平 安寿子
(たいらあすこ)作品のページ No.2



11.センチメンタル・サバイバル

12.恋はさじ加減

13.あなたにもできる悪いこと

14.あなたがパラダイス

15.風に顔をあげて

16.セ・シ・ボン

17.こっちへお入り

18.恋愛嫌い

19.幸せになっちゃ、おしまい

20.さよならの扉


【作家歴】、素晴らしい一日、パートタイム・パートナー、グッドラックららばい、明日月の上で、結婚貧乏、もっとわたしを、なんにもうまくいかないわ、くうねるところにすむところ、Bランクの恋人、愛の保存法

 → 平安寿子作品のページ No.1


ぬるい男と浮いてる女、神様のすること、おじさんとおばさん、人生の使い方、しょうがない人、コーヒーもう一杯、心配しないでモンスター、こんなわたしでごめんなさい、オバさんになっても抱きしめたい、幸せ嫌い

 → 平安寿子作品のページ No.3


言い訳だらけの人生

 → 平安寿子作品のページ No.4

 


       

11.

●「センチメンタル・サバイバル」● 


センチメンタル・サバイバル画像

2006年01月
マガジンハウス刊

(1400円+税)

2009年02月
角川文庫化

   

2006/02/16

 

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本書については率直に言って、これまでの平さんの作品のようには乗れませんでした。
その理由は、主人公において主体的な行動をとることが少なく、殆ど受身のまま終始するというストーリィのため。しかし、それは元より平さんが狙って書いたことでしょうから、作品の出来不出来というより、私の好みに合わなかったと言うだけのこと。

主人公の“るか”は、両親が父親の故郷に引っ越したことから、独身一人住まいの叔母・龍子48歳の部屋に同居することになります。フリーターのため給料は僅か。とても一人暮らしできる状況ではない、家事担当としてもちょうどよく、母・叔母の利害が一致したというのがその経緯。
そのるか本人は、居心地が良いというだけのことで今のバイト先に安住しており、自分自身で何をやりたいという目的があるわけでもない。また、男性の好みもはっきりある訳でなく、自称・恋愛処女。今まで自分の意見をはっきりいうことも殆どなかった、というのがるかの主人公像です。
また、ストーリィは、るかに何かが起きるというのではなく、もっぱらるかを聴き役とする会話で成り立っています。
主な会話相手は2人。一人は同居相手の叔母。現在の生活に満足しているのかと思えば愚痴も多く、更年期症状が出たと騒ぐ一方で、男にもまだ注目されていたいと大騒ぎ。もう一人はバイト仲間の民ちゃん。高卒ながら将来自分の店を持ちたいという目的をはっきりもっていて、そのための自己研鑽怠りないというしっかりした女の子。。
年代の差、生活環境によって同じ女性といっても考えたり悩んだりすることは様々であることが描き出された作品と言えますが、やはり主人公は積極的に行動してもらってこそ楽しめます。

 

12.

●「恋はさじ加減」● ★☆


恋はさじ加減画像

2006年03月
新潮社刊

(1300円+税)

2008年09月
新潮文庫化

  

2006/04/25

 

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食べることと恋すること、どっちが先なのだろう? 食べることと切り離しては語れない、恋の物語6篇。

ヤモリのお腹に鶏肉と香草と春雨を詰めて付け焼きにした料理なんて、私も敬遠したい。
ポテトサラダならまぁまぁ。カレーうどんは大好き。バター飯はさてどうだろう。
食べものが縁でつい男と女の関係になってしまった場合もあれば、食べものの好き・嫌いで仲がこじれた場合もある。そんな男女関係を軽快に、コミカルに描いた短篇集です。
恋愛を料理と同じように並べ、食欲をそそられている間に恋愛も楽しもう、その料理(相手)に飽きたらその時はそれ、という風に描いています。
そこが、平さんの軽妙かつ洒脱なところ。本書において恋愛を絶対的なものではなく、今や女性にとって料理と同じように気軽に楽しむもの、という風なのです。
最後に主人公の女性が舌なめずりしてみせる「野蛮人の食欲」「一番好きなもの」は、女性のしたたかさを描いて圧巻。
料理グルメのように恋愛を楽しまれてしまったら、男性は太刀打ちなどできよう筈もない、と思ってしまう。

なお、料理をメインにしたユーモラスな短篇集に清水義範「12皿の特別料理がありますけれど、それとは趣きが異なり、平さんらしくあくまで本書は恋愛が主となる短篇集です。

野蛮人の食欲/きみよ、幸せに/泣くのは嫌い/一番好きなもの/とろける関係/愛のいどころ

 

13.

