もっともっと、、、


 創造の神に魅入られた気分は、どんなだい?
 言葉を、音を紡ぎ出さなければ生きていけないなんて、すてきだろう?

 もっと楽に生きていけないのか。もっと楽に聞ける音楽を、つくれないのか。
 おまえの創った歌を聴くと、胸が締め付けられるよ。だって、おまえの歌は、あまりにも稚拙で、そのくせ、あまりにも強く、心に入ろうとするから。
 もっと、ちがう言葉を探せただろう。もっと、他に歌うべき事があったんじゃないか。もっと、もっと、、、
 でも、おまえの歌は、あれでしかあり得なかった。歌のなかの、どのひとつの言葉をさえ、他の言葉で取り替えることなんか出来ない。
 表現したいことの、巨大な塊が躯のなかから湧き出してきて、産みの苦しみにのたうちまわりながら言葉を、音を紡いでいったんだね。その欲求があまりに圧倒的で、テクニックをつける暇さえ、なかったんだね。
 それが、結果的におまえの命を縮めることになったとしても、おまえには、それしかできなかったんだ。

 おまえが、苦しみにのたうちまわりながら創った透明な歌は、いまでもたくさんの人に愛されているよ。そして、少しだけれどもおまえが作るはずだった歌を、逝ってしまった世界で創っているだろう歌を、創ろうとしているものも、いるよ。
 そいつのつくる歌は、おまえのよりももっと不器用で、その分もっと、素直に心に入ってくるよ。
 生前おまえが愛したそいつが、きっとおまえのことを考えながら作った歌を、空の上でききながら、ほめてやってくれないか。
 そいつが、光を見失わないように。

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