熊井明子著作のページ


長野県松本市生、信州大学教育学部修了。夫君は映画監督の熊井啓氏。99年「シェイクスピアの香り」等の著作活動により第7回山本安英賞を受賞。


1.シェイクスピアの妻

2.今に生きるシェイクスピア

 


   

1.

●「シェイクスピアの妻」● ★★




2003年09月
春秋社刊
(2300円+税)



2003/12/16



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シェイクスピア自身についてもはっきりしないことがあるのですが、その妻アンとなれば、なおのこと。
一般的に彼女について知られていることと言えば、8歳年上だったこと、シェイクスピアが遺言で残したのは2番目に上等なベッドだけだった、ということくらいでしょう。
 
そんなことから、シェイクスピアの意に沿わない結婚だったのではないか、不仲だったのではないかという印象を持ってしまうのですが、その反面、それはアンに対して随分と不当な評価なのではないか、という思いがありました。

本書は、そんなシェイクスピアの妻・アンを主人公とする長編小説。
もちろん殆ど推測に基づくストーリィですけれど、シェイクスピアを陰で支えた糟糠の妻として描かれると、ほっとするものがあります。

夫婦仲についての興味もありますが、シェイクスピア一家の財政状況の変遷も大いに興味あるところです。
一時は富裕な手工業者で町長まで勤めた名士でありながら、保証債務や裏切りから苦境に追い込まれた父親。
また、劇作家として成功後、蓄財の才にも長けていることを示したシェイクスピア。
いずれも、本ストーリィには納得できるものがあります。

本書中、シェイクスピア劇に登場する台詞、場面、また花への愛着も度々描かれ、ファンにとっては楽しい限りです。
シェイクスピアにしろ、主人公である妻アンにしろ、作者の想像により描くしかない人物。
そうではあっても、それもひとつのシェイクスピア、アン像として、彼らに親しんだ気分になれます。
ファンにとっては、十分に楽しめる一冊です。

 

2.

●「今に生きるシェイクスピア」● ★☆




2004年11月
千早書房刊

(1600円+税)

 

2005/01/01

シェイクスピア・ファンにとっては、真に楽しいエッセィ本。

熊井さんは長年ポプリ(芳香剤)の研究をしていて、ハーブにも造詣が深いとのこと。著書「シェイクスピアの香り」は、そうした研究とシェイクスピア好きが合わさって生まれた本とのことですが、本書ではそのサワリを聞くことができます。
シェイクスピア戯曲には薔薇をはじめ、数々の花やハーブが登場していますが、その花の意味や香りは作品を楽しむうえで欠かせない要素である、というのが熊井さんの弁。
その語りを聞いていると、シェイクスピア作品の世界が様々なハーブの香りに充ちてくるようです。

そのほか、シェイクスピアの故郷であるストラトフォード・アポン・エイヴォンを毎年のように訪ねる思い出話。
のんびりとしたその町で、木骨造りの生家や庭園をめぐり、エイヴォン川をナローボートで下る舟遊びの楽しさ。
また、イギリス料理は美味しくないとよく言われますが、本書を読む限り、香り豊かで充分美味しそうです。
現在の町の様子を伝える数々の写真も添えられ、まるで私自身も彼の地を訪れているような、そんな嬉しい気分になります。
いつか行ってみたい場所、私にとってその筆頭はこのストラトフォード・アポン・エイヴォンです。

シェイクスピアと香り/シェイクスピアへの旅/シェクスピアの食卓/今に生きるシェイクスピア

  


   

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