●「あなたにもできる悪いこと」● 


あなたにもできる悪いこと画像

2006年07月
講談社刊

(1500円+税)

2009年12月
講談社文庫化

   

2006/08/17

 

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題名からして洒落たコン・ゲームのようなストーリィかと期待したのですが、その点は期待外れ。
小市民というか小悪党というか、つかんだネタを材料に脅しをかけるにしても、そのネタ自体たまたま耳にはさんだ程度のものに過ぎないし、脅し取る金額も小さい小さい。この程度なら犯罪として大騒ぎすることもない、という範疇に留めておいたというところでしょうか。

主人公は口先ひとつで世渡りしている、自称スーパーセールスマンの檜垣洋三、39歳。
高校時代の同級生・時任に土下座されて請われ新規事業に加わったと思ったら、早々とその時任にとんずらされてしまう。同じくとんずらされた畑中里奈が次々と持ち込んでくる胡散臭いネタを材料に、檜垣が交渉役、里奈が抑え役のコンビで金を巻き上げようという連作7篇。
「あなたにもできる悪いこと」と言っても、これじゃあ幾らなんでもせせこましいよなァと思っていたら、ふと悪いことをしているのは一体どっちなんだろう、と思い至りました。
老人のセクハラ趣味や浮気+袖の下、NGOを乗っ取り私物化、エセ宗教に不正診療、さらにはM資金。
檜垣と里奈の行いも悪いといっても後ろ暗い連中から少し分け前を脅し取ろうという程度のこと。しかし、2人の相手方はそもそも一般市民を騙している訳ですから、どちらが悪いかといえばそりゃ後者でしょう。
檜垣の弁舌が見事であれば痛快なのでしょうが、半分びくびくしながらですから面白さとしてはイマイチ。
さて題名の「あなたにもできる悪いこと」とは、果たして檜垣・里奈のコンビによる恐喝のことか、それとも恐喝される側の悪事のことか。いったいどっちのことと思いますか、皆さん?

金が天下を回るから/ユニオン/我が善き心に栄えあれ/神様によろしく/あなたが選ぶその人は/カエサルのものはカエサルに

 

14.

●「あなたがパラダイス」● ★★


あなたがパラダイス画像

2007年02月
朝日新聞社刊

(1600円+税)

2010年09月
朝日文庫化

 

2007/03/04

 

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更年期障害に直面し、今までどおりの生活を続けることができるのか、これからどう生きればよいのか、という問題についにぶつかってもがく中年女性たちを描いた3篇+α(後日談)。
そうした問題を突きつけられたという点で桐野夏生「魂萌え!を思い出しますが、平安寿子さんが描くからには軽妙かつユーモラス。
どの篇もジュリー(沢田研二)の歌、存在が重要な鍵となっています。冒頭の篇だけかと思ったら、何と4篇全部!

「こんなはずでは」の千里はちと若く43歳ですが、「おっとどっこい」の敦子、「ついに、その日が」のまどかはいずれも50歳。
2人とも私とほぼ同年代です。男性は女性ほどはっきりとした更年期障害の症状はないようなので気にしたことはありませんが、そうか、そういう年代になったのかと改めて感じさせられます。
私の中学時代がGS人気絶頂期だったので、同年代の女性たちがタイガース(当時)、ジュリーの大ファンだったというのは何ら不思議ではないこと。
本書の楽しさは、彼女たちが未だにファンで、50代後半になってもまだ頑張って唄を歌い続けているジュリーに勇気づけられ、立ち直りのきっかけをつかんでいくという処にあります。

「こんなはずでは」敦子は、これまでセックスフレンドを絶やすことなかった生活をエンジョイしてきたのに更年期障害に見舞われて男と縁の無くなった途端、自分の生活の空しさに行き当たってしまう。
「ついに、その日が」まどかは、ホットフラッシュという更年期障害に見舞われる一方で、実家の両親、夫の両親の介護問題を抱え、行き詰まるものを感じている。
「こんなはずでは」千里は、子供が欲しいからという理由で離婚され、そのうえ43歳で早や出てきた更年期障害に納得できないでいる女性。
ですから、男性の私より、女性読者の方がきっと本書を深く味わえることでしょう。
最後の「まだまだ、いけます」は本書の登場人物たちがこぞってジュリーのライブに馳せ参じる様子を描いたエピローグ篇。
幾つになったって夢中になれることを持っていれば、人生は楽しいものです(笑)。

おっとどっこい/ついに、その日が/こんなはずでは/まだまだ、いけます

  

15.

