ヤンマ科(Aeshnidae)について

現在の研究対象、というよりか観察の対象として選んでいるグループがヤンマ科であります。
下の表に観察した種類のデータが載せてあります。

観察したトンボの種類リスト
ギンヤンマ Anax parthenope julius
ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera
マルタンヤンマ Anaciaeschna martini
ミルンヤンマ Planaeschna milnei
アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma
コシボソヤンマ Boyeria maclachlani
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus nigrofasciatus
ルリボシヤンマ Aeshna juncea juncea
オオルリボシヤンマ Aeshna nigroflava
オオギンヤンマ Anax guttatus

 これは自分が1995年から1999年までに観察したヤンマ科のリストです。観察は主に行動の観察で、オスの縄張り占有やメスの産卵行動、交尾の詳細などを調べています。一応記録用にトンボの標本を作るために採集したりしますが、コレクションはあまりなく、今までで採集した種類は50種くらいです。観察も幅は若干狭く20余種あるヤンマ科の中でたった10種ですが、ヤブヤンマなどは特に鎌倉をフィールドにして行動観察を長いことしてきましたし、ギンヤンマは千葉県野田市、茨城県土浦市、千葉県流山市、神奈川県逗子市、神奈川県葉山郡などの地域でデータをとりました。活動範囲が狭く、ルリボシヤンマとオオルリボシヤンマ以外はほとんど千葉県と神奈川県と茨城県に限定されています。したがってリストにあるオオギンヤンマは沖縄地方のものではなく、神奈川県でたまたま見つかったものであります(1匹しか見ていないので定着していない可能性が極めて高い)。
 コシボソヤンマとミルンヤンマに関しては神奈川県鎌倉市にある河川からデータを取っています。この2種はここからしかデータを取っておりません。アオヤンマ属については、アオヤンマは関東で良く見かけますが、これまでの自分の調査のなかでネアカヨシヤンマは千葉、茨城、神奈川、埼玉のどの県にも見られませんでした。ルリボシヤンマとオオルリボシヤンマは長野県からのデータがほとんどです。これまでに調査したのは茅野市、飯山市、駒ケ根市、松本市です。それ以外では群馬の尾瀬ヶ原でルリボシヤンマを見たというのがあります。尾瀬のルリボシヤンマは長野のものとくらべると少し小さいという印象を受けました。
 今までのフィールドでは、カトリヤンマが確認できず困っています。関東でカトリヤンマのたくさん居るところの情報が欲しいです。また、カトリヤンマに限らず全体的にもっとトンボの数が多いところが今後の観察で必要になってきます。そして、扱う地域の拡大も重要な課題です。関東だけにとどまらず、東海や南方系のものもやっていきたいし、北海道のトンボにも関心があります。ヤンマ科は他のトンボに比べると数も少なく、データが取りにくいのですが、実に面白い生態をしているので材料に取り上げています。特に産卵行動は時期によって同じ種でも微妙な変化が見られます。最近のデータですが、ギンヤンマにおいて、連結産卵の継続時間と、同じ時間に連結産卵している組の数について、8月上旬と9月下旬にデータをとりました。傾向として、9月下旬のほうが継続時間も長く、連結産卵の組の数も多かったということがありました。しかし、趣味の観察なので証拠としては不充分ではあります。

ヤンマの捕獲法研究 いかにすれば効率よくヤンマが採れるかを研究する。
今回は基礎知識のみ。種類ごとの捕獲法はこれから徐々に公開していきます。

A. 基礎知識
 

 一般に大型種であるヤンマの仲間は飛ぶスピードが速く、なかなか止まってくれないので慣れていないと採集が困難なものであります。従って、ここでは自分の経験を基にして、いかにすれば効率よくヤンマを採集出来るかを検討しました。自分も初めて目にした種や、水域の地形などで一つの種を採集するのに膨大な時間を費やし、大苦戦を強いられた経験があります。しかし、それらの種と何回か対峙し、色々な場所へ足を運ぶことで実はあれほど採集に苦戦していた種類がものすごく隙だらけなことに気付きました。ここでの調査結果は、これからトンボの採集を行ったりする人向けですが、小学生の昆虫採集や趣味などで活用してもらえればと考えています。


生息地の判断
 
 特定の種類を採集するためには、その種類が存在していると思われる環境を探し出さなければなりません。シオカラトンボなどはかなり広い範囲に分布しているので、わざわざ探しに行かずとも見つけられますが、ヤンマの場合は違ってきます。基本的に成虫の個体数は少な目であり、環境の適応能力もアキアカネやシオカラトンボと比較すると全体的に弱いです。ですから、生態との関連から生息地を事前に調べてから採集に向かう方が遙かに効率的だということになります。生息地は大きく分けると止水域(池や沼など)と流水域(小規模の河川、渓流など)があります。海域は生息地としての記録は現在のところ無いようです。止水域・流水域それぞれに分布しているヤンマ類のリストを載せておきます。

