最終回
「ひびわれるナゾー帝国」

 海中深く潜むスーパーカー。今日はナゾー秘密基地の探索だ。前話でそこから脱出してきたたけるの手引きで秘密基地の場所を特定し、防衛軍による総攻撃をかけようという作戦だ。息せき切って乗り込むのは当然防衛軍の精鋭だろう、と思いきや、わずかふたりのやまとね親子であった。なぜだ。主役だからか? 無事を祈る、いや、こうもりさんに一切合財を任せるこうもり少女。番組開始早々から彼女の必殺技が見られて幸せだ。潜水服を着て海中を進むやまとね親子。「ほんとうに大丈夫なんだろうね」と念を押すやまとねに「バットさんに助けられたとき大体地形は見てたから」と頼りない返事をするたける。出発してから交わす会話としては心許ないが、30分番組の進行に助けられてそれらしい場所に到達する。一方、ナゾーの司令室に呼び出されたマゾは、「オセロ婆さんと暗闇バットがどうなった知っておるのか!?」とナゾーに詰問を受けていた。「彼らは黄金バットを追って行き、今頃は勝って高笑いをしている頃でしょう」と推測で答えるマゾ。待て、今頃って、前話からそんなに時間が経っていないのか? 一旦戻ったたけるが準備を整えて再度来るだけの時間が経っているというのに、マゾの時間感覚はずれていないか? ナゾーはマゾを一喝する。「やられたのだっ!」 驚くマゾ。「ええっ、そ、そんな....」 ナゾーの横手から手下が口を挟む。「本当です、お婆も暗闇もバットに倒されました」。ちょっと待て。お婆はともかく、暗闇がやられたシーンを一人で同時には見られないはずだが……。テレビで前話を見たのか、手下?

 直属の上司であるマゾに報告しないでナゾーに言いつけに行った手下も手下だが、とにかくオセロ婆さんと暗闇バットは黄金バットに倒されてしまったのだ。新しい基地警備の体制を早急に整えなければならない。しかもナゾーのモニタには、海中から基地の領域に侵入するやまとね親子の姿が捉えられていた。モニタに映る、潜水服で泳ぐ二人を俯瞰で見て「やまとね!」と叫ぶマゾ。ヘルメットで顔も見えないのによくわかったな....。さて、秘密基地の入口付近にたたずむやまとね親子だが肝心の入口は隠匿されているのかわからない。そこへ背後からマゾの手下が銃をつきつけた。手下(声:ジャイアン)は隠されていた扉を開くと自慢げに「これは秘密の扉だ。誰にもわからない」と言い放つ。今、わかったぞ。キミのお陰だジャイアン。やまとね博士はヘルメットの口に手をやると「たける、これは私たちにしか聞こえない通信だ。よく聞くように。捕まったフリをして潜入するんだ。これしかない」と言う。フリ、ではなくて捕まったのだ、やまとね。ジャイアンに導かれ基地内に連れていかれたやまとね一行を迎えたのはマゾだった。そこはいくつもの潜水艦やミサイル、魚雷の類がふんだんに揃っていた。「まだまだ序の口だ。ゆっくり案内してあげよう」と笑うマゾ。案内してどうするんだ。潜水服をその場に脱ぎ捨てる際、やまとね博士はヘルメットの内側に不自然に突き出したスイッチを入れ、物陰に転がした。そんなスイッチが内側に出っ張っていて、脱着時に顔は痛くないのか、やまとね。一方ヘルメットを脱いだたけるはその下にトレードマークの帽子を被っている。なぜだ、たける。