●「風に顔をあげて The Wind In My Face」● ★★☆


風に顔をあげて画像
 
2007年12月
角川書店刊

(1400円+税)

2013年07月
集英社文庫化

 

2007/12/26

 

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若くて元気なところが取り柄と、高校卒業以来様々なアルバイトをこなして自活してきた風実が主人公。
そんな風実ですが、25歳にもなるとさすがに将来を考え、このままでいいのかと考えるようになります。それなのに、突然弟のがゲイバーで働きたいと家出してきたり、恋人の英一はいきなりボクサーの夢を諦め保育士になろうかなどと言い出す始末。そのうえ明るい性格の飲み友達まで・・・。

急にそんな状況に囲まれて風実まで落ち込んでしまうのは、肝心の自分に自信がないからこそ、と風実が気づくのは立派と思います。
若くて元気というのを売り物してきた風実が初めて落ち込み、そこから一皮むけて大人へと成長し、再チャレンジする気持ちを取り戻すまでの顛末を描いたストーリィ。

軽やかでとても気持ち好く、それでいて現実社会の厳しさをきちんと描いているところが、本作品の魅力です。
あっさりとした印象なので平作品の中では軽量と感じるかもしれませんが、そんなことは決してありません。小説家としての平さんの技量が格段に上がった証しと受け留めるべきでしょう。
「風に顔をあげて」という題名も、実に気持ちが好い。
それまでの仲間、恋人と別れたけれども、新しく出会った人たちはこれまで以上に素敵な人たち。彼らとスクラムを組んで得られるものはきっと大きなものに違いありません。だから、今までどおり前に向かって歩んでいけばいい。

本書を読んでいると、自然に風実たちを応援したくなります。
読後感はこれ以上ないというくらい爽快です。まさに私好み。

1.三十怖い病/2.向かい風の日/3.おっと、あぶない/4.スタートライン

    

16.

●「セ・シ・ボン C'est si bon.」● ★☆


セ・シ・ボン画像

2008年01月
筑摩書房刊

(1400円+税)

2011年09月
ちくま文庫化

 

2008/02/16

 

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平さん26歳の時、3ヶ月間パリに語学留学したときの思い出を語ったエッセイとのこと。

下宿大家がドイツ人女性だったことを初めとして、パリで平さんが出会った人物たちは実に様々。
入学したフランス語学学校ユーロセンターでの同級生といえば、TWAチーフパーサーだという米国人女性、取り澄ました英国人男性、頭は軽いけれど美青年のスペイン人、自儘なノルウェー人青年、生意気なドイツ人青年、そして革命最中のイラン人等々と国際色極めて豊か。
いろいろな国の人と交流するには、こうした現地の会話学校に入るのが一番だなぁと感じた次第。
ただ、国際色どころか性格も自分勝手さも、各々格別だったらしい。平さんが辟易していた様子が文章の端々から窺えます。

そんな平さん、3ヶ月も終り頃になると頭がフランス語を受け付けなくなり、ひたすら水炊きを食べたいと思うようになったという。そのため卒業と同時に帰国の途に着いたとのこと。
それでも当時の記憶は、平さんの中に今も強く残っているのでしょう。
私は単なる観光旅行でしたが、平さんとほぼ同時期、3週間の日程でヨーロッパ数ヶ国を一人で旅行したことがあります。その時の思い出は、25年経った今でも鮮やかに蘇ってきます。
そんな思い出を幾つか抱えているからこそ、長い人生に絶望することなく生きていくことができる、と思うのです。

何も残らない3ヶ月だったと振り返りながら、四半世紀を超えた今になって平さんが「セ・シ・ボン(そりゃもう、素敵)」という気持ちもそれと同じではないでしょうか。
自ら経験することはできなくても、本書によって平さんと一緒に語学留学した気分になれる一冊です。

大きな欠点のある男/人生はトラブルとアクシデントで出来ている/典型的な英国男/根性曲がりのブルーアイズ/坊やなんて言うな!/帰れない国は美しく/謎の日本人/典型的な英国男と旅すれば/アンブラッセ!アンブラッセ!! アンブラッセ!!!/思い出はセ・シ・ボン/あとがき−過去という果実

   

17.

