山本文緒作品のページ No.



21.再婚生活

22.アカペラ

23.カウントダウン

24.なぎさ

25.自転しながら公転する

26.無人島のふたり


【作家歴】、パイナップルの彼方、ブルーもしくはブルー、きっと君は泣く、 あなたには帰る家がある、眠れるラプンツェル、ブラック・ティー、絶対泣かない、群青の夜の羽毛布、 みんないってしまう、そして私はひとりになった

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シュガーレス・ラヴ、紙婚式、恋愛中毒、落下流水、チェリーブラッサム、ココナッツ、結婚願望、プラナリア、ファースト・プライオリティー、日々是作文

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21.

●「再婚生活」● ★★

  
再婚生活画像
  
2007年05月
角川書店刊

(1400円+税)

2009年10月
角川文庫化



2007/06/14



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新しい本が刊行になる度読んでいた山本文緒さんの新作が絶えていることに気づいたのは何時の頃だったでしょうか。
ネットで様子を調べてみたら病気のため休筆中であることを知りました。
ゆっくり待っていたところ漸く刊行されたのが本書。うつ病となり、入院もしたりした後、仕事復帰第一弾として連載を始めたのが日記エッセイだそうです。
「再婚生活」という題名からこうした山本さんの状況を想像ことは到底無理であって、いきなり読んで知るより、事前にそうした事情を知っておいた方が読み易いと思います。

退院し仕事を再開したものの、依然として状況は万全ではなく、苦しいこと多い不安もいっぱいだったという。
再婚相手の“王子”さんとは別居結婚ということで、王子さんが週1回通ってくるパターンだったとのこと。王子さんに傍にいてもらって慰められることがある反面、ストレスを感じて「ダルサ度○○」になるという現実もあったということですから、山本さんの辛さ、察するところ余りあります。
そんな山本さんが近くにいてもらって頼るのは、旦那さんの王子さんをはじめとし、山本事務所スタッフのマシマロさん、コトリンさん等々。本書「再婚生活」という題名には、王子さんへの感謝の気持ちが入っていることと思います。

ところで、作家という仕事はうつ病にどうなのでしょう?(北杜夫さんという先人はいますが、北さんの場合極端過ぎて比較になりません)。締め切りに追われるというシンドさがあるのでしょうけれど、これまでの蓄えに依存してマイペースで仕事ができるなら、会社勤めより自由が利く分適応し易いのかもしれません。
と思いつつ読み進んだところ、文緒さんは再び入院。といっても日中外出したり、スポーツジムに通って汗を流したりするのですから、多分に気持ちも問題が大きいのでしょう。 
徐々にでもいいから早く良くなってもらって、また小説の執筆を再開してもらいたいと願う次第です。
なお、★2つ評価は、山本文緒ファンとして本格的な執筆活動再開を祈る気持ちから。

初出「野性時代」2003年12月〜04年04月/06年08月〜11月/07年01〜02月

               

22.

●「アカペラ a cappella」● ★★

  
アカペラ画像
  
2008年07月
新潮社刊

(1400円+税)

2011年08月
新潮文庫化



2008/08/05



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6年ぶりとなる小説集。ただし、「アカペラ」は直木賞受賞直後の2002年執筆作品で、残る2篇が07年・08年と最近の作品。

いずれの3篇も、健気な女の子たちの存在感が魅力的。それぞれ一途で、前向きな気持ちを失うことがない。
その中でも、だらしない両親について同情されようが本人はまるで気にしていない。むしろ理想の男性であるといい、「できることなら本人と結婚したい」くらいであるというじっちゃんとの2人暮らしを喜んでいる風なのが「アカペラ」の主人公・タマコ15歳。
彼女の健気を超えた、野放図なヴァイタリティ溢れるキャラクターは格別の魅力。文緒さんの初期作品チェリーブラッサムの実乃を思い出させられるところが嬉しい。
また、タマコを囲む中卒の古着屋オーナー=姥山、タマコに振り回される観のある担任教師=蟹江という2人の人物像も格別。大人の立場から見下げるのではなく、正面から真っ直ぐタマコに向かい合っている姿が気持ち良い。

