵だらけだな、やまとね。「バットがいなければ、あの小娘など問題ではなくなった」。それは全くその通りだ。調子に乗ったナゾーは、たけるを生きたまま棺に入れ、 深海に眠るバットの棺の隣に安置させる。必死で棺の蓋を押し開けようともがくたける。もし今蓋が開いたら開いたで状況が改善されるとも思えないが、マゾによれば5分で空気がなくなるらしいので、たけるも必死なのだ。するともがくたけるの耳に「わたしがついている!」と声が響いた。そ、その声は! ところ変わってナゾー秘密基地では建設が急ピッチで進められていた。現場を視察しながらマゾはお婆に暗闇の居場所を尋ねる。「町へ暴れに行った」と 答えるお婆。暴れに行こうと町まで、出っか〜けた〜ら、バトンを忘れて愉快な暗〜闇。流石にゴングリ星人ではないので歌いはしないものの、基地警備の仕事も忘れて呑気なものである。警備をしてくれないと困る、というマゾにお婆は、「バットさえいなければ、基地の警備はマゾ様とその手下で十分」 とマゾのプライドを上手にくすぐってはぐらかす。その間、暗闇バットは電車を脱線させたりビルを壊したりコンビナートを炎上させたりと大暴れのし放題。「滅法悪い」という触れ込みは本当なのだ。

 事件の続報を待つやまとねが投宿している、その名も「HOTEL」の一室で、 向かい合って座るやまとねとこうもり少女。「たけるさんどうしてるかしら」と心配するこうもり少女に、やまとねは「心配してもしょうがない。この町の警察が探しているからそのうち様子がわかるだろう」と一向に慌てた様子もなく語る。「わたしたちも探しにいきましょうよ」と心配を募らせるこうもり少女を「それはやめた方がいい」と制するやまとね。実の親にしてはいやにドライだ。「たけるが急にここに帰ってきたら困るだろ?」とやまとねは言うが、 それが理由か? この宿は、事件後にチェックインしたのではないのか? なぜたけるは「HOTEL」を知っている? 「わたしはたけるが必ずここに逃げ帰ってくると思う」。なんでそう思うのだ、やまとね。相変わらず科学者とは思えない論理の飛躍ぶりだ。大体逃げ帰るってのはなんなんだ、やまとね。 その時窓ガラスを派手に破って、誰かが部屋に飛び込んできた。たけるか!? いや、暗闇バットだ。「黄金バットさん、助けて」とこうもり少女の得意技が炸裂する。しかし「バットは死んだ、たけるとやらと一緒にな!」という台詞に粉砕されてしまった。驚くやまとね。暗闇は、どーでもいいんだがナゾーへの土産にお前たちの命をもらう、と凄む。結構恩義を感じていたのか、意外と義理堅いぞ、暗闇。「覚悟しろ」と叫ぶ暗闇。こうもり少女は「こうもりさん、助けて」と、本命のバットがだめならキープのこうもりさんに鞍替えか? というような攻撃に転じた。こうもり少女の本領発揮だ。すると、なんと暗闇バットは黄金の紐にからめとられてしまったのだ!

 時を同じくしてナゾー秘密基地建設現場では、謎の事故が多発していた。マゾを呼びつけて「まだ完成しないのかっ」と叱責するナゾー。「頻発する事故で行程に遅れが」と説明するマゾだが、現場監督までやらされているとは不憫なマゾーだ。余程人手が足りないのだな……。スパイが邪魔をしているのでは、と言うマゾにガードマンたる暗闇の所在を尋ねるナゾー。「奴は警備の筈だ!」と不在に憤るナゾー。と、そこへ「なんだ、オレはここにいるぞ!」と暗闇が現われた。憤懣やる方ないナゾーは暗闇をバカ扱いし、暗闇がいなか ったがために誰かが工事の邪魔をしていると吠える。「そんなことはオレの責任じゃねぇ」と口汚なく答える暗闇。「見ろ、このざまを」と壊れた重機の様子をモニタで見せるナゾーに「オレのせいではないっ」とあくまで責任を逃れようとする暗闇。どうなってるんでしょう、とおろおろするマゾにナゾーの 指示が飛ぶ。「もしかしたら……棺を引き揚げろ!」 深海からサルベージされたバットとたけるの棺。おそるおそる蓋を開けたマゾは、深い眠りについたままのバットの姿を見て安心する。取り越し苦労だったか、と笑うナゾーは、念のためたけるの棺も開けさせた。だがそれは空っぽ……。「いないっ、たけ るが消えた!」叫ぶマゾ。「なに! 早くバットの蓋を閉めろ!」蓋をすぐ閉めたら大丈夫なのか、ナゾー? オセロお婆は手際良く部屋の扉を閉めて回っている。「さっきやまとねのところに行ったが、たけるはいなかった。よし、もう一度行ってくる!」と出かける風情の暗闇を、オセロお婆が呼び止めた。 「お待ち。お前は暗闇ではないな!」