止水域生息の代表種
ギンヤンマ Anax perthenope julius
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus nigrofasciatus
アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma
マルタンヤンマ Anaciaeschna martini
ルリボシヤンマ Aeshna juncea juncea
オオルリボシヤンマ Aeshna nigroflava
サラサヤンマ Oligoaeschna pryeri
ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera
オオギンヤンマ Anax guttatus
カトリヤンマ Gynacantha japonica
マダラヤンマ Aeshna mixta soneharai
トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea
リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus
オオヤマトンボ Epophthalmia elegans
ウチワヤンマ Sinictinogomphus clavatus
イイジマルリボシヤンマ Anax subarctica subarctica
リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis
タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax
ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera

流水域生息の代表種
コオニヤンマ Sieboldius albardae
オニヤンマ Anotogaster sieboldii
コシボソヤンマ Boyeria maclachlani
ミルンヤンマ Planaeschna milnei
コヤマトンボ Macromia amphigena amphigena
キイロヤマトンボ Macromia daimoji
カラスヤンマ Chlorogomphus brunneus keramensis

雌雄の相違に合わせた作戦の選択
 

 トンボはオスとメスとでは生態に微妙な差があります。従って、捕獲法もそれぞれ異なります。オスは成熟すると大抵水辺に戻る性質があります。これは、一定区域の縄張りを持つためですが、捕獲するときはこの縄張り巡回中のオスを狙うのが定石です。縄張りの占有は種類によって差があります。ヤンマ類は基本的には飛翔しながらパトロールをします。この際、同じ所に何回も現れる現象が確認出来ます。さらに観察を続けると一定の範囲で円を描くようにしてグルグルと回っていることに気付くかと思います。このローテーションを見極め、作戦を立てるのが有効な手段と言えます。その一方で、メスは大抵水辺から少し離れた場所にいることが多く、水辺ではオスに比べて出現率が低い傾向があります。メスが水辺に現れるのは産卵時が主で、産卵の時間帯は種によって大体決まっているのでここが狙い所と言えるでしょう。


捕虫網での捕獲
 
 ヤンマ取りの場合、ほぼ100%空中戦になるので一般的に捕虫網は必須アイテムになります。例外として後述にあるような応用技も存在しますが、ここではひとまず捕虫網の基本的な使い方を記しておきます。トンボは複眼が発達していて、視野がとても広い昆虫です。捕獲の際、網のスイングが相手に見えてしまうと超反応で見事によけられます。特に大型種相手の場合はチャンスが限られているので空振りは避けねばなりません。スイングの速さよりも、いかに相手の死角から網を振るかにテクニックのポイントがあります。そしてその死角とはすなわち飛んでいるトンボの斜め下後方です。ここからトンボの進行方向に合わせて掬うようにスイングすれば成功率が高まります。この方法が基本スイングというものです。そして、捕虫網での高度なテクニックとして自分が考案したのは、一度前方からフェイントのスイングを放ち、相手がそれをよけようと切り返したところを基本スイングでヒットさせる方法です。これは、トンボが前を向いたまま後ろに飛ぶことが出来ないという性質を利用しています。トンボの前方にいきなり網を持ってくると一瞬だけトンボは空中をのたうち回るので動きが速すぎて見えないときに使用するテクニックです。


応用捕獲テクニック
a. トンボ釣り
 縄張りをパトロール飛行しているオスは、その縄張りに他のオスが入ってきたときは速攻で追い出しにかかりますが、メスが入ってきたときもすさまじき速さで追尾して連結にかかります。この性質を利用して、メスを捕獲して糸でつなぎ止めてパトロール中のオスの前でとばせて連結させるのがトンボ釣りというテクです。メスさえ捕獲すればオスが何匹も捕れるという画期的な方法です。ギンヤンマに対して使うのが主流ですが、オオルリボシヤンマやオニヤンマにも一応通じます。
b. 疑似餌法
 トンボ釣りとは比較にならないほど難しいですが、決まった時の達成感が凄まじきものがこれです。ターゲットは夕方に餌の捕獲のため飛翔しているヤンマです。この飛び回っているヤンマに向かって2つの鉛玉に紙切れを付けて40cm位の長さの糸で繋げた疑似餌を投げます。ヤンマが餌と間違えて片方の玉にしがみつくと、もう片方の玉がヤンマの体に糸を絡ませる役割を果たし、そのまま地面にトンボを降ろせるという技です。捕虫網のリーチが足りないような高空を飛翔しているトンボを取るための技ですが、使える物理的環境が限られており、投げるテクもいるので成功率が低いです。まず疑似餌と間違えるように投げるのが私では無理。今までの成功例は鉛が直接トンボに命中し、気絶したヤツが落ちてきたという1回のみです。

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