風のささやき

詩編:未完のスケッチ

詩編:未完のスケッチ

青のスケッチ

群青のスケッチ

灰色のスケッチ

未完のスケッチ

有り難いこと

詩を綴り始めてからもう

ギャラリーにて

丁寧な手仕事の上には

茫々とした風に

茫々とした風が休むことなく

底知れず

思いはどれ程に溢れてくるものなのだろう

笑い

笑いは憂い

手品師

その日 心の煩いを

祝福に

シェードランプから漏れたような仄かな明かりの中に

高原にて

標高1800メートルの燕は

とある朝に

目覚めれば僕を

悲鳴

芽吹いたばかりの葉が風にもぎ取られてゆくときの悲鳴が

迷い子

少しの間迷子になっていた

朝霧

目覚めとともにまた

忘れ行く日々に

忘れ果てて行くこと

白い羽

可憐な花の下にも影がある

革の鞄に

この見窄らしく小さな革の鞄に

クローバー畑に寝ころんで

野原の一隅を

ポケット時間

優しい春雨に隠された部屋で

欅に

すみれ色の空が裸の欅の梢に

夕日に

夕日が川面に落ちている

雨の朝に

いつの間にかもう朝だ

桜色の夕日に

車は帰路にあって

風が吹いてくる

風が吹いてくる

夕暮れの野原に

楕円の夕日が稜線に落ちて行くと

雨の一滴に

さっきまで降っていたにわか雨が

悲しみと雨と

雨が降っている

雨の朝に

高い雨音に目覚めた朝

小さな窓

駅舎の高いところに見つけた小さな窓

列車に乗って

先ほどから降り始めた雨は少し冷たく

朝日の昇る頃に

暗く凍りついた水面に触手を拡げ

25年後の春に

25年後の春の空は

とある日に

野球場に歓声がこだましている

君が走っている

君が走っている

冷たくはない雨に

いつの間にか降り出した雨が

朝日の中で

レースの細かい網目でも

眠れる処

眠りの中にも

青空を見上げながら

大きく枝を広げた

物語の終わりに

僕はそこで

いつの間にか雨は

いつの間にか外には 雨が降っていた

一冊の本に

もうカバーも取れて

銀色の時計に

逃れるように僕の腕から

引越し

1年僅かの短い暮らしが

時間の化石

いつの間にか針を止め

風吹けば

悲しさで一杯の 僕なのに

通り雨

突然に空を 黒く変えた通り雨は

飛行機に

今朝あますことなく 大地を濡らした

青い虫

今朝 青い水をなめて

公園で

あれはさっきまで 僕が座っていた木のベンチ

夢の続き

いつからか 僕は

春の岬

灯台の光も届かない水平線に

目の中から

もうそれは 持っていられなくなって

風の委託

僕の詩は魂の

買い物

ベランダにはじょうろが投げ出されていた