 「えっ」と驚くナゾー。「えっ」と驚くマゾ。「他の者は騙せても、このお婆は騙されぬ」また自分で言ってるぞ、お婆。お婆はバットの棺を蹴飛ばしてこれは泥人形だ、と罵る。泥人形だったのか。いい造形だ。バットは職人としても大成しそうだ。「黄金バットは不死身だ! わはははは」不死身はいいが人を騙すのはよくないぞ、バット。「正義に勝つ悪はない!」人を騙しておいて正義もないだろう、バット。流石のナゾーも今度は逃げずに怒りの怪光線で攻撃だ。小刻みに後ずさりして避けたバットはシルバーバトンを構え、「行く ぞ」とナゾーに対峙する。するとオセロが間に入り「こいつは私が引き受けた」と言いながら手近から鉄骨の切れ端を引き千切り、剣の代わりに構える。その時ナゾーの手下がお婆に向かってマシンガンを投げつけた! なぜだ? 飛んできたマシンガンを一刀両断にするオセロお婆。にやっと笑うと「今度はお前をこうしてやる」と言い放つ。なんだ、デモンストレーションだったのか。いつそんな打ち合わせを手下としたんだ。聞いていないぞ? ここは狭いから外へ出ろ、と誘うお婆。そうだ、こんなところで戦って備品が壊れたりしたら大変だ。なかなか気配りが行き渡っているぞ。同意したバットと共にその場から飛び上がると天井を突き破っておそらく地中をまっすぐ上に登ったのだろう、地面の下から荒れ果てた土地に飛び出す二人。おいおい、天井が壊れた挙げ句に外から司令室へ直通の通路が二本もできたようだが、構わないのか? どうやらそれはお構いなしで、丁々発止とやり合うバットとオセロ。互角の戦いだ。 「なかなか親父だね、黄金バット!」……はい?

 「なかなかおやりだね、黄金バット!」……なんだ。ひどい罵倒だと思ったが、 発音が悪いぞ、オセロお婆。ここでお婆は切り札を出した。「いでよ、怪獣、ウーゲルモ」。突如地底から姿を現わす怪獣ウーゲルモ。なんなんだ、その名前は。お婆がつけたのか? 「バットを食い殺せ」という命令を受けたウーゲルモは、ムーミンの友人であるスニフが巨大化し、精一杯凶悪な面構えをしながら4本足で移動しているような怪獣だ。襲いかかるウーゲルモ。しかしバットはその左耳を削ぎ、右前足の膝を切り裂いた。弱いぞウーゲルモ。正対して 走りながら一気に間合いを詰め、すれ違う一瞬に勝負を賭けるバットとウーゲルモ。キミら、侍か? 先に倒れたのはバットだった。勝ち誇ったように振り 返るウーゲルモだが、その口の端から血が……。どおっ、と地に伏せるウーゲルモ。登場シーンから約20秒のスピード昇天だ。オセロはそんなウーゲルモに礼を述べるでもなく、倒れたバットに近づくと、鉄骨の切れ端を振りかぶってとどめを刺そうとする。勝利を確信するオセロお婆のアップ。ドスッ、とい う効果音。お婆の口から垂れる一筋の血。なんと黄金バットはいかにもやられた〜っというフリをして横たわり、オセロお婆が無防備に近づいてくるのを待っていたのだ。どこまでも卑怯だな、バット。正義の味方が聞いて呆れるぞ。キミのお母さんは泣いている。しかし、自分の不正な行為に頓着しないバットは「シルバーバトンの威力を受けて見よ」と叫ぶと、お婆とウーゲルモの遺体を綺麗さっぱり消してしまった。お婆の遺言はただ一言、「暗闇よ、敵を討っ てくれ」だ。そうだ、暗闇は一体どうしたんだ。

 その暗闇は、まだ「HOTEL」の一室で黄金の紐に巻かれたままだった。し かもお婆が死んだために魔力が解け、灰になって消えてしまったではないか。こんなことになるのは、わかっていたんじゃないのか、お婆? それでも敵討 ちを頼むとは大したものだ。消える間際に暗闇バットは、「バット、覚えていろ、俺の執念を!」と捨て台詞を残した。バットバットって、お前もバットだ ろう、暗闇。しかし捨て台詞を残すのは、正しい悪のあり方で好感が持てる。いつの間にかたけると合流し、4ドアセダンで道路を走るやまとね博士一行。 列車の旅をしていた彼らがどうして車で帰るのかは敢えて問わない。レンタカーかも知れないからだ。後部座席にこうもり少女と並んで座るたけるが、こと の次第を話して聞かせていた。「バットさんが助けてくれて、しばらくかくまってくれてたんだ」どこにかくまわれてたんだ、たける。それがわかれば、こ うもりだけが知っているというバットの自宅が判明するかも知れないのだが。「やっぱりバットさんは強いわ」と誉めるこうもり少女。ついさっきこうもり さんに乗り換えたんじゃなかったのか。運転するやまとね博士は、ナゾーの秘密基地発見に興奮していた。一刻も早く地球防衛軍に連絡しよう、と車を走らせる。それならなぜ「HOTEL」から電話をしないのだ。「その場所は覚えているね」「ええ、少しくらいは」「よーし」。たけるの返事は頼りないのだ が「よーし」なのか? 「今度こそナゾーをやっつけるぞ」と力強く宣言したやまとねは、荒野へと続く道を走る。どこへ行くんだ? そもそもどこなんだ、 そこは。黄金バットの高笑いが画面に重なり、幕。 

 ※ゴングリ星人=映画『死ねない惑星大作戦』に登場する、悪い宇宙人。Google検索したところ、このページしかヒットしやがらなかったので、二次資料なし。