●「こっちへお入り」● ★★


こっちへお入り画像

2008年03月
祥伝社刊

(1600円+税)

 

2008/04/09

 

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バリバリのキャリアウーマンである33歳、吉田江利があっという間に落語に魅せられ、自ら挑戦!というストーリィ。
ほほぉーッと思いつつ思い出すのは佐藤多佳子「しゃべれどもしゃべれども
二番煎じか?と一瞬思いますけれど、そこは平安寿子さん、そんなことはまるでありません。
「しゃべれども」において落語は道具立てという感じでしたけれど、本書では指導する側こそボランティアで落語をやっているサラリーマンですけれど、こと落語に関しては本書の方が余っ程本格的、かつ探求的。

仕事のストレスも落語のさわりを思い出せば吹っ飛び、現実社会の人間関係の煩わしさ、悩ましさも落語の世界に置き換えてしまえば、笑って過ごせることを知る、というのがミソ。
でもそれだけに留まりません。江利はもっと深く、ずぶずぶと落語の世界に埋没して行きます。
古今亭志ん朝、桂小三治、桂枝雀ら名人のCDで聞き比べ、各々の名人の特徴や個性を語り、さらに落語で語られる世界の奥深さにまで触れるといった風。
そんな江利は、にわか落語オタクながら、自ら探求者であると同時に我々読み手の案内者なのです。

仕事も出来るキャリアウーマンながら、独身、恋も知らず、前途に夢もないというのが江利の置かれていた状況。それが落語の世界を通して世間を見ることによって、物事には侘しい面だけでなく面白い面もある、それと知って笑い飛ばしてしまえば楽しい気分にもなることができる、というのが本ストーリィからのメッセージ。風に顔をあげてと共通するところです。
ストーリィを読んで面白く、落語の味わい、深さも知ることができてもっと楽しいという、まこと嬉しい一冊。お薦めです。

※なお、章と章の間に「秋風亭小よしこと、江利の知ったかぶり落語用語解説」付き。

 

18.

●「恋愛嫌い」● ★★☆


恋愛嫌い画像

2008年10月
集英社刊

(1500円+税)

2011年10月
集英社文庫化

 

2008/11/18

 

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ランチ仲間の女性3人、恋愛苦手な彼女たちを代わる代わる主人公にした痛快な連作短篇集。
菓子メーカーのベテランOL=鈴枝(35歳)、コンタクトレンズ販売店勤めの喜世美(29歳)、データ処理会社社員の翔子(26歳)、というのがその顔ぶれ。

ラブ・ストーリィが多い中、たまには恋愛下手の女性を描いたストーリィも面白いだろう、と思って読み進んでいたら、そのうち本書のとんでもない面白さに愕然としました。
恋愛も結婚も拒否して仕事に生きている訳でもないけれど自然体で生きてきたら今に至っただけ、男のサインに鈍感なために何度も機会を見逃してきたのかもしれない、人と付き合うのが苦手で猫とブログとコメディ映画が楽しめていればそれで十分満足、という彼女たち。
ラブ・ストーリィ数多くあれど、実は異性との付き合いが苦手、無理して恋愛するより今のままの方がいいという人、実は多いのではないか。
そんな本音をあっけらかんと口にして憚らない、それが主人公3人の、そして本書の楽しさです。
行き過ぎてしまうとオタクになりかねませんが、彼女たちにそんな気配はありません。無理して恋愛関係に突っ込もうとする意地汚さがない分、どこか颯爽としていて痛快。それでいて、どこか物足りないところがあるなァとちゃんと自覚しているから、嬉しくなってしまいます。
こうした女性主人公の造形、平さんは実に上手い!

7篇の中でも「前向き嫌い」がことに痛快。
前向き思考なんて大嫌い、今のまま気楽な位置の方がいい。昇格させてくれるのならそれはそれで頑張るが、そのために前向き思考なんて求めないで欲しい。
「川の流れに○○○○主義」。なぜ生きてるかって? それは「○○○○があるから」という鈴枝の言葉には思いっきり共感してしまう。いやー、痛快です。(笑)
最終章の「恋より愛を」の喜世美も傑作! なんたって、流石の鈴枝が絶句するくらいですから。これでは男性、形無しではないですか。
私は男性ですけれど、本書3人の明快な生きっぷりには、惚れ惚れしてしまいます。
女性読者に是非お薦めしたい、痛快なアンチ・恋愛小説です。

恋が苦手で・・・/一人で生きちゃ、ダメですか/前向き嫌い/あきらめ上手/キャント・バイ・ミー・ラブ/相利共生、希望します/恋より愛を

  

19.