 「ナゾー様に会わせてやろう」とどこまでも親切なマゾに連れられて司令室へとやってきたやまとね親子。「ろ〜んぶろぞ〜」と得意の台詞で威嚇するナゾーはやまとねを配下に加えんと説得する。「わたしは正義の科学者だ!」と拒否するやまとね。憐憫の情で誘ってやったが断わるのなら処刑すると脅すナゾーにやまとねは高笑いを返す。「1時間経ってわたしが帰らなければ防衛軍が総攻撃をかける。もうこの基地の場所は知れている!」。ナゾーがモニタのスイッチを入れると、そこには続々と集結する防衛軍が映し出された。やまとねのヘルメットは「こんなこともあろうかと」用意された発信装置だったのだ。しかしナゾーは動じない。ナゾー基地は外からどんな攻撃を受けてもびくともしないと自信を持って宣言する。尻馬に乗って自慢するマゾも嬉しそうだ。ところがやまとね博士もまた自信たっぷりだ。「外からには強い。だが中からはどうかな?」「何!」「このわたしがただ捕まって殺されるだけだと思っていたのか。地下の火薬庫で引火が起これば、中から吹っ飛んでしまうだろう。わたしはある仕掛けをした。ナゾー基地も終わりだ!」 やまとね、自慢したい気持ちはわかるが、いいのか? 手の内をぺらぺらと喋ってしまって。心配する視聴者をヨソにやまとね仁王立ち。だがここはナゾーが一枚上手だった。やまとねの自慢が終わるやいなや、部屋に呼ばれた手下が持ってきたのは、やまとねのヘルメット....。早くもバレていたのだ! 「もう爆発物は取り除いた」と言うナゾーの目から発せられた怪光線でみるみる溶けるヘルメット。これでもう手は尽きたのか、やまとね!?

 ナゾーとの掛け合いに敗れ意気消沈するやまとね博士。突然、足元の床が丸く開いて、ここまでいいところなしの息子たけるとともに「黒の部屋」と呼ばれる部屋に幽閉されてしまう。見れば下まで10メートルはあろうかという高さを落ちながら怪我一つしていないのだから立派だ。その頃外では、ナゾー基地を囲むように陸海空の防衛軍が集結していた。戦車上で待機する司令官に、こうもり少女と名も知れぬやまとねの部下が攻撃開始を今しばらく待つよう説得している。「ああ、こうもりさん二人をお願いね」。その声に応えるかのようにナゾー基地内で実体化した黄金バット。なぜかエレベータを使って基地内を移動している。移動しながらも「わはははは」の高笑いは欠かせない。しかし行動の一部始終はマゾにモニタされていた。マゾはバットが探すやまとね親子はバットの四次元能力を封じる「黒の部屋」に閉じ込めているのだから見つかりっこない、と誰に言うともなく言い募る。やがてバットはマゾの罠にかかり、ナゾー科学の粋を尽くした部屋に突き落とされた。ナゾー科学の恐ろしさを体験するバット。謎の電波攻撃で倒れる寸前、バットが投げたシルバーバトンは、なぜか一撃でやまとねたちが閉じ込められている部屋の天井を貫通し床に突き刺さった。「今だ、逃げるんだ!」と逃げ出す二人だが、天井に穴が開いただけなのになぜ下の扉が開くのかは、ナゾー科学でも説明されていない。電波攻撃を受けていたバットは、ついに倒れた! そして灰になってしまったのだ! いよいよクライマックスを迎える「こうもり少女物語」、ナゾーの正体とは一体なんなのであろうか!?

 「バットに勝った!」と喜ぶナゾー。「うーん、ワシもバットとの闘いで疲れたようだ。すこし休むとしよう」とじじ臭いことを言いながら奥の部屋に引っ込むナゾー。その部屋は光輝くまぶしい部屋のようだが、まだ誰も入ったことがなく、一体何があるのだろうとマゾはいぶかしむ。いかにも伏線っぽいが、これは後で活かされるのか。さて、逃げ出したやまとねは、最初に連れて来られた地下の火薬庫に迷い込んでいた。やまとねは、無造作に置いてあったドライバー一本を手に取るとミサイルが自爆するような仕掛けをするが、ドライバーは使わずに、配線を2本クロスさせただけだった。ミサイルが何故かはわからないがやまとね科学の力でオーバーロードする仕組みらしい。途端に基地内に警報が鳴り響き、手下たちが火薬庫に駆けつけてきた。「どうやら危険があると警報が鳴るようだ。しかし大丈夫、あの仕掛けは簡単には見つからないよ」さっき自分の仕掛けたヘルメットが簡単に見つかったことはもう忘れたようだ。さらに奥へと逃げるやまとね。「立ち入り禁止の部屋だ、入ってみよう」。扉に大きく“STOP”と書かれた部屋に入るやまとね。なんだその“STOP”というのは、という疑問はさておき、部屋に入ったたけるは「なにか臭う」と鼻をひくつかせた。動物の臭いだ、と言いながら進むやまとねが踏み入れたもう一つの部屋は、何色ものまぶしい光に照らされた部屋だった。「危ない、光を見るな!」となぜそう思ったのかは知らないが、叫んだやまとねは、その危険な光から逃げるように、奥の扉を開けて飛び込んだ。見覚えのあるその部屋は、なんとナゾーの司令室だった!

