西野が先行し、私が追う形で出発。150キロの旅が始まった。
中国の道路は右側通行だ。市街の主な道路では、車道と歩道の間に分離帯で仕切られた自転車専用レーンがある。普通の自転車はもちろん、三輪タクシーなどもこのレーンを走っている。たくさんの自転車が整然と同じ方向へ流れているところを見ると、車に準じて右側一方通行なのが約束ごとらしい。逆走している自転車は滅多にない。この点は日本の、あってないような自転車のルールとは違ってしっかりしている、と感心した。
自転車に限らず、中国には中国の交通ルールがある。北京や上海といった都会はともかく、地方都市では交差点の歩行者用信号機はあんまり役に立っていない、というのには随分戸惑った。歩行者は、とにかく車の流れを見て、適当に渡っていくのだ。それも私たちが感じる限りでは、とても彼らがちゃんと見て渡っているようには見えないのだが、なぜかスムーズに流れている。車も歩行者が渡って来るのは当然と思っているのか、街中ではそれほどスピードを出していないとも言える。日本のように、無駄にスピードを出して街中を走るドライバーがいないのだろう。
そんな事を思いながら包頭市街を抜け、進路を東へ取る。一本道なので道に迷う心配はない。ただひたすら私と西野は、内蒙古自治区を東西に横切る国道を東へ、東へと走っていくだけだ。
日本でツーリングした時の経験から、自転車が自転車だけに時速20キロは無理としても10キロ前半のペースで走る予定だった私たちだが、実際走り出してみると時速10キロも出せずじまい。西瓜やトマトやトウモロコシの畑が延々と続く変わらない風景も手伝って、走っても走っても進まない感じだ。
街中ではおとなしい車も、郊外では一変する。片道一車線の道路でも常にスピードの速い車が追い越しをかけるのがこの大陸の流儀だ。対向車が来ていてもお構いなし。よく事故が起こらないものだと感心するが、やっぱりちょくちょく事故はあるようだ。滞在中には数度、大破した車を見た。
それだからだろう、車の追い越しはもちろん、自転車相手でもクラクションを鳴らしっぱなしで抜いていく。対向の車もクラクションを鳴らすので、賑やかというかうるさいというか、「雄大な中国の自然の中をゆったりとツーリング」などといった甘い夢を打ち砕くような音の奔流であることは保証する。
途中で休憩を入れて、水分や食料を補給しながら走り続けた。今晩の眠る場所は美岱召で確保するつもりだ。