「ソリチュード」は、家出して以来20年ぶり、父親の死を機に実家に帰ってきた春一が主人公。彼を迎えるのは、母親、元恋人の美緒、その娘の一花
ありきたりなストーリィになりかねないところでの、中学生になるばかりの一花の存在感がお見事。
ストーリィは、どうするのが一番良いのか決められず、周囲の顔色ばかりを窺っている春一の揺れ惑う心を描いたものですが、男としてだらしないと思いつつも、他が決めてくれたらこんな楽なことはないという彼の心の揺れについ共感してしまう。そんな憎めない展開に味わいがあります。

「ネロリ」は、外に出て働けない39歳の弟を守って地味に生きてきた49歳の姉と、同棲中の恋人からDVを受けているココアの2人が交互に第一人称で語るストーリィ。
ひっそりと生きていこうとする楢崎姉弟に、前向きな気持ちで絡んでいこうとするココアの思いが清々しく感じられる一篇。
最後のオチが、切れ味抜群です。

ちょっと風変わりだけれど、その前向きな姿勢は極めて真っ当という、健気な女の子たち。元気な頃の文緒さんらしさが感じられて、ファンとしては嬉しい作品集です。

アカペラ/ソリチュード/ネロリ



23.

●「カウントダウン」● ★☆

カウントダウン画像
  
1991年01月
集英社刊

2010年10月
光文社刊

(952円+税)

2010/11/15

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お笑い芸人をめざす男子高校生=岡花小春の、お笑い青春ストーリィ。

久々の山本文緒さん新作かと思ったのですが、デビュー2年目、91年に集英社コバルト文庫から刊行された
「シェイクダンスを踊れ」の加筆・修正+改題だそうです。
漫才コンビで芸能界デビューを目指す2人の青春記というと、
山本幸久「笑う招き猫を思い出しますが、刊行時期としては本作品の方がはるかに前。

高校生が主人公、コバルト文庫ということもあって本作品、いかにも高校生向きノベル、という感じです。
ストーリィはかなり粗いし、突拍子もない展開。そればかりか、幾らなんでもそれはありえないだろーという部分も度々なのですが、その分若さに任せての勢いがある、という印象。
その勢いの良さは、結構、快感です。

昔の気分に返って、山本文緒さんの初期作品を楽しむことにしよう、という方にはお薦め。

                

24.
「なぎさ ★★☆


なぎさ画像

2013年10月
角川書店刊
(1600円+税)

2016年06月
角川文庫化



2013/11/28



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新作の発表が途絶えていた山本文緒さんの、15年ぶりとなる長編小説。
久里浜のマンションで静かに暮らす同級生夫婦。主人公となる
冬乃は家事だけが取り柄の、自分に自信を欠いている女性。
そんな冬乃の元に漫画家として成功していた妹の
が、小火を出して住める状態ではなくなったという理由から居候にやってきます。その菫が偶々入る印税を元手に久里浜でカフェを開きたいと言い出し、冬乃も料理担当としてその計画に巻き込まれることになります。
一方、冬乃の夫である
佐々井は、後輩社員の川崎とともに勤務時間中に海で釣竿を垂れる日々を送っていましたが、暇な状況はいつまでも続かず、再びブラック企業での過剰労働に追われる日々を送ることになります。
しかし、川崎は次第にフラフラしだし、菫は・・・・。

登場人物それぞれが心の底に何かを抱えていながら、それが何かははっきりと示されず、何処へ向かうとも分からないまま混迷を深めていくという展開は、いかにも山本文緒さんらしいと感じます。
終盤、冬乃と菫が抱え、佐々井も巻き込まれているその秘密が明らかにされた時、ようやく2人の前に一筋の道が開けてきたように感じられます。
四方追いつめられるばかりの状況ながら、人と人が繋がり合えばどこかに希望が見えてくる。そう紐解くまでにかなり手間取るストーリィですが、そうと判ると温かい涙に心が洗われるような気持ちがします。
ただし、それは冬乃と佐々井の夫婦に限られること。2人と対照的に菫は何時まで彷徨うのか、そして川崎は何時になったら自立できるのか。
本物語では上記4人以外にも、前へ、あるいは後ろへ、様々に歩む人たちの姿が描かれています。
本作品の最終頁を迎えても、この物語はまだまだ先へ続いているのだと感じられます。その先を予想してみるのもまた、本作品の楽しみでしょう。

