渡辺一史著作のページ


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968年愛知県生、大阪府育ち。北海道大学文学部中退。フリーライター。単行本デビュー作
「こんな夜更けにバナナかよ」にて第25回講談社ノンフィクション賞、第35回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。札幌在住。

 


 

●「こんな夜更けにバナナかよ−筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち−」●
    講談社ノンフィクション賞・大宅壮一ノンフィクション賞     ★★★  

  

 
2003年3月
北海道新聞社
(1800円+税)

2013年07月
文春文庫化



2004
/08/15



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凄い本だな、と思いました。最初から最後まで圧倒され続けたというノンフィクション。
先日セックスボランティアという本を読んで、障害者介護の奥行きの深さを感じたと述べましたが、本書を読むとまだまだそれは障害者問題の一角に過ぎなかったと感じられます。
ノンフィクションとしても一級、障害者介護の問題点を知るのにも格好の書。是非多くの方にお読んで欲しい本です。

進行性筋ジストロフィー、全身の筋肉が徐々に衰えていく難病。鹿野靖明40歳は、小6で病気宣告を受け、18歳の時に車椅子、1年前にはもはや動くのは両手の指が少しだけ、という状況。そんな鹿野と彼の生活を支えたボランティアたちを描いた渾身のルポタージュ。

簡単に言えばそんな一文で終わってしまうことですが、そこに至るまでの過程、鹿野本人とその現場が、凄い。
人工呼吸器を外すことのできない障害者が、病院を出て、自宅で普通に暮らすというのは、それまで考えられなかったこと。鹿野がそれを実行するためには、多くのボランティアを組織し、常に入れ替わる学生ボランティアを自ら育てる、ということが欠かせなかった。そんな悪戦苦闘の道を何故鹿野が選んだかといえば、健常者と同じように自分の家で生活したい、欧米に比べ立ち遅れている日本の福祉・介助行政を変える一助になりたい、という強い思いからだったそうです。

その鹿野とボランティアたちの関係は、私が想像していたものとは全く違うものだった。障害者=弱者というのが普通の認識だと思うのですが、鹿野邸ではむしろ鹿野が強者でさえある。次々繰り出される、もうワガママとさえ感じる程の鹿野の要求、そこにボランティアと共に生きていくという鹿野の壮絶な覚悟があります。一方、多くのボランティアたちは鹿野に人間として育てられているという感謝の念さえ抱いている。
何故そうなのか、それを考えていくところに、障害者・介護問題の深さがあります。

全 460頁余。本書を読むことは貴重な体験を得ることでもあります。読むべしという一冊。

今夜もシカノは眠れない/ワガママなのも私の生き方/介助する学生たち/私の障害、私の利害/鎖につながれた犬じゃない/人工呼吸器はわれなり/介助する女性たち/夜明け前の介助/燃え尽きたあとに残るもの

               


  

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