島村菜津著作のページ


1963年福島県出身、東京芸術大学芸術学科卒。主な著書に「フローフードな人生!」「フィレンツェ連続殺人」。「エクソシストとの対話」にて21世紀国際ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。

 


   

●「フローフードな日本!」● ★★☆




2006年02月
新潮社刊
(1500円+税)

2009年05月
新潮文庫化

   

2006/03/22

 

amazon.co.jp

「スローフード」という言葉だけで本書の内容を決め付けたらそれは勿体無いこと。単に「ファーストフード」に対する“手作り”に留まる問題ではないことは確かです。
カロリー面でみた日本の食糧自給率は既に40%を切っているそうです。工業製品輸出の代りに農産物の輸入を強要され、その結果世界で稀に見る食料自給率の低さに至ったというのが現在の日本の姿ですが、その低さは個人的に私としてはかなり懸念を感じていたこと。しかし、そんな程度に収まる問題ではないことを本書を読んで感じました。その点、大いに考えさせられた一冊です。

これまで日本の農業を維持していくためには大規模経営、効率化も必要であると思っていましたが、それは私の考えが足りなかったと認めざるを得ません。食の安全、食の喜びを超えて、日本という国土の維持、ひいては日本文化の維持に繋がる問題であるからです。漁業を守るためにはまず森を維持することが重要だなんて、思ってもみないことでした。
雑草や虫などを駆除する農薬が人間にも害のない筈がないこと、狭い日本では小規模かつ多様な農業生産を行ってきたところに優れた面があったこと、農産物生産過剰という米国の国内対策として戦後日本に米国農産物の輸入が盛んに奨励された経緯があり、現在の日本の食生活はその延長上にあること。それらのことを教えられ、まさに頭にガツンと一撃くらった気分です。
それらの結果としてファーストフードの氾濫、過食があると思うと、うかうかと米国の利己的な策略に乗っていた自分たちが何とも愚かしく思えます(戦後直後は国民の食生活を向上させたいという思いを一概に非難することはできませんが)。

本書を読んでいると、食の安全を守ることが自然を、文化を、そして自分たちの生活を大事にすることに通じるのだということをつくづく感じます。
各章で食を守ろうと奮闘している人たちの姿、章の冒頭に挿入された写真を見ると、何とも嬉しい温もりを感じます。ただ安いからと買っている食品を食べることの何と味気ないことか。そこにどの程度の喜びがあったのか。餌を食べているのと大して変わらなかったのではないか。
我が家では主に食料品は生協で購入していますが、生産者の紹介が添えられていたり、形や大きさの異なる野菜や果物をみていると、食べ物の個性が感じられるようで楽しく思うことが度々あります。食の安全は決して牛肉のBSE問題だけではないと言うべきでしょう。
かつて井上ひさしさんが「コメの話」という著書の中で、狭い国土の中で田圃は洪水に対する治水装置の役割も担っていたと説いていましたが、農業を大切にするということは単に食料自給率の問題だけでないことを本書で教えられました。

はじめに−お皿の外のことを知ろう/人類が初体験する食卓の異変/種から考えた大根/アイガモと共に育つ米/豆腐は豆が命です/牡蠣が見上げた森/牛をめぐる冒険/水がつなげるもの/身体に効く食べもの/土から離れた不安/あとがき−「おいしい関係」が見えてきた

   


   

to Top Page     to エッセィ等 Index