               

25.
「自転しながら公転する Spinning Around My Whirl★★
                          島清恋愛文学賞・中央公論文芸賞


自転しながら公転する

2020年09月
新潮社

(1800円+税)

2022年11月
新潮文庫



2021/04/08



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山本文緒作品は熱心に読んできたつもりですが、新刊の間が空いてしまった間に何時のまにか気持ちが離れてしまっていたため、本作が刊行されても気持ちが動かなかったのですが、評判が高いらしいと知って改めて読んだ次第です。

ひとり娘、非正規社員としての仕事、30代となり結婚・出産という選択、親の体調不良と介護問題、先行きへの不安、さらにセクハラもという、現代社会における30代女性の多くが抱えるであろう問題を、リアルに描いた長編ストーリィ。

主人公は、牛久にあるアウトレットのアパレル店で契約社員として働く
与野都、32歳。東京のアパレル店に務めていたが、母親が重い更年期障害に悩まされ、父親に言われて実家に戻ったという状況。
その都が出会ったのは、同じモールにある寿司店で働いていた2歳下の
羽島貫一。貫一のどっしりした雰囲気に惹かれて、都は何となく付き合いだしてしまうという展開。
この貫一、店がすぐ閉店となり無職となってしまうのですが、とくに就活を焦るでもなく、平然とした風。
この2人が主軸となってストーリィは展開していくのですが、貫一のペースに都は振り回され、仕事にも支障を来すようになります。その一方で、本社社員からセクハラを受けるという展開。

誰しも貫一のような男に引っかかってしまってはダメ、悪い男にハマってしまったと思うばかり。したがって、それでも貫一に引きずられている一方の都に、苛々するところもあります。

後半に至り、ようやく2人それぞれの問題が見えてきます。
都は、自分に自信が持てずにいる女性。一方、貫一は中卒という経歴に自虐し、先への可能性を諦めている男性。
都が貫一を前にして、初めてと言っていい程感情を爆発させる場面は、真に圧巻!
ようやく本音を聞けた、という部分です。

また、都の両親もそれまでの考え方を改める、という場面があるのですが、両親と同じ年代から見ると、こちらの部分にこそ色々と考えさせられるところがあります。

結末はどっちに転んでも不思議ないストーリィですから、「終わりよければすべてよし」と言う処でしょうか。

                    

26.
「無人島のふたり−120日以上生きなくちゃ日記− ★★


無人島のふたり

2022年10月
新潮社

(1500円+税)



2022/11/09



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2021年 4月、突然に膵臓がん、既にステージ4と診断され、余命4ヶ月と宣告を受けた後、半年に亘る日々を綴った日記。
題名の「無人島のふたり」とは、山本文緒さんご自身と旦那さんお二人のこと。

余命宣告をされたショック、体調の波や悪化、様々な思いがあるのは当然のことでしょうけれど、こうしてリアルタイムで綴られた日記を読むと、その日々を山本文緒さんと一緒に過ごしたような気持ちになります。

時間を引き延ばすためだけの抗がん剤治療を止め、緩和ケアに切り替えたのは、それが自分の身に起きたことであったとしても、正解だと思います。少しでも自分らしく生きるためには。

そうした中で日記を綴り続ける(刊行を前提に)というのは大変なことであったでしょうけれど、それはご本人にとって幸せなことではなかったかと思います。
書くということは、前向きに生きようとすることでもあるでしょうから。

10月 4日、最後となった日記ページの次は、山本文緒さんの永眠を記載したページとなっています。
全てが終わった、という思いと共に、山本文緒作品と共に歩んだ時間、それは充実した時間だったという思いに満たされます。

山本文緒作品は今も変わらず私たちの前にある、それは我々読者にとっても幸せなことだと思います。


1.5月24日〜6月31日/2.6月28日〜8月26日/3.9月2日〜9月21日/4.9月27日〜

         

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