Hyper Hybrid organization 01−01
運命の日

 悪の怪人一味が正義の味方に戦いを挑む、といえばすぐさま(すぐ?)思い浮かぶのが北道正幸の「ぽちょむきん」(講談社、505円)。「トレンジャー」なる東京都民の安全を守るヒーロー一味に、悪の軍団「ゲルニッカー」は首領から戦闘員からすべて倒され、わずかに残された人々が2体だけ残された最終怪人の胎児を育ててみたらこれが美少女に育ってしまって、1人は嫌々もう1人は何も考えずに怪人らしくセコい悪事を働き始めるという、珍妙にして異例の展開に大笑いさせてもらった。

 「クリス・クロス 混沌の魔王」や「タイム・リープ あしたはきのう」の高畑京一郎が挑む新シリーズ「ハイパー・ハイブリッド・オーガニゼイション01−01 運命の日」(メディアワークス、510円)も、悪の怪人に挑む正義のヒーローという図式の中でどちらかと言えば怪人の側にスポットをあてて、時に正義の美名のもとに無理・無茶・無駄を繰り返すヒーローの側を批判する内容。もっとも「ぽちょむきん」が徹底してギャグに走っているのに対して、「ハイパー・ハイブリッド・オーガニゼイション」の方は、正義の見方が正義を遂行するにあたって見過ごされる少々の犠牲を被害者の側からフレームアップして、その真っ直ぐさ故に起こるやるせない感情を浮かび上がらせている。

 いつの頃から街に現れ悪事を働く謎の集団があって、そのコスチュームから「黒い覆面集団」と呼ばれていた。現金輸送車を襲って何十億円を一度に奪い、暴力団の組長のように世間一般が犯罪者と認知する人は襲っても、一般市民は警官も含めて不思議と大きなけが人は出さず、死亡者に至っては1人も出さない集団で、何が目的なのかが不思議がられていた。もっとも悪事は悪事ということで、警察などからマークされていた所に、これまた謎の怪物めいた存在が現れ、「黒い覆面集団」たちが使っている同じように怪物めいた存在と戦っては、「黒い覆面集団」の活動を邪魔し始めた。

 そんな状況がしばらく続き、市民もマスコミもとりあえずやってることが法律には違反している「黒い覆面集団」を「悪」と位置づけ、突然に現れ「黒い覆面集団」と戦いガーディアンと呼ばれるようになった怪物を「正義」と街では位置づけるようになっていた。そんな背景の中、主人公で大学院生でもある山口貴久は、研究室の先輩の他愛もないイジメを振り切り、向かった緑川百合子とのデート先で、突然現れた「黒い覆面集団」とガーディアンとの戦闘に巻き込まれてしまう。

 あらかじめ決められた手順どおりに、「黒い覆面集団」は貴久たちを安全な場所に逃がそうとしたが、貴久と百合子はなぜか戦闘の現場へと留まってしまい、ガーディアンが「黒い覆面集団」の怪人に放った攻撃のあおりを受けて百合子は死んでしまう。初めての死者発生に戸惑った「黒い覆面集団」は、ガーディアンの攻撃で死んだにも関わらず百合子の実家には300万ドルの小切手を組織の正式名称「ユニコーン」の名で送って来たが、世間はそんな「ユニコーン」を売名行為だと断じ、百合子が助けようとした少年も百合子の死の原因になったガーディアンをヒーローと讃える始末。何が「正義」で何が「悪」かを見失い、錯綜した状況に追い込まれて行った貴久が取ったのは、「ユニコーン」と「ガーディアン」、両者の正体を確かめ、正義の見方呼ばわりされ続けるガーディアンに復讐することだった。

 なるほど「ぽちょむきん」的な「悪」と「正義」が転倒したドラマがこれから始まうとはしているものの、明確に「悪」であるゲルニッカーと「正義」である「トレンジャー」との関係のようには「ユニコーン」とガーディアンは割り切れないようで、国家レベル世界レベルの大きな陰謀を背後に感じさせながら、貴久は果たして自分にとっての「正義」は何かを見つけられるのか、といったドラマへの幕が切って落とされる。もしかすると石森正太郎の作品に見られた異形の存在であり現代のフランケンシュタインとも言える”改造人間”につきものの、愛と憎悪、哀惜と慚愧の心理ドラマがこれから繰り広げられるのかもしれない。

 ともかくも開幕した「クリス・クロス」とも「タイム・リープ」とも「ダブル・キャスト」とも違ったハードでダークなアンチヒーロー・ストーリー。「ユニコーン」の目的に怪人の秘密にガーディアンの正体に背後でうごめく陰謀等々、散りばめられた謎への答えを期待しつつも、人間が生きていく上で直面する「悪」と「正義」の相対主義的な関係に対する葛藤のドラマに、注目しながら先を待つことにしよう。


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