河合香織著作のページ


1974年岐阜県生、神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。フリーランス・ライター。セクシュアリティや児童問題などのノンフィクションを執筆。2019年「選べなかった命」にて第50回大宅壮一ノンクション賞を受賞。

 


   

●「セックスボランティア」● ★★




2004年06月
新潮社刊

(1500円+税)

2006年11月
新潮文庫化



2004/07/05



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障害者とかボランティア活動について特別に意識を持ってこなかった、というのが私についての正直なところです。だからといって、目を背けようとした訳ではなく、積極的に関わろうとしなかったというだけのこと。おそらく、大部分の人が私と同じような立場なのではないでしょうか。

敢えてただひとつ意識してきたことは、障害者を特異な目でみることは止めようということ。それにも拘わらず、障害者のセックスについてこれまで考えてみたこともありませんでした。障害者なのだからセックスなど我慢すべき、という潜在意識が何処かにあった所為かもしれません。本書の題名をみてガツンと一撃された気分がしたのはその為。本書を読もうと思った動機はその1点に他なりません。

本書は、取材を通じて障害者に対する“性の介助”問題を考えたノンフィクション。
本書を読んで、今更ながらに障害者が健常者と同じような日常生活を送ることの困難を感じざるを得ません。介助者が不可欠ということであれば、その介助者を得ること(特にそれが性行為に関してであれば尚更)自体に困難な面がある。ボランティアと言っても、なかなかそこまで至れるものではないでしょう。
取材に応じた関係者一人一人の意見、実際に性介助をした経験者の意見とも、決して一様ではありません。それだけ根深い問題とも言えます。そのひとつひとつの意見が印象に残ります。
なお、唯一外国取材したオランダにおいては、性行為を提供する有償ボランティア団体があり、その利用料の助成金制度まであるというから驚きます。

ただし、本で読んでいる限りはまだ気楽なものです。実際に障害者の人達を前にしてこの問題を考えるなら、やはりショックを受ける場面も多いのではないか、と思います。
それでも、積極的にこの問題を関わろうとする活動があること、実際に性体験や夫婦生活を持った障害者の人達のことを知ると、ホッと救われる気がします。

画面の向こう側/命がけでセックスしている(酸素ボンベを外すとき)/十五分だけの恋人(「性の介助者」募集)/障害者専門風俗店(聴力を失った女子大生の選択)/王子様はホスト(女性障害者の性)/寝ているのは誰か(知的障害者をとりまく環境)/鳴り止まない電話(オランダ「SAR」の取り組み)/満たされぬ思い(市役所のセックス助成)/パートナーの夢(その先にあるもの)/偏見と美談の間で

 


     

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