邱 海涛(きゅう・かいとう)作のページ


1955年中国上海生、上海外国語大学日本語科卒。85年来日、慶應義塾大学および東京外国語大学で学んだ後日本企業に10年間勤務。現在、中国と日本の間で出版や映像プロデューサーとして幅広く活躍中。

 


 

●「中国セックス文化大革命」● ★★

 

 
2007年10月
新潮社刊

(1600円+税)

 

2007/12/01

 

amazon.co.jp

かなり刺激的な題名ですが、内容はそうでもない、というのが第一印象。
まず本書は、共産党中国の歪んだ独裁者であった
毛沢東への弾劾から始まります。(「第1章 毛沢東が歪めた性」)
人の自然な営みまで含め、毛沢東はあらゆることを革命の名の下に抑圧せしめた。それが端的に現れたのが
セックス(恋愛、結婚を含む)であった、というのが本書の主眼。
そして最も苛酷だったのが、文化大革命の10年間だったという。

セックスは生殖のため以外は営んではならない、というのは何も中国共産党だけでなくカトリック保守派の考え方もそうだということですが、やはり滑稽と言う他ない。「狭き門」「はつ恋」「若きウェルテルの悩み」という名作でさえポルノ小説扱いされたというのですから、何をかいわんや。
しかし、それが反革命運動として弾劾されるまでに至ると冗談では済まされない。現に筆者の両親は革命幹部だった筈なのに、日本語が話せる、日本軍の捕虜になったことがあるというだけでスパイ扱いされ収容されるという憂き目にあう。さらに、たまたま両親に許された帰宅日が重なり一緒に寝たら、そのこと即ち反革命運動であるとして弾劾されたという。また「月経検査制度」など、先進国女性からしたら絶句ものでしょう。
その一方で党幹部が権力を元に若い女性を弄ぶということが数多くあったらしいのですが、被害者が5人を越えたら即死刑というのは凄い!というか、中国共産党らしいと言うべきか。

それらが1976.9.9に毛沢東が死去しケ小平が最高権力を握ると、一気に解放が進んでいく。
セックスに絡むその反動の大きさは、それだけ抑圧が大きかったと言えますが、それにしてもセックスを金儲けの手段として切り売りすつような極端なまでの解放ぶり、性産業の拡大ぶりには呆れ返ってしまう程。「事実は小説より奇なり」とは、こんな場合にも使えるかと思うくらいです。
「第4章 巨大性産業が動く」では、あまりのことに笑ってしまうこと度々。隠語集、よがり声の1930年代と現代の比較等をはじめ、まるでジョーク集を読んでるような気分です。
現在の中国社会の風俗事情への批判を含ませつつ、大らかなユーモアをもって語らった、小説より面白いノンフィクション!

序文−本能的に立ち上がった革命(島田雅彦)/毛沢東が歪めた性/春の訪れ/性の自由化は加速する/巨大性産業が動く/性意識は揺れる/中国発禁事情−あとがきにかえて

     


 

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