南部とは・・・新しく南部に住もうとする人たちのために

序 章  南部とお近付きになろう


* ポール・D・エスコット、デイヴィド・R・ゴールドフィールド *


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 南部は米国の特殊な地域の一つである。南部の歴史や、南部の性格や、南部の生活様式や、 また南部がもたらしてくれる良い生活などは特殊である。 新参者はその違いに出会って困惑し途方に暮れるかもしれないが、 それはよくある話だ。 南部にやってきた新参者がちょっとした欲求不満や怒りさえ覚えても、それは正常な反応と言える。

 読者が南部に新しく引っ越してきた人であろうと、もう長いこと住んでいる人であろうと、この本は南部をよく理解する助けとなろう。  そして、良く理解すれば南部の生活の一部となっているこれらの類いまれな貴重な特質を、大変有り難いと思う事になると思う。  この本の筆者たちの中には、米国の中西部、西部、北東部やさらにはブルックリンの出身というような非南部人も入っている。  彼等も彼等以外の北部人たちと同様の印象を初期には持ったが、全員が南部に上手に適応出来た。  彼等は皆、自分を南部人だと思い始め、南部に住むことに満足し、南部に魅せられている。

 しかし、第一印象は時として彼等をまごつかせるものであった。  南部の人たちが何かを論評したり、非南部人が予想もしてなかった事を質問して来たりしたとき、 心の持ち方や見解の相違が会話の中に現れる。 たとえ一つ一つは些細な事であっても、それらは皆大きな違いを示している。  それが混乱を生み、非南部人たちに自分はよそ者だという感じを抱かせる。  そこで、新参者の一部は 「 南部って外国みたいだ 」 と決め付けたりさえするのだ。

 例えば、南部人はよそ者と会っても、その人の職業に興味を示さないことが多い。  「 あなたのお仕事は何ですか 」 と聞く代わりに 「 あなたはどこから来たのですか 」 と尋ねる。  南部の人達は相手の宗教について質問する。 そういう事を尋ねるのは失礼なことだと考える地方も米国では少なくないのだが、 南部の人たちは 「 あなたはどこの教会に入ってますか 」 などと聞いたり、彼等の教会の集まりに出席したらと誘ったりもする。

 宗教についての慣習でもう一つ驚くべき違いがある。 それは、公的な会合での祈祷の結びの言葉を、 南部では大都市においてすら 「 イエス様のみ名により、アーメン 」 と言って締め括ることである。  ( これは、壇上にユダヤ人が着席している時ですら起こりうる )

 南部の人達は商店では大変礼儀正しく魅力的である。 売り子たちから粗野に扱われる事に慣れている非南部人の客は、 南部ではこの素敵な相違に気付く。 南部の人たちは、店での無邪気で親しみのこもったおもてなしが上手であり、 ほとんど取るに足りない事を長々と話すことができる。  ( 仕事に取り掛かるのが億劫で天気の話でもしてた方がましだと思っているかのように見える人もいる )

 しかし、南部に数ケ月住むと、非南部人たちはおそるべき冷淡さに気付き始めるかも知れない。  ある新参者は 「 とてもあの人たちと深く識り合う事など出来ないよ 」、「 あの人たちは自分たちの仲間に入れてくれない 」 などと言う。  こういう論評をする非南部人は、自分は歓迎されてないのだと感じ、 自分はもしかしたら現代版のカーペットバッガー *1 と見られているのではと思ったりする。

 歴史の影響は南部では今もまだ具体的に残っている。 南部白人の中には、南北戦争という、 多くの非南部人には本を通じてしか知られてない出来事が、まだしっかりと息づいている人もいる。  米国の戦争のうち最も血なまぐさかったこの戦争 *7A で、どっちが勝ちどっちが負けたか、どこで戦われたか、 などについて間違える南部人はまずいない。 彼等の態度は新住民にとっては過度に自慢したり反発したりしているようにさえ見える。

 南部の人達は他の面では奇妙に防衛的になる事もある。  もっとレストランが欲しいとかもっと良い施設があったらとか本気で思っている人ですら、 自分の地域社会が他人に批判されると激しく憤慨する。 率直に批判をする非南部人は、普段は暖かい南部社会の中で、 歓迎されてないなという感じを時々持たされてしまう。

 こういった相違は何を意味するのだろうか。 こういった事件は、南部について何を明らかにするのだろうか。  この後の各章で、筆者たちは南部の明確な特徴について説明を試みる。 情報と分析によるだけでなく、 南部での生活の特質を表わす個人的経験や挿話も使って説明して行く事にする。

 第一、二、三章では、南部の特質や歴史と、南部が辿った歴史的経験を一風変ったものにしてしまったある種の社会的人種的な型との間の関連に焦点を当ててみたい。  取り上げる順番に言うと、南部地域の歴史、社会学、人種問題である。 第四章から七章では、都市部の性格と都市部に対する態度、 家庭及び職場での性別の役割の性格、変わりつつある政治システム、経済発展などの南部の特殊な様相、などをさらに詳細に検討してみよう。

 筆者たちは、このエッセイによって読者が南部についてみずから発見をし、南部をより良く理解し、 このユニークな社会にもっと沢山貢献するようになって頂く事を期待している。 また、筆者たちは、南部に居住していたり、 南部研究を職業としていたりする多くの非南部人の方々の助力のお陰で、この重要かつ興味ある地域について多くを学べたことをお礼申し上げたい。

 この本は、ノースカロライナ州およびサウスカロライナ州のヒュマニティズ・カウンシル *2 の後援による一連の公開プログラム*3の中から生まれてきたものである。  そのご支援と、その有能なスタッフ、とりわけブレント・グラス ( Brent Glass ) 氏とリーランド・コックス ( Leland Cox ) 氏に深く感謝する。  チバガイギー ( Ciba-Geigy ) 社とザ・ジョーンズ・グループ ( The Jones Group ) からも経済的ご支援をいただいた。  ノースカロライナ大学シャーロット校の国際研究プログラムには、各地方での諸手配を計画し実施するにあたり貴重な助力をして頂いた。  そのハロルド・ジョーゼフソン ( Harold Josephson ) 部長と、スタッフのリヴェラ・リッカード ( Levela Rickard )、 ジュディ・ケース ( Judy Case ) 、マリアン・ビーン ( Marian Beane ) の皆さん方にも感謝したい。  皆さん大変良く助けてくださりいつも楽しく仕事ができた。

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『 訳者注 』 について:訳者序言にも書いたように本書を十分に理解する為には特殊な専門的用語などについての説明が是非とも必要である。  各ページごとにこれらについて、簡単な訳者注を通し番号のもとに付けた。  一方、本文に時々出てくる原著者の注は@印をつけて訳者注とは区別した。 これ以降、訳者注は単に 「 *番号 ] でこれを示す。
訳者注

*1 Carpetbaggerとは、南北戦争の直後、南部でひと儲けしようとやってきた北部人の事。  彼等の持っていたスーツケースが絨毯に似た生地で出来ていたので、カーペットのバッグを持った奴等というこの言い方が出来た

*2 Humanities Councilは州や私的な基金で社会学的・人類学的研究をする団体

*3 北部や西部からの移住者を主な対象にする公開の講習会が開かれている


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