●「幸せになっちゃ、おしまい」● ★★


幸せになっちゃ、おしまい画像

2009年01月
マガジンハウス刊

(1300円+税)

 

2009/03/08

 

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「Hanako」連載エッセイ(2007年03月〜08年05月)に書下ろしを加えて単行本化した一冊。
「セ・シ・ボン」に続く、平さんとしては2冊目のエッセイ本。

この一冊には、作家・平安寿子さんのここまでの流れが一通り語られています。ファンとしてはそれが嬉しいところ。
具体的にあげられる幾つもの平作品に思いを馳せながら、平さんの小説テーマを再認識できると共に、その背景にある平さんの思いも知ることができるからです。
ご本人曰く、これまでずっと「世の中の八割八分を占める、真面目な働くおねえさん」のために小説を書いてきた、そして今後は「おばさん小説に力を入れる」とのこと。
前の部分については、あぁやっぱり、と思います。不器用なくらい真面目な女性たちへのエールがいつも作品には籠められていましたから。その代表的な作品が、先への不安感を抱きながら何とか頑張っていこうとする25歳のフリーターを主人公とした風に顔をあげてであり、後者の例は熟年ジュリーファンの女性たちを主人公にしたあなたがパラダイス

その他、韓国人の監督の手で映画化された素晴らしい一日」「アドリブ・ナイト」のこと、セ・シ・ボンで語られた3ヶ月のフランス留学前後の経緯のこと等々、ファンとして平安寿子という作家について知りたいことが、止め処なく顔を出します。

なお、平さん、自分の本をネット検索して、ブログに書かれた悪口を読んでめげたり、反発してみたりすることがあるらしい。
小市民的なそんな姿を想像してみると、親近感が増します。
表題の意味は、幸せの絶頂を得てしまうと後は下るだけ、「人間は、ちょっと不幸なくらいがちょうどよい」ということのようです。
頑張る女性たちに寄り添う作品を書き続けている間は、平安寿子作品、私は楽しみです。

幸せになっちゃ、おしまい/イギリスのばあさんを目指せ/王子さまはお好き?/頑張れ、わたし

  

20.

●「さよならの扉」● ★☆


さよならの扉画像

2009年03月
中央公論新社

(1400円+税)

 

2009/04/27

 

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夫の卓巳はすい臓癌がみつかったと思ったら、53歳の若さであっという間に死去。専業主婦で働いた経験もない妻の仁恵は、ただ呆然とするばかり。娘2人も既に家を出ていて、いったい毎日をどう過ごせばいいのやら。
そこで仁恵が思いついたのは、夫が生前に告白した、5年間付き合っていたという女性=志生子のこと。
彼女と仲良くなりたい、友だちになりたいと、仁恵は電話をかけまくり、強引に志生子へ迫っていく。
一方の志生子。女性関係にだらしなかった父親の所為で、結婚願望はなし。彼女にとって野依卓巳は質の良いセックスフレンドだった、というだけのこと。あぁそれなのに、何でこんな羽目に陥らなくちゃならないのか・・・。

それまで人の敷いたレールの上に乗っているだけだった仁恵は、初めて強く出られる相手を得て無邪気に楽しそう。
それに対して志生子は、不倫と負い目を捨てきれず、仁恵の真意を掴み切れず、ついつい押し切られて困惑は深まるばかり。そんな2人のやり取りが切なくも、とにかく可笑しい。
後半に入ると仁恵はますます調子に乗り、とんでもない行動にまで走り、志生子がついにブチ切れても少しも意に介しない。
この2人の関係の滑稽さ、ニール・サイモン「おかしな二人」の変形バージョンではないかと思う程。

私は男性ですから男性の側からこの2人を見ると、自分が死んでいなくなった後は、好きなだけ、好きなようにやってくれ、という気分になるのではないかと思う。
一方、女性の側からすれば、男がいようといまいと、本音を遠慮なくぶつけ合える相手が欲しい、ということを語っているように思えます。そして、人と人の縁なんて面白いものだと。
さて、貴方だったらどう思いますか。

会話のやり取りが喜劇的に面白いところ、私の好みです。(笑)

      

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