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みかづきおつきさま
会社から帰ろうとして、降りる階段の踊り場から、もうしずもうとする三日月が見えるよ。
鬱蒼とした樹と、ビルと、街灯と、それからいちばんぼしとおつきさま。ぼくの大好きな、けしきだよ。知ってた?
おつきさまのしずむ時間って、どんどん変わるんだよ。三日月の頃は、ちょうど夕方の7時か8時で、それから一日40分ずつおそくなるの。
だから会社の、その階段からおつきさまが見えるのは、みかづきの前後のちょっとだけ。そのちょっとだけをみるために、一日40分ずつ、帰るのが遅くなったよ。
階段から見えたおつきさまは、くるまに乗ってからも、いろんなときにいろんな方向に、見えるよ。ああ、道路ってまっすぐじゃないんだ、って、そういうときに思うよ。あんまりみてると、前のくるまが見えなくって困るけど。地球照(ちきゅうしょう)っていうきれいな言葉が、あるんだ。三日月になるかならないかくらいの、ほそいおつきさまの、その光っていない部分が、うっすらとあかるく見えること。
おつきさまの、明るい部分は、お日さまに照らされているんだけれども、地球照っていうのは、その字がしめすとおり、地球に照らされているんだ。つまり、お日さまに照らされたぼくたち地球が、そのひかりをおつきさまにあげてるってこと。
お日さまからの、直接のひかりにくらべればあんなに暗いけれども、それでもぼくたちだって、おつきさまに光をあげているんだよ。えっへん。いまのこの季節は、くうきがとても透き通っていて、おつきさまがとってもくっきりと見えるよ。いつもはかすかにしか見えない地球照も、はっきりみえる。
よく見て、そしておつきさまに手を振ってごらん。きっと、手をふっているあなたやぼくが、おつきさまにうつっているはずだから。