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 公安外事課訪問の時間までにはまだしばらくあるので、買い出しに出かけた。もちろん早速自転車に跨って、である。

 露店の並ぶ市場で私たちは、長袖の上着を買うことにした。蘭州で親切にしてもらったホテルの服務員から、内蒙古を自転車で走るなら夜は寒いから気をつけろ、とアドバイスを受けていたからだ。いろいろ見て回って相談した結果、未開放都市を通って走るのだから多少中国人らしい服装がよかろう、ということになった。私たちの服装は決して華美でもきらびやかでもない、はっきり申し上げてボロボロの服装ではあるものの、Tシャツ、ポロシャツ、スニーカーといった類の服そのものが、一般のファッションから浮いているため、妙に目立つのだった。

 ちなみにTシャツを着ている大人などいない。上海などの都市でも、記憶にあるのは一人だけだ。成人男子の基本的な装いはスラックスに革靴、だらしなくはだけたカッターシャツというものだ。私たちのような、チノパンに襟の付いたポロシャツとスニーカーでは浮いているのがわかっていただけるだろうか。

 軍装などを扱っている店で、地味な緑色をした上着を買う。その後、夜の行動食を買って準備の済んだ私たちは、いよいよ肝心の書類をもらうために公安外事課のある建物へと戻った。

 外事課では、奥の部屋に通され、勧められるままにソファに座った。担当者は中年の男性で日本語は通じなかった。たどたどしく「外国人旅行証が欲しいのだがどうすればいいのか」と尋ねると、「どこへ行きたいんだ」と尋ね返してきた。自転車で呼和浩特へ....と本来答えるべきなのだが、この時私たちはほとんど同時に、「自転車に乗って移動すること自体が不許可になったらマズイ」と思った。そこで取り敢えずは、未開放都市である美岱召へ行きたいのだ、と答えたのである。そこへ行く許可さえもらえれば、通り道の許可証を手にしたのと同じ価値があるからだ。

 ところが外事課担当の答えは意外だった。「そんなものなくても行けばいいじゃないか」というのだ。未開放都市なのに必要ないのか? 私たちは肩透かしを食らった気分だった。すると担当者は、次々といろいろな観光パンフレットを出してきて言った。

「美岱召もいいが、こんなところもあるぞ。行ってきたらどうだ。一日で一回りできるから」

 それでわかった。観光地だけは特別に許可されているのだ。普通は包頭からバスに乗って名所を行き帰りするのだから、未開放都市全般を外人がうろうろするわけではない、という判断なのだ。貸自転車に乗る観光客がいても、まさかそれで往復を考えるような距離ではない。

 ますます私たちは「自転車で....」などと言い出しにくくなってしまった。

 念のためもう一度、許可証が欲しいと言ってみたが「必要ない」と言われただけだった。結局、山のようにパンフレットはもらったものの、朝からそのために待っていた『外国人旅行証』はもらえなかったのだ。

 それならそれで仕方がない、目立たないように走っていくだけだ、と割り切った私たちは、包頭賓館の前の路上で荷作りをして出発することにした。時計を見ると、すっかり四時に近くなっている。どこまで行けるものか、ふと不安がよぎりながらも、ようやくこの中国旅游の目的である自転車ツーリングが始まると思うと、気分は盛り上がってきた。

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