 地下からどうやってそんな高いところまで登ってきたのか、どういう方向感覚で逃げているのか、やまとねという男に首を傾げざるを得ない事態だが、登ってきてしまったものは仕方がない。慌てて引き返そうとするやまとね親子に立ち塞がるように、「ろ〜んぶろぞ〜」とナゾーが現われた。そして背後にはマゾが。やまとねたちが通って来たのは、マゾですら入ったことのないナゾーの部屋だったのだ。ナゾー秘密基地の秘密の一つが明らかになった。ナゾーの部屋には勝手口があったのだ! ナゾーは左手の鉄の爪に挟んだ砂時計を見せる。それは黄金バットの灰で時を計る砂時計なのだ。バットの死に愕然とするたける。「黒の部屋」から逃げた褒美として「この灰が全部落ちたらわしたちの手で銃殺してやろう」と恩着せがましく言うナゾーに「ひっひっひ、いい趣向で」と追従するマゾ。外では防衛軍司令官が、もう30分待ったから攻撃すると言っているが「待ってください。ああ、こうもりさん」と引き延ばしにかかるこうもり少女。その時ナゾーは、砂時計がおかしいことに気付く。砂は落ちているのに上の砂が減っていないのだ。投げ棄てられた砂時計が割れると、黄金バットが現われた! バットは生きていたのだ。吐き出すように叫ばれるナゾーの「ろ〜〜んぶろぞ〜っ」。踵を返して奥の部屋にナゾーが引っ込むと同時に、その扉を破って怪獣の大きな手が飛び出した。鋭い二本の爪が、ドラえもんのようなに可愛らしい丸い手から生えている謎の手だ。半魚人のような顔を現わす怪獣。一体全体この怪獣は? 灰から蘇ったバットは暗闇同様に狂暴なのか? 急展開の中、バットはただ高笑いだ。

 ナゾーと入れ代わりに突如現われ出た怪獣は、バットを追う。しかしその身体の大きさと乱暴な振る舞いで、基地内のあらゆる設備が破壊されていく。折角完成間近のナゾー基地なのに、いいのか、ナゾー。このどさくさに紛れて脱出を謀るやまとね。マゾはどこへ行ったものやら、行方知れずだ。逃げるやまとねの前に来たときに脱ぎ捨てた潜水服が。あっという間に一番下まで降りて来たようだ。意外と狭いのか、ナゾー秘密基地。しかも見つけた潜水服は、ヘルメット付きの二組だ。待てよ、一つはナゾーの手で破壊されたのでは……。そんな細かいことは、ナゾー基地崩壊を目前にした今、どうでもいいことである。素早く身に着け、潜水して秘密の出口に向かうやまとね親子の前に、仕事熱心なジャイアンたちが現われた。危うし、やまとね! そこへ「シルバーバトンを受けて見よ」と言いながら怪獣をあっさりと倒したバットが駆けつけた。きゅっと捻られるジャイアン。「さあ、立ち去りなさい」と促されて脱出に成功するやまとね博士とたける。「ナゾー帝国の崩壊だ!」と力強く口に出したバットの前に、姿を現わしたのは死んだ筈の暗闇バットだった。「お前を倒すまで何度でも生き返る」と豪語する暗闇バット。二人がバトンを交えるその後ろで、ついにナゾー帝国は瓦解していった。どうやら簡単には見つからなかったらしい小細工されたミサイルの爆発で誘爆が起こり、この闘いが始まってからやっとTVに映ったマゾと、実はまだ生きていてもがいていた緑色をした妙な怪獣とを巻き込んでナゾー基地全体が大爆発を起こした。ナゾー基地、本当に中からの爆発には弱かったようだ。

 爆発の様子を洋上から眺めるやまとね親子。爆発はすさまじく、基地のあった山は噴火を起こし、その影響が周囲にも及び始めた。ナゾー基地を囲んで待機していた防衛軍がいる地面も、大きなひび割れを起こす。やや離れたところに置いてあったスーパーカーは、今ここで失われてしまう必然性があるのかないのかはともかくとして、地割れに飲み込まれあっさりと地中に消えてしまった。誰か乗ってないのか? 誰も心配しないということは、あれだけ大きな乗り物に、もともとやまとね親子とこうもり少女、そして名も知れぬ部下の四人しか乗ってなかったということか? まあ良い、とにかくこうもり少女の「ああスーパーカーが、スーパーカーが」という力ない叫びが耳を打つシーンだ。いつの間にか二人のバットは四次元で戦っていた。力はまったく互角だ。死力を尽くした闘いが展開されている、と暗闇の唸り声を聞いていると思うのだが、黄金は相変わらずの高笑いで緊迫感はゼロだ。シルバーバトンを投げ付け暗闇マントを地面に縫い付けた黄金は、苦し紛れに暗闇が投げたバトンを投げ返す。それが暗闇にとっての致命傷となった。自分のバトンで腹を刺されて死ぬ間際、暗闇は問う。「なぜお前は強いのだ」。答える黄金バット「わたしは正義だ」。ついに味方ではなく、正義そのものにまで昇華された存在だと自負する黄金バットの前で、暗闇は灰となってしまった。しかも、どうせまた生き返るのではないか? という視聴者のツッコミを牽制するかのようにバットは言うのだ。「四次元で死んだ者、それは再び生き返ることは、ない! わはははははははははは……」、四次元中に響く高笑いであった。

 「壊したのが惜しい気がします」。爆発がおさまった現地を視察しながら、やまとねは言った。彼なりに、ナゾー科学が気になったようだ。その焼け跡を歩くたけるが指を差しながら叫ぶ。「おとうさん、あれは?」「おお、ナゾーの鉄の爪だ」。赤茶けた鉄の爪が基地の残骸とともに大地に落ちていた。「ナゾーは怪獣だったのでは?」と尋ねるたける。わかりやすく張り巡らされた伏線は、全てがナゾー=怪獣説を裏付けているため、たけるの質問ももっともだ。やまとね博士は答えた。「まさか怪獣ではないだろう」。科学者とは思えないほどの思い込みで言い切ったやまとね。しかし彼も流石にそれでは誰も納得しないと感じたのか、一言付け加えた。「人間でもなかったかも知れないね」。じゃあ、なんなんだ、という視聴者の声は届かない。なぜなら画面は既にやまとねを捉えておらず、夕焼け空に向かってパンしているからだ。そこへかぶるナレーション。キートン山田であったなら一言二言ツッコんでくれそうだが、このナレーターはマジメ一筋の仕事人だ。きっちりとまとめにかかっている。『ナゾーの正体は何か、それを知る者は誰もいない。ナゾーはどこへ消えたのか、再び現われる機会を狙っているのか……。だが、われわれには力強い味方が残されている。それは正義の味方、黄金バット!』 これはつまり、まだ全然話が終わっていないということなのか? と視聴者を不安にさせつつも、画面はいかにも一仕事終わったなぁ、という清々しい大空。その空に浮かぶ黄金バットのバストショットに高笑いが重なり音楽が盛り上がる……〔完〕。