ぽちょむきん 1

 まるで「仮面ライダースナック」じゃん。

 と、装丁の元ネタに気づいたのは実は中身を読み始めてから。表紙をめくったところに綴じ込んである、「仮面ライダーカード」から引っ張ったような怪人&変身ヒーローの「初版特典カード」を見たり、その変身ヒーローが世界征服を企む組織の基地を破壊して首領以下怪人手下の類を全滅させる冒頭のエピソードを読んで、北道正幸の「ぽちょむきん」(アフタヌーンKC、505円)が変身ヒーロー物のパロディ漫画なんだと分かって、だったら表紙は「仮面ライダースナック」なんだと気がついた。

 延髄レベルで反射するマニアにはちょっと遅いかもしれないけれど、「仮面ライダー」(もち初代、それも真っ黒の奴)をリアルタイムで見て、「仮面ライダースナック」をリアルタイムで食ってた世代だったら、冒頭の数ページあたりで気づけばままあと言ったところ。もっとも「ライダースナック」のパロディかどうかは別にして、変身ヒーロー物のパロディかどうかは世代を超えても理解できるから若い人でも心配は無用。怪人を倒し首領と幹部たちに率いられた悪の組織を壊滅させる「変身ヒーロー」は日本のもはや伝統芸、そのフォーマットさえ理解しておけば何がどう面白いのかは十分に分かるだろう。

 秘密結社「ゲルニッカー」の秘密基地が変身ヒーロー「トレンジャー」に攻撃されて首領ほか戦闘員ら主要メンバーが全滅。けれども唯一「最終怪人」の胎児2人が培養槽の中に残されていて、トレンジャーの攻撃に生き残った関係者のうちの1人が「お家再興」を夢見て2人を引き取り育て始めて幾星霜。胎児2人も今では立派な14歳の女子中学生になりました、っておいおい女子中学生だって? そうなんです最終怪人の2人は立派に女子中学生になて今日も腹筋1万回を平気でこなし自動販売機を片手で天へと放り投げ、発射された拳銃の弾丸を片手でつまみとる「超人的」、というよりまさしく「怪人的」な能力を秘めたハルカとマドカ、2人の美少女へと見事に成長をとげたのです。

 という基本設定で始まった物語は、14年の雌伏を終えて再び世に「ゲルニッカー」の名を轟かせんとする陰謀のために、マドカとハルカに着ぐるみを着せて送り出そうとしたものの、当の2人のとりわけ姉のハルカが今さら「世界征服」なんてと嫌がって、だったらかつて「ゲルニッカー」を倒した「トレンジャー」にもう1度、八百長でもいいから戦ってもらおうと伝を頼って尋ねたところ、今は妻子も得てアパートにひっそりと暮らす元「トレンジャー」は復帰を拒み、ハルカの所に変身セット一式を送りつけて来た。

 仕方なしにハルカとマドカは「ゲルニッカー」再興を願う育ての親に黙ってマドカが「怪人」でハルカが「トレンジャー」役をやって八百長試合をしようとしたものの、変身ポーズをとった瞬間に衛星軌道から発射された光によって、騒動を取材に来ていたスポーツ新聞の女性記者に「トレンジャーレッド」のスーツが蒸着が瞬着してしまい、いやいやながらも「ゲルニッカー」と戦闘に。かくして14年の歳月を超えて「ゲルニッカー」VS「トレンジャー」のラストバトルの幕が切って落とされた。

 ように見えたけれど、そこはパロディ。変身ヒーロー物のお約束を踏まえつつ、ハルカとマドカの2人の美少女「怪人」を主役にすえて変身ヒーローを通りがかりにやらせてしまう転倒の設定がまず笑えるし、脳天気なマドカや秘書の茜さんのリキいれた真面目ぶりも超おかしい。連載漫画の宿命とも言える人気に配慮したのか始まって間もないにも関わらず「テコ入れ」を断行する茜の支持に従って、眼鏡っ娘のマドカが眼鏡をはずして眼鏡っ娘よりも潜在的ファンの多い、らしい猫耳娘になって語尾に「ニャン」を付けて喋るエピソードのカラリとした毒にゲラゲラ。ハルカの髪型を鉄腕アトム的どこから見ても角2本な頭にして「イッツ、ジャパニメーション!(ジャップの文化侵略)」と叫ぶ茜さん、最高っス。

 どうやら東京都内限定だったらしい「トレンジャー」を作った組織(政府? 都庁?)の謎めいた設定といい、言ったはなから逆の事を言っては世間を煙に巻く宮内先生の正体といい、展開上の楽しみ所もあって続巻がはや待ち遠しい。安永航一郎の「県立地球防衛軍」に東城和実の「黒いチューリップ」シリーズに最近では「エクセルサーガ」あたりも入れて、とかく傑作秀作怪作揃いの「ローカル戦隊物」。そんな栄光の歴史の中に、悪の組織とゆー真裏から「戦隊物」をパロってみせるスタンスと、絵の可愛さと話の展開の見えなさでもって「ぽちょむきん」の名前は永遠に刻まれる、だろう、たぶん。


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