星野道夫著作のページ


1952年千葉県市川市生、慶大卒業後アラスカに留学し、以後極北の野生動物や人々の暮らしを写真と文章に記録し始める。86年アニマ賞、90年「Alaska極北・生命の地図」にて木村伊兵衛賞を受賞。93年カーネギー自然歴史博物館にて写真展開催。96年ロシアで取材中に熊に襲われ急逝。


1.ノーザンライツ

2.アラスカ 永遠なる生命

 


    

1.

●「ノーザンライツ Northern Lights 」● ★★☆




1997年7月
新潮社刊

2000年3月
新潮文庫

(667円+税)

 

2000/07/17

題名の“ノーザンライツ”とは、オーロラのことだそうです。
本書は、北極の地アラスカを愛し、その地で生き続けてきた人々の軌跡を書き出した本です。
作者の星野さん自身、アラスカとそこに住む人々を限りなく愛し、アラスカに定住した人です。この本は、それらの人々と親しく交流しながら書かれた本だけに、単なるノンフィクションを越えて、アラスカへの憧憬を読者に呼び起こさずにはおかない魅力に充ちています。
冒頭、アラスカは2種類の人間を惹きつけた、という文章があります。即ち、「実に魅力的な人々と、 悪人たち(詐欺師)...両方とも、生まれ育った社会に溶け込めず、何かから逃げ出してきた人間たち」と。その文章は実に印象深く、 本書を読んでいく過程でずっと胸の中に留まっていました。
アラスカという土地の厳しさを考えると、好んでその土地で暮らす人々がいようとは考えもしなかったのですが、そうした峻厳たる自然だからこそ惹きつけられる人達がいたと知り、目を醒まされる思いでした。
思えば、私にも北への憧憬はあります。旅というと、西や南より、北に惹かれます。人間社会より自然というものに引かれるからでしょうか。とても比べ物にはならないのですが、本書に描かれる人々のアラスカという極北の地に惹かれた気持ちが少し理解できるように思うのです。
登場人物の中では、やはり、ジニーシリアという2人の女性に強く惹かれます。第二次大戦中、戦闘機移送の女性パイロットとして活躍し、終戦後それまで飛んだことのなかったアラスカの空を飛ぶことを夢み、実際にオンボロ機でアラスカへ飛んでそのまま住み着いたという。そんな彼女らには、尽きない魅力があります。そして、更に2人は、キャンプ・デナリというアラスカ山脈の主峰マッキンレー山を美しく望む場所を切り開いたというのですから、アラスカ・フロンティアとして尊敬の念をいだかずにはいられないのも当然と言えるでしょう。
他にも、多くの魅力的な人々がいます。パイロットのドン・シェルドン等々。
野田知佑「ユーコン漂流を以前読んだ時、大きな感銘を受けたのですが、本書に比べるとそれは一時の旅人の感慨にすぎません。本書には、アラスカで生活することの、もっと厳然たる現実が感じられます。
最後に挿入されているシーンジェック川の写真には、人間の手に汚されていない自然の、 神聖な美しさが感じられました。

    

2.

●「アラスカ 永遠なる生命」● ★★



 
2003年6月
小学館文庫刊

(800円+税)

 

2003/07/20

1981〜96年に星野さんが発表した作品とエッセイを、新たに編集して構成した一冊。
写真+文という文庫本ですが、アラスカに生きる動物たちの、自然ありのままの姿に、思わず親近感を抱いてしまいます。
結果だけを見ること、言葉でいうことは簡単なことですけれど、それを実際に撮影する困難さ、忍耐は、星野さんの文章から時々窺い知れます。
そんな星野さんの尽きない労力の結果を、頁を開いただけで見ることができるのですから、我々は何と果報者であることか。

我々人間と同様、動物にも生きていく上での生活がある。そしてアラスカは、その生存環境の厳しさ、まだ人間があまり侵食していない場所だけに、それがくっきりと浮かび上がってくる。
星野さんがアラスカに惹かれた理由のひとつは、その辺りにあったのではないでしょうか。

カリブー/グリズリー/ムース/極北の小動物/極北の空に舞う/クジラ/ホッキョクグマ/ツンドラに咲く